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近づいてきたのは、君のほう。〜過保護すぎる幼馴染は溺愛中〜

困らせてくるのは、君のほう。

掲載日:2026/06/13

「近づいてきたのは、君のほう。―過保護すぎる幼馴染は溺愛中―」シリーズ第28弾です。(短編シリーズ)

王都防衛騎士団所属のノインと、村娘オルガ。

二人の人生に寄り添う形で進んでいく恋の物語を描いています。

※本編の時間軸は「認めてもらうのは、君のほう。」の後の話です。


 呆れた表情でノインがこっちを見る。


 腰に両手を当てて、オルガは胸を張った。


「……………………」


 無言で見つめてきて、濡れた髪を布で拭き始める。


「剣の手入れをさせてください……それから、大人しく座っててください」


 待ち構えていたオルガはムッとするものの、素直に居間の椅子に腰掛けて、剣の手入れを始めるノインを目で追う。


「今日だよね?」

「そうです」

「………………」


 そうだよね?


(なんでそんなにいつも通りなんだろ……)


「あ」


 ノインは剣を壁に戻すと、こちらに来る。


「忘れてました。先月の給料です」

「う、うん」


 慣れない……。


 布袋を受け取り、「うっ」とオルガがうめく。


(重い!)


 先月より重いんだけど!


(そ、そっか。先月は魔物討伐に行ってたから、その分の手当てが含まれるのかな……)


 低い椅子を引っ張り出して腰掛け、ノインは剣の手入れを始める。

 相変わらずお金に興味がない……。


 布袋の紐をほどき、おそるおそる、掌の上にコインを出したオルガは椅子から滑り落ちそうになった。


「ど、どっ、」


 ひいいいい!


(き、金貨がまた……!)


 先月より多い!


 オルガの掌におさまらず、テーブルの上に銀貨も落ちてしまう。


「ぎぇ……」


 全部で金貨が九枚!


(ぎ、銀貨も十五枚?)


 ほぼ金貨十枚!


 多い、と思いつつ、これがノインの命の価値なのかもと思うと複雑だった。


 雨の中に伝令に来た若い声と、呼び出したという副団長に対して、オルガはいい印象がない。


(模擬戦の時にノインに喋ってばっかりだった人だよね)


 ドレス一式を買ってやるとかなんとか。


 あの時は特になにも思いもしなかったが、今ではムカムカする相手だ。


(もしかして、姪と結婚すれば出世させてやるって言ってた人?)


 悪いことすべてを結びつけてしまうのはどうにかしたいが、知っている騎士が少ないので仕方ない。


(ふふん! でももうノインはちゃんと結婚したから縁談は持ち込めないもんね!)


 そう。つい二日ほど前に、正式にオルガは結婚した。


 結婚したのだ!


(フフフ。ひひひひ)


 にまにまと笑っていると、手入れを終えたノインが呆れたように見てくる。


「どうしてそんなに元気なんですか」

「もうちゃんと元気だからね」


 だよね!


「……はあ」


 なんで溜息つくの!?


「なんで!?」

「昨日あれだけキスしたのに、結局大人しく寝なかったじゃないですか」

「くく、くっついて寝ただけだよ!?」

「……はぁ、下手に戻ったのかと一瞬自分を疑いましたよ」


 んん? またぼそぼそ喋ってる。聞こえないんだってば!


「目が冴えちゃうんだって! ノインは仕事に行くけど、私は家の中にいるし……」

「……すみません。そうですよね、ストレス発散ができないですよね」

「え……そ、そうなのかな?」


 るんるんしながらノインの帰りを待ってたけど? ストレス?


(ん? まさかノイン、欲求不満でまた剣の練習してたわけじゃ……)


 やってそう!


(大丈夫だって言ったのに!)


「……なんで急に睨んでくるんですか」

「もういい!? 早く寝室行こう!」



 ベッド脇のサイドテーブルの上に、最初の時と同じようにずらっと物が置かれた。


 油と、軟膏。それに体を拭く時に使う薬草水と布。水差しもちゃんとある。


(最初の時もこんなにあったっけ?)


