番外編・追憶の夏季休暇④
まだ続くよ。夏季休暇
すいません、本編は日本海戦で止まっています。
目指せ京都、で始まった2人の旅行の筈が、エンストから1人追加。ガンプラ購入となってやっとの事で旅館にたどり着いた。奇跡的に一部屋開いており、そこに泊まる事に。
「相部屋ですが、不埒な真似はしないで下さいね」
部屋に入るなりカノンに釘を刺されるが、準一にそう言った感情は全くない。「はい」と返事をすると、中途半端な時間にファミレスに入った事を後悔した。腹を空かせていれば、旅館の夕食に舌鼓を打てただろうに。
そう考えながら、部屋を見渡す。かなり広い部屋でテーブルに椅子。外を眺められる大きな窓。テレビ。備え付け冷蔵庫。ポッド。紅茶やら緑茶やらの粉。
不自由はしない。
現在の時刻は19時50分。かなり遅いチェックインだったが、まぁ泊まれるだけ十分。
荷物を置くなりセラは「暑い」と唸り始め、エアコンを付ける。満足したのか、セラは畳の上を転がりまわり、カノンと準一はため息を吐いた。
さて、今から何をしようかと考えていると、起き上がったセラはガンプラを取り出した。
「作ろう! ガンプラ!」
ホビーサイトのおまけの漫画みたい。と思いながら準一は「分かった」と応じガンプラ製作が始まった。
割と手際の良いセラは、少しすればテキパキとデュナメスを組み立てていった。そして残るは武装だけとなり、完成。
「出来た!」
とセラはテーブルに置き、ポージングさせる。ご満悦らしく「カッコいい」と目を輝かせている。手先が器用なのか、セラはやすり掛けも完璧だ。
「セラ、このペン。溝をなぞってみな」
「どうなるの?」
「これから更にカッコよくなる」
「本当!?」
「本当だ。やってみな?」
「うん!」
まるで仲の良い兄妹、と言って差し支えない位にセラと準一は仲が良い。打ち解けてもいる。ガンプラ製作を拒むカノンは、横目で準一を見、少し息を吐くと下を向く。
羨ましい、と思いながらもそんな事無い。自分にそう言い聞かせ、再び2人の方を見ると、目の前にはジムスナイパーⅡの箱。準一が突き付けているのだ。
「あの、これは?」
「おれはガンダムを作ってるからな」
「わ、私は作りませんよ」
そう、と準一が箱をひっこめるとカノンは「あう」と少し残念そうにする。再び突き出すとそっぽを向く。かなり面白い反応に、それを2回ほど繰り返す。
「カノン、お前実は興味あるだろ?」
「う」
羨ましい、と思いながらも楽しげに機体を組む2人を見、カノンの中では少しの興味が出て来ていた。
「別に隠さなくても良いだろ? 一緒に作ろうぜ」
少し頬を染め「はい」と応じたカノンは箱を受け取る。「よし」と準一は笑みを向けると、ニッパーとやすりを渡す。
「分からない所は聞いて良いからな。まぁ、説明書があるから大丈夫だろうけど」
「はい。分からない所は聞きます」
人には得意不得意がある。準一がHGUCガンダムを組み立て終わる頃、セラとカノンは自分の作った機体にスミ入れを終えていた。
あれだけ作らない、と言っていた割になんて奴、と思いながらカノンを見ると少し目が輝いている。
狙撃のポージングを取らせ「おお」と声を出し準一の視線に気づく。
「わ、私! 楽しくないですけど!」
「何も言ってないよ」
とセラが突っ込む。笑みを浮かべる準一は少し考え口を開く。
「じゃあプラモ没収」
意地悪、ではないのだが反応が気になり聞いてみると
「こ、これは私が作ったんですから。私のプラモデルです。渡しません」
かなり気に入っている様だ。
「冗談だよ」
とカノンに言うと準一はペンで溝をなぞり、スミ入れを終了させる。
「ふふん! あたしのガンプラを見よ! ガンダム2機! 狙撃も出来る」
「私のだって、狙撃できますもん」
女の子2人はそう言うと、同時に準一を見ると詰め寄る。
「ねぇ準一。どっちが凄い?」
「言うまでも無いと思いますけど」
ああ、と口開き準一は続ける。
「2機だし、セラだろ?」
