首都東京侵撃戦⑤
学校で展開しているのは、生徒側は結衣、カノン、綾乃、テトラ、揖宿、エディ、ロンの6人で、カノンは戦闘不能。揖宿、エディは高位魔法を使用し、七聖剣の援護。テトラ、結衣は羽劉の対処。ロン、綾乃は警備隊と共に倒せる敵の対処。
その形で、各々は戦っている。
西園寺永華、彼女の黒機神、白機神はアルシエルと交戦。ミストルティンの援護に入っている。しかし、七聖剣とはいえアルシエルは強敵だ。
黒機神の使用する魔法。波を撃ちだし、黒機神の魔力が追いつく限りで倒せる敵を破壊する魔法。アルシエルはそれを盾で防ぐ、アルシエルは、黒機神より上。
一方、白機神の得意とする、火、水、雷の3属性魔法も、アルシエルには通じない。
日本国最強の式神、式機神使いの西園寺永華からすれば、これ以上、決定的なダメージを与える魔法は無い。
だが、来栖春樹のミストルティンから繰り出される自在浮遊剣による波状攻撃は、着実にアルシエルにダメージを与えている。
―――やっぱり、機械魔導天使じゃなきゃ
そう思いながら、永華は黒機神をアルシエルに差し向け、自分に向かって来る無人天使群を白機神で蹴散らす。そのまま左手の親指を立てると、下に向ける。合わせ、黒機神は刀を振るい、波を撃ちだす。
当然、防がれる。
「チッ。だったら」
と、永華は紙をポケットから数枚取り出すと、空にばら撒く。そのまま両手を合わせ、術式を組む。
彼女の使う魔法は、南雲、御舩双方の影響を受けたモノ。その魔法が最も効果的に発動されるのは、効果的に空間術式を張り、特殊な桜で覆われる京都。
なのだが、桜、その花びらがあるのと無いのとでは大きく違う。
術式を組み始める。彼女の周辺に桃色の術式が浮かび上がり、紙に書かれてあった術式が青に光ると、彼女は手を離す。
「黒機神!」
呼ぶと、学校を覆う範囲にどこからか、桜の花びらが舞う。黒機神は刀を構えなおし、アルシエルへ加速。同時、黒機神の装甲が開く。腕、脚部、腰部、肩部。放熱板があるわけでは無い。これは、桜の影響下で発動される、桜に影響される式神、式機神に共通する魔法
『桜花』
だ。桜花を受けた黒機神は、開いた装甲から赤い光を放ち、刀は鈍く、赤に光る。
「御舩か南雲か……ううん。多分両方」
桜花に気づき、千早は機体を空へ上げ、サイドアーマーの魔導砲を一斉射。迫る黒機神に気付くと、加速魔法で背中に回り込む、回し蹴り、だが黒機神に当たる前に黒機神は姿を消す。
桜花の影響下、黒機神は加速魔法と同等の力を得て、アルシエルの背中に回り込んでいた。まさに、一瞬の出来事。なのだが、千早の反応速度も速い。
黒機神に気付くやいなや、硬化魔法を張り、すぐに振り向きざまに魔導砲。黒機神は後ろ腰を上に跳ねあげ、それを回避すると、そのまま勢いよく足をおろし、膝蹴りを決めようとするが、アルシエルは黒機神の横に回り込みパンチを一撃。
千早は、息を切らしながら羽劉を見る。
「全く、あんまり使えないじゃない。中華軍の置き土産」
そう悪態を吐くと、動かないフォカロルを見つける。まだ、回収されていない、想定以上に状況は混乱しており、警備隊も足を止められているのだ。
これは、今なら。
「待機してる人、全部こっち来て! 時間を稼いで、今なら回収出来るわよ」
返答はなく、魔導船は学校へと進み。その船からは幾つもの天使が飛翔し、学校へ向かう。
くそ、と春樹は舌打ちし、アルシエルを見るが一瞬の間に見逃す。
だが、もう永華にも、春樹にも探す余裕はない。
迫る敵の数は以上だ。ショッピングエリアも学校エリアも無人、生憎、皆は地下のシェルターに逃げている。
「春樹! 最優先は朝倉準一の任務引継ぎ、学校の守護よ!」
「わーってるよ!」
永華に言われ、春樹は声を荒げ、自在浮遊剣を敵に飛ばした。
高等部最強、と言う盛られた通り名だが、朝倉結衣のベクター兵器を用いての近接戦闘における戦闘能力の高さは本物だ。羽劉から迫ったビームを紙一重の機体回転で避け、一瞬の内に懐に飛び込み、息もつかせぬ近接攻撃を繰り出している。
羽劉はそれをただ後ろにさがりながら避けるが、後方からのテトラの模範的射撃で何度か足を止められる。その度、結衣の篤姫の2式ブレードの一撃を喰らっている。
それにひるむ様子も無く、羽劉はバインダーを八方に開くと、それは回転し、ビームを乱射する。
テトラはビルの陰に隠れ、結衣は持ち前の反射神経の良さと抜群の操縦センスを使用し、2式ブレードでビームを弾いている。
普段、兄にべったりなアホはどこへやら。ビームを全て斬り、回し蹴りを叩き込み、背中を見せる篤姫。
