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ヒーローside: 法子/UFO

 ビル街の中にぽっかりと作られた憩いの広場には大量の野次馬達が集まっていた。

 町中の人々をそっくりここに集めたんじゃないかと思える位に人が敷き詰まっている。野次馬達が変身した法子と将刀に気が付いて、耳が痛くなりそうな程の歓声を上げた。

 法子達が空を見上げると頭上に奇妙な物体が浮かんでいる。どうやら時折攻撃を発しているらしい。だが広場の人々は逃げる素振りすら見せない。野次馬達の頭上には何人ものヒーローが配備されていて攻撃から守っている。どうやら野次馬達はヒーロー達が守ってくれているから安心だと信じきっているらしい。

 法子達は野次馬の頭上を駆け抜ける。

 広場の外側には野次馬達の輪、内側にはヒーロー達の円があり、境界ではヒーロー達が野次馬を押しとどめている。外側の野次馬の輪に比べれば、内側のヒーロー達の作る円はまばらだったが、それでも百人位は居そうだった。

 法子達がヒーローの円の中に降り立つとヒーロー達は一様に色めき立った。ヒーローの群れが割れ、中央で話し合いをしている初老の男達の姿が見えた。中央の男達はヒーローの中でも実績と貫禄を備えた者達で、どうやらリーダーの役割を担っている様だった。

 その中の一人が法子達を認めて、手を上げた。

「おお、あんた等が来てくれたか」

 ヒーローの中にあの来夢の姿を見つけ法子はちょっと怖くなったが、法子と将刀は集ったヒーロー達に挨拶をしつつ、胸を張って自信のある様な素振りで、中央へと歩んでいった。

「どうもです。それで状況はどうですか?」

 将刀の問いに答えが返ってくる。

「良くも無く、悪くも無く。攻撃自体は頻度が少なく緩い。町を守るのは簡単だろう。だが攻撃してくるあの物体を壊すのが困難だ。今二つあるだろ?」

 法子達が見上げると、確かに言葉の通り、二つの黒い物体が浮いていた。

「最初は一つだったんだ。どうやら破壊すると再生してもう一つ新たに生み出すという性質を持っているらしい」

 法子は二つの黒い物体を見上げながら尋ねる。

「だったら魔術を断ったらどうですか? 魔力を削ったり、解析して魔術自体を無効化したり。私、やりますけど」

「いや、既にやった。魔力の方は上空に大規模な魔力溜まりを作ってあるらしい。あれを全部削り切るには時間が掛かる。魔術の無効化は、リアルタイムで魔術を変化させる事でカウンターマジックに対抗してきている。やるなら敵の手札、出す順番、タイミングを完全に読みきって無効化しないといけないだろう」

「リアルタイムで魔術を変化?」

「そう。こちらが魔術に干渉しようとすると、自動的に別の魔術に変化する様に出来ているらしい」

「そんなの、出来るんですか? 術者がよっぽど近くに居ないと」

「恐らく敵はこの近くに居るんだろう。探しては居るんだが、そちらの調査も芳しくは無いな」

「それで結論は?」

 将刀が尋ねると、男は首を横に振った。

「残念ながら」

「力尽くですね?」

 将刀の問いに、男は頷いた。

 法子は笑みを浮かべる。

「分り易くて良いですね」

 それに対して男は渋い顔をした。

「ああ、この場のヒーローはみんなそう言っていたよ」

「らしくて良いじゃないですか」

 法子が笑い声を上げると、男は更に渋い顔になった。

「俺はヒーローの限界を感じるよ。やはり組織だっていない有象無象だとこの程度が限度だ。集まる事は出来るが複雑な事は出来ない。結局ヒーローは個々人でしか無い」

「確かにヒーローってみんな我が強いですよね」

「そうなんだよ。それが強さでもあるんだが」

 男は溜息を吐き、それから辺りを見回した。

「とにかく一部をこの辺りの警護に、一部に広場以外へ向かう攻撃を防がせ、後は総攻撃。遠距離が得意な奴等は内側から、近接攻撃が主な者は外側から。お前等は接近戦が主体だったな?」

「遠距離でも行けますよ」

「まあ、どっちでも良い。とにかく同士討ちを防ぐ為に飛び道具は内側、近寄って壊すなら外側、という事を徹底してくれ。それから広範囲への攻撃も禁物だ」

 将刀が手を上げた。

「いっその事、人数を絞った方が良いのでは?」

「そうしたいのは山々だが、みんな、俺もやる俺もやるで収拾がつかん」

「ああ」

 将刀は納得して、辺りを見回した。法子も同じ様に辺りに集うヒーロー達を見る。皆、功名を立てようとする熱気が透けて見えた。遠くに来夢を見つけて、また睨まれたので、法子は思わず目を逸らす。

