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番外編・追憶の夏季休暇⑧

 幸いなことに、パーキングエリアにはコインシャワーがあった。その為、朝はシャワーを浴びる事が出来、準一達はさっぱりしパーキング内の食事処へ向かった。

 食券のシステムで、準一は鮭の焼き魚定食。カノンも準一と同じものに。セラはとんこつラーメンと餃子6個セット。

 席を見つけ座ると「私、お水持って来ますね」とカノンは上機嫌。


「ねぇ」


 と聞いたセラはムスッとしている。


「何だよ」

「フラグを建てたな」

「は?」

「だから、カノンと昨日何したの? 仲良くなったの? デレてるよ」


 えい、と準一はセラをデコピン。「おう」とセラはデコを抑え準一を見、目が合う。


「あんまりそういう事言っちゃいけません」

「何で? 面白いのに」

「カノンが嫌がるかもしれないだろ?」 


 そんなもの? と聞くとカノンが戻って来、盆に水の入った紙コップの乗せ2人に渡すと準一の隣に座ると、ピッタリくっつく。

 ショートパンツにキャミソール。チェックのカーディガンのカノンは目を引く。

 向かいに座るセラも、白いワンピースに灰色のカーディガン。


「カノン、準一と仲良くなったね」

「え? そう?」


 座っている長椅子は、もう少し端っこに寄れるのだが、カノンは準一にピッタリ。少し離れない? と準一は言おうとするが、カノンは満足そうで何も言えずため息を吐く。


「2人とも、今日中に京都に向かうから。何か行きたい所とかあるか?」


 聞かれても、2人は日本の地理に詳しくない。何があり、何が出来るのか、全く分からない。


「ねぇ、準一。この変って何かある?」

「さぁ、悪いが俺も知らない」

「そっかぁ……でも旅終わりなの? まだ遊びたい」


 口には出さないが、準一はそれなりに楽しんでいる。もう少し、セラの我儘に付き合ってもいいと思うが任務だ。

 申し訳ない、と思いながら彼女はどうなるのだろう。と考えるが思いつかない。

 彼女が、自分の考えている以上の存在だったら、どういう処遇を受けるのか。

 考えたくない。


「あ、鳴りました」


 とカノンはピピピと鳴るリモコンの様なモノを準一に見せる。番号は4。


「そっか。じゃあ、取りに行って来るな」

「あたしも行くー!」


 いち早く食事と対面したいらしいセラは準一について行き、受け取った食事をテーブルに運ぶ。


「うふふー、ラーメン」

「セラって本当によく食べるね」


 言うと、ほれ、と声が掛りカノンは準一から鮭定食のお盆を受け取る。「ありがとうございます」

 どういたしまして、と準一はカノンの隣に座る。


「じゃあ」


 と3人は手を合わせいただきます、と口を揃え朝食を取った。






 朝食を食べ終えた9時。カノン、セラを後部座席に乗せた準一の運転する車はパーキングエリアから発進した。パーキングエリアでガソリン補給も終えており満タンだ。

 音楽でも流すか? とカノンに聞くが即却下される。


 結構走った頃、高速道では異変が起きていた。何かと言えば、漁船が横倒しになっていたのだ。どうやら、前を走っていた大型トラックが横転し、ワイヤーが外れこうなったらしい。

 仕方ない迂回ルートだな。と交通整理するおじさんの誘導に従い高速を降り、市街の中を走る道に入る。どうやら、3つほど手前のカーブで曲がった方が良かったらしいが、準一は曲がり損ね、市街に入った。市街は特段車の通りは無く、先にコンビニが見え、その先にはプールと思しき巨大なスライダー。


「んー、やだ。もっと準一達と一緒がいい」

「ねー。私もセラと一緒がいい」


 後部座席では、カノンはセラを抱きしめ、セラも抱きしめ返す。まるで仲の良い姉妹、と言いたい所だが人種が違う。そうは見えなくもないが、どうかと考えれば否定するレベルだ。


「なら、最後に何かあればなぁ……」


 そう呟いた時だった。市街の隣。9m程の作業ベクター、黄色いボディのウォーカーが『大漁』と書いてある旗を持ち、外部スピーカーをオンにしているのだろう『うひゃひゃひゃ!』と声が漏れている。


