第39話
つい先日、精霊界のチャンピオンを目指すと決めた私だけど、頂点を勝ち取るためにもまずは環境の整備から始めなければならないことに気がついた。
いくら賢く優しい精霊さんとて、日々切磋琢磨している精霊界のみんなを出し抜いて、いきなりチャンピオンになることはできないからね。
まずは死の大地を水と生き物に溢れた自然豊かな世界にしてから、その功績を以て精霊王さんに功績バトルを挑むつもりなんだよ。
私はまだ会ったことはないけど、きっと精霊王さんも日々精進していて常に功績を積み重ねているはず。
そうしてちょっとずつニンゲンさんや世界にその名が知れ渡っていって、名実共に精霊王だなんていう王様になったんだろう。
だったら私もそれに倣って、まずは話題の精霊ランキング堂々の一位になるところから始めようと思う。
なのでそう思い立った私は、お魚ランドも今のままではまだまだ足りないものがあるのだと感じて、さらなる飛躍のため新たな移住者を探しに帝国の田舎町までやってきているんだ。
もう王国では大魔亀の姫様やカメ吉くんを勧誘してきているからね。
ここは一つの国だけを贔屓して集中するのではなく、お魚ランドとしてはもっとグローバルに展開していくべきだと思うんだ。
そうこうして数日。
どうにも新しい移住者が見つからないな~と、ふらふらと辺りを漂いつつ帝国を彷徨っていると、いろいろな噂を、いろんな街から仕入れることができた。
大きな噂で言えばとても大きな都市である帝都というところで仕入れた話が有力だね。
なんでも帝国の王様に食客として囲われている精霊剣の勇者が、帝都に潜んでいた魔族を一掃した、とか。
急に精霊剣の勇者が台頭してきたことにより、潜み隠れられなくなった魔族達が帝都から逃げ出しはじめているとか。
そういう噂だよ。
また、逃げだしたという魔族さんのグループを探しだし、後ろからふよふよ付きまとって追尾したりもした。
すると、幽体状態の精霊さんに気づかない魔族さん達がポロっと、他では話せない魔族界隈の機密情報を漏らしているのが聞こえたんだ。
「くそっ! もう帝都の同胞で残っているのは俺らだけか……!」
「そうなの?」
「ああ、そうなんだよっ! 一か月ほど前に陛下が復活したのは感じ取れたが、これではあまりにも……」
もう潜んでいた同胞が残り少ないと言うのでこっそり魔族さんを装って聞いてみると、どうやらこのグループのみんなが帝都魔族達の全てらしく、ついでにいつの間にか魔王さんが復活していることが明らかになった。
ただ、せっかく魔族さん達の王様である魔王さんが復活したというのに、彼らの表情はとても暗い。
本来なら自分達の王様が復活すればみんなも嬉しいはずなのに、これだけ落ち込んでいるということは何か特別暗いニュースがあったんだね。
もしかすると何か重い病気を抱えているとか、大怪我をしたとか、そういうことなのかな?
もしそうなら、一度魔王さんはお魚ランドに遊びに来て欲しいから、情報を収集しておきたいところだ。
「なんでだろうね?」
「勇者だよ。あの突如現れた第二の勇者共と加護を与えた氷精霊のせいで、陛下が不完全な復活を遂げてしまったんだっ! 明らかに絶望魔力の量も質も足りていない……!」
ほほう!
絶望魔力の量と質とな。
なんでも魔王さんの話題で盛り上がっている魔族さん達によると、魔王さんは他者の絶望やストレスといった負の魔力を全盛期まで吸収しきれていないらしく、まだ不完全な状態で復活してしまったんだとか。
もし世界中の負の魔力を吸収して復活できていたのなら、魔王さんの影響を強く受ける魔族さん達にも強化魔力が行き届き、こうして帝都の勇者などに後れをとることもなかったんだって。
不完全な状態で復活した現在は、なぜか徐々に絶望魔力というのを回復していっているみたいだけど、それでもまだまだ全盛期には程遠いらしい。
へえ~。
なるほどねー、と。
まさか斥候としても実力派である精霊さんが近くで聞き込みをしているとも知らず、次々に機密情報を漏らす魔族さん達は、あーでもない、こーでもない、と議論を紛糾させる。
それにしても絶望魔力かぁ……。
それってもしかしなくても、他の人から後ろ向きな感情を吸収して、みんなを元気にしているってことだよね?
それに精霊さんの不思議エネルギーとは違って、絶望魔力は使えば使うほど減っていくみたい。
だとすると、魔王さんがどれだけパワーアップして復活したとしてもいずれはガス欠になるし、一撃でこの世界の生命を滅ぼすようなことでもしない限り、いつかはジリ貧になって最終的には魔王さんが必ず負けることにならないかな?
