兄への好感度対決 義妹vs実妹編③
開始の声が響いて5分。ステージ上の2人には何の動きは無い。
ステージ上の2人は、この対決で何をすれば良いのか知らないのだ。
結衣、カノンは最前列の準一に視線を送り助けを求める。
準一は視線に気づくが無視し、代理から渡された台本もといパンフレットに目を向ける。
義妹VS実妹一騎打ち概要。
第一回戦、どれだけお兄ちゃんの事が好きか
第二回戦、かけっこ
第三回戦、ベクター兵器を使用しての近接格闘一騎打ち。
どう考えても2回戦は適当だろ。
準一がそう思っていると「私は兄さんと結婚します」とカノンの声が聞こえ吹き出し咳き込んでしまう。
「兄貴は・・・兄貴はあたしと結婚する!」
続けての結衣。
成程、こういう対決か。準一はやっと趣旨を理解する。他の生徒も同様だ。
「いいわ、いいわよ」
カルメンはシャッターを切る。
準一の後ろの3バカは緑茶を飲みながら「ほうほう」と口を揃えている。
本郷は「2人とも馬鹿だな」と呟く。それを聞きああコイツはまともだな、と準一は思った。
「朝倉と結婚するのは俺なのに」
準一は前言を撤回した。
「私は今日、帰ってから兄さんの部屋に行って添い寝してもらいます」
カノンのそれを聞いた結衣は「なッ」と声を上げる。
だが負けじと「あ、あたしは最近添い寝したし」とカノンに向く。
目が合った二人はにらみ合う。火花が飛んでそうだな。色んな生徒がそう思う。
「俺帰っていい?」
準一が近くの5人に聞くと「却下します」とどこから沸いたかしれない校長代理に言われる。言った後代理は準一の膝の上に座る。
「はぁ」
ため息を吐く。準一的にはこの不毛な決闘よりも明日から日本海への出撃し、大和へ滞在する為装備の確認なんかをしたかった。
「あたしは兄貴とハンバーグ作った!」
「私は兄さんとビーフストロガノフ作った!」
ステージ上では言い合いが続いている。
好きかどうかよりもただの言い合いになっている。
「それに兄さんは私にこう言いました、『お前は良いお嫁さんになるな』って」
勝ち誇った顔でカノンは言った。
「そ、そうなの! 兄貴!」
メイド服の結衣が準一に確認する。
「言ったよ。カノン家事全般こなせるし、料理上手だし」
聞いて結衣はカノンに向き「兄貴は前にあたしと結婚の約束したし」とこれまた勝ち誇った顔で言う。
「そ、そうなの兄さん!?」
「えっと・・・」
準一には記憶が無い。
言ったか? そんなの?
「小学4年生の時の花火大会で言ったでしょ! あたしが結婚してくれる? って聞いたら『いいよ』って!」
「あ・・ああ、あったなそんなの」
準一は思いだす。
花火大会の場所は、朝倉家のある北九州市内、かなり広いグラウンドを持つ公園で行われた。
その公園で花火が上がってる時に結衣が聞いてきたのだ。
「ああ、したな約束」
準一が言うと結衣は「ほらね」とカノンに向いたまま胸を張る。
「で、でもそれは子供の時の口約束で!」
カノンは反論。
「それを言うなら良いお嫁さんになるなって言われただけじゃん!」
結衣も反論。
さっきよりも激しく両者睨み合っている。
「ヒートアップしてきたね」
代理が言う。その顔はとても楽しそうだ。
「やっぱお兄ちゃんの事になると結衣は燃え上がるね」
シャーリーが準一に言う。
準一は「そうだな」と座席に深く腰掛け息を吐く。すると後ろの席からアンナがジュースを渡す。
「飲む?」
聞かれ「ああ」と準一は受け取とる。
「本郷君と代理もどうぞ」
アンナが2人に渡す。
本郷は「ありがとう」と礼を言う。代理は「こら、体育館は飲食禁止よ」と注意しながら一気に飲み干す。
「飲むのかよ」
準一は突っ込まずにはいられなかった。
「あたしからはこのカロリーメイトを」
菜月は言いながら準一、本郷、代理に渡す。
準一と本郷は礼を言うが、代理は同じように「全く、飲食禁止よ」と言いながらカロリーメイトを貪る。
食べるんかい。準一は心の中でつっこんだ。
「あの、校長代理。この戦いですけど・・勝ち負けの基準は?」
本郷が聞くと代理は脚をパタパタさせながら「んー。まぁその時になればわかるよ」と笑顔で返す。
腑に落ちない様子で本郷はステージに向く。
「にしても、これじゃ埒があかないわね」
ふとカルメンが言った。他も同意見だった。
このままやっても2人の言い合いで終始するだろう。
すると代理は無線で連絡を入れる。
『よしフェイズ2へ移行』
相手は恐らくマッスル同好会首領だろう、準一は推測する。
その推測は大当たりでマッスル同好会首領、遠藤の『こほん』と言う整えるための咳ばらいが聞こえた。
『えー、ではステージ上の2人にお聞きします』
結衣とカノンは同時に観客席に向く。
『朝倉準一の好きなタイプは?』
「「料理が出来て家事が得意な人!」」
2人は即答だった。
恥ずかしさに顔を手で覆った準一は言葉を失った。
『えー、では第二問』
いつからクイズ形式になった。準一はいい加減さに呆れる。
観客席の生徒が次の問題を期待していると『えー、制限時間です』と綾乃のアナウンスが入る。
『あ、もう?』
マッスル同好会首領、遠藤は言い残すとマイクのスイッチを切る。
『では、ステージ上の2人の戦いはここまで、審議に入ります』
「どうやって決めるんだ?」
本郷は言う。
すると準一の膝上から代理がヒョイと降り、カルメンの足元にしゃがむ。
直後、スポットライトが準一に当てられる。
『審議は朝倉準一が決めます。さあ準一、どっちの妹に萌えた?』
ああ、この為のパンフレット、もとい台本ね。準一は理解し、引きつった笑いを代理に向ける。
代理はその幼い顔に満面の笑みを浮かべ「言っちゃいなよ」とワクワクしている。
だれもが準一の回答に期待している。しかし準一は、それに反した答えを言う。
「えっと・・引き分けで」
それは台本に書かれてあった。
代理を見ると「おっけー」と合図を出している。
準一がため息を吐き席に着くと『ではこれより第二回戦に移行します』とアナウンスが入り、生徒は移動を開始する。
次は学校エリアのグラウンド、2人のかけっこである。