とても、あの結衣が操縦しているとは思えない。
彼女は、学内戦闘であっても、これだけの戦闘能力を発揮していない。
「マジで強いじゃん」
少し呆れながらテトラが言うと、結衣は機体を跳躍させる。だが、道路に倒れ込み、煙に隠れていた羽劉はバインダーを全て篤姫に向けていた。それに気づく訳もなく、羽劉は一斉射。
カノンを倒した時の高出力ビーム。煙の中から迫ったそれに気づき、間一髪で回避するが、篤姫は左腕を持って行かれるが、そのまま羽劉の上に着地し、羽劉のバインダー3枚と両腕を弾く。
「結衣すげえ!」
その攻撃に、テトラは興奮する。しかし結衣は構わず次を決めようとするが、羽劉は背部に隠していたユニットを全開にし、篤姫の下から離れる。羽劉はそのまま、海に潜ると、浮上はしなかった。
「げ、撃退成功? ねぇ、テトラ」
「多分だけど」
直後、漆黒の翼を視界の端に捉え、篤姫のメインカメラがアルシエルを捉える、カノンの所に向かっている。
まずい、と結衣は篤姫を向かわせる。
テトラも追うが、別の天使に見つかり、仕方なく戦闘に入った。
鈍く頭が痛み、カノンは頭を抑えた。自分に何があったのか、それは覚えている。攻撃だ。遠距離からの、正確な狙撃。高出力ビーム。フォカロルはそれを教えてくれたが、自分の反応が鈍かった。
ふと、前を見る。ぼやけているが、シルエットでアルぺリスと分かった。
正面モニターの右は衝撃で、ブラックアウト。アルぺリスは左にしか映っていない。
「に、兄さん?」
頭が一瞬痛み、右手で押さえながら瞬きを数回。視界が晴れ、ぼやけが消えると同時、左右のモニターが復活した。
「ゆ、結衣!!」
カノンは、痛みを忘れ叫んだ。
フォカロルの目の前で翼を広げていたソレは、義姉妹である結衣の篤姫の胸部を、左手で貫いていた。篤姫は抵抗したのだろう、残った右腕で、ソレ、アルシエルの腕を掴んでいた。
そして、篤姫は力なく腕を下ろす。アルシエルはそれを乱暴に投げ捨て、フォカロルを見る。
「結衣! 結衣! 結衣!」
叫びながら、機体を篤姫の元に向かわせようとするが、脚半分、ユニット全壊。手で這って動きながら、サブモニターに篤姫のコクピットの様子を出す。
結衣は、右腹部、右足、右肩に破片は刺さっているが、死んではいない。
「良かった」
と心から安心した時、アルシエルがフォカロルを踏みつける。
「さて、あなたはこっちよ。行きましょう、東京に。ね? 吸血鬼さん」
「き、吸血鬼?」カノンは頭から手を離し、アルシエルを見上げる。「私が?」
「あら、気付いてなかったのかしら? まぁいいわ。知っていようがなかろうが、作戦に変更は無いわ。あなたさえ運べば、私の仕事は終わり」
アルシエルはゆっくりと手をおろし、フォカロルから両腕を奪い、片脚と腕の無い半身だけのフォカロルを掴み上げ、東京へ向かった。
「結衣! 結衣! しっかり!」
と声を掛けられ、結衣は目を覚ました。どうやら、格納エレベーターらしく、少し安心するが、すぐに思い出す。
自分に声を掛けていたレイラ・ヴィクトリアの肩を左手で掴む。
「カノン……は、カノンは?」
「カノン? 戦闘中じゃありませんの?」
レイラは、事情を知らない。恐らく、今出て行っても邪魔なだけ。それに、もうカノンはいないだろう。
そう気付いた時、結衣は右に幾つかケガをした事に気づき、痛みを憶え、「うッ」と声を出す。
心配しながら、レイラは朝倉舞華に結衣を引き渡した。
「あら残念」
カレンデュラを抑え込んだ椿姫を突き放す。2機は、相対する。
「あなたの可愛い実妹。アルシエルにコクピットブロックを貫かれたって」
それなりにショックだったが、顔色を変えず、準一は聞く。
「だからどうした」
「あら、意外ね。本当に。妹よ? 何か感情を表したら?」
「表には出さない主義だ。だが、割と本気でイラついている」
ゆっくりと、視線をカレンデュラへ向け、睨み付ける。
「よくも俺の妹に手を出してくれたな。……ただで済むと思うな」
口調から怒気を感じ、一瞬、シェリエスは怯む。朝倉準一が、戦闘中に感情を出した。
彼女は一つ、よく覚えていた。この、朝倉カノンを使う予定のフランベルジェ、少し前に話した老人。彼は朝倉準一と戦い、率いていた部隊を壊滅させられた。
そんな、協力を持ちかけられた彼はシェリエスに言った。
『大胆に攻めるのは構わない。だが、怒らせるな。彼の逆鱗に触れれば、先は無い』
ただ怯えきった様子で老人は言っていた。
「天使が使えないのよ。ビビんないわよ!」
自分にそう言い聞かせ、クイーンはカレンデュラのロツンディフォリアを後ろに構えた。