だって魔王さんがパワーアップすればするほど他の生命が元気になっていき、逆に魔王さんはどんどん絶望魔力を減らしていく。
仮に魔王さんが奇跡を起こし、序盤に本気を出して他の生命を絶滅寸前に追い込んだとしても、生命の量が減れば吸収できる絶望魔力も少なくなり、いつかは供給が途絶える。
もっというならば、この世界に全盛期の魔王さんが復活するということは、きっとその時代は戦争や飢饉などが流行って絶望が蔓延ってしまった、とても救いのない世界に陥っている状態だったんだ。
だから世界の絶望を払拭してリニューアルするために全盛期の魔王さんが復活して、世界中から絶望を吸い取っていくんだね。
精霊さんは完全に理解したよ!
でも、これって要するに、いつかどこかのタイミングで魔王さんの負けが確定している出来レースだよね?
だって世界の絶望が無くなってリニューアルが終わると、魔王さんを支えていた絶望魔力もなくなり、抵抗する術を失うんだから……。
「あわわわわ……。それってたいへんだ、たいへんだよ!」
「ああ? 誰だ今、大変だなんていった同胞は!? 見ての通り陛下がこの状況じゃ大変に決まってるだろ!」
そんな世界の真実に気づいてしまった精霊さんは、あわわわ……、と自分のあまりにも賢い頭脳に驚愕してしまう。
精霊さんの存在に未だに気づかない魔族さんが反応しているけど、そんなこと言っている場合じゃないよ!
この情報は広めてはだめだ。
これを広めてしまえば、いままで一生懸命頑張っていた魔王系のみんなの心を折ってしまうだけではなく、みんなのカウンセリング役として頑張っている魔王さんがせっかく悪役を演じているのに、それを台無しにしてしまうことになるんだ。
世界中のみんなが、実は魔王さんには必ず勝てるよねと気づいちゃったら、もしかすると魔王さんが舐められてしまい、絶望が広がる世界をリニューアルするという大仕事の支障になってしまうことも考えられる。
賢い精霊さんである私はこの機密情報にお口をチャックしつつ、このことを誰にも喋らない決意を固めた。
それにたぶんだけど、精霊であるヤミくんや竜王であるドラちゃんが魔王系を嫌悪していたのって、世界中の絶望が減ると魔王さんが本気を出せないという、この情報を知らなかったからなんだと思う。
一見すると負の魔力が高まると世界に復活する悪い存在だからね。
確かに魔力に敏感な精霊からするとドブのような臭いと腐った味がするだろうし、この世界の悪役だと勘違いしやすいんだろう。
実際に魔族さん達は精霊さんの話を一切聞かなかったし、暗躍しているからそれも間違っていないんだろうけど、魔王さんを舐めてしまうのだけはダメだね。
それでは絶望などで弱った世界を立て直す安全装置が、機能しなくなってしまうことになるから。
そんな真実に気づいた精霊さんは、魔族さん達から聞き出した情報を元に、帝国の田舎町で暗躍しているという弱体化した魔王さんの安否確認のため、超特急で夜空を飛行するのであった。
「こうしちゃいられない、急いで魔王さんの視察に向かうんだよぉ~!」
善は急げだよ!
◇
「へっくしょい! ……なんだ? なんだ、この悪寒は」
「お、大丈夫かちみっこ。風邪かあ~?」
「ええい! 我が風邪など引くわけがなかろう! いいからお前達の絶望をよこせっ! この、このっ!」
「ははははは! ちみっこが暴れても痛くもかゆくもないぜ。というか、また俺達の失敗談を聞きたいのか? しょうがないちみっこだなぁ」
……とある精霊さんが魔王を探して飛び立ったその頃。
帝国の辺境にある、自然豊かなこの小さな町では、最近不思議なちみっこが噂になっていた。
このちみっこに不安なことや失敗したこと、そういった後ろ向きな様々なことを相談すると心が軽くなり、日々のストレスから解放されるという変な噂だ。
真相は定かではないが、どうやら最近この町にやってきた普通を装うおっさんが保護した孤児らしく、少なくとも人には話せない暗い話を進んで聞いてくれるので町の住人から人気になっているのだとか。
失敗談を話さないと不機嫌になって暴れるちょっと我がままなちみっこではあるが、まあ八歳ほどの幼女ならこんなものだろうと人々も受け入れている。
ただどうしてか、最近このちみっこは「悪寒が、悪寒がする! 恐ろしいなにかが……! くる……!」などと呟き、何かに怯えたようにそわそわしているらしい。
町の人々はそのちみっこの不審な様子に、もしかしたら風邪を引いたのを隠しているんじゃないかと心配しているのだとか。
ここは【聞きたがり】で有名なちみっこの住まう、とある田舎町。
最近ちみっこの活躍により、なんだか明るくなってきたなと感じるこの町は、今日も今日とて平和なのであった。




