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純白翼天使・漆黒翼天使

 必要最小限の荷物をバックに詰め、組み立て式ライフルの入ったケースをバックと共に持ち上げると、カノンは第3女子寮から抜け出した。夜間という事もあり、学生寮エリアの外に人はほぼいない。そそくさと駅に向かい、最終列車に乗ろうとホームに入りベンチに荷物を置いた時だった。

 只ならぬ気配を感じ、腿のホルスターから拳銃を抜き、背後から感じた気配に銃口を向け、その正体を見て息を呑んだ。


「どこへ行く気だ」


 と掛けられた声。七聖剣の1人、西園寺永華が向けられた銃に顔色を変えず、抜いていた日本刀の切っ先をカノンに向けている。


「もう一度聞く……何処へ行く気だ?」


 一瞬、背中に悪寒を感じた。ゾクリと震え上がった肌の感触にカノンは永華を見ると、彼女は得意の式神召喚をいつでも行えるように手に札を握っている。


「……何故、私が」と聞こうとした瞬間「黙れ」と言う永華の低い声に言葉を止め、銃を強く握る。

「質問をしているのは私、あんたじゃない」


 雲の無い夜空からの月の光がホームを照らし、銃身と刀身を蒼に輝かせる。


「先に言っておくけど、あんたは朝倉準一の義妹だからこそこれだけ優しくしてんのよ……寮に戻れ」

「嫌です」


 と自分を睨んできた永華に睨みを返したカノンは、強く答える。


「私は兄さんの元へ行きます」

「……ほんっと、朝倉の妹とは思えない位馬鹿ね」


 自分を見下す、事情を知っている奴の顔にカノンは不快感を覚えた。また自分は置いてけぼりを喰らっている、と考えが頭を過るがそれよりも、眼前の彼女に集中する。


「あんたさぁ、あいつがどういう状況下に置かれてるか分かってるわけ? それに、自分が……いや、周りの人間がどういう立場か」

「……立場、とは何です」


 カノンが聞くと、永華は日本刀を下に下げる。


「……朝倉、あんたの兄だけど、此間の会議で処分の話が出たのは知ってるわね? それで流石に上も弁護してやったけど、怖いものは怖いわけ。だからしっかりと手綱を引いて、監視下に置きしっかりと駒として、道具として使えるようにしたいわけ。不安要素を払拭させてね」


 言いながら永華は刀を消した。召喚術式だったのだろう、白い光になって散っていく。


「まぁ、言っちゃえばここまで上の目論み通り。さて、なーんで朝倉準一は碧武校に入学したんでしょうね」

「それは……兄さんに碧武の守護を」

「だったら、他の人間でもよくない?」


 何か言おうと思うが言葉が出ず、カノンは口をつぐむ。


「魔術師になり、機械魔導天使を手に入れた。それにより、今まで無かった魔法を使う彼。反旗を翻しては、日本国の国力低下は必須なればまず、以前に通っていた学校と家族。そして、碧武生」

「……ま、まさか、その為の」

「そ、やっと理解した? あんた達は日本政府が朝倉準一へ提示した人質なワケ」


 そんな、とカノンの手から力が抜けた。握っていた指はゆっくりと拳銃を離し、落下した拳銃は地面に当たり、一度跳ね、金属音を立てる。


「……そ、それを兄さんは?」

「勿論知っているわよ。頭が働くから。それと、勿論の事この事は彼も了解しての事態じゃないわ。彼も、まだ魔術師として慣れていない頃にそういった状況が誕生したんだから」


 落ちた拳銃を見て、目を細める。自分がどれだけ何も知らなかったか。


「だから、あんたのその軽率な行動、あいつに迷惑かけるだけだよ」


 はい、と言ったカノンはゆっくりとベンチに座る。


「私……とんだ世間知らずですね」

「だな。ま、送ってやる。誰かに見つかったら、適当に誤魔化してよ」





「汚い場所でごめんなさいね」とタバコの煙の充満するウォンバット店内に準一を案内し、瑠は言う。麻雀をしていた男達はそそくさと道を開ける。店の壁を見て見ると、特段変わった所は無い。だが、カウンターの奥、暖簾の向こうには写真がかなりの数貼ってある。