正直に言うと「やったぁ!」とセラは万歳し「むぅ」とカノンは頬を膨らませそっぽを向く。
何で年下の女の子にムキになっているんだあいつは、とそっぽを向いたカノンを見て思いながら、時間が結構経ったことに気付く。
「もう9時だな」
「あ、本当ですね」
「あたしお風呂入りたい!」
この旅館は、自分たちの居る4階より1階へ降りたところに、露天風呂に通じる渡り廊下がある。大浴場も一緒だ。
「じゃあ温泉に行くか」
女の子2人の返事を聞き、一行は温泉へ向かおう
と意気込んだのもつかの間、準一以外の2人に問題が発生した。
「私たち、下着がありません」
「OH」
下着が無い、という重大問題を近くのお店まで車を走らせ克服した一行は風呂を終え、部屋に戻る前に卓球、ゲームができる娯楽室に居た。家族連れ、カップルがいる中の外国人2人は異様な存在感を放っていたが気にしない。
ちなみに、3人とも浴衣である。
セラはゲーム機で適当なゲームを始める。インベーダー的なシューティングゲームなわけだが、かなりのハイスコア。人だかりが「おお」と声を漏らす。
一方のカノンは狙撃銃でのシューティングゲーム稼ぎまくり「おお」と人だかりの声。
そして準一は、知らない小学生の男女と卓球。ボロボロにやられているが。
「あんちゃん弱いな」
「お兄ちゃんよわーい」
何て様だ。こんな事では高校生としての威厳も無い。と思うが小学生たちはとんでもなく強く、勝てる見込みはゼロ。
そんな各々の時間を過ごし、セラが疲れた、となってやっと自室へ戻った。
敷いてあった布団に飛び込む様にセラは眠り、準一はお茶を淹れカノンに渡す。
「ありがとうございます」
いや、と声を漏らすと準一は外に目を向ける。下は森、少し先には夜景。4階ともあれば虫の鳴き声は聞こえず、エアコンの音だけが部屋に響く。
気まずい。
と準一が頭を悩ませた時だった、メールの着信を知らせる音が鳴り、脱いでいたパーカーからガラケーを取り出し見て見ると、九条功から。
『諸事情により、メールします。何でも、大和の船体改造やらの手続きを踏まなくてはならず、現在は東京です。なので、そんなに急がなくともゆっくりで構いません。2人の恋仲を応援する。愛を応援する、艦長より』
即削除を行い、ケータイをポケットに仕舞う。
「誰からです?」
「あ、ああ。九条さんから。もう少し、ゆっくり旅行してこいだと」
「成程」
進歩したモノだ、直接見せなくともカノンは納得した。セラのおかげか、旅の功労か、と言っても旅はまだ一日目だ。
「取りあえず、寝たら? セラは遊び足りないだろうから、明日も忙しいぜ?」
「それなら、あなたの方じゃないですか? 運転もするんですから」
「……心配してくれんの?」
「な!? 心配なんかしません! ただ事故でも起こされたら嫌なので」
ふん、とそっぽを向くカノン。はは、と笑い準一は椅子に深く腰掛けた。
気が付けば、準一は眠っていた。カノンに肩を揺すられ起きると椅子の上。
「寝てたか……どの位?」
「そんなに寝てません。それよりも、お布団に移動してください。風邪を引きます」
何とも、違和感しかない。まさかカノンがここまで気を遣ってくれるとは。
「悪い、ありがとうな」
「いえ。……構いません」
その声を聞き、準一は布団に目を向ける。すうすうと寝息を立て眠る少女。本当の名前すらわからない。
「……調べるか」とボソッと言うと「え?」とカノンは声を漏らす。「いや、何でもない」と準一は立ち上がると出入り口に向かう。
「ど、どこへ行くんですか?」
「ちょっとな。……トイレだよ」
嘘だ。と思いながらカノンは立ち上がる。
「わ、私も行きます」
「駄目だ」
はっきりと強い口調で言われ、カノンは一歩後ろに下がる。
「悪い。お前はセラと一緒に居てくれ。別にここから出る訳じゃないさ」
そう言うと準一は踵を返し、一とだけカノンを見ると
「頼りにしてる」
と言い残し部屋を出た。扉が閉まり、残されたカノンは畳の上に座る。
