第2回戦、そして3回戦へ 義妹vs実妹編④
体育館での戦いが終了し、生徒は全員アリーナへ向かった。グラウンドへ向かわなかった理由は人員移動班の『サクッと終わるから3回戦に備えてください』と言う指示があった為だ。
生徒会は揖宿、子野日、綾乃がアリーナへ。マッスル同好会もアリーナへ向かった。準一と代理、そして四之宮、雪野小路、志摩甲斐はグラウンド。そして結衣、カノンもジャージに着替え、競技用スニーカーに履き替え準備は万端である。
かけっこは400m。
準一には勝負の結果は目に見えていた。
「位置について、よーい・・どん!」
志摩甲斐の綺麗な声がスタートの合図、結衣とカノンはスタートする。
スポーツ万能な結衣は早い。だがそれよりも圧倒的にカノンの方が早かった。
カノンは肉体的強化をある事情から施されているのでアスリート選手よりも断然早い。
そんなカノンに追いつける訳もなく、結衣は200m、半分も差をつけられた状態でゴールした。
息を切らす結衣とは対照的に、カノンは息を切らさず呼吸も乱れていない。
「はい、朝倉さん」
志摩甲斐が結衣に寄り、スポーツ飲料水を渡す。
「ありがとうございます。志摩甲斐先輩」
結衣は息を切らしながらも笑顔で受け取り一口飲む。
そして視線をカノンに飲料水を渡す準一に向ける。
「ほら、カノン」
「あ、兄さん。ありがとうございます」
カノンは大切そうに受け取ったそれをゴクゴクと飲む。
「流石だな。あれだけ早いなんて。驚いたよ」
「い、いえ・・」
カノンは飲むのを止め頬を赤く染める。
「次はベクターでの一騎打ちだろ。頑張れよ」
「はい!」
やり取りを見ていた結衣は寂しそうに肩を落とす。
アリーナへ向かう道中、落ち込む結衣に気付いた準一は結衣に近寄り、歩く速度を合わせる。
「あ・・」
結衣は準一に気付く。
「結衣、走るの速くなったな」
準一が褒めると結衣は一層落ち込んだ。
「・・・あれだけ差を付けられたんだよ。速くなんかないよ」
弱気になった結衣は小さな声で言う。
準一は結衣の頭に手を乗せ3回撫でる。
「速かったよ。お前は本当に速かった」
結衣は「ありがと」と礼を言う。
「ネタばらししてやるけど、お前がカノンにかけっこで勝てないのは目に見えてたんだ」
「え」
結衣の漏らした声はとても小さかった。
「どうして?」
その言葉の真意は、どうしてあたしが勝てないって分かってたの?
「・・大きくは言えないが、カノンは俺達(魔術師)側の人間だ」
「え?」
「お前には追々話すさ。だから、3回戦頑張れよ」
頑張れよ、に結衣は顔を明るくさせ「う、うん!」と返事をする。
結衣は機嫌よく走り出し、見送る準一は立ち止まりため息を吐く。
「カノンにも、結衣にも頑張れよ・・なんて良く言えたよな」
準一は呟くと格納庫への近道に向かう。
携帯を取り出し城島に繋ぎ、椿姫3番機に2式モーターブレードを用意してください、と要件を伝え電話を切る。
「さて・・と」
準一はアリーナの方に向きポケットに携帯を直し
「結衣とカノンが相手か――」
呟くと歩きを早める。
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格納庫へ着くとカノン、結衣の両名は機体のセッティングを始める。
カノンの乗る機体は本郷重工とMMEの共同開発機YFV-07スティラの発展機、YFV-008フォカロルである。機体の見た目はスティラに近いが、性能は上げられている。
最も違うのは高性能レーダー系機器を多数載せている部分だ。これはカノンの得意とする長距離狙撃の為に独自改修が行われた結果のモノである。
カノンは狙撃は得意だが、近接格闘戦になると機体を上手くコントロールできなくなる。
