嫁と2人っきり生活が始まったんだが
サブタイトルが、ラノベっぽいのは、戦闘が関係なくなるからです。
では、学校生活パート開始です
ほんと、ごめんなさい
「どう?」
と、起き上がった準一に声が掛った。シスターライラが壁に背を預けている。「……目は大丈夫?」
「あぁ」と準一は左手を左目に当てる。「……なぁ、俺の左目。どうなってるんだ」
顔色を変えず、ライラは息を吐く。
「そこに鏡があるから、自分で見て見なさい」
言われ、準一は小さなテーブルの引き出しから手鏡を取り出し、自分の右目を写し、驚く。
「腕は治ったけど、眼は中身だから。外側の腕と違って……」
ライラは言うと持って来たフルーツ盛り合わせを置くと、準一を見ると目が合う。
朝倉準一の左目は、黒い瞳が紅色になっている。
アルシエルは捜索範囲から離脱、姿を眩ました。今回の侵攻、被害は結構すごい事になった。
「ねぇ、ちんちくりん」と碧武関東校校長、桜木夏美は関東校校長室に招いた御舩茉那に声を掛ける。「あんたんとこの悪ガキ、朝倉準一だけどさ、どーなったの?」
「どーなったのって……さぁ、どういう訳か。左目の瞳が真っ赤になってたわ」
「あの、台場の下にあったフランベルジェだけど、どうして朝倉準一は使用できたの?」
代理は来客用の長椅子で紅茶を啜り、答える。
「クイーンだって吸血姫よ。血は使える。それに、ライラ情報だけど、フランベルジェの本物は、レプリカより血の量が少なくていいの」
「へぇ……よくそのちっこい頭で覚えたね」
「なッ!? この胸だけ女!」
「まな板! 貧乳!」
こんにゃろー、と話の焦点がずれ、2人は取っ組み合いになった。
さて、面倒臭い事後処理はそれっぽい組織の人たちに任せて。戦闘終了翌日の夜、左目関係での検査を終えた朝倉準一が、碧武九州校学生寮エリアにある現自宅へ帰り着いた時だった。
スーツの引っ越し業者が結衣、カノン、エルシュタ、エリーナの荷物が纏められたダンボール箱を運び出していた。
「……こんなサービス頼んだっけ」
と準一は左目の眼帯を撫で、ため息を吐く。
傍ら、妹2人、エリーナ、エルシュタ は玄関で項垂れている。
何か面倒臭そうなので、話しかけない様にしようとその引っ越し業者のトラックの陰に隠れ
「あぁ……」
そこにしゃがみ込んで子猫を抱きしめる、マリア・ミレイズを見つける。
「お前……何してんの?」
「何って……見れば分かるでしょう?」
「いや、分かんない」
「ふふ、落ちたわね。朝倉準一」
何とも勝ち誇った顔のまま、マリアは猫を抱いたまま立ち上がる。「まぁ、冗談はここまで。本当は、引っ越しに来たの」
「引っ越し? ああ、お前この近辺に来るの?」
「ええ―――」
引っ越し業者のトラックが過ぎ去った後、準一は肩を落とす。
「だから、これからよろしく」と準一に白い、細い手が差し出される。「朝倉準一」
笑顔のマリア・ミレイズは、これから住む事になる朝倉準一宅を見た。
現在、深夜2時。明日は学校なのだが、マリアの部屋、準一の隣だが、ダンボールから荷物を出す作業がここでやっと終わった。タンス、クローゼットやベット。テーブル、絨毯も敷き、猫用のモフモフした小屋も置いた。
さて、昨日までこの家に住んでいた女の子4人だが、新たな部屋はちゃんと用意された。
結衣は前の第3女子寮の一室。カノンも同じ部屋に組み込まれた。エリーナ、エルシュタも、以前より舞華がこっそり占拠していた第3女子寮へ。本来、女子寮なんかは生徒様なのだが、舞華は女子男子問わず人気が高いので、教師陣からの頼みとあって第3女子寮にお邪魔した。
引っ越しが完全に完了し、準一とマリアはリビングに入り、ソファに座ると一息ついた。考えてみれば、この家にはマリア・ミレイズと2人きり。準一は気付き、考える。
何か話題はあったか、と。
しかし、
「ねぇ」
とマリアの方が話しかけた。「ん? なんだ」と準一は隣に座ったマリアに向く。
「いえ、その。何だか申し訳なくて、あなたにも、出て行った子達にも」
「まぁ……どうなんだろうな。あまり気にしなくてもいいと思うが」
ならいいけど、とマリアは準一をまじまじと見る。準一はため息を吐く。「なんだよ」
「その眼帯……中二病?」
準一はマリアの頬を抓る。「い、いひゃい…」とマリアが言うと準一は手を離す。
まぁ、何を隠そう、傷を治癒魔法で直した結衣と、一緒に居たカノンからは、眼帯を見て同じことを言われた。
「お前、俺の目の事聞いてないのか?」
「目の事?」
マリアが聞き返し、準一は眼帯を取って見せた。市販のモノと大して変わらない、白い眼帯。それが取れ、紅色の瞳……ではなく碧色の瞳が現れる。
「碧……色?」
「使用制限のかかった状態で、魔法を使い過ぎた事が原因らしい。おかげで、左はもう何も見えない」
言わずもがな、左目は戦闘に於いて準一の利き目である。
「……魔法は?」
「使ったさ。だが、治らなかった。どういう訳か、な」
一瞬、マリアは顔を顰めた。準一はそれに気づき、眼帯を付けようとするが、その手を止められる。
「どうして……私にキスしないの?」
