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血に酔う街Ⅴ

 禿頭はポケットから煙草を出して火をつけた。「きっと俺のこと悪党だと思ってるだろ?」彼は煙草の煙を吐き出した。

「あぁ、最低の屑野郎だ。貴様たちは――…」

 彼は自分が割りこめる余地でもありはしないかというような口調だった。しかし、その眼の動きは神経質で、自信たっぷりの態度と裏腹に、やけっぱちで、他人に対する共感力は微塵もない。俺は暫く話を聞いていたが、早くもうんざりしてきた。色々言っている割に鋭い指摘は一つもない。自分は一センチも尻を動かさない。デスクに陣取って顎で人をこきつかう事が頭の優秀な証拠だと思っている典型的なタイプだった。こいつにはそれに気づくだけの頭もないだろう。きっと核実験の指令を下せるのはこんな人間に違いない。

 こんな奴にはみんなも言ってやれ『てめえがやってみろ!!』ってな。

 禿頭からわざとらしいため息が口から漏れ、彼は眼鏡を鼻の上に戻した。

「そうかい。お前たち聞いたか!?コイツは俺達が嫌いだとよ」

 禿頭は背中に手を伸ばした。何もないと思っていた男の背後から生えてくる。彼が取り出したのは、銃身を切り落とされた愛用のイサカM37ステーク・アウト。やっぱりあんなのよりコイツの方が俺の中では一番しっくり来る。

 手になじむグリップを握り絞め、口元が笑うが、その目つきは全く笑っていなかった。

 よく見たら奴の薬指には指輪の後が。やっぱりな。そんなんじゃ嫁にも逃げられる。

「じゃあ明日から、恋人は左手かな?」

 メガネ越しのまなざしは正確に右手を捉え――トリガー《引き金》を引いた。

 轟音がとどろき、空気を震わせる。耳をつんざく銃声に奥の方で、女性が恐怖の喚き声をあげ、すぐさま同僚に黙らされた。

 赤い尾を引いて、空中に四散する五本指。指はその辺に散らばり破片は跡形もない。驚愕の叫びは、次の瞬間、凄まじい苦鳴に変わった。眼を剥き出している。当たり前か。

 その雄叫びは床に当たる十二番ゲージの空薬莢の音をかき消した。

「あっ‥ああぁ……はっ…はっ…はっ…はっ」

「おい、誰か手ぇ貸してやりな」

 広間に大爆笑の渦が湧き起こる。

「さぁ、起きた起きた」痙攣を繰り返すの彼の胸ぐらを掴んで引き起こす。

「さっさと開けるんだ」その声はさっきよりも冷静で抑制の効いた声だった。

 うぬぼれもプライドも消え失せ、今は情けない顔をして、暗証番号を打ちこみに向かう。

「ひゃあーはっは!ひでー格っ好!」

 蟹のように横ばいになり、金庫に向かう姿に破顔する一同。

「早くしろ、出ないと口でする羽目になるぞ」

「出来る訳ね〜だろ。あんな腹じゃ」

 ケツに小突くたびに彼は震えていた。

 文字盤を真っ赤にしながら、飛ぶように動く。彼はただ何も考えずに押した。そして、赤いライトが消えて緑のライトに切り替わる。

 金属の触れ合う音がして錠が鳴り、真空状態だった金庫室内に空気が流れ込む。

 開いた大きな鉄扉をくぐるとそこには――。

 大量の紙幣の山。その紙切れがまだ存在価値があるこの国がマトモな証拠かも知れない。

 一同の歓声。

「ヒャーーースゲェ量だ!今夜はいい夢が観れそうだぜ」

「しかし今時、現生でこんなに一体何に使うんだ?」

「知るかよ。それよりはあれ見ろよ」

「札束のベットだぜ。いい夢見れるぜー」

 山済みの札束に頬ずりしながら「いいねぇ〜〜〜〜〜〜〜〜でも、ちょっと固い」

「おっし!それじゃあ、ずらかるとするか。タイガースの試合が今夜あるんだ。見逃したくねぇ」

 煙草を投げ捨てた禿頭は、SIG P229をホルスターから抜いて遊底スライドを引く。ゆっくりとに歩み寄った。肩を荒い息で上下する男の大きく目を見開く額に銃口を向けられる。

 もう自分は安全だ……。そう思っていたか?阿保め。

 トリガーを引いた。

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