積んでいる武装はレーザーライフル、袖内に近接格闘用中型ブレード。ワイヤーガン、頭部30mmバルカンである。
レーザーライフルは威力を模擬戦闘用に最少出力に変えられている。
対する結衣の機体は国内最新型である椿姫を抜く性能を持ったVCT-14J篤姫である。
椿姫は国内最新型であり尚且つ性能は高いが、あくまで量産機としての位置にある。そしてキャッチコピーは、今後のベクター兵器の標準性能を持つ機体、である。
篤姫は、他の機体よりも近接格闘に優れている。その為フレームを覆う装甲が薄くは無いが少なくなっている。
固定武装は頭部30mmバルカン、腕部内蔵型ワイヤーガン、同内蔵型100mmガトリングガンとなっており、本日の模擬戦闘用装備は10式太刀である。
太刀は、模擬用に刀身部分を特殊材に変えており、切れ味は無いが、打撃武器としては機能する。
結衣は、カノンとは対照的に近接格闘戦を得意とする。
そして射撃戦は得意ではない、寧ろ苦手である。
今回の模擬戦は、苦手分野が対照的になっている為、差が無いように射撃を許可されている。
2人は、どちらもベクターとの適性は高いため、セッティング自体はすぐに終わった。(中枢AIが働いたためである)
すぐに機体を起動させ、2機を乗せたリフトはアリーナへ上がる。
リフトに乗る際、結衣とカノンは思った。
椿姫3番機、準一の乗る機体がケージになかったのだ。
修理は終わっていたとして、どうしてないんだろう?
結局、疑問は解決しないままアリーナへ上がる。
アリーナに集まった生徒は模擬戦を楽しみにしている。
今回は最初から観客席隔壁が下りている。射撃ありとの事を代理が管制室に教えているからだ。
「今日は地下じゃないんですね」
生徒に混じった代理に子野日が言う。
「だってー地下って息苦しいんだもん」
「そういや準一が居ない」
綾乃がキョロキョロと辺りを見回し、準一を探す。
「ああ、準一君ならもうすぐくるよ」
「あ、そうですか」
カノンは言うと安心する。
「おやおや? 綾乃ってばもしかして?」
そう四之宮がからかうように綾乃に言う。
「何が?」
「・・えっと、あのだからね、綾乃がね朝倉君の事をね?」
四之宮が丁寧に説明をする。
しかし綾乃は首を傾げ目に見えそうなくらい?マークを浮かべている。
すると代理が四之宮の肩を掴み「ぶっちゃけ綾乃ちゃん。準一君の事好きでしょ」と本当にぶっちゃける。
綾乃はここに来て初めて理解し「うーん」と頭に手を置き唸り始める。
「あれ?」
代理的にその反応は想定外で、四之宮も同じだった。
「分かんないですね」
綾乃の結論はこれだ。
2人はため息を吐きモニターに向く、同時にサイレンが鳴り篤姫、フォカロルを載せたリフトがアリーナに姿を現す。
「さて、もう来るかな」
代理が小さく言う。
四之宮は聞こえ「何の事です?」と聞く。
代理は微笑み「見てれば分かるよ」と答える。
そして四之宮が再びモニターに向くと、アリーナに一機のベクター兵器が急降下する。
土煙が爆発したかの如く舞い上がり姿は見えない。フォカロル、篤姫は警戒する。
だが、風に流れ煙が消え始め、その機体の姿が露わになる。隔壁の下りた観客席が騒がしくなる。
「ね?」
姿を確認した代理が四之宮に微笑むと「人が悪いですね」と言われ「ひど!?」とショックを受ける。
そんな代理を見ながら「とんでもない事しましたね」と綾乃が言う。
代理は笑顔で「このくらいしなきゃ」と言うと立ち上がる。
「本人も了承済みだから・・・ちょっと放送室まで行ってくるね」
代理は言い残すと観客席を走って行く。
「あの人も凄いよね」
四之宮が綾乃に言う。
「うん、まさかあの2人の対決をこんな事にするなんて」
