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番外編・追憶の夏季休暇②

ジョイフルは、九州じゃ当たり前? 少なくとも北九州じゃ当たり前なんです

深夜に騒ぐならジョイフルです

 大通りの脇道。そこに車を停め、ボンネットを開け確かめる準一を見ながら、すぐ近くの木陰のベンチに座ったカノンは膝を抱え、ため息を吐く。

 開けたボンネットに手を突っ込んでは黒くなり、頬や腕も真っ黒だ。


「駄目だこりゃ」


 と諦めボンネットを閉じ、準一はため息を吐く。見かねたカノンは大きなため息を吐き、ベンチから降りると準一に近寄る。


「ん? どうした」

「ちょっと変わって下さい」


 止めようとする前に、カノンはボンネットを開け中をじっくり見る。


「おい、お前汚れるぞ」

「いえ……これで」


 ぱっぱとカノンは何かしらの事をし、ボンネットを閉じる。「治りました」 


「治った? マジ?」

「疑う前にエンジン掛けてみればいいじゃないですか」


 確かに、と頷くと準一は運転席に座りキーを回しエンジンを掛けてみる。本当に治ったようで、少し調子がいい位の音を立て、エンジンが掛る。


「お、掛った」と準一は言い、カノンに礼を言おうとするが居ない。「え?」と思いながら探すと、カノンは子猫を追いかけ駆けている。


 何をしているんだ、と思いながら車を出、鍵をかけカノンを追いかける。





 猫を追いかけレトロ広場まで来たカノンは、動きを止めた子猫を抱き上げる。駅に向かう人、出て来る人が見な振り返るほど目立っている。

 それを見つけた準一は「はぁ」とため息を吐き近寄る。


「連れて行かんぞ」

「そんなんじゃありません」


 とカノンは猫を抱いたままベンチに座る。満足そうに猫を撫で、猫も気持ちよさそうだ。

 こんなのを見せられたら、無理やり引き剥がす訳にはいかず適当に当たりを見渡すと女の子が泣いている。


 緑のシャツに灰色のカーディガン。黒く長い髪。


 泣いているのだが、皆チラと見るだけで関わろうとしていない。関わらない方がいいのかもな、と思わなくも無かったが、準一は近づくと女の子の目線に並ぶため、少し屈む。


「どうした?」


 泣き顔のまま、嗚咽を漏らす少女は顔を上げる。日本人じゃない。


「家族は?」

「いない」

「迷子か?」

「ううん」


 どうしたもんか、と思いながら準一は後頭部を撫でる。


「ねぇ」と女の子は口を開くと、目元に持って来ていた手をゆっくりと下ろす。「魔術師?」


 先ほどまで遠くに聞こえていたセミの鳴き声、波の音が近くに感じる程、衝撃を受けた。冗談で言ったのか? にしてはと思いながら


「違う」


 と否定すると女の子は「ううん」と首を振る。


「何か、日本人の臭いじゃない。血の臭いがする。生臭くて、気持ち悪い。それに魔力も感じる。多分、機械魔導天使も持ってる。違う?」


 恐怖、よりも不審の方が強く息を吐く。


「お前、何者だ」

「私は……何だっけ?」

「は? 何だっけってお前の事だよ」

「うん。覚えて無い」


 ガク、と首が倒れた準一は呆れかえると踵を返す。「ま、こんなとこで泣いてちゃお巡りさんに連れてかれるぞ」


「じゃあ一緒に行く」


 と少女は立ち去ろうとする準一の裾を掴む。「待て、何がだ?」


「一緒に行く。あんた悪い人じゃなさそう」

「俺は悪人だ」

「どの位?」

「どの位って……そうだな、野菜をみじん切りにしろって言われたのに、半月切りにするくらい」


 どうやら野菜の切り方を知らないらしい少女、準一はその困った様な顔を見てため息を吐く。


「どこか行くあては?」

「無い」

「じゃあ連れてはいけないな」

「でも、誰かと一緒がいい。一人じゃつまんない」


 子供って、こんな悲しそうな顔するから卑怯だよね、と諦めた準一は仕方ないか、と少女の手を引く。

 

