『円安都市の僕』
円は価値を失い、経済は数字に支配される。
人間が経済の中で自由を保てるのか――それを見つめる僕の記録である。
これは、まだ誰も抗えない世界の小さな抵抗の物語。
僕の名前は藤原レン(27)。
普通の会社員だったはずが、気づけば日本の経済が僕の生活を支配するようになっていた。
ある日、いつものコンビニで買い物をしていたときのことだ。
「え、これ…こんなに高かったっけ?」
500円だった弁当が、なぜか650円になっていた。
店員も申し訳なさそうに、ただ「値上げです」とだけ告げた。
家に帰り、スマホを開く。
ニュース速報が飛び込んでくる。
【政府発表】円相場、一時140円突破。物価上昇率5%超。
僕は息をのんだ。140円!?
3年前までは120円だったはずだ。
しかも、この円安の影響で電気・ガス・食料品が軒並み値上がり。給料は上がらないまま、生活費だけが膨れ上がっていく。
会社に出社すると、同僚たちは疲れ切った顔でスマホを眺めている。
「また円安が進むらしいな」
「次は150円突破って噂もあるらしいぞ」
僕はふと考えた。
もし、このまま円安が進み続けたら、僕たちはどうなるのか──。
その夜、寝付けずに経済ニュースを調べていたら、ある記事に目が止まった。
【未来予測】2030年、日本は「デジタル円」を導入。現金流通量は半減し、経済はAI管理下に。
僕は心の中で呟いた。
「デジタル円…AIに監視された経済?」
翌朝、会社に行くとニュースキャスターの声が流れていた。
「政府は来月よりデジタル円の実証実験を開始します」
同僚たちは笑った。
「またいつもの噂だろ」
だが、僕には分かった。これはもう噂ではない。現実になる。
しかも、僕たちが気づかないうちに、経済の自由は少しずつ奪われていくのだ。
昼休み、僕は同僚のカフェ代を払おうとした。
スマホでデジタルウォレットを開くと、残高が妙に少ない。
取引履歴を確認すると、知らない支出が記録されていた。
「え…これ…」
デジタル円の仕組みを理解する前に、僕たちはもう管理されていた。
政府も企業も、誰も文句を言わない。AIがすべて計算し、決定しているのだ。
僕は心の中で決意した。
「この経済の流れに抗わないと、僕たちはただの数字になってしまう」
しかし、どう抗うのか──。
給料も、支出も、すべてAIが計算する世界で、僕の手には何も残されていなかった。
夜、自宅の窓から東京の街を眺める。
ネオンは煌めき、車は走り、経済は動き続ける。
でも、その動きはもう僕たち人間の意思ではない。
僕は静かに呟いた。
「誰もが数字になっていく…それでも、僕はまだ、人間でありたい」
その夜、僕は一つの決意を胸に抱いた。
来月のデジタル円実証開始。
僕はこの世界で、自分の自由を取り戻すための小さな抵抗を始める――。
デジタル円の影響下で僕たちは管理される存在になる。
でも、自由を諦める必要はない。
一人の抵抗は微力かもしれないが、それを積み重ねることで、数字ではない人間らしい未来が生まれる――僕はそう信じている。