「うわぁ! すごーいッ! 本物のロボットだ!」

「本当だ……何してるんでしょうか」


 実はこの市街に入ったあたりから見えていた光景だった。避けたかったが、後ろから車は来ている。コンビニで止まるしかない、とここまで来た所で、数台のパトカーと警察組織が採用している9m級戦闘ベクター、白黒ボディの桜吹雪が目に入る。

  

『ウォーカーの搭乗員に告ぐ! 君は完全に包囲されている! 大人しく機体から降りなさい!』


 どうやら説得中らしい。さっさとコンビニの駐車場でターンして逃げよう。そう思いコンビニに車を入れる。そして出ようとすると、流れ出て来た野次馬の列に塞がれ出られなくなる。

 すると説得していた年配の警官が準一を見、拡声器を別の警官に渡すと駆け寄る。

 準一は窓を開け、顔を向ける。開けた瞬間、熱気が入りセミの鳴き声がうるさい位に聞こえる。


「すんませんでさぁ。こない事なってんですがね、お車ならここを出てすぐに曲がってくだっせぇ」

「はい」


 応じ、準一が窓を閉めようとボタンを押すと


「ちょ! ちょっとお待ちになってくだせぇ!」


 と年配は叫び準一の手を握り、掌をじっと見ると口を開く。


「ま、間違ぇねぇ。……あんた、ベクター操縦のプロでっしゃろ?」


 暑いのだろう、警官は肩で汗を拭う。額から汗が垂れている。


「まさか、善良な一般市民ですよ」

「いーや、おらにゃ分かる。あんたぁプロだっせ。頼んます、ちょっと警察に力、貸していただけませんでっしゃろか」

「ですから、一般市民だと」


 準一が言おうとすると、ニヤと笑った警官は手を差し出す。


「あんちゃん、高校生くらいでっしゃろ。まぁ、免許証見せてくれるんなら」


 準一はしまったと思う。まともな自動車学校うには通っていない。ベクターの手動操縦免許を取る時、ヘリや航空機、車、特殊車両の講習を纏めて受けてとっている。その為、細かくは掛れているものの、ベクターの操縦可能免許であるが為『ベクター操縦許可』とデカデカと書かれてある。

 出すのはマズイ。名前を見られる。


「ったく、分かりましたよ」

「あんがとごぜぇます。そんじゃ早速」


 車から降りた準一は


「2人とも、外に出る時は鍵かけてな」


 と鍵を渡すと警官について行った。






「つまりは、あのウォーカー相手では桜吹雪は力負けしてしまうの」


 と若い婦警さんが資料を捲りながら準一に説明する。


「桜吹雪の規定武装はスタンロッドにコンパクトシールド。脚部に腰部にリボルバーガンも備えている筈ですが、まだあのウォーカーは射撃規定を満たしていない」

「詳しいね。警察志望?」

「いいえ。……しかし、桜吹雪で抑え込もうにもここじゃ被害がデカすぎます」


 はい、と応じた婦警さんは森林の向こうを指さす。


「あそこに海があるの。浜辺は現在空、どうにか出来ない?」

「どうにかって……」

「犯人だけど、30代無職。覚せい剤はやってないけど、アル中。説得は通じないみたいだけど、暴れる気配も無くてね。警察自慢の桜吹雪と一対一で戦わせろって」

「じゃあ、そうすればいいじゃないですか」

「そうしたいんだけど、ウチの署の操縦者は起動訓練をやっと終えた奴ばっか。誰もまともに戦えなくて」


 と婦警さんはファイリング資料でバタバタと仰ぎ、「ふぅ」と一息吐く。


「先に聞きますけど。警察活動への市民の参加は義務ですが、こうやって何割かを投げるのはありなんですか?」

「無しね。ま、課長に知れたら減俸……堪んないわ」


 仮に準一の事が知れてしまえば表彰モノだな……いや、知られても困るんだけど。


「あんたのポケットに入ってるタバコは黙ってて上げる。頑張って」


 準一の肩を叩いた婦警さんは「アデュー」と言い残すと歩き去る。

 どうなっているんだ、この国の公務員は。思いながら準一は桜吹雪に乗り込んだ。

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