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混迷への誘い

 絶望の顔色の妹2人は、HRが始まったにもかかわらず、互いに向き合っていた。勝手に席を入れ替え、涙を流している。見かねた大庭教諭は声を掛ける。


「あの……席、戻せよ?」


 だが、反応は無い。カノン、結衣両名はため息を吐き突っ伏す。もう、俺の手には負えない、とあきらめ大庭はHRを終了させた。


「あら、どうしたのかしら。あの2人」とロンの隣で聞いたミシェル。「いや」とロンは誰も座っていない朝倉準一の席を見た。「あいつ、学校辞めてさ」


「あぁ……凄くいい方だったのに。お友達になれなくて残念だわ」

「ああ。俺も残念だ。お助けキャラが消えた」 




 1年生の教室では、本郷義明が絶望の表情を浮かべていた。「ど、どうしたの?」と三木原凛が聞くと、義明は顔を向けず「朝倉が、学校を辞めたらしい」と告げた。


 さて、何故彼らが朝倉準一の転校を知っているかと言えば、碧武九州校校長代理が掲示板に張り紙を出したからだ。

『カムバック。準一』とデカデカと書かれており、顔写真付きで下に小さく学校を辞めた事が書かれてあった。


「せ、先輩が学校を辞めた!? 何で、どうして」と凛は顔を歪めた。それなりに朝倉準一に懐いていた彼は、かなりショックだった。「んなの俺が聞きたいよ」と義明が机に突っ伏すと凛は自分の席に戻り、大きくため息を吐いた。



 

 一方、ほぼ準一のおかげで心を開いたお姫様は引きこもっていた。取り敢えず、部屋の備え付けテレビにアニメを流しただ眺めていた。

 さすがに心配した綾乃は、遅刻覚悟で迎えに来ていた。


「レイラ、大丈夫?」と部屋を開けると、薄暗い部屋の中でレイラ・ヴィクトリアは死にそうな顔を向けた。「あ、あら。綾乃じゃありませんの」


 ちょ! と叫び綾乃はレイラの肩を掴み、ガクガクと揺さぶる。「大丈夫!? まだ死んじゃ駄目だって!」


「死にませんわよ。ちょっと、寝不足なだけですわ」

「嘘付け! 寝不足でそんな顔がやつれるか! もう、どうしたの?」

「あら……聞いてませんの? 準一が学校を辞めた事」


 レイラに告げられ、綾乃の手から力が抜けた。「ウソ」と小さく声を出すと「準一が、学校を?」と呟き、レイラと一緒にアニメを見る事にした。




「あぁ……こりゃマズイ」と生徒会長揖宿洋介は、教室で呟いた。何らかの空気を悟り、エディは声を掛ける。「朝倉の事か?」


 そ、と肯定し揖宿は続ける。「彼の存在ってさ、一種の人間関係に於いて生徒会長より上だったんだけど……なーんで転校させちゃったかな」


「まぁ、確かにな。それに、子野日達に聞けば妹2人、他数名の人間は授業どころではないらしいぞ」

「だろうと思ったよ。参ったなぁ」

「だな。それには同感だが、朝倉の代わりの2人。どうなんだ?」


 揖宿は顔を向ける。七聖剣2人の事だろう、と考える。


「はっきり言えば、全力の戦闘能力で言えば2人併せて準一君とドッコイドッコイ、になるかならないか」

「本当に代わりの戦力だな」

 

 そう、皮肉染みた言い方をしたエディは、少しの退屈さを覚えた。






 授業が始まった安楽島塾。朝倉準一は自分の教室の席で、講師の話を聞きながら分厚い辞書の様な教科書を捲っていた。安楽島塾のスタイルとしては、日本古来の魔法、西洋系の魔法の中から幾つかを取り出し、時間割を設定し講義を行う。

 現在は、京都魔法についてだ。

 桜花や式神召喚術式。知っている分野ではあったが、詳しくは学ばなかった。その為、割と授業に集中でき基礎自体は簡単に覚えられたが、魔法は種類によって使える人間、使えない人間がいる。

 特殊魔法である京都魔法もその一つで、全部が全部受けたからと使えるわけでは無い。



「どうだった?」と抗議終了直後のチャイムが鳴り終わると、加耶に声を掛けられ顔も目も向けず答える。「興味深いな、正直。一般授業なんかより学んでいて楽しいな」


 へぇ、と加耶は口に出すと続ける。「やっぱ、魔法って学んでて楽しい?」顔色を窺うような聞き方だが、気にせず答える。「ああ、俺の魔法はほぼ独学だからな。授業形式で学べるのは新鮮だ」


 独学、と聞き加耶は驚いた。七聖剣たる朝倉準一は独学で。と。授業を受け、それなりに良い位に行っても高位魔術師になれる人間は数少ないのに、彼は自力で上り詰めた。

 やはり、ただモノじゃないんだ。


「やっぱり、あんたって凄いんだ。見直した」

「そりゃどうも。それより、さっきの京都魔法だが聞いて良いか?」


 ん、と頷き加耶は準一と目を合わせる。


「授業の京都魔法だが……あれ、正規の術じゃなくて。塾側がアレンジしたやつだろ?」と準一が目を合わせると加耶はキョトンとした。「え?」と聞き返す。「だから、あれってアレンジされたやつだろ?」

「いや、まさか。それじゃ京都魔法じゃないじゃん」

「だが俺の知ってる術とは随分と違う。何と言うか、さっきの術はインスタントと言うか、簡易になっている」

 

 と準一が言うと、教室に池澤が入る。「その通りですよ」と準一に声を掛け、微笑む。


「あ、次は池澤先生の講義か」と生徒たちは慌てて座り出す。それには目もくれず、準一だけを見る池澤は続ける。「しかし、よく気づきましたね。アレが簡易化されたモノだと」

「そりゃ、知り合いは京都に居ますからね」

「ですね」


 と分かりきった事を聞いた池澤に目を細め、準一は聞く。「で、その京都魔法ですがこの安楽島塾、どこから術式を手に入れたんです?」


「ほぉ? どこからとは? 今朝倉君は言いましたよ? これは簡易化されたと」

「簡易化でも、元の術を知ってなきゃ変更なんてできませんよ。それに、京都の魔法、桜花や式神術式は学べても、外部に教えられるのは簡易化されたモノ。ですがこの安楽島塾で教える京都魔法は、その外部に出されるものじゃない」

「まるで、元の術式を手に入れ、此方側が勝手に変えたモノだと?」


 はい、と準一が頷くと生徒は池澤を見た。「本当に、凄い人ですね。ですが、やましい事はありません」と真顔になり続ける。「これは本当です。南雲、御舩両家は魔法が外部に漏れるのを極端に避けてはいますが、安楽島塾は正式に術式を頂いたんです」


 でも、と池澤は続け、準一に微笑む。「この件に関しては、朝倉君には話しておかないといけませんね」



 

 碧武九州校では、いきなり会合会が開かれた。カノンも招集され会館で待っていた校長代理は事実だけを告げた。

 碧武生は全員


 ―――朝倉準一との如何なる接触をも禁止する


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