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ヒーローと間違えて魔王なラスボスを拾ってしまいました。殺されるどころか、溺愛されているのはなぜ?  作者: 木山花名美


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2 心を込めて育てましょう

 

 湖畔へ辿り着いたジェナは、ヒロインの姿を求め、必死で辺りを捜索する。

 だが、置き去りにしたために鳥に薬草を喰まれた籠を見つけただけで、人の気配は全くなかった。

 無惨な籠を手に、小説の中でヒーローがもたれ掛かっていた楓の木まで戻ると、しゃがんで大きなため息をつく。


(きっと、この木へ向かう途中だったヒーローを、私が拾ってしまったのね。まるでヒロインから横取りするような形で……)


 座り込み、しばらくその場で辺りを窺ってみるが、風が草木をさらさらと揺らす音しかしない。

 少年の容態が気になったジェナは、一旦諦め、肩を落としながら家へ戻った。



 家へ着くと、ジェナは真っ先に寝室へと向かい、少年の容態を確認する。

 家を出る時と変わらぬ、穏やかな寝顔。あれからぐっすり眠り続けているという祖父ダンの言葉に、ジェナは安堵した。


 ジェナとダンは隣の部屋へ移ると、遅い朝食兼昼食を摂るため、粗末な麦粥が置かれたテーブルに向かい合った。


「ごめんなさい、おじいちゃん。薬草籠を放り出した上に、勝手に怪我人を連れて来たりして。大切な薬草も使わせてくれてありがとう」


「いや。儂でも同じようにしたよ。目の前で倒れてる子どもを、放っておくことなんてできねえからな」


「……ありがとう。私、今までの何倍もがんばって薬草を採ってくるから。だから、あの子が元気になるまでは、ここでお世話してもいい? もしかしたら、あの子には他に助けてくれるヒロ……家族がいるのかもしれないけれど」


「ああ、もちろんだ。……さあ、熱いうちに食え。食わないと働けねえぞ」


「うん!」


 ほとんど湯のような薄い粥を、なんとかスプーンでかき集めては口に入れる孫娘。その痩せた身体を見て、ダンは眉間に皺を寄せる。

 二人だけでもやっとの暮らしの中で、もう一人……しかも怪我人の面倒をみる余裕など本当はない。だが、一度預かった命に責任を持たなければいけないことは、ダン自身が一番よくわかっていた。──かつて、劣悪な孤児院に預けられていた幼い孫娘を引き取り、苦しい生活の中で育てていく覚悟を決めたように。


 ダンは肩を竦めると、孫の粥よりもさらに薄い粥を、噛み締めるようにして飲み込んだ。



 翌朝──

 一晩中ベッドの横で少年を看病していたジェナは、うとうとしかけていた目を物音でハッと覚ました。

 強い薬草を使ってからまだ半日も経っていないというのに、もう上半身を起こそうと奮闘する少年の姿に、驚きつつも感心する。


(すごい……あの薬草で手当てしたら、普通は怠くて一週間は起き上がれないというのに。さすがヒーロー。神聖力を秘めているからか、回復が早いわ)


 ジェナの視線に気付き、少年はピタリと動きを止める。彼の美しい青い瞳には、敵意でも恐れでもなく、ただ戸惑いが浮かんでいた。

 ジェナは少年を安心させるように、優しく話し掛ける。


「気分はどう? 傷、痛む?」


 すると少年は、掠れた声で「少し……」と答えた。


「特別な薬草を使ったから治りは早いと思うけど。無理すると傷口が開いちゃうから、まだ横になっていてね」


 素直に頷き、再び身体を横たえる少年に、ジェナはホッとする。


 少年の乾いた唇へ、水の入った吸い飲みを近付ければ、少しずつ……そのうちごくごくと飲み干してくれた。

 介助するジェナの視線は、自然と少年の痛々しい顔へ向かう。頬から顎にかけて、ざっくりと切れたその傷は、身体中のどの傷よりも、一番深く治りにくいだろうと、ダンと話していたからだ。


(顔に傷があるなんて、小説には書かれていなかった気がするけど……ヒロインが治癒魔法ですぐに治したからかな。ここでは薬でしか手当てできないし、ヒーローの顔に痕が残ってしまったらどうしよう)


 魔力も金もないモブの自分が拾ったせいで……と、罪悪感に苛まれるが、もう後戻りはできない。

 いつかヒロインに彼を託せる日が来るのだろうか。せめてその日まで、ヒロインのように心を込めて育てなければと覚悟を決めたのだった。


 いつの間にか空になっていた吸い飲みを、少年の口から慌てて離し、ジェナは微笑む。


「喉渇いていたでしょう。一晩中汗を掻いていたから、服を着替えた方がいいわ。ご飯は食べられそう?」


 それには答えず、少年は問い返す。


「……何で俺を助けたんだ?」


 思わぬ問いに、ジェナは一瞬きょとんとした後、彼を拾った時のことを思い出す。そしてこう答えた。


「わからないわ。気付いたら、あなたを背負って家に連れて帰って来てしまったの。あなたの意思も訊かず、勝手なことをしてごめんなさい」


 思わぬ答えに、今度は少年がきょとんとする。

 目の前にいるのは、どう見ても金持ちには見えない痩せた少女。治療費を請求されることは覚悟していても、まさか謝られるなどとは思わなかったのだ。

 だが少年は、ジェナの次の言葉に、警戒心を露にした。


「よかったら元気になるまで……ううん、新しいお家が見つかるまでここにいてね。私なんかじゃなくて、本当はもっとちゃんとした人が、あなたを助けてくれるはずだから」


「 “ 元気 ” に? ……はっ! そうだろうな。無理やりにでも元気にしないと、“ ちゃんとした人 ” に売り飛ばせないからな」


(売り……飛ばす??)


「そんな、そんなことしないわ!」


「腐りきったこんな国で、なんの見返りもなく他人を助けるヤツなんかいる訳ないだろ。どいつもこいつも、みんな人を物みたいに扱いやがって……いいぜ。お前、俺を元気にしてみろよ。元気になったら、真っ先にお前を殺してやる!」


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