表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人類を見守っている精霊っぽい何か(自称)  作者: たまごかけキャンディー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/48

第29話


「……んん~、そうか。二人目の勇者は俺の国と決着をつけようとしているか。……ふぅむ」

「ええ、そのようですわね。聖剣の勇者をあえて逃がしたあなた様の苦労を知ることなく、まんまと我々に釣られているようですわ。どうです? そろそろ絶望しませんか? もし絶望なさっていただけるなら、わたくし、夢のような一夜を共にしてあげてもよろしいのに」


 耳元で煩わしく囁く魔族が皇帝であるこの俺を相手に勝者の余裕を見せ、絶望の大安売りを始める。

 よくもまあ下らないことをペラペラと、敵対関係にある人間相手にお道化られるものだ。


 これでも本人は真面目に勝ち誇っているのだろうが、俺にはもはや死に急ぐピエロにしか見えん。


「クハッ! 馬鹿を言えよ。貴様の魂胆などお見通しだ。その呼吸、その仕草、その態度。大物を気取った小物が焦ったときによくやる典型な例だな。見え透ているぞ」

「なっ……!?」


 おお、さっそく余裕の仮面が剥がれやがった。


 まあ、こいつが焦っている理由はおおかた予想がつく。

 どうせ俺が帝国から逃がした聖剣の勇者の明確な足取りがつかめず、それどころか部下を何度周辺各国に送ってもいつのまにか再出現した聖剣の勇者に返り討ちにされ、とうとう痺れをきらして王国で生まれた勇者に鞍替えしたってところだろう。


 マジで馬鹿馬鹿しいな。

 この魔族ごときにどうこうできるほど、勇者なんていう人類最強の戦士は安くねえってことが分からんらしい。


 まあ、それでも氷精霊が唱えたという魔王復活の予言を聞いて、こいつら魔族が魔王の力となる「絶望した人間の魔力」を急遽集め出している理由そのものには納得するがな。


 たしかに勇者の絶望を魔王の贄にできれば、戦況的に人類はそうとうヤバいだろうよ。

 とはいえ、この俺のお膝元である帝国で尻尾を出すのが早すぎたぜ、お前らは。


 親父からイニス帝国皇帝の座を受け継ぐ前の、まだ魔族に対する警戒心が薄い時代だったならまだしも、今更焦ったところでどうにもならねぇんだよなあ、これが。


 なにせこいつらの大事な大事な計画であった、まだ育ちきっていない勇者の代替わりの瞬間を狙うっつう数十年越しの謀略は、この俺が完膚なきまでに叩き潰してやったからだ。


 俺がまだ王太子でしかなかった幼少の頃に魔族が暗躍していると知ってからは、あえて帝国に蝕む魔族に対して扱いやすい傀儡を演じ、ここぞという時に勇者を逃がすカウンター計画を練っていた。


 こいつらはそれに気づかず、氷精霊がもたらした魔王復活っていう情報に踊らされ、焦りから俺のカウンター計画にまんまと引っかかったって訳だな。


 ああ、今思い出しても勇者を取り逃がした時の魔族達の顔は傑作だったぜ。


「あーあ。俺が優秀すぎたせいで魔族ちゃんの計画、台無しになっちゃったもんなぁ」

「こ、この……!」

「おっと! ここで俺を殺すのはやめた方がいいぜ。せっかくお前らに都合の良い皇帝として傀儡になってやってんだ。もし他の皇族がこの座についてみろ、そうなりゃ帝国は魔族と全面戦争に突入する。もちろん、今すぐにでもな?」

「…………」


 そんな鬼のような形相で怒らんでもいいだろうに。

 こういう余裕のない焦りようだから、俺が表ではお前の傀儡のフリしてるのをメリットだなんて勘違いしちまうんだぜ。


 そもそも、代わりに他の皇族がこの座を継承して困るのは俺の方だ。

 魔王の本体は復活していないとはいえ、人類はまだあらゆる面で準備不足で、ここは力を蓄えなきゃいけない時期だ。

 そんな時期に帝国と魔族の全面戦争になんかなってもらっちゃ、こっちの予定が全部パーになるんだよ。


 だから俺も魔族とは持ちつ持たれつでやってんの。

 まあ冷静になってもらっても困るけどな。

 本来であれば、ここは俺を殺すの一択だからだ。


 もし俺がこいつの立場だったら、「手を貸してくれるが本質的には敵側」のいつ裏切るかもわからねぇ胡散臭いやつ、真っ先にぶっ殺すんだけどな。


 変に自分は帝国を裏から腐らせた秀才だなんて自負持っちまうