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人類を見守っている精霊っぽい何か(自称)  作者: たまごかけキャンディー


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第6話


「えい!」


 プスッ!


「えいえいえい!」


 プスプスプス!


 こちら死の大地を飛び出した元氷の精霊さん。

 ただいま絶賛スライム退治を行っております。


 ぷるぷると震えるゼリーなボディに木の枝を突き刺して、えいえいとスライムコアを抉り出す。

 今日も大漁だあ~、と周囲の残骸スライム達を見渡して、どうしてこうなったのか、これまでの経過を思い出すように流してもいない汗を拭ったのだった。


 ◇


 頑張って建設した氷の宮殿に訪れた勇者に味方するため、床から生えたアイスソードを託してからしばらく。

 しばらくといっても夏の間は一か月ほど歌って踊っていたから、だいたい秋が訪れたくらいの紅葉の季節にて。


 ニンゲンの世界を目指して飛び出した気ままな精霊さんは、山を駆け森を抜けその辺をうろつき周り、ついに人工的に作られただろう小さな道を見つけた。

 ちなみにここまで氷の宮殿を飛び出してから、さらに半月はかかったよ。

 がんばった、がんばったよ精霊さん。

 ニンゲンの集落がどこにあるかなんて皆目見当もつかないから、時に走りつつ、時に浮きつつ探し回ったんだ。


 きっと誰かにこのことを話せば、いやいや、なにやってんだこのポンコツと思われるかもしれないけど、それはとんでもない勘違いです。


 精霊さんがそんなポンコツな訳がありません、本当です、断言します。

 それはもう、簡単に言ってるけどここまで本当に大変だったのよ。


 まず死の大地を囲むような山の頂にはでっかいドラゴンがいた。

 尻尾を入れれば体長百五十メートル以上はありそうな体躯は、それこそ寝返りを打つだけでも重量兵器になり得る特大のバケモノだ。

 その辺の生き物なんてペシャンコだよ、普通は。


 山に登って一番最初に遭遇したのがこれだよ?

 いったいこの世界はどうなっているのよ、もお~。


 そのドラゴンがあまりにも大きいからか、周辺にいた眷属っぽいドラゴンや野生の獣は縮こまっておどおどしていたからね。

 獣と言ってもこの前のニンゲンくらいは丸飲みできそうな、大したエネルギーを内包していたので、きっとあれは魔物とかそういう生き物なのだろう。


 ただ、そんな眷属竜や魔物がビビって縮こまるくらいの王者がその百五十メートル級のドラゴンなわけで。

 きっとこいつはここら一帯の山を治める竜の王様なんだ、そうに違いないと私は考えた。


 なのでまず、戦うという選択肢は無くなった。

 いくら私が無敵の精霊さんとはいえ、こんな見るからに己は竜の頂点ですなんて空気を醸し出している相手に、喧嘩を売るなんてことはできないから。

 サイズを考えようよ、サイズを。

 もしガチンコバトルになったら、もう魔法の先制攻撃で爆殺する以外に道は無いよ。

 だから竜王様が目を覚まさないように、お昼寝を刺激せずそーっとやり過ごそうとしたんだけど、私が幽体の状態でふよふよ頭上を飛んでいくとなぜか見つかっちゃったんだよね。


 すると竜王様は閉じていた目をパチリと開き、こう言ったんだ。


「……この近辺に生きる眷属竜から、とんでもない力を内包したバケモノが生まれたと報告を受けたが、お前がソレか。なるほど、確かにこれはとんでもない。お前がその気になれば私などひと捻りだろう。老体に鞭打ち、重い腰を上げここまで来た甲斐があったというものだよ。長生きはしてみるものだ」


 とかなんとか、明らかに実体が無いはずの私を視界に捉えて喋りかけてきた。

 正直、いえいえあなたの方がバケモノです、怪獣映画の主役です。

 空飛ぶ巨大な亀怪獣や三つ首の黄金ドラゴン、あと放射能で進化したゴリラとクジラの融合怪獣と大決戦していてくださいと思ったのは内緒。


 心の中ではちょっぴり挙動不審になりながらも、表面上は努めて冷静に、知的な私は余裕のある言葉を返す。


「あっ、あっ、……どもっス」


 ……。

 …………。

 し、しまったぁ!

 物理的に声を出せない幽体の状態で喋るのに慣れていなかったから、本音が心からポロっと出てしまった!


 これはもう不可抗力だよ。

 絶対にそう。

 だって幽体で喋ると声が出せないから、心で思ったことがテレパシーみたいに伝わっちゃうなんて思わないじゃん。

 この状態で誰かに向けて喋ったことなんて無かったから、練習不足でついヒューマンエラーを起こしてしまったね。


 あ、私は精霊だから精霊エラーかな?