「あの写真は?」

「趣味かしら?」


 瑠の返しに間違いなく、違法売春の関係物と思いつき


「趣味が悪いな」と言ってみる。「別に、あれは小遣い稼ぎよ。それにあの写真の子達は殆ど自発的よ」

「薬だろ?」

「さぁて」


 と瑠は男達に顎で出ていけ、と指示する。男達はそそくさと店の外へ逃げ出す。


「まぁ、早くVIPを呼びましょうか」

「そうしてくれ」


 こんなクソみたいな場所、と心中で言うと店の奥の階段から千早が降りてくる。可愛らしく服を着こなしている。


「……上で何をしていたんだ?」

「この上は屋上だからね。空を、だってこんなクソみたいな場所、居たくないもの」


 と千早が準一に答えると「随分な言い草ね」と瑠は顔を顰めた。


「まぁいい。千早、要件は簡単だ。俺に協力してくれ」

「ふーん」


 声を出しながら瑠を見、千早は準一に目を戻す。「言ってもいいの?」


「言いんじゃないか?」

「そうね。元から反論できる立場じゃないから」


 微笑んだ千早に合わせ準一は瑠を横目で見、口を開く。


「反日軍を壊滅させるのを手伝ってほしい」


 瑠は当然、顔を顰めるなりのリアクションを起こす。だが構わず2人は話を続ける。


「随分、思い切ったわね。私を使うなんて」

「しかし、お前も断れる立場じゃない。だからわざわざ出て来たんだろ?」


 当てられ、千早は息を吐く。「正解。参ったわ。日本って結構凄いのね。私の居場所、簡単に見つけちゃって」

 

「多分だが、拒否すればそれなりの処置が下される」

「それは嫌ね。まぁ、見方を変えればいいか。日本政府に協力するんじゃなくて、あなたに協力するのなら」


 承諾の返事。準一は笑みを浮かべ頷く。「でもさ」と口を開いた千早は目を細め、瑠を見る。「壊滅させるなら、さっきまで居た奴らとこの女。どうする?」

 聞かれた準一は瞼を閉じ、少し息を吐く。


「お前はどうしたいんだ?」

「別に、聞いてみただけ。殺したってメリットないでしょ?」

「まぁ、そうだな」


 目の前の2人の少年、少女に脚を震わせる瑠は壁に手をつく。


「しかし、瑠鈴明。早めに逃げた方が良い。反日軍の壊滅命令に合わせ、こういった、反日軍系列の店にヤバいお客さんが来る」

「あら、親切ね。忠告かしら」

「そうだ。あくまで善意の忠告だ」


 それだけ言うと、準一は店の外へ出る。千早も続くと残された瑠は椅子に座り、テーブルに肘をついた。






 現在、反日軍は日本海のプラントの奪還作戦を画策していた。その為、その方角には艦隊が展開し、空戦用ベクターも控えている。それは日本側からすれば周知の事、準一、千早の最初の目標はその奪還部隊の撃滅だ。

 それに備え、2人は深夜の内に八王子工廠へ移動。機体に布を羽織らせ、リニアレール砲を持たせた。

 

「通常の装備じゃ駄目なワケ?」と自分の様変わりした機体を見、千早は言う。「そうじゃないが、あの布はステルス性を高める。それにリニアレール砲は見た目に反し軽量だ。取り回し、威力共に結構いい武器でな」


 使いやすいんだ。と付け加えた準一に「ふーん」とだけ言うと、目線をアルぺリスに向ける。灰色の布で全身を隠しているが、レール砲を持った左手の部分の布なんかは膨れ上がっている。


「まるで死神ね」

「お前のアルシエルは特にな」

「確かに、否定しないわ」


 の後すぐ、2機の装備変更等が終わる。アルぺリスにはレール砲の他に建御雷を、アルシエルにはレール砲の他にショルダーキャノンを。

 

「千早。このままここから飛ぶ。作戦は、俺達2人だけだ」

「他の部隊は?」

「出ないだろうな……多分、上層部の見せ物と考えていいだろう」


 言った準一に千早は目を細める。


「気に入らないわ」と口に出すが、準一に言っても仕方のない事だ、と考え「ごめんなさい」と謝る。「いいさ、それよりさっさとコクピットに」と準一。頷いた千早はゴンドラに乗り、アルシエルのコクピットに入ると機体を起動させた。

 すぐに、アルぺリスも起動。

 動き出した2機は、背中合わせになり、翼を広げると開いた天井から一気に飛び出した。

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