「頼りにしてる……か」
呟きと同時、自然と笑みがこぼれ首を振った。
旅館を出てすぐのベンチに座ると、準一はケータイを開く。アドレスから1人の名前を呼び出し連絡を取る。
『何よこんな遅くに』と帰って来る女の声。「すいません」と謝る準一は続ける。「先生、実は気になる子がいるんです」
『気になる子? あんたの恋愛話なんか知らないわよ』
「そうじゃありません。……よくは知りませんが、会ってすぐ自分を魔術師、機械魔導天使を所有していると見ぬき、カノンの事も」
準一が言うと、電話の向こうからため息が聞こえる。
『まさか、厄介毎?』
「か、どうかは判断しかねます。不明な点が多いので」
『じゃあ、特徴は?』
えっと、と準一が特徴を言うと電話の向こうの女は黙り込む。
「先生?」
『緑、灰色……泣いていた』
「分かるんですか?」
『いいや、悪いが気のせいだ。忘れろ、すまないが力にはなれない。じゃあ』
とだけ言い終え、女は通話を終了させた。
現在、朝6時。早起きのセラ以外はもう目を覚ましており、寝起きのカノンは髪がボサボサ。
「あ、ボサボサだ」
と手鏡を見て言うと、準一が起き上がった。「だったら、俺が髪を梳こう」
「いやいや、私女ですよ?」
「問題が?」
「セクハラって、ご存知です?」
「髪の毛だ。問題ない」
「あります! 女の子の髪ですよ!」
と力強く言われ、確かにセクハラかもなと思った準一が引き下がろうとした時、目を覚ましたセラが準一に抱き着く。
「眠い」
「なら寝てなさい? まだ時間あるから」
「でもあたし髪がボサボサ……レディーの恥。準一、梳いて」
はいはい、と準一は応じると背中を向けたセラの後ろに立ち、くしでゆっくりと梳く。
「あ、上手。……気持ちいかも」
「そうか。ならよかった」
セラは目を細め、撫でられる猫の様になっている。それを見たカノンは自分の髪を撫で、ため息を吐く。「してもらえば良かった」と思うが今更言えない。
「カノン、よかったら。後で梳くが」
「……お願いします」
髪を梳き終え、部屋に運ばれた朝食を食べ終えると、一行は車での移動を始めた。時刻にして10時。少し遅いか、と思ったが遅れてもいいという知らせは昨日来た。まぁ、いいだろう。
「あの、まずはちゃんとした下着や服を買いたいんですが。セラの分も」
「うん。あたし服が欲しい」
「分かった。何か、モールや店があればいいんだが」
と準一が言うと後部座席の2人はお店を探す。ちなみに、昨晩製作したガンプラはカノンのエナメルバックに入っている。
「んー、山ばっかだよ」
セラが言うとカノンは頷く。「どうしたもんか」と準一が言うと、少し先に高速に入る道を見つける。
「取りあえず、高速に入って適当な場所で探すか」
「おー!」
手を挙げ、大きな声でセラは答える。カノンは一度は挙げようとした手を下げ、顔を真っ赤にした。
「緑! カーディガンの下は緑!」
と入ったモールの女の子向けの服屋さんの中、叫び散らし駄々を捏ねるセラを見かね、言う通りにし店員さんにコーディネートしてもらった。随分と可愛らしく収まり、幾つかの服を購入。カノンもこっそりと下着を購入しており、用が済んだので店を出た。
車に戻ってみると、セラはいるがカノンがいない。
「セラ、カノン知らないか?」
「ううん。あたしカノンより先に歩いてたから」
だよな、と思いながらカノンが勝手に消える状況を考え、答えは直ぐに出た。
「また動物か」
「おお」と声を漏らすカノンは、ペットショップのショーケースに張り付いていた。そして、子猫の鳴き声を聞き、辺りを見渡し自分が逸れている事に気付く。
携帯は無いどうしよう、どうしよう、どうしよう。彼にはどうやって
と不安に思い始めた時
「ねぇ、君」
と知らない男に声を掛けられた。茶髪のロン毛一人。カノンはその男から香る香水の匂いに気分が悪くなりそうになる。
「可愛いね。どっから来たの?」
ペットショップの周りには人はいない。殆どは出入り口から出るか、入ってくるかの人。知り合いか、見て見ぬふりか