綾乃は四之宮に向いてそう言う。
2人の顔は同じように引きつっていた。
「怖いなあ」
2人が口をそろえて言うと、ほかのメンバーが合流する。
「あー、あー・・・警告する。碧武校の生徒たちよー」
急降下してきたベクター、椿姫コクピット内で準一が喋る。声は外部スピーカーで観客席に聞こえている。
「我はー・・・えっと」
ペラ、と何か紙か本を捲る音も漏れる。
「極悪非道のー日本国転覆を狙うテロリストであーる」
余談ではあるがこの声が準一の声だという事は、大多数の生徒は気付いている。
「はぁ」
準一のため息がアリーナに漏れる。
「あー、我が機体、椿姫の目の前の2機、死にたくなければそこをどけー」
棒読みで準一が言うと『・・・兄さん?』とフォカロルに弱弱しく指を刺され、カノンに声を掛けられる。
『あ、兄貴・・何してるの?・・ってか肩の猫のデカール・・』
結衣の篤姫がぐったりと肩を落とす。
椿姫の肩には、デフォルメキャラ化された猫が可愛らしくデカールとなって貼られている。
「い、いや・・いろいろと」
『兄さんもこういう事するんですね』
『兄貴の意外な一面だね』
ここまで言葉が出ると『えー、テロリストに告ぐ、繰り返す。テロリストに告ぐ』と代理の声が入る。
『あー、我が校に配備されている椿姫を使用して尚、目立つようなテロ行為とは片腹痛いわ―』
『そのショルダーアーマーの猫のデカールも片腹痛いわー』
代理は肩のデカールを貶す。
「あなたの趣味です」
準一は事実を告げる。
『あ、そうでした・・・じゃなくて! 準一君それ脚本と違うよ』
「あ、いやでも」
『でもじゃない! はいテイク2!』
2人は同時に咳払いする。
『猫とは片腹痛いわ―』
「な、なんだとー。ええいこうなったら」
準一は椿姫の火器管制システムをオンにする。
同時に頭部バルカンをフォカロル、篤姫の足元に発射する。
「成ー敗ー」
棒読みで準一が言う。
結衣とカノンは驚きはせず、ただ呆れる。
『射撃とは、貴様どうやら死にたいようだなー。よし』
『結衣ちゃん! カノンちゃん! やっておしまい!』
力強い代理の声を聴き、2人は戸惑う。
それは兄が大好きな2人の当然の反応だ。流石に攻撃は。
『2人とも、準一君と2人で戦って勝ったら』
2人を見かねた代理がふと言う。
『『勝ったら?』』
2人は気になり聞き返す。
『一緒に住むの許可してあげる』
代理の言葉の後、フォカロル篤姫は近接武器を装備し、椿姫に飛び掛かった。
想定外の攻撃に準一はブレードを抜き、対応する。
代理、これは台本と違いますよ。と言おうとするも、代理は聞く耳を持たなかった。
『兄貴!』
『兄さん!』
『この勝負!』
『勝たせてもらいます!』
2人の息はピッタリだった。
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「あれ? 今回はマッスル同好会は司会しないのか?」
観客席に座った揖宿は隣の遠藤に聞く。
「あまり男が加わった戦いには関与したくないんだ」
遠藤は言った。
揖宿は「君は・・・」と次を言うのを留まる。
「何だ、最後まで言ってくれ」
遠藤に言われ揖宿は口を開いた。
「変態だな」
「最高の褒め言葉だ」
変態を肯定した遠藤はモニターに向く。揖宿も同時にモニターに向く。
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開始後、接近し、攻撃を仕掛けてくる結衣に準一は驚いていた。高等部最強(盛り肩書き)を知っていたとはいえ、結衣の強さは想定外だった。
太刀を自在に振り回し、蹴り攻撃を加える。結衣の攻撃に隙は無い。準一は、椿姫のブレードで攻撃を防ぐ、しかしその陰からカノンがレーザーライフルを撃ってくる。
