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第4話


 二か月の時間を趣味に費やして誕生したこのアイスキャッスルに、ついさっき生き物がやってきた。

 生き物はおそらく、ほんのり残った日本人の知識ではニンゲンと呼ばれる覇権種族だ。

 記憶によると私も元ニンゲンだったらしいから、なんだか愛着がわくよ。


 こう、なんというか。

 ニンゲンという種族への愛着、愛情っていうのかな。

 犬や猫を愛でるのに近いけど、かといってペット扱いして彼らの尊厳を傷つける気もない。

 表現が難しいね。

 でもいいんだ、私はやりたいことをやる精霊さんだから。

 ニンゲンを実際に見て、気に入ったという事実が分かればそれでヨシ!


 そもそもここでやることも、もう特に残ってないんだ。

 アイスキャッスルこと氷の宮殿は完成したし、周りは水没しちゃって生き物もいない。

 なら次の目的は、ニンゲン達の観察かそれにまつわることにするのがいいと思う。


 それにニンゲンの世界には海があったり、川があったり、魚が居たりするんだよ。

 この水没した死の大地にもお魚さんを移住させれば、それはとても楽しい命の楽園だ。

 次の趣味として定めるには、条件達成までそこそこ大変でほど良く楽しめることだろう。


 うん、やはりニンゲンは偉大だ。

 ちょっと彼らにまつわることを考えるだけで、次々に新しい趣味が思い浮かぶ。

 さすが前世では世界の覇権種族であり上位者だっただけのことはあるね!

 見直したよ!


「き、傷が治っていく……」

「うお、すげぇ! 気持ち悪りぃくらいの速度で回復してやがる。俺は正直もうダメかと思ってたんだぜリーダー」

「それは俺もだ。というかこの速度で回復している俺自身が一番驚いている」


 うんうん。

 どういう経緯があったかは分からないけど、血まみれだったもんね。

 腕なんて複雑に骨が折れているのか、曲がってはいけない方向にぐにゃぐにゃだったし。

 きっと何か、ものすごい衝撃がリーダーと呼ばれるニンゲンさんに襲い掛かったのだろう。


 でも大丈夫!

 精霊さんの魔法は万能だよ。

 たとえ小さな光の粒でも、ものの十秒ほどで完全に元通り。

 それにリーダーほどじゃないけど、大なり小なり他のメンバーも傷を負ったり、くたびれて疲労困憊だったりしているんだ。


 もっと遠慮なく回復していっていいよ?

 私の知性をアピールするために、光の粒くんは演出用としてたくさん配置したからね!

 ほらほら、そこの同じ服を着た兵隊っぽい人たちもどう?

 いまなら光の粒くんのバーゲンセール中だよ。


「なんと、もしやこれは神術、奇跡の類か? この光の粒からは人類や魔物のような、生命力を持つ者特有の魔力を感じない……。もっと別の、強大な何かだ」

「それこそ、精霊魔法というやつじゃないのか?」

「精霊魔法か、確かにあり得る。しかしこのように人前へ姿を現す氷の精霊など聞いたこともないぞ。二か月前の天変地異といい、何か災いの前兆か? このことはルドガン閣下に必ずお知らせしなければ……」


 玉座に腰掛け上から目線でパフォーマンスを繰り返す私に対し、目の前で跪くようにしてニンゲンたちが慄く。

 私はまだ生まれたての新米精霊さんで、あんまりおしゃべりが得意じゃないから黙って見てたんだけど、目線だけで何かを察したニンゲンさんは色々と推測を重ねながら話を飛躍させているようだ。