カノンが移動しようとすると、男は無理やり手を引き顔を近づける。
「聞いてんじゃん。ま、いいけど。今からどう? 一緒にさご飯でも食べない? 奢るよ」
近づく顔、気持ち悪さを覚え顔を逸らすと
「おい」
と声が掛り男は「あ?」と振り向く。すると男はパッと左にのけぞり、自分の股間を見て顔を真っ赤にする。
カノンが男の股間を見ると、まるで漏らしたかのように濡れている。
「どーせまたペットショップだろうって思ったら、案の定だな」
その声の主を見る。セラを引きつれた準一は、水のペットボトルのキャップを締めている。カノンは、準一が掛けたのか、と納得するとすぐに準一の背中に隠れる。
「てめぇッ!」
と男が動き出す前に
「うわぁッ!! 漏らしてやんの!!」
と無邪気な中学生たちの声が入口の方から掛かり、行きかう人が足を止め笑い始め男は顔を真っ赤にする。
それを見て、準一は少年たちにピースする。少年たちもピースを返し、何事かとカノンはセラに聞く。
「ああ、あれはね。ペットショップに来る前に、カノンが絡まれてるの見て準一がね」
少し呆れ気味のセラだが、カノンは嬉しかった。何にせよ、ちゃんと来てくれて。
「見て見て、あの人漏らしてるよ」
「やだー」
「うっわ。マジかよ」
周囲の人間からの声に、男は一目散に逃げ出した。準一と少年たちはハイタッチをし、約束の品を渡す。
「ほら、約束のタバコだ」
中学生はタバコを買うのが厳しい。そこを利用したのか、と理解しカノンは大きくため息を吐いた。
「信じられません! 中学生にタバコを渡すなんて」
ツンとしたカノンは、運転席の準一の背中を見ながら声を荒げる。モールを立って10分、カノンは納得がいかないらしい。
「だがな、あそこで暴れ回る訳にはいかんだろ? 任務以外で魔法も使う訳にはいかないし」
「だとしてもです! 下級生に害しかないタバコを渡して」
とカノンが続けようとすると
「でも助けてくれて嬉しかったんでしょ?」
とセラに言われ動きを止め、頬を染める。
「嬉しかったんでしょ?」
少し声を大きくしたセラの問いに
「……うん」
とカノンは大人しく返事をすると、ミラー越しに準一の顔を見、目が合うとパッと下を見る。
「へへー! あたしにはお見通しだよ」
む、と頬を膨らませたカノンは勝ち誇るセラの頬を抓る。セラは「いひゃよ」と抗議。準一は苦笑いしながら車を走らせる。
「にしてもカノン。言っておくが、お前は目立つくらいに可愛いんだ。気を付けろよ。まーたあんな馬鹿が来ないとは限らないんだ」
「……は、はい」
可愛い、と言われた事に少し嬉しく思いながら歯切れの悪い返事を返した。
本州に入り、現在は広島を抜けている。その気になれば今日中に着く。が、時間を潰せとの事。明後日ほどがベストか。
「あ、お腹が鳴った」
走行音しか聞こえなくなった頃、車の中にお腹の音が響き、セラはお腹を抑える。時間を見ればもう昼過ぎ。
「そろそろ昼飯にするか」
「賛成です」
「やったー」
と都合よくパーキングエリアへの入り口を発見し、入る事にした。
外に幾つか並ぶ露店より、セラは焼きそばとアメリカンドックを購入。カノンはいか焼き。準一はお好み焼きを。3人はエリアのベンチに座りモフモフと食べている。
「そういや、今は夏休みだな」と準一が口を開くと「どうしたんです? 急に」と真ん中のカノンが聞く。
いや、と準一は続ける。
「この辺、何かお祭りとかあったかな」
「お祭り!?」
とセラは聞き返すと準一に顔を寄せる。「あるの!? 行きたい!」
「お祭りって、どんなお祭りです?」
「どんなって……浴衣着て花火とか見て、露店でいろいろ買って」
準一が説明する中、アメリカンドックを頬張るセラは目を輝かせ、妄想の世界に入っている。
「よし。2人とも、浴衣買うか?」
そう言うと「浴衣って?」とセラが聞き返しカノンは辺りを見渡し、一枚のポスターを見つける。「あれ」