「ぼんやり見てないで座ってください」

「…………うん」


 ベッドの端に腰掛けると、ノインが視線を合わせるように屈んだ。


(わあ……。かっこいいから、なんか騎士がお姫様の前で屈んでるようにみえるな……)


「最終確認をします」

「? う、うん」


 あれ?


 照れていたオルガは瞬きをし、目の前のノインを見る。


「ヒリヒリする感覚はまだありますか?」

「え? な、ないよ?」

「歩いたり座ったりして、違和感は?」

「な、ない」

「排泄時に痛みは?」


 えええ!?


「な、ない……」

「出血はありますか?」

「ないよ」

「触って痛い場所は?」

「ないよ!」

「あと」

「うん?」

「腫れが引いたか確認します」

「ええええええ!?」


 膝がしらに両手を置かれ、いきなり左右にぐいっと開かされる。


「だっ、大丈夫だって!」

「少しでも腫れてたら今日はやめます」


 えっ。


(やめる!? 嘘でしょ!)


 オルガは脚に力を込めて、閉じようとする。


「オルガ」

「だいっ、じょうぶだって!」


 ノインが手に力を入れるので、オルガがその上から手を置いて阻止しようとした。


(うううう、さすが力つよ……!)


「どうして抵抗するんですか」

「するよ!」


 つっよ!


(負けるもんか……!)


「もう平気だって! 何回も言ってるでしょ! ううっ、昨日の夜だって確認するって言って見てたじゃない!」


 ものすごい考えてたけど……。


「どうせあとで確認する、で、でしょ!」

「先に確認したほうが安全です」

「いいって! 言って……る!」


 なんでこうなるの!?


(私は、ただ)


 ただ、あの時みたいに。


(胸いっぱいに、幸せを感じたいだけなのに……!)


 もしかして。


 涙が滲む。


(私だけだったってこと? 同じ気持ちだと思ってたのに)


 ぴた、とノインが動きを止め、慌てた。


「な、泣かないでください」

「泣いてない」

「泣いてます……」


 ノインが手を離す。


「もうしませんから」

「…………したくないの」

「ん?」


 小さすぎたその声は、届かなかったみたいだ。


 落ち込んだオルガが、涙を堪えようと俯く。


「ノインは、私としたくないの」

「……………………………………………………は?」

「私は最後までできて、幸せだったのに……」


 したくないんだ……。幸せじゃなかったんだ……。


「ちょっ……! したいに決まってます!」

「………………」

「でも、俺の快楽より、君の体のほうが大切なんです」


 かいらく?


「?」


 そっと顔を上げると、心配そうにノインがうかがっていた。


「あれだけ準備したのに、痛そうでしたから」

「???」


 なんのこと?


「俺のがちょっと、少し他の人より大きいのは自覚していたので……かなりゆっくりと、丁寧にしたんですけど……」


 大きい?


(?? もしかして、おなかを圧迫してたもの? そういえばあれはなんだったんだろ……)


 そこでノインが徐々に、顔を赤らめていく。


「その、俺も、初めてなので……耐えるのが、頑張りましたけど……いえ、最後まで耐えました。一切乱暴にしませんでしたし、優しくできていたはずです。でも」

「でも……?」

「君が涙を浮かべていたので、やはり痛いのかと……。それに、腫れてしまいましたし」

「…………」


 なんの話???


「ここ数日、君の歩き方とか、下腹部を庇わないかとか、心配で見ていたんですけど……ずっと元気なので」


 あ。落ち込んだ。


「いつもにこにこしてますし、にやにやしたり、いきなりなにか考えて落ち込んだり、すぐに浮上したり」


 ひええ……!


「そそ、それは! う、嬉しかったって言ったよね!?」

「? 俺が応じたことが嬉しかった、んですよね」


 ち、ちがう!


「幸せだったんだよ!」

「はい。俺が君の言葉に応じたから」

「違うって!」


 ホントにわかってない顔してる!


 オルガはガーンとショックを受けた。


「……君は機嫌が良かったですけど、練習したことがなかったからうまくいかないのは当然ですし…………未熟者だな、俺は」


 最後のほう、声が小さくて聞こえない……。


「痛いのを我慢させてしまって、すみません」

「…………ええ?」


 なんで謝るの!?


 ど、どうしよう。


「え、えっと……お、驚いて泣いてたっていうか……」

「……おどろく?」

「混乱したっていうか……。

 な、なんかよくわからないものが圧迫してくるし、こう、動かれると違和感がすごかったし、それに」


 それに。


「ノインがずっと心配そうに、大丈夫ですか? とか、痛くないですか? って何回も訊いてくるから途中で怒ったでしょ?」

「……まあ、大丈夫だって言ってる、と怒られましたけど……」


 声ちっちゃ!


「と、とにかく、今まで経験したことない感覚がしてて、びっくりしたんだよ!」

「??」


 うう、うまく説明できない……!


「も、もう一度やってみたらわかるでしょ!」

「でも……」


 ああもう!


(変なところで弱気なんだから!)


 オルガはノインの両肩に手を置いた。


「?」

「ノイン」

「は、はい」

「夫婦最初の、共同作業だよ!」

「……わ、わかりました」



(うん……そう、そうそう、こんな感じだった)


 前の時のような混乱は起きていない。

 呼吸も、落ち着いてる。


(前はびっくりしたけど……危険じゃないってわかると、まぁ)


 ただ。


(気になってるんだけど、これ、なんなんだろう)


 指じゃないのは確かだけど。


(見てもいいかな)


 天井に向けていた視線を下げて、瞬きを一度。


「……泣いてません、ね」


 小さくそう洩らす、ノインと目が合う。


 覗き込んでいる薄桃の瞳が、安心したように柔らかくなった。


「動きますよ、オルガ」


 …………うごく?


「動くって……なにが?」


 前屈みになっているノインの瞳が見開かれる。


 少しだけ、指を絡めて握り込まられた手に、力が入った。


 言葉を詰まらせて、ノインがゆるく、口を開閉させる。


「い、ま」

「?」

「今、入っている……状態の、まま……前後に、そ、その、少し、動かします」

「??」


 なんで?


 ぐぐ、と握る手に力が入る。


 ノインの眉間に皺が寄って、荒い息を吐かれる。


「し、刺激が、……ふ、増え、ま……す」


 なんか、苦しそうなんだけど。


「い、違和感が、あれ、ば、す……すぐっ、い、言ってく……くださ、い」


 微笑もうとしてるけど……ぎこちない。


 なんで途切れ途切れに言うの?


(まあいいか。その動く、ってのはいいけど)


 それより気になることがある。


「……それよりさ」

「?」

「この入ってるの、なに?」


 完全に固まっちゃった。


 繋がれてる手に、さらに力がこもった。


「え、っと」

「…………」


 このよくわからないものの正体がわかる……!


 期待の眼差しで見つめると、ノインが視線を逸らした。


「こ、これ、は」


 うんうん。


「お、俺の……」


 俺の?


「か」


 か?


「身体の…………一部です」

「???」


 からだの、一部?


 えっ。


 オルガは焦ってノインをうかがう。


「ノインは大丈夫? 痛くない?」


 辛そうだし、絶対痛いよね!?


 ぎり、とノインが歯を軋ませる。


「……いたく、は……な、ない、です」

「でもっ、呼吸がどんどん浅くなってるし、も、もうやめたほうが……入ったんだから、終わったんだよね?」

「っ、……い、いえ、おわ、終わっては……」


 終わってないの!?


「ぅっ、……力を、入れないでくださ……い」

「ええっ!?」


 力!?