「まあ、とにかくそんな訳だ。結局あんた等は空に向かうのか? それとも地上から攻撃するのか?」

 法子が将刀を見ると、将刀は頷きを返してきた。

「俺達は空に向かいます」

「そうか。ならルーキー達を助けてやってくれないか?」

「ええ、良いですよ。出来る限りは」

「まあ、あの高さまで空を飛べるならそこそこ腕に覚えはあるんだろうが。中には飛行能力だけで後はからっきしだとかも居るし。何よりルーキー共はとにかく活躍したい一心で無茶をやるからな。しかも手助けしようとするときれる。出来るだけさりげなく助けてやってくれ」

「難しそうですけど、善処します」

「感謝する。さて、そろそろ合図の攻撃を開始する。攻撃によってある程度数が増えたら、そっちも攻撃を開始してもらう。準備しておいてくれ」

 男は力強い笑みを浮かべて将刀の腕を何度か叩いてから、背を向けてまた他のリーダー格との話し合いに戻っていった。

 法子は将刀と顔を見合わせる。

「みんな、有名になりたいんだね」

「ヒーローは承認欲求の強い人が多いからな」

「うん、私もそうだしね」

 やがて周囲の動きが慌ただしくなり、それからさっき話していた男が大声で言った。

「今から攻撃を開始する! 合図の攻撃を命令された者以外は待機! その後、笛で合図をする! 一度目の笛が鳴ったら、地上から遠距離の攻撃! 二度目の笛が鳴ったら、空を飛べる者は上空に行って直接攻撃! 良いな!」

 集ったヒーロー達が承服する声を上げた。だが皆てんでばらばらのタイミングで答えるので、法子は何だか不安になった。

 そうして攻撃が開始される。

 大砲を撃つ様な巨大な音が立ち、それと同時に上空に浮かぶ二つの黒い物体が粉々になった。その瞬間、物体は再生し、周囲にもう二つ物体が現れ、四つになる。しばらくしてまた音が立ち、四つの物体が破壊され、八つになった。また音が立ち更に二倍になる。

 法子がそろそろかなと考えていると、突然今までの大砲の様な音とは違う耳障りな金属音がなって、上空の物体が破壊された。

 まだ合図の笛は鳴ってないのに、どういう事? 攻撃する人が交代した?

 怒鳴り声が響く。

「誰だ今、攻撃したのは!」

 その声を合図とする様に、再び金属音が鳴り、上空の物体が破壊された。

 その抜け駆けに反応して、そこらかしこのヒーロー達が我先にと攻撃を開始し、上空の物体が次々と増えていく。終いにはヒーローの一人が飛び立って上空へ向かい、それに負けじと他のヒーロー達も飛び立ち始め、中には地上から放火を受けている中央へ向かうヒーローも居て、もはや制止は効かず、場は一気に混乱していった。

 法子は思わず隣に立つ将刀を見上げた。

「将刀君、どうしよう」

 将刀はしばらく上空を見上げてから言った。

「しばらくは様子を見よう。町の人達が危険に曝されている訳じゃ無い。あのヒーロー達は自己責任だ」

 冷酷さを感じさせる将刀の言葉に、法子は息を呑む。

 将刀の見上げる空では混乱が起こり、ヒーローが地上からの放火にあって、同士討ちに近い形でやられていっている。黒い物体は順調にその数を増やしている。今や百を越え、二百を越え、空を埋め尽くそうとしている。