結衣はライフル発射と同時に機体を跳躍させ上空に逃げる。初めて一緒に戦うとは思えない位のコンビネーションだ。
2人が息ピッタリなのは、目的一致による団結である。勝てば準一と一緒に住める。
ただそれだけを目的とした2人の乙女は強い。
今回、椿姫は実戦想定の装甲で、ユニットが爆破する事も無い。
準一は、ユニットを使用し、地面に脚を付けずにホバー移動に切り替え、レーザーを回避。すぐに射撃武装、頭部バルカンを使用し篤姫に撃つ。
篤姫は太刀でバルカンの弾丸を弾き、ユニットで急降下し接近、太刀を横に振るう。
太刀は椿姫右腕部をかするもそれ以上のダメージは与えられず、篤姫は左に大きくジャンプ。直後、フォカロルがレーザー発射。
「チッ」
準一は舌打ちし、レーザーを回避。右腕部内蔵のガトリングガンをフォカロルに撃つ。フォカロルは弾丸をジャンプで回避し、レーザーライフルを畳み、コンパクトな形状に変える。
この形状は狙撃形態ではなく、掃討用のマシンガン形態。知っていた準一は後ろに下がろうとする。しかし、篤姫がワイヤーガンを撃ち、椿姫頭部に命中させる。
椿姫は体勢を崩す、その隙を逃さずフォカロルはレーザーマシンガンを発射。レーザーの接近と同時、椿姫はユニットで急上昇し上空に逃げる。
準一は、手を抜いた事を後悔した。今の攻撃は本当に危なかった。
本当はどうでも良かった筈だが、負けたくない、という気持ちが準一の中にあった。準一はその気持ちに気付くと下に2機を見て本気になろう。と決める。
悪いな2人とも、準一は心中で謝ると、ユニットを最大出力にし、椿姫を急降下させる。
見た結衣は太刀を構えさせ、篤姫を上昇させ、すれ違いざまに一撃を決めようとする。
そう来たか、準一は機体を一旦急停止させる。結衣はしまった。と思うが遅く、ワイヤーガンを腹部に打ち込まれ、地面に叩き付けられる。
カノンは見てマシンガン発射。準一は地面ギリギリで椿姫にジグザグの機動を取らせ回避する。そのまま、フォカロルに接近しようとするも、起き上がった篤姫に気づき、ブレードを投げつける。
ブレードは篤姫に命中、篤姫は地面に仰向けに倒れる。
それを確認せず、準一はフォカロルに突っ込み腹部に回し蹴りを叩き込む。
フォカロルは勢い良く30m以上飛ばされる。
ここに来て準一は思った。しまった。と。
カノンのフォカロルは明日からの出撃で必要になる機体だ。あまりダメージは与えられないのだ。
『やっぱり、強い』
起き上がった篤姫の中で結衣は言った。
『アルぺリスに乗ってなくてもあれだけ・・』
同じように起き上がったフォカロル内でカノンも言った。
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「やはり強いな。朝倉君は」
揖宿がモニターを見ながら言った。
「やはりあの男はマッスル同好会に欲しいな」
遠藤が言う。
すると生徒会メンバー、マッスル同好会の座る列に本郷が来る。
「生徒会長、席いいですか?」
「ああ、構わないよ」
揖宿が言ったあと、遠藤は本郷を見て「んんッ?」と声を出す。
本郷と揖宿はどうした? と思う。直後、遠藤は立ち上がり本郷の肩を掴み「お前・・・マッスル同好会に入らないか?」と勧誘を始める。
「え・・っとあのお断りします」
本郷に断られ遠藤はシュンとする。
そんな遠藤に本郷が「急に誘ってどうした?」と耳打ちする。
すると遠藤は「俺の好みだ」と一言。揖宿は「あー」と言葉に困り「まぁ、試合に集中しよう」と話題を逸らす。
本郷は遠藤に警戒して揖宿の隣に腰掛けモニターに目を向け、椿姫を見る。
「あの目・・」