 うん、そこはどうでもいいね。

 でも大丈夫、次はこんなミスはしない。

 精霊さんは同じ失敗を繰り返さないんだよ。


「うむ。丁寧な挨拶痛み入る。これだけの力を持つ存在だ、どれほど手に負えぬ相手なのかと警戒しておったが、気の良いお嬢さんではないか。はっはっは!」

「えへへ。そうかな?」


 どうやら幽体で行うテレパシーには相手へ「知的で丁寧な挨拶を心がける」意識そのものが伝わるようで、ポロっとこぼれた失敗は無かったことになったようだ。

 まあ、たとえ失敗した挨拶が聞こえていたとしても、この竜王様は気にも留めなかっただろうけどね。

 朗らかに笑う声色からは、そういった生き物としての器の大きさ、長い時を積み重ねて生まれる大人の余裕が窺える。

 いやー、尊敬しちゃうなー。

 私は知的で賢い精霊さんだけど、まだまだ生まれたばかりだからね。

 この長生きした存在特有の貫禄は出せないよ。


「そうだとも。もしお前がこの世界の災いとなるようであれば、この老体も最後の力を振り絞ってなけなしの抵抗をしたが……。どうやらその必要もないようで安心した。どれ、私と一緒に昼寝でもせんか? せっかくこの山に移住してきたのだ、ざっと十年くらいは寝て居たいのう」

「ううん。私はこれからニンゲンの世界に遊びに行くから、それはまた今度ね。ところで街ってどの方向にあるか知ってる?」

「ほほう! 人間の街か。あれは確か百年ほど前に勇者の……」


 そこから竜王様ならぬ、お年寄りの長い長い昔話が続いた。

 人間の街ではこんなことがあったとか、聖剣に選ばれ精霊に認められた勇者の話とか、もっと昔には迷惑系MeTuberならぬ魔王が暴れまわっていたとか、そういう話だ。

 ざっと昼夜問わず十日は続いたかな?

 そうして昔を懐かしむように語り終えると、思い出したかのように街のことを教えられた。

 ただ示されたのは大まかな方向だけで、それも大昔そこに街があったというだけの話だから、過信はできないらしい。


 最寄りの街ではなく、もっと遠い場所なら確実に知っている街がいくつもあるらしいんだけど、さすがに遠回りする理由は私にはない。


 そんなこんなで情報を得た私はいつの間にか竜王様とはマブダチになり、ついに再出発する時がやったきたのだった。


「うむ。実に楽しく、気持ちの良い時間だった」

「私もだよドラちゃん。でももう行かなきゃ」

「うむ、うむ。レイちゃんも達者でな。またいずれどこかで会うこともあろう」


 楽しいおしゃべりも終えて別れる頃には、私は竜王様にドラちゃんと、竜王様は私にレイちゃんと名付けていた。

 ドラちゃんはそのまんまドラゴンの王様だからドラちゃんなんだけど、レイちゃんは幽霊の霊から取った名前なんだって。

 そこは精霊の霊じゃないの、って聞いたんだけど。


「お前がその辺の精霊なら、精霊などミジンコ以下だぞ」


 と脅されてしまった。

 でも、だったら私は何なんだろうと考えても結論がでなかったので、とりあえずの身分を示すものとして精霊を名乗ることは継続していいらしい。

 そこらへんは私に親身になってくれているドラちゃんのアイディアで、正体不明な謎の強者をやるよりはニンゲン受けがいいだろうとのことだった。


 だから私はこれからも精霊だ。

 知的で匠な美少女精霊、レイちゃんである。


 そうしてさらに旅は続き、あーでもない、こーでもないと道を探し森を彷徨い、ついに人工の道を見つけたのであった。

 私のニンゲン交流はここから始まるのねと、幽体ボディをふわふわと浮かせて、はたと思い出す。

 そういえばニンゲンと交流するためにはお金が必要だったのではないかと。


 そうして、冒頭のスライム退治へと話が繋がるのであった。


「えいやっ」


 プス。


「えいっ。えいえいっ」


 プスッ、プスプス。


「うーん、大漁! これだけスライムのコアがあればニンゲン達と交流できそうかな? きっと大丈夫でしょ!」


 ドラちゃんからは魔物の心臓部には魔石とよばれるコアがあると聞いていたし、ニンゲン達はそれを財産に替えているという。

 だから、きっとこれだけあればもう十分なはずだ。

 既に指の先くらいの大きさの魔石が両手で抱えるほどに集まり、運ぶのにも苦労しそうな勢い。


 私はそのへんの草木を捻ってロープにしつつ、魔法で作った小型の石壺を背負っているから問題ないけどね。

 背負ったままの状態だと幽体になれないから少し不便だけど、道があるからには集落までは目と鼻の先のはず。


 そうこうして私はウキウキな気分で歩みを進め、しばらくしてようやくニンゲン達の集落へと辿り着くのであった。



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― 新着の感想 ―
スライムって言葉に騙されちゃダメだよどうせ強いやつなんだ
 親切なドラゴンお爺さんでよかった。…人間からしてみたら、精霊の守護竜扱いかもだが(笑)
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