『柿色のプレスマン』
掲載日:2026/03/13
あるところに、奥さんと下女があった。この家の井戸端には柿の木があって、数え切れないほどの実がなっていた。下女は柿の木を見上げるたびに、どうにかして食べたいものだと思っていたが、奥さんに、はしたないと思われるのも嫌だし、そもそも、下女の背が届くところには、一つもなっていなかった。ある晩、表の扉をたたく音がするので、下女が応対すると、ここを開けろという男の声がする。こんな夜中に誰だかわからない人に言われても、開けられない、と断ると、いいから開けろ、と言う。よくないから開けられない、と断ると、よくなくても開けろ、と言う。だから誰なのか、と尋ねると、急に小さい声になって聞き取れない。下女は、もう、面倒になって、引き戸を開けると、大きな柿色のプレスマンが立っていた。プレスマンが、俺をなめろ、と言うので、そんな変なことはできないと思ったが、だまされたと思ってなめろ、と言うので、だまされるのは嫌だ、と断ると、悲しそうにくねくねしたので、仕方なくなめてやった。かすかに芯の味がした。
教訓:柿色のプレスマンだから、柿の味がすることを期待したが、当然の結果だった。