遠藤は本郷の椿姫へ送る熱い視線に気づく。
「朝倉準一・・・奴は俺のライバルになるかもしれん。是非、ベクターで戦いたいな」
遠藤が言うと「君じゃ彼には勝てないよ、絶対にな」と揖宿に言われる。
「そうか・・」
遠藤は言うと揖宿に向き「だったら、九州校最強、揖宿洋介ではどうなんだ?」と含み笑いで聞く。
「さて、彼相手だと厳しいかな」
言うと2人はそれきり黙りこみ、モニターに映る試合に集中する。
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『聞こえてる? カノン』
結衣がカノンに聞く。カノンは『聞こえてます』と応答。
『兄貴の強さは桁違いよ』
『分かってます。でも、負けるわけにはいきません』
『やっぱり、同じみたいね』
結衣はフォカロルに向き微笑む。
『そっちこそ』
カノンの篤姫に向き微笑む。
そしてフォカロル、篤姫が同時に椿姫に向く。
『あー、準一君?』
代理が椿姫につないだインカムに話しかける。
『何か?』
『ちょっとは手を抜いてよ』
『俺をけしかけたのはアナタですよ? 勝たなきゃならない理由があるんですから』
準一が言うと『そうだった』と代理は言う。
けしかけたのはアナタですよ、というのは、準一が2人の決闘にサプライズ参加する際、代理が出した条件の事である。
参加して勝ってくれるなら、ホビーショウ限定販売、海上自衛隊ミサイル護衛艦、みずき、350分の1プラモデルを流してあげる。と言う条件。
準一は聞いて飛び付いた。任務で静岡まで行けず、品はその場限定のモノ。もう二度と手に入らないと思い、諦めていたのだ。
『よし、分かった。もうこの際、負けてもあげちゃう』
『あー・・はぁ、分かりました』
ため息交じりに準一は答える。
『でも、呆気なくは負けないでね』
『了解』
準一は言うと、腕部の一本は犠牲になるなと思い、城島を含む整備員に申し訳なくなる。
対スティラ戦で破壊し、整備で迷惑をかけたばかりなのに。
『ま、ここで勝っちゃうと2人は自身失くすかもしれないし、他の生徒もモチベーションが下がっちゃうかもしれないし。ごめんね』
『良いですよ』
貰えるなら構わない。準一は椿姫を2機へ向けジャンプさせる。
結衣、カノンの操る二機は左右へ展開し、同時に射撃を仕掛ける。
椿姫はユニットを使用し、上空へ。それを篤姫が追撃。太刀を片手に突っ込む。
来たか。準一は椿姫を篤姫に向け、回し蹴りを喰らわせようと機体をクルクルと回転させる。直後、レーザーライフルが発射され、準一が避けなかった為椿姫の左腕に命中。
千切れはしなかったものの、直撃で関節部分に装甲がめり込み、使い物にならなくなる。
そして椿姫は、命中時の衝撃で体勢を崩される。
『ナイス!』
結衣がカノンを称賛する。カノンは『よし』とガッツポーズをしながら射撃を続ける。
射撃は数発が、椿姫に命中する。そして次に繰り出された篤姫の太刀の横振りも直撃。椿姫はそのまま、地面に叩き付けられそうになるが、すんでの所で立て直し、急降下し再攻撃を仕掛けようとする篤姫にワイヤーガンを撃つ。
篤姫はワイヤーガンをギリギリでヒラリと躱すと、準一と同じように太刀を投げつける。
椿姫は、自分に飛んでくる太刀を後方跳躍で躱すと、戻したワイヤーガンをさらに撃つ。しかし、次に発射されたワイヤーガンはレーザーにより、発射機ごと破壊される。
同時、フォカロルはユニットで椿姫に接近を試みる。篤姫は太刀を拾うと、それを援護するように射撃を開始。射撃で動きを封じられた椿姫にフォカロルが近づく。フォカロルは至近距離でレーザーライフルを畳み、マシンガン形態へ変え、斉射。全弾が命中し、椿姫は後ろに跳ぶ。