「じゃ、あそこに綺麗な女の子いるから一緒でいいか?」

「うん。多い方がいいよね」

「はいはい」


 と言いカノンの所へ戻ると、少女を連れた準一を見て凄い顔をしている。


「あの、どこで攫って来たんですか?」

「俺はそんな事しない。……魔法関連、って言えば納得するか?」


 一瞬、眉を顰めたカノンは警戒する。素性の知れない少女に。


「待てそんなに警戒するな。悪い奴じゃない。ただ得体は知れんが」

「だったら放っておきましょう」


 とカノンの声を聞き少女は悲しそうな顔を浮かべ、気付いたカノンは申し訳なさそうにする。


「……そういうわけだ。悪いカノン、放ってはおけない。任務よりもまずはコイツだ。いいな?」


 準一は真剣な口調でそう告げる。カノンは「はい」と頷き少女は嬉しそうにする。それを見たカノンは悪い事したな、と少し反省し、わざわざ面倒事を迎え入れるお人好しな準一に呆れた。





「お前、何で駅に居たんだ?」


 と聞く準一の運転する車は関門海峡を渡り終えた。橋の下を民間船、海上保安庁の巡視艇が通過。


「何でって、間違えて電車に乗って気が付いたらあそこで、分かんなくて泣いてたの」

「お金は?」

「着いて行ってたら出られた」


 無銭乗車。犯罪だな。と思いながらカーブを曲がる。


「ねぇ、あんたは魔術師でしょ? この美人さんは?」

「魔術師じゃないが、それなりに関係がある」


 準一が少女に答えると、カノンは睨みを利かせる。話してもいいのか? と警戒を含めた目だ。


「ってか、お前マジで名前は?」

「忘れた」

「ふざけてるのか?」

「おふざけでこんなこと言わないよ」


 半ば呆れ気味に後頭部を撫で、準一はため息を吐くと再びミラーで後ろを見る。


「じゃあ、名前決めないとな」

「可愛いのが良い」

「可愛いの? ……カノン、何かあるか?」


 いきなり話しを振られ、カノンはオドオドしながら準一を見る。「い、いきなりこっちに振って来ないで下さい。知りませんよ」


「むぅ、何か美人は冷たい」

「子猫に逃げられたからだろ?」


 役から去る際、猫はカノンからさっさと逃げ出した。その事を言われ「か、関係ないじゃありませんか」と反論。


「じゃあ美人、可愛い名前付けて」

「か、可愛い? 可愛い可愛い……分かんない!」


 カノンは頭を抱え込む。何を真剣に考えているんだか。


「じゃあ……デュナメスにしよう」

「え? デュナメスって?」


 少女が聞くとカノンは思い出す。自宅で準一がちょいちょいガンダムOOを見ていたのを。


「それって、あのガンダムってアニメのロボットじゃないですか?」

「お前、よく覚えているな。実は見てただろ?」

「あれだけリビングで大ボリュームで見ていれば嫌でも覚えます!」


 そりゃそうだ、と準一が思っていると少女は運転席に身を乗り出す。


「ねぇ、ガンダムって何?」

「え? ああ、お前ベクター見た事あるか?」

「ベクター? ……ああ、あの戦うロボット?」

「そう、それだ。それに近い」


 へぇ、と後部座席のシートに納まると「気になる」と少女は呟く。


「じゃあ、見に行くか」

「え? 見れるの?」

「おう」


 何処へ行くのか、と盛り上がる2人に呆れ気味の目線を送るカノンは大きなため息を吐いた。




 世の中都合が良いものだ。何と、あの会話の直後、ホビーショップがすぐ近くにある事を知りそこへ向かった。小さな模模型屋だがラインナップは充実している。かなりのメーカーのプラモデルやアクションフィギュア、模型が並び、ショーケースの中には完成したプラモやジオラマが並んでいる。


「うわぁ! すごい!」


 とショーケースの前で少女は興奮している。それをレジのおじいさんが微笑ましく見ている。


「ごめんなさい、騒がしい2人で」とカノンが謝ると「いいよ。最近、プラモデル好きは大人ばっかだからね。嬉しいよ、若い子に喜んで貰えて」と御爺さん。本当に嬉しそうな表情に、カノンは2人を見る。

 店内の客が自分たちだけなのをいい事に、騒ぎまくっている。


「まさか、こんなレアキットが」

「ねぇねぇ! デュナメスってどれ?」

「ん? ああ、ほら」


 と準一がデュナメスのキットを渡すと少女は更に興奮。「カッコいい!」

 その様子を見て、カノンは無意識の内に笑みを漏らす。


「カッコいいですけど、女の子向けの名前じゃないじゃないですか」

 

