六女ともなりますと
自分にしてはすごく珍しく恋愛寄りかもしれない。
「嫁入り先なんだがなぁ…目ぼしい相手が見つからんのだよ」
王立中央学院入学の直前に、男爵家当主の父様からそう告げられた。
我が家はとある伯爵家に仕える法服貴族だ。寄り親も大きくはない。
王国では実のところ、女性でも爵位は継げるのだけど、
どうしても男児が欲しい、とうちの両親は子作りを続けていた。
女女女女女女、と来て、ようやく誕生した末子の弟。現在五歳。
彼は蝶よ花よと、両親とわたし達姉六人から可愛がられている。
で、わたし達姉六人は当然、他家への嫁入りとなる訳なのだけど、
長女から五女までは持てる縁を使い尽くして相手を見つけたらしい。
が、うちは伯爵家に仕えているおかげで他家との付き合いが少なく、
寄り親の伯爵家にも再三お願いしたのだけれど空振りに終わった。
伯爵家配下の縁はもう使ったし、伯爵家と付き合いがある家にも、
お家の損得抜きですら、相手が見つからないと言われたとか。
さすがにまだわたしは今年九歳なので、どこぞの後妻へとか、
あるいは第二、第三の婦人にとかは早すぎる。さすがにイヤだ。
両親は弟が第一とは言え、娘達へも愛情を注いでくれているので、
後日、無理矢理妙な相手へねじ込まれたりはしないだろうけど…。
「なので、どうにか学院で良さそうな相手を見つけておくれ」
と我らが父様。自由恋愛が出来る、と思えば良い事なのだろうか?
◆
で、現在。無事王立中央学院へ入学したのはいいけれど。
本っ当に相手がいない。自由恋愛どころじゃなかった。
王立中央学院は半年毎に新入生が入る。通常六年間十二期で卒業。
貴族だけならそうでもないけど、学生に準貴族や平民もいるため、
半年毎に入学卒業させて一期毎の学生数を絞っているのだとか。
現在一期生の中で、それとなしに声をかけて探ってみたけれど、
同格の男爵家、上は副伯爵家、下は準男爵家の男子達では大抵、
もう売約済みだったりする。嫡男の子はやはり全滅。
さすがに彼らに、第二婦人は要りませんか?と聞いて回る訳にも。
まだ学生の身だし、相手側の婚約者には睨まれてしまう。
次男三男それ以降の子も、大半は婿入り先が決まっていたりする。
そうでない子達もいるにはいるんだけど…問題アリといいますか。
いわく、家の経済状態が危ぶまれている。
いわく、上位貴族との関係がよろしくない。などなど。
さすがに泥沼と分かっていてそこに飛び込むのは覚悟がいる。
なのでわたしは手をこまねいていた。
あ、さすがに公爵家や侯爵家は最初から候補に入っていない。
そもそも同期にも、授業が被る二期にも上位貴族の男児がいない。
一代騎士や平民の子供は結婚相手とか探してないだろうし、
探してても男爵家に婿入りでもないのにお声は掛からないだろう。
かと言って、こちらから声を掛けるのも何か違うし。
まあ、恋愛にかまけて卒業出来ないと、そちらはそちらで問題だ。
卒業していなきゃ家督も継げないし公的機関へは就職出来ない。
わたしの場合、家督も公的機関への就職もあまり関係ないけれど、
だからと言って卒業出来なかった女に良縁があるとも思えない。
同期でいないとなると、あとはさらに上の先輩方か…。
どうやって接触したものだろうか?
◆
まずは姉様を頼ってみる。三女四女五女はまだ学院に在籍中だ。
だがそこでも口々に、
「同期の間ではちょっといないと思うなぁ」
「わたしが探したりしたら婚約者に浮気疑われるわよ」
「一応周りに聞いてみるけど、期待はしないでね」
との事だった。そりゃあね、一番下の期でほぼ売約済みだもの。
出来る限り網を張り続けておいて、婚約解消された人とか狙う?
難しいだろうなあ。婚約解消とかそうそうないし。
何で九歳で婚活に悩まなければいけない…いや分かってるけど。
あれこれ考えつつも、授業で調べものがあるので図書館へ向かう。
以前は火気厳禁のために日中だけしか利用出来なかったそうだが、
魔道具の夜間照明が設置されたため、今は一日中図書館は使える。
お目当ての資料を探していると、後ろから声をかけられた。
「あれ、そっちも探しものか?」
あー…問題アリ副伯爵家の同期の男の子だ。経済状態がアレだとか。
彼には良い印象しかないんだけどねぇ。婚約者は当然いなかった。
今は何本か巻物を小脇に抱えている。
「うん、魔術入門の資料でね」
答えたわたしは、彼の持つ巻物の中にその資料を見つけた。
「えーとごめん、その一本貸してもらっても?」
「ん?どれ?」
これこれ、と彼の持っていた巻物のひとつを指さす。
見終わったらあとで渡すことを約束し、貸してもらう。
備え付けられた机に借りた巻物を拡げて確認する。
彼は向かい側へ座り、同じように巻物を拡げていた。
確認も終わり、回り込んで彼に巻物を返そうとする。
ちらりと見れば、彼の読んでいた巻物は農作物に関わるものだ。
「あ、授業とは関係ないものだったんだ」
とつぶやくと、彼は答えた。
「うん。うちの領地はさ、ここ何年か不作が続いてるんだ。
俺嫡男なんで、卒業したら家を継ぐ必要があるんだけど、
この前調べてたら、通りすがりの先輩に教えてもらえてね。
それなら実績があるから解決出来ると言われたんだよ。
なんでも、先日先輩が開発したばかりの肥料が有効とかで」
そうか、領地があるお家もそういう苦労があるんだなー。
…あれ?嫡男で、もうすぐお家の経済問題が解決するの?
解決したら途轍もない優良物件では!?
「ねえ、貴方まだ協力者とか要るかな?」
後日。
婚約はともかく、彼の領地にお邪魔してご家族に挨拶できた。
ここから慎重に攻めて行くぞ。覚悟してもらおうか。
王国では、特に嫡子だと一夫多妻も多夫一妻もあり。
ただし全員と正式に婚姻関係を結ばないと、誠意がないとされて白眼視。