 法子が不安に思いながら空を見上げていると、突然横合いから声を掛けたれた。

「二人共!」

 見ると、先程作戦を説明してくれたリーダー格の男が焦った様子で空を指さした。

「この混乱は不味い。二人で何とかルーキー達を」

「お断りします」

 男の懇願を将刀が容赦なく断った。

「な!」

「あれは自業自得でしょう? あんな混乱の中に入ったらこちらまで被害を受ける。彼女を危険な目に遭わせる事は出来ない」

「君の言いたい事は良く分かる。だがこのままだと町にまで被害が出る。士気にだって影響するし、魔検の信用だって」

「味方ごと薙ぎ払って良いのだったら」

「いや、それは流石に」

 言葉を濁して恐縮する男を、将刀は冷めた視線で見下ろす。

「自分勝手に行動して、人々を危険に晒そうとするヒーロー達を助ける謂われは無い。俺達は敵の矛先が町の人々に向いたら動く」

「しかしこれ以上混乱が広がれば、取り返しの付かない事になるぞ」

 将刀が男の言葉に反論しようとした時、その肩を法子が叩いた。

 法子は振り返った将刀に笑顔を向けてから、刀を握りしめた。

「将刀君、ヒーローだって人だよ。助けなくちゃ」

「でも危険だ。あの混乱、どうする事も出来ないだろ?」

「危険だからって退く訳にはいかないよ。不可能だからって諦める訳にもいかない。ヒーローだもん」

 将刀に背を向けて、空に向かおうとして、その手を将刀に引かれてまた振り返る。

「待って、法子さん」

「あのね、将刀君、私分かったよ。ううん、分かってたんだけど、最近ぶれてた。私は将刀君の隣に居たくてヒーローをやってるんだ。将刀君の傍に居ても見劣りしない何かが欲しくて。だから私はいつだって他の人達よりも活躍しなくちゃいけない。他の人達よりも凄い人にならなくちゃいけないんだ。だから止めないで。ここで止まったら私は将刀君の隣に居られない」

 将刀は法子の手を掴んで固まっていたが、やがて法子の手を一度引いてから、前に進みでた。

「分かった。一緒に行こう」

「将刀君」

 法子ははにかんで、将刀と一緒に歩み出す。

「将刀君ならそう行ってくれるって信じてた」

「でも本当にどうするの、あの混乱」

「頑張って何とかする!」

「はは」

 満面の笑みを浮かべる法子と乾いた笑みを作った将刀はお互い見つめ合ってから、また空を見上げた。

 そうして二人で空に踏み出し、高空の黒い物体へ向かおうとした時、突然辺り一帯にハウリングの耳障りな音が聞こえてきた。続いて粗雑な叫び声。

「おら! 雑魚共は戦いを止めて下に降りろ! 邪魔だ!」

 広場の視線が声のしたビルの屋上に向いた。

 野次馬達にはビルが高すぎて何も見えなかったが、法子の様に魔術で視力を強化した者達はビルの屋上に立つ人影を捉えた。

「徳間さん!」

 法子が叫ぶ。

 ビルの屋上の縁に足を掛けた徳間が拡声器を空に向けて立っていた。突如として現れた日本魔検の切り札は拡声器越しに空のヒーロー達と言い争っている様だった。空のヒーロー達が何を言ったのか、地上に居る人々には聞こえなかったが、徳間の声だけはとてもはっきりと辺りに響き渡る。

「うっせえ! どう見ても手前等は邪魔なんだよ! すっこんでろ!」

 それでも戦いを止めようとしない空のヒーロー達へ向けて、徳間が思いっきり怒鳴りつけた。

「だから、迷惑だって言ってんだろ! ああ、もう良い! 真央! 落とせ!」

 突然徳間の横に女性が現れた。女性は木槌を振り上げて、振り下ろす。

 空で戦っていたヒーロー達の動きが突然止まり、続いて地面に向かって一斉に落下した。

「下に居る奴は悪いが落ちてくる奴等を受け止めてやってくれ!」

 そう言いながら、徳間は空に浮かぶ物体を指さす様に腕を向けた。

 徳間が腕を向けると、空に浮かぶ黒色の物体を突き破って内側から無数の針が生え出た。徳間を象徴する針の魔術だった。内側から針に蹂躙された物体はまるで栗のいがの様になったかと思うと空気に溶けて消えた。一瞬で空から物体が消えた。かと思うと、再び物体は再生し更にその数を増やす。増えた物体を再び針が蹂躙する。物体が破裂する様に消え、またその数を増やす。

 何百何千という数の黒い物体が空を埋め尽くす。

 あまりの数に法子は戦慄する。

 何処かからヒーローの呆然とした呟きが聞こえた。

「まだ魔力が尽きないのか?」

 法子も同じ気持ちだった。

 あの数を何とかしなくちゃいけないの?