 話している内容はニンゲン達の情報が少なすぎて分からないことが多いけど、とりあえず災いの前兆らしきものを感じ取っているみたい。

 ならここは、ニンゲンに味方する正義の精霊さんとして、手助けをしてあげなきゃね。


 私は好きな相手にはとことん甘い精霊さんなんだ。

 もし災いが起きるなら、きっと対抗するための武器があったほうがいい。


 いろいろと頭の中で武器の設定を巡らせ、あーでもない、こーでもないと練り込んでいく。

 そして思い付いた。

 そういえばニンゲン達がここに来たときに、勇者達として歓迎していたことを。


 それなら、勇者には剣が一番似合うよね。

 ちょうど氷の創造技術もアイスキャッスルで十分に磨いたことだし、同じ素材で作った氷の剣をプレゼントしようと思う。


 そう考えた私は、おもむろに手をかざし氷の床に魔力を流す。

 すると床は精霊さんの持つ膨大なエネルギーで淡く輝きつつも、徐々に形が崩れていき光が氷の剣へと姿を変えていった。


 名付けて、アイスソードといったところだね。

 いつものように、名は体を表す勢いでそのまんまだ。

 でも魔力はふんだんに込められているからね、とても頑丈なはずだよ。


 それに持ち主の意思に反応して、アイスソードの魔力が自動で氷のバリアと氷のカッターを放つ。

 ね、ね、すごいでしょ?

 すごいと思うんだよな~。


 そしてこの一部始終を見ていたニンゲンたちは目を見開いて驚き、その剣は何事なのかと沈黙した。

 ……この剣はね、君たちにあげるものだよ!


「そ、それはいったい……」

「世界を混沌に陥れる災厄が近い中、この果ての地まで訪れた勇者への支援だ。受け取るが良い」

「さ、災厄ですと! それは誠ですか! もしやそれは魔王の出現と関係が……?」

「うむ」

「ば、バカな……。いや、そうではないな。かつて魔王が封印されてからもう三百年。いつ封印が解かれても不思議ではない、か……」


 どうやら兵隊さんのお話によると、近々封印されし魔王とかいう迷惑キャラが出現するらしい。

 どこにでもいるよね、他人に迷惑をかけて目立ちたがるニンゲンって。

 迷惑系MeTuberっていうんだっけ。

 前世の記憶によると、そういうのが居たんだよ。

 魔王というのも、きっと同類なんだ。


 だけど迷惑系の出現というニュースは兵隊さん達には刺激が強かったらしく、考え込むように俯いてしまった。

 仕方がないから次の候補として、いまさっき回復を終えたばかりのニンゲンにアイスソードを託す。


 この剣でぶったぎっちゃいなよ。

 切れ味は精霊さんが保証するよん。


「そなたにこの剣を託す。うまく使うと良い」

「お、俺がこの剣を……。しかし、俺はこの調査隊を油断によって危険に晒している。受け取る資格が……」

「ば、馬鹿かよリーダーっ! 氷の精霊があんたの力を、俺達を守り切った覚悟を認めたんだよ! つべこべ言ってんじゃねぇっ」


 リーダーと呼ばれる人と、その仲間達がわいわい騒ぎだす。

 特に、回復するずっと前からリーダーに声をかけて意識を繋ごうとしていた、すばしっこそうな人の叱咤が宮殿内に強く響く。

 うーん、このニンゲンさんは冒険系ゲームとかの役割でいうところの、斥候とかなのかな。

 とりあえず斥候と定義したニンゲンさんは、どうやらリーダーの人に心酔しているらしい。

 表向きの口調は荒々しいけど、一人のニンゲンとして、この集団を預かるリーダーとして認めると彼の目が物語っていた。


 いいねいいね、男の熱い友情ってやつだね。

 私はそういうの、とっても好きだよ。


 その後、使い方をちょちょっと説明しつつ、ようやく受け取る決心がついたリーダーの人はアイスソードを手に取り、彼らは宮殿を去っていった。

 途中、魔王という迷惑系について詳しいことを知らないかと聞かれたが、迷惑系MeTuberだってその種類は千差万別だ。


 だから私に詳しい情報はないし、むしろ迷惑系について聞きたいのはこちらのほうだったりする。

 だからうまく精霊さんのパフォーマンスで誤魔化しつつも、それっぽい匂わせだけして追い出した。


 最後に名前はなんというと聞かれたので、ここは正直にニンゲンに語るような名を持ち合わせていないことを告白。

 ただ、ニンゲンさんたちのおかげでアダムと雪の女王ごっこが楽しめたので、いつかまたやるよ~とは言っておいた。


 本人達はアダムと雪の女王ごっこがなんなのか、とか色々議論していたみたいだけど、辺境伯という責任者に報告するみたいだからぜひそこで答えを出してほしい。

 きっと答えはでないだろうけどね。


「ラララ~」


 そんなこんなで毎日歌って踊って、さらに一か月が経った頃。

 私は死の大地と呼ばれるこの土地に飽き、ついにニンゲンの世界へと進出することを決めた。



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