(そんなの入れてないんだけど……)


「よくわからないけど、苦しいならやめていいよ? からだの? いちぶ? って指とかじゃないん、だよね?」


 くるしいっていうのが、さらに意味がわからないけど。


 心配していると、ノインの視線がこちらに戻る。


「だ」

「だ?」

「男性の」


 ふんふん。


「構造上の……もの、なので」

「?」


 あ、また視線を逸らした。


「君にはなく、て…………」

「??」

「君の兄には、ある……ものです」


 はあ?


(いやさっぱりわからないんだけど)


 うーん……こんな時なのに。


(ノインの目って、やっぱり綺麗な色だなぁ)


 近いからよくわかる。


「あの」

「ん?」

「あ、あとで……説明しますから…………動いていいですか」

「………………わかった」


 うん、と小さく頷くと、ノインが微かに苦笑する。


 うご……。


(……あぁ、これ……そういえば、最初の時もこんな感じだったっけ……)


 …………………………………………。


 ま、またノインの好き好きが始まっちゃった……。

 …………照れるんだけど。


(まあ)


 嫌ではないな。やっぱり。


 それにここは、いつもしていた「練習」の後になる部分で。

 ノインの言ってた、「最後まで」の部分。


 前は知らないことばかりで戸惑ってばかりだったけど。


 あ。


(揺れるの……終わった。……脚閉じていいかな……腰、ちょっと痛いかも…………ノイン重い……)


 なんかぐったりしてる……?


(息荒いけど、大丈夫かな)



「さっきのは」

「うん」


 さっきの、正体……。


(指ではない……それで、ノインの身体の一部……痛くて苦しい……)


 ごくりと、喉を鳴らす。


 ノインが困ったように目を細めた。


「……目を輝かせる場面ではないです」

「そ、そうかな?」

「…………あの」


 ずいぶんと、言い難そうだけど。


 真剣な表情を作って待っていると。


 思案するように視線をさ迷わせていたノインが、小さく耳打ちしてくる。


 ナイショ話みたいだなと聞いていた……けど。


「………………」


 みるみる顔を赤くして、オルガは少し体を引いた。


「へええええっっっ!!!!!?!?!?」


 素っ頓狂な悲鳴を、あげてしまった。


「……ほ、ホント……?」


 尋ねに、ノインがちょっと困ったように微笑む。


 ノインは、嘘をつかない。


 色んなことが、合致する。


 オルガは両手で顔を隠した。


「わああああああ! ごめんっ!」


 もの知らず過ぎる!


「体を拭かせてもらっていいですか?」

「ううううううう!」


 羞恥で頭がいっぱいで、ノインの声が入ってこない。


(ノインの言ってた『気持ちいい』って……物理的な感想だったってこと!?)


 えええええ!?


(確かに、どうだった? って私、訊いてた……)


 どうだった? じゃないよ!


(ああああ! 恥ずかしいぃ!)


「拭き終えましたよ。少し見させてくださいね」


(ひいいいいいい! はっ、植物の……つまり受粉みたいなことってこと!?)


「……前ほど腫れてませんね、良かった。軟膏を塗っておきますから大人しくしててください」


(いやでもそれって、たしかに? りんごだって、実をつけるには受粉は必要……!)


 だけど。


(確かにこんなこと口には出せないよ!)


 だれも話をしない意味がわかって、ゆっくりと手をどけた。


 ランプの頼りない火に照らされる天井が、見えた。


「終わりましたよ。風邪を引きますから肌着を着せますね。どこか痛いところとかありますか?」

「んえ……?」


 終わった? なにが……?


 薬草水のほのかな香りにハッとして、オルガはぷるぷる震えながらノインを見た。


「いたい……」

「えっ!? ど、どこが痛いんですか?」

「恥ずかし過ぎて、胸がいたいぃ……」


 声がへなへなになった。


 なに言ってるのかよくわからないけど。


 屈んで見てきているノインにしがみつく。


 正体を先に聞いていたら、もっと警戒したはず。だから。


 でも、だけど。


(先に言ってよ、もおおおおおおお!)


ここまで読んでくださってありがとうございます。

楽しんでいただけたら嬉しいです。

続きを読みたいと思っていただけたら、さらに嬉しいです。

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