 空に敷き詰まった黒い物体のあまりの物量に法子は喉が乾くのを感じた。圧倒的な物量を見上げ、本当にどうにか出来るのかという不安が浮かぶ。

 だがその不安を打ち消す様に、空一面に広がる黒い物体全てから再び針が生え出て、空から物体が消え、青空が広がった。

「すげえ」

 何処かから賛嘆とも恐怖ともつかない呟きが聞こえた。広場中の全ての者が同じ気持だった。

 法子も空一面を一掃した徳間の魔術に恐ろしいものを感じる。同時にもしこれ以上増えたらという嫌な予感がよぎった。

 その予感は的中し、空を埋め尽くす黒い物体が再び現れる。

 果てる事の無い再生に絶望を感じて、地上に集まる人々から悲嘆と悲鳴が上がった。

 それをビルの上に立った徳間が一喝する。

「嘆くな! もうあれは限界だ! 増殖のペースは落ちている!」

 その言葉に全員の視線が徳間に集った。本来であれば遠すぎて見えない筈の野次馬達も、そこに力強い笑顔と希望を見た。

「これで終わりだ!」

 徳間の叫びと共に、再び空に広がる物体全てを棘が蹂躙し尽くした。全てが虚空に消え、青空が広がり、人々は固唾を呑んで、一拍後を待った。一秒、二秒と物体が再生しない事を確認し、地上中から歓声の雄叫びが上がる。

 徳間は讃える声が辺りに満ちた。

 だが当の徳間は空を見上げていた。強化された視力でその様子を見ていた者達は徳間の視線を追って空を見上げ、その後野次馬達も何か只ならぬ雰囲気を感じ取って、同じ様に空を見上げた。

 そこには何も無かった。けれど能々見ていると小さな黒い点が現れた。かと思うと黒い点は次第に膨れて行き、最後は人型になる。

「何だ、あれは」

 見上げていた将刀が呟いて、隣に居るはずの法子を見ると、法子の姿が消えていた。

「法子さん?」

 将刀が不思議に思って辺りを見回すが、法子の姿は見えない。

 将刀が法子を探している間にも事態は止まる事無く進行していく。

 屋上に立った徳間は空の黒い人影に向けて拡声器を通して問いかけた。

「何者だ、お前は」

 すると答えが返ってきた。徳間だけでなく、下で空を見上げている人々やあるいは近くの建物の中に居る人々、辺り一帯に居る全ての人々の思念に、黒い影は直接語りかけてきた。

「僕はたった今ここに生み出された魔術で出来た人形です」

「何? 魔術で作られた人形?」

「擬似的な人格を与えられ、この辺りを破壊する為に生み出された人形です」

「一体誰に作られた?」

「さあ、僕には分かりません。分かるのは僕に与えられた使命は破壊だという事」

「魔術で人を生み出すなんて聞いた事ねえな」

「知らないだけでしょう」

「かもな。で? 目的がこの辺りの破壊だって?」

「ええ、そうです。数千に及ぶ核の破壊を引き金にして生み出された僕はただ破壊だけを──」

 言葉が途切れた。

 人形の居るよりも更に上空から唐突に魔女が落ちてきて、人形の脳天に刀を叩きつけた。人形は下へ向かって落ちかけ、途中で制動を掛けて宙に留まり、自分を攻撃した魔女を見上げる。

 黒色の影の視線を受けた法子はにっと好戦的に笑って刀を構えた。

 が、横合いから水が差される。

「落成式に続いて、またお前か!」

 徳間の怒鳴り声に驚いて、法子は慌てて徳間の立つビルの屋上を見下ろした。

「え? 駄目でした? 良い奇襲だと思ったんですけど!」

「お前、本当に戦う事しか考えてないな! 戦闘狂め!」

「心外です! 戦闘狂は魔界の王様だけで十分!」

「だったら少しは様子を見る事を覚えろ! もうこれで後は戦うしか無くなっただろ!」

「それ以外に何があるんですか? 交渉出来る相手に思えないですけど」

「解析して魔術師の居所を探るとか色々あるだろ! 激しい戦闘に入ったら、探知だとかの繊細な魔術が全て使えなくなる」

「あ! 成程!」

 法子が驚いて声を上げ、それを聞いた徳間が怒りに震え、黒い影が法子の正面に突然現れ、法子の顔面を殴り飛ばした。

 完全に気を別の場所に取られていた法子は防御すら出来ず、広場を囲むビルの一つに突っ込んで、そのまま魔術で保護された鉄筋コンクリートを突き破ってビルの中に消えた。

 地上から悲鳴が上がる。

 法子を殴り飛ばした黒い影は一つ首を回して宣言した。

「それでは破壊を遂行しましょうか」

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