 カノンのソレを聞き、御爺さんはポカンとする。「あの、名前って?」と御爺さん。


「この子の名前、爺さん何か可愛い名前付けられる?」

「可愛い、と言われてものお。デュナメスって言うあたり、モビルスーツ縛りかい?」

「いや、何でも良いよ」


 準一に対し、何て適当な奴だ、と思いながらも御爺さんは考える。


「あの、そんなに真剣にならなくても」とカノンが言うが御爺さんに声は届かない。「セラフィムガンダムから、セラなんてどうじゃ?」


 バンシィのキットの箱を持っていた準一は「あ、いいかも」と少女を見る。


「セラフィムガンダムって?」

「言うと思った、これだ」

「細い。んー、デュナメスの方が良い」


 と少女がブーたれると


「でも、セラって名前の方が可愛いよ?」とカノンに言われ「確かに」と納得。はれて少女はセラ、という名前を得る。


「じゃあ、デュナメスとセラフィムガンダムを買うか」

「うん。あたしその2つ。美人は?」


 セラが聞くと


「私は」


 いらない、と言いたげに手をブンブンと振るカノン。だが構わずセラが選ぶ。


「じゃん、えっと……ジオング」

「そのチョイスの理由は?」


 カノンが聞くとセラは笑みを向ける。


「怖いから!」

 

 口を尖らせたカノンは「えい」とチョップする。別に痛くは無いのでセラは何も無く「気に入らない?」と聞いてみる。「気に入らない! 私、怖くないもん」とカノン。


「怖くないもんって可愛いー!」


 とセラがカノンをおちょくりだし、顔を真っ赤にしたカノンは準一を見る。準一の表情は苦笑いで、それから目を逸らしカノンはセラを追いかけ回した。


「あんちゃんは何を?」と御爺さんが準一に聞く。「そうだな、俺はやっぱりスタンダートにファーストのガンダムかな」


 そうかい、と微笑みながら御爺さんが頷く。そして2人の駆けっこも収まり、3人とも適当に店内を見始める。ふと、ガンプラのコーナーでしゃがみ込んだカノンを見つけ、何を見ているのかと覗き込む。


「ジムスナイパーⅡか」

「な! 急に何です!」

「いや、買うか?」


 いいえ、と頬を膨らませたカノンは「買いません」と箱を棚に戻そうとするが「じゃあ、これは俺が買う。文句ないだろ?」と準一に言われ、膨れっ面のまま目を細めた。

 結局、購入するのはデュナメス、セラフィム、ガンダム、ジムスナイパーⅡという謎の編成。

 レジに持って行くと


「いいよ。タダで」と御爺さん。流石に悪いだろうと聞くと「久しぶりにプラモデル好きの子達が来たから。サービス」と言うとニッパー、やすりもプレゼントしてくれた。


 何ていい爺さんなのだろう、と思いながら大きな紙袋を引っさげた準一を筆頭に、3人は店を出た。人の良さそうな爺さんは、店の外まで見送りをしてくれた。



「良い人だったね」とセラ。頷いた準一は後ろを見る。「カノン、スナイパーⅡ。欲しかったか?」

「い、いりません! プラモデルなんて、興味ありませんし。子供の玩具です」


 お前、それをプラモデル好きの人間の前で言ってみろ? 馬鹿め、と言われるぞ。


「やっぱ、Ξガンダムはキット化されないよな」

「何? くしーガンダムって」

「Ξだ。まぁ、俺が一番好きな機体だ。それより、もう時間が結構経ったな」


 時刻は16時。まだ明るいが、そろそろ寝床を決めなければ。お金は沢山あるので困らないが、ホテルや旅館。場所によっては時期が時期な為、満杯の場所もあるかもしれない。


「あー!」


 と静かになった車内で急に大声を出したセラ。何事か、とカノンと準一は目を向ける。


「2人の名前聞いてない!」

 

 流石のカノンも見てわかる位のため息を漏らす。


「もう、驚かさないでよ」

「ごめんごめん」


 準一も同じ心境だ。


「私はカノン」

「俺は準一だ」


 2人の声を聞き、見比べる。


「んー、2人はね。そう、変な兄と大人ぶった妹。兄妹みたい」

「あり得ません」


 と真っ先に声を漏らしたカノンは外を見る。

 そりゃ俺だって同じだよ、と準一も思いながら前を見る。


「でも結構お似合いだよ? 美人のカノンが意地っ張りなだけで」

「意地っ張りじゃありません!」

「ふふーん! あたしには分かる。本当は仲良くしたいんでしょ?」

「勝手な事言わない!」


 カノンに賛成だ、仲良くしたいだなんて思ってたら、驚く。と準一は息を吐くとお茶を飲む。それを横目に入れたセラはお腹を鳴らす。


「……お腹空いた」


 丁度、高速から降りる道を見つけ下ろすと、福岡県じゃ当たり前のジョイフルを見つけそこで食事をする事にした。

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