番外編・追憶の夏季休暇⑥
いつもより2000字程すくないです
グラウンドのやぐらの回りで、老若男女問わず皆が踊っている中、最後の音頭が終了し、神社一帯にアナウンスが流れる。
『間もなく、花火の開始ですので照明が全て消えます』
もう花火か、とベンチに座っていた準一が思っていると、ソーダ味のアイスを2つ持ったカノンが隣に座る。初日、コンビニで買ってあげたのと同じだ。
「はい。どうぞ」
「ありがと。どうしたんだ、これ」
と聞きながら袋を開け、一口。
「踊ったら貰えるんですよ」
「俺は踊ってないけどな」
「兄と来ている、って言ったら貰えましたよ」
近所の盆踊りで、そんな感じでアイスを3つ程貰った事のある準一は苦笑いした。
「従兄じゃないのか?」
「あまり変わりませんよ」
「だな。セラは?」
ん、と指さす方向、セラはアイスをごっそり貰って来ている。
「見て見てー、アイス」
「見りゃ分かる。どうやってそんだけ貰って来た」
「大家族だって」
大嘘を吐いたわけか。この悪ガキ、と準一はデコピンをする。
「もう、怒んないでよ。はい怪獣の卵」
丸い入れ物に入ったバニラアイス。恐竜の卵じゃねぇの?
「美味しいよ」
「知ってる」
「カノンも、ブルーベリーシャーベット」
うん、と受け取ったカノンはパクパクとソーダアイスを食べ終え、シャーベットに手を出す。準一も同じく手早く食べ終え、怪獣の卵なるアイスを手に持つ。
「ねぇねぇ、花火ってさどこで見るの?」
「ここからでも」
とカノンは周囲を見渡すが人が増え始め、顔を顰める。
「どうする? 場所を変えるか?」
「うん」
「そうしましょう」
準一がじゃあ、と立ち上がり言おうとした瞬間、準一の両手はカノンとセラに握られた。
セラは兎も角、カノンからの自発的な接触はそれなりに驚きで、準一が変な顔をしていると
「どうかしました?」
とカノンに聞かれ「いや」と準一は2人に連れられるがまま歩き出した。
神社の本殿に続く階段を登る頃には、人は居ない。皆下の方の花火スポットから見ているので、喧噪も小さい。既に最初の数発が打ちあがり、ドンドンと爆音を響かせ、夜空に色鮮やかな華を咲かせている。
「綺麗ですね」
「綺麗……」
カノン、セラは花火に見入り歩みを止める。準一も見ようとするが、少し先にベンチを見つけ
「あそこ、ベンチがある」
と2人に言うと2人は準一を引きベンチへ。そのまま準一を真ん中に左にカノン、右にセラと準一を挟んだ2人は花火に感激し続けている。
そして、セラは急に立ち上がり、アイスを両手に花火に感激しながら踊りまわる。
遠くから、打ち上げる音が鳴ると花火は炸裂。
星の形になったり、ピンクだったり、ブルーだったり。準一も黙ってそれを見
「……夏だもんな」
と呟いた。中学3年、年明けすぐの修学旅行。あの自分の全てを狂わせた事件より7か月。同い年の知り合いの大半は死んだ、なのに生き残った自分はこうやって、花火なんかを楽しんでいていいのか。
実行組織は分かっても、まだ復讐さえ完了してない。
いいのか
と準一は顔を険しくさせ、拳を握っていると、その様子に気づいたカノンは
「どうか……しましたか?」
と聞く。準一は「いや」とだけ言うと下を見、右手で顔を覆うとため息を吐く。
「あの、ごめんなさい。やっぱり昨日今日で疲れましたよね」
「いや、悪い。そうじゃない……そうじゃないんだ」
カノンは自分の過去の事を知らない。いや、知らなくて良い。こいつは気を遣う奴だ。やっとカノンはあの事から立ち直り、こうやって明るく生きていけるんだ。教えなくて良い、余計な事だ。
「何かあるなら……その、頼りないですけど。は、話してください」
かなり意を決し勇気を出したであろうカノンは、顔を真っ赤にしている。少し嬉しくなった準一は顔を向けると、微笑み、左手をカノンの頭に置き数回撫でる。
「ありがとう。でも大丈夫。悪いな、気を遣わせて」
「い、いえ」
と言いながら、カノンは少し虚しくなる。何か切っ掛けを掴み会話を始めても、準一は自分と距離を置いている。
直感で何かを隠している、さっきの事もその隠し事の事じゃないか、と思うが、悪いな、と言う時、準一の顔は見た事無い位疲れていた。その上での取り繕った笑顔、自分には聞く勇気が無い。
「ほら」
と準一の声の後、デコピンを受けたカノンは我に返りデコを抑える。
「今度はお前が変だ」
「へ、変じゃないです!」
「変だった。それなりに」
「なッ! それなりってなんですか!」
言葉のままだ、と準一は立ち上がりセラの方へ行こうとし、カノンも同じように立ち上がる。が、靴しか履いた事の無かったカノンは、下駄の状態で靴の要領で一歩踏み出すと、吐出していた石に引っ掛かり体勢を崩す。
「うわッ!」
とこけそうになり袖をブンブンと振り、目を瞑ると準一に優しく抱きとめられる。
「お前、結構ドジだな」
何か言いたいのだが、準一の顔が近くにありカノンは言葉を失う。
「気を付けろよ、この辺はこけると怪我するか」
と準一が言い終える前にカノンはバタバタと暴れ
「は、離れてください!」
と叫びバッと離れると肩で息をする。
「あ……ああ。すまない。悪かった」
何ともそれなりにショックを受けた準一の顔を見、カノンは慌てる。
「ち、違います! 嫌とかじゃないんです!」
「嫌なんだ」
「違います! 違います!」
とカノンは必死に否定していた。何を自分はこんなに一生懸命になっているのだろうか。先ほどもそうだ。顔が近かっただけであの有様。どうしたんだ。
「なんて」
準一の声が聞こえると再びデコピンされる。
「いいよ。別に」
「な、何がです?」
「何でもな」
微笑んだ準一に言われ、カノンは顔を逸らし花火に目をやる。
「ど、どうしたんですか? 顔が赤いですよ?」
本当はそんな事無いのだが、準一に言ってみると鼻で笑われる。
「な、何で笑うんですか!」
「いやだってさ、赤いって。お前、鏡で自分の顔見て見な? 真っ赤だぜ」
「真っ赤じゃないです! 花火の所為です!」
「今花火は緑だぜ」
にゃー、と叫びながらカノンは準一の胸板をポカポカと叩き始め「悪い悪い」と準一は少しの間カノンを宥めていた。