ポスターは、この近辺の神社での花火大会の案内図。
「あ、丁度良いな。じゃ、飯食ったら浴衣買って、夜はお祭り。どうだ?」
「いいですよ。少し気になります」
「賛成!」
よし。と準一は笑顔を向けると少し遠くを見る。浴衣か、楽しみだ。と思いながらお好み焼きを食べ終えた。
ペーキングの施設の店員さんに聞いた所、ここから歩いて降りて少ししたところに着物を扱うお店があり、そこで浴衣が買えるとか。
準一達は下に降り、街に入った。
自転車で移動する元気な少年たちや、家族でどこかへ行く人達。近辺にプールがあるのか、準備万端の人達。
「夏ですね」
とカノンが呟くとタバコ屋の軒先に吊るしてあった風鈴が数回、涼しい音を鳴らす。
「夏だな。かなり暑い位に」
「でも暑いとかき氷も、そばも素麺も美味しいよね」
どうやら、セラの頭の中には食べ物の事しかないらしい。先ほどパーキングエリアで食べたばかりなのに、もうお腹を空かせたかチビッ子め、と準一はセラの頭に手を置く。
「あ、見えました。あのお店じゃないですか?」
「ん? あ、ホント」
少し先、服屋が見えそこに3人は入る。店内は明るく、マネキンには浴衣を着せている。時期が時期だけに浴衣を全面的に推しており、家族連れ、カップル等客層は様々、店内は少し人が多い位だ。
「皆さん、あのお祭りの為に浴衣を買うんですか?」
カノンに問いかけられ、準一は顔を向ける。
「だろうな。日本人はね、お祭り大好きなのよ」
「そういうあなたはどうなんです? お祭り好きですか?」
「おう、大好き。……あ、そうだ。カノン、お前もう俺と出かけても大丈夫か?」
聞かれ、カノンは頷く。別にイヤじゃない。退屈はしないし楽しい。
「だったら、一度俺の爺ちゃんと婆ちゃんに会ってみないか? 山奥だけど。2人も会いたいらしいから」
「……怖い人ですか?」
「いーや。いっつも漬物ボリボリ食べてる人たちだから、全く怖くない。それに、俺もいるし。あ、無理にじゃないぞ? 嫌なら」
「いいですよ。……じゃあ、約束ですから。一緒に……その、お出かけですから」
了解、と応じ準一は左手を握ったり開いたりする。あれ? お店の中は人が多いのでセラは手を握っていたんだが。
「あ、居ました」
とカノンが指さす先、若い女性店員がセラに着物を合わせ「可愛い!」と喜んでいる。
何とまぁ
「世の中、色んな人がいますね」
「だな。変な奴とかな」
「それって、ご自分の事ですか?」
「え? おいおい、俺は変な奴じゃないぞ」
十分変ですよ、と一度微笑むとカノンはセラに駆け寄る。準一は、そうか俺は変だったのか、と納得し2人の元へ向かった。
「緑!」
「……ぴ、ピンクです」
試着室から出て来た2人は浴衣に着替えている。セラは緑の浴衣に灰色のカーディガンを羽織り、カノンはピンク。何か、2人は戦隊ものみたいにポーズを取っている。
店内の見ていた人間は
「おお」
と美少女2人に拍手をする。恥ずかしくなったのか、カノンは試着室から飛び出すと準一の背中に隠れる。
「何で今更恥ずかしいんだよ」
「あんなポーズ恥ずかしいですよ」
じゃあしなきゃいいじゃん、と思うがセラから可愛くおねだりされたのだろう。自分でも断らないな。
「見て見て準一。じゃ~ん。可愛いでしょ」
とセラは一回転し、浴衣を翻す。自分でいうだけあって、かなり似合っている。
「ああ、確かに可愛いな。よく似合ってるぞ」
「へへー、でしょでしょ? でもあたしも去る事ながら美人をご覧よ!」
セラはカノンを引っ張り出し、準一に突きだす。顔を真っ赤にしたカノンはその恰好が恥ずかしいのか、手をモジモジさせ俯く。
「超絶美少女。どう?」
「いや、確かにその通りだ。……可愛い」
素で準一が答えると、カノンは試着室に飛び込み、カーテンで身を隠し、顔だけ出すと準一を睨む。
「う、嬉しくありませんからッ!」
「何も言ってないですお」
顔を真っ赤にしたカノンに答えたセラが準一を見ると、困った様な笑いを浮かべていた。