そこへ篤姫が急接近し太刀を振り下ろす。椿姫は地面に押し付けられる形になり、フォカロルからマシンガンを頭に向けられる。
『えー、チームシスターズの勝利!』
代理がいつ作ったのか分からないチーム名と、勝敗を言うと観客席で歓声が上がる。
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「明らかに手抜いてたね」
ふと観客席の雪野小路が言った。相手は四之宮、綾乃、志摩甲斐、そして子野日である。
「え? そうなの?」
四之宮は驚く。
「加奈子ちゃん、気付いてなかったの?」
雪野小路はため息を吐きながら言った。
「うん。全く」
雪野小路に向いてきっぱりと四之宮は言った。
「でもどうして急に手を抜いたんだろうか」
「一回、戦闘が止まりましたよね。その時なんかあったんですかね」
子野日の後に綾乃が言う。
「でもまあ何にせよチームシスターズは発狂して喜ぶんじゃないかしら?」
志摩甲斐が言うと「え?」と綾乃が声を漏らす。
「ほら、試合前に代理が言ってたでしょ。勝ったら朝倉君と一緒に住めるって」
聞いて「ああ、そういえば」と綾乃は思い出す。
すると子野日は右手で頭をかきながら「ま、詳しい事情は後で本人に問い詰めよう」と3人に言う。
「詳しい事情って・・・子野日君。流石に生徒会メンバーだからってプライベートな事は」
「そこじゃなくて、さっきの試合の事だ。何を考えているんだ」
頬を染め、誤解している志摩甲斐に言われ、呆れる様に子野日は返す。
その後すぐ、3機は格納庫へ降りる。
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「いやー、見事な負けっぷりだったね準一君」
準一の椿姫が格納庫に着き、降りるなり、待ち構えていた代理に肩を叩かれながら言われた。
「アナタの指示ですよ。まったく」
「もう、怒んないでよ」
「怒ってませんよ。変更するとは思ってませんでしたけど」
準一は、代理が何かしでかすとは思ってはいた。だが、負けろと言われるとは思っていなかったのだ。
「まぁ、ぶっちゃけ君の強さが規格外すぎてねぇ」
「はぁ」
「ほら、さっき言ったみたいに他の生徒が自身失くしちゃまずいでしょ?」
え? 何? 俺が悪いの? と準一はため息を吐く。すると「兄さん」「兄貴」と同時に声を掛けられる。
「ああ、どうした?」
準一が聞くと2人はムスッとしていた。
「兄さん、さっきの戦い、最後明らかに手を抜いていましたよね?」
「抜いてない」
準一は否定する。
「兄貴、全力で戦ってくれなきゃ、失礼だよ」
「いや、全力だった」
準一がそう言うと2人は納得したような顔をする。
「ま、まぁ・・良いですけど」
カノンは頬を赤らめモジモジする。
結衣も頬を赤くし、モジモジしている。
何だ、どうしたんだ? 準一が思いながら代理に向く。代理は「ああー」とバツが悪そうに準一から目を逸らす。
「あ、兄貴・・さ、その・・わざと負けてまで・・・一緒に住みたいんだよね」
「・・・は?」
結衣が頬を染め、モジモジしながらも笑顔で言った。準一は困惑している。何のことか理解していない。
「ほ、ほら、戦闘前に代理が私たちが勝ったら一緒に住めるって・・・兄さん?」
カノンが言葉を言っている時、準一は引きつった笑顔を代理に向けていた。
「そういや代理・・言ってましたね」
「うん」
「俺が承諾した時、そんな条件ありましたっけ?」
準一が聞くと代理は無言になった。都合の悪い事を親に隠す子供の様だ。
「ありましたっけ?」
「あたしの中では・・・さっき出来た条件」
準一の再びの問いに代理が言うと、結衣、カノンが左手、右手にそれぞれ抱き着く。抱き着く2人は満面の笑みだ。