吸血鬼のクォーターであるマリア・ミレイズと契約した事により、準一は彼女と婚約したに等しい。そのおかげで、キスをする事で、傷が治る。と言う特典が付いた。
「治る確証が無い」
「でも、試してみなければ分からないでしょう?」
まぁ、そうだな、と言いながら話題を逸らす為、準一は眼帯を置き、立ち上がる。「コーヒーを淹れるが、何か飲むか?」
「その前に」とマリアは立ち上がる。「試すべきよ、その瞳が治るのかどうか」
準一は息を吐き、眼帯を持ち上げ、ゆっくりと左目に付ける。
「そう焦らなくてもいいだろう。俺からすれば、片目が使えない程度じゃ何も変わらない。コーヒーでいいか?」
マリアはソファに座り、諦め、頷く。程なく、コーヒーカップ2つを手に持った準一が隣に座り、1つを受け取るとゆっくりと一口。
「聞くが、お前は碧武がアルシエルや無人の天使群に攻め入られた時、何をしていたんだ?」
マリアが戦列に参加していなかった事を聞いていた準一は、静かに聞く。マリアは準一の横顔を見るが、左側なので眼帯から威圧感を感じる。
「……機体がなかったのよ」
「機体が無い?」
準一が聞き返すと、マリアは頷く。「碧武で実戦に使用できる機体は多いわ。でも、私が使いこなせるのは、あなたの椿姫か、乗っていたミゼルだけ。雷や、カスタムされてない椿姫は、私の操縦に付いて来られないの」
成程、とコーヒーを一口飲み、準一は部屋の隅のダンボールに気付く。「マリア、あれはお前のか?」
マリアはダンボールに近寄り、その中身を確かめる。
「私ので間違いないわ」
「じゃ、片付けるか」
うん、と頷くと、マリアはダンボールを部屋まで運び、中から小物やらを取り出すと、準一を一緒に並べて行った。
「お前……」と準一はファンシーなウサギのぬいぐるみを取り出し、マリアを見る。「意外と可愛いの好きなんだな」
マリアは顔を赤らめる。はたして、そんなものが好きだと言われたからか、それとも可愛いと言われたからかは知らないが。
しかしマリアは恥ずかしく、顔を赤らめたまま準一を睨む。
「別に悪いとか言ってないだろ? お前がこういうのが好きなのが意外だっただけだって」
「なんか、馬鹿にされてるみたい」
「バカにしてないって、俺も嫌いじゃないし、こういうの」
嘘吐け、とマリアがつん、とすると準一は隣の自室からぬいぐるみを持ってくる。
「あら、それ可愛い」
「俺の自作だ」
一瞬、マリアは驚くが、すぐに吹き出す。「じ、自作なの? それ、あなた意外ね。すっごく意外」
「お前、馬鹿にしてるだろ」
「してないわよ。でも、本当、あなたのイメージは全部崩れたわ」
マリアは笑いを止める。「聞いていた、日本の朝倉準一は冷徹で、非情。敵と断定すれば全てを殺す、敵から恐れられる高位魔術師。何か、馬鹿みたいね」
はぁ、と息を吐いたマリアの顔に、準一は、自作の犬のぬいぐるみを押し付ける。
「な、何?」
「それやるよ」
「いいの?」
マリアからすれば、割とうれしい。この準一の製作したぬいぐるみは、マリア好みで可愛いからだ。
「何か見返りとか要求しないでしょうね?」
「しねぇよ。これからここに住むんだろ? お近づきのしるし、じゃ駄目か?」
ため息を吐き、マリアは微笑む。「ま、いいわ。ありがたく受け取る」
「助かる」と準一は空になったダンボールを持ち上げる。「このダンボールは?」
「入れれるものがあったらちょうどいい大きさだし、タンスのクローゼットの上に置いてもらってもいいかしら?」
「分かった」
と準一は、椅子を置き、その上に乗るとクローゼットの上にダンボールを置く。同じタイミングで、一歩後ろにさがったマリアの足を、連れてきた子猫が引っかく。
マリアはこけそうになり、脚が大きくあがり、準一の脹脛に当たり、準一も体勢を崩し、準一はマリアの方へ。
迫った準一に、マリアは目を閉じた。
次に開けると、鼻先が当たりそうな距離に朝倉準一の顔があった。
まるで、準一がマリアを押し倒した様になっている。
「あ、ぁの」
と、認識の追いついたマリアの顔はみるみる内に真っ赤になり、イヌのぬいぐるみを抱きしめていた手に力が入る。
「ああ、悪い」
一方の準一は、特にドキドキする事も無く、謝罪する。
「あ、あなた……その、こういった状況に慣れてるの?」
「は?」
マリアに聞かれ、準一は素っ頓狂に返した。どうやら、マリアは真剣に聞いてきたようで、準一は「真面目に答えるか」と思い、目を合わせる。
「慣れてる訳じゃ無い」そして、マリアにも聞く。「お前は、どうなんだ? さっきはキス、と言っていたが、慣れているのか?」
少し意地悪な聞き方になるが、準一は気にしない。マリアはぬいぐるみで口を隠す。
「……異性とのキスは、あなたが初めて」
よほど言うのが恥ずかしかったらしく、マリアは声が震えていた。
「あぁー……そっか」
「な、何よ! 今の間は」
「別に」
と準一はマリアの上から退くと、倒れた椅子を立たせる。一方、私服、短めのスカートのマリアはパンツが見えた。準一は目に入れない様に
「パンツ見えてるぞ」
と言ってやると、マリアは跳ね起きスカートで隠す。「見た?」
「ああ、それなりに」
準一が答えると、マリアは頬を赤らめ
「バカ」
と小さく言った。