「さ、兄さん」
「兄貴」
「「帰ろ?」」
同時に言われ準一は代理に「たすけて」と視線を送る。代理は視線に気づくと「ふぅ」と安堵したように息を吐き、袖で額を拭う。
このトラブルメーカーは、自分に追及されない事に喜んでるな、と準一は代理の安堵する様子を見て思った。
「あ、準一君。ブツはもう君たちの愛の巣に送ってるから」
「や、やだ・・愛の巣だなんて」
「も、もう代理。からかわないでくださいよ」
代理の最後の言葉は、カノン、結衣にしっかり届いたようで、2人は一層喜び、腕を抱く力を増させる。
最後にとんでもない爆弾を落としていきやがった。準一は2人に引かれ、格納庫出口へ向かう。
その間、準一はケージに収まった椿姫を見て「ごめんな椿姫」と心中で椿姫に謝る。
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「オーケイ、分かった。本郷義明、俺の天使。マッスル同好会に入ろう」
アリーナを出て、学生寮エリアに戻った時、遠藤の勧誘は始まった。
「お断りします。俺には・・・」
「俺には?」
「俺には! 心に決めた人(男性)がいます!」
本郷に強く宣言され、遠藤はがっくりと膝を落とす。
「そ、それは・・やっぱしあれか? アイツなのか?」
「そうです」
本郷は辺りを見回し、心に決めた人(男性)を発見する。
当然の事ながら、その人(男性)は朝倉準一である。準一は、2人を先に家に帰し、買い物を1人で済ませ、生徒会メンバーに捕まえられ、尋問を受け疲れ切った表情で、学生寮エリアを歩いていた。
そんな準一を見つけた本郷は、準一が何か言う前に袋を持っていない右手を引き、遠藤の前に立つ。
「この、朝倉準一が俺の心に決めた人です!」
言うと本郷は準一の腕に抱き着く。
「え、なに? ・・遠藤先輩、どうしたんですか? 膝なんかついて」
事情を知らない準一が遠藤に聞く。
遠藤は静かに立ち上がり「朝倉よ。筋肉、いやマッスルとは何だ?」と聞く。
その突然来たバカとしか言いようのない質問に「しらねぇよ」と準一は思ったが口には出さず「美?」と思いついたことを口に出す。
「違う・・違うんだ朝倉。筋肉とは、マッスルとは」
「とは?」
準一が聞き返すと、遠藤は顔を右手で覆い「愛だ」と一言。
聞いた準一の口からは「は?」としか言葉が出なかった。
さっき会った時は、美だのなんだの言って愛とは言ってなかった筈だ。
「俺はな、朝倉。たった今、一つの失恋を乗り越えたばかりだ」
静かに言った遠藤。準一は「え・・」と驚く。
一体誰に?
「本郷・・俺の天使、朝倉と幸せにな」
遠藤は言うと、背中を2人に向け「グッバイ」とカッコつけて歩き去る。
「・・あのさ、本郷。お前・・・遠藤先輩の天使なの?」
「バカ言うな、俺は朝倉だけの天使だ」
「そうですか」
引きつった笑みを本郷に向け、準一は言った。
「さあ、朝倉。帰ろう、俺達の愛の巣へ」
「お前は別のトコに帰れ」
言った後、準一は本郷を右腕から引き離す。
「ま、待て! から揚げ作りに行くっていったろ!」
「俺は明日早いんだ。帰れ、別の日ならいいから」
「明日・・早い?」
聞いて本郷は「お、おれを置いてどこかへ行くのか?」と寂しそうな目で言う。
「色々あるんだ。とりあえず、今日は帰れ、な?」
本郷は渋々承諾し自分の寮へ向かう。
「はぁ」
疲れ切ってため息を吐き、準一は新居へ向かった。
準一が新居に着いてからの時間の流れは早かった。
2人が準一を巡って痴話喧嘩をし、就寝時まで賑やかだったからだ。
夜中、寝る前に痴話喧嘩の原因ははっきりした。どちらが準一に添い寝してもらうか、で結局痛み分けとなり右にカノン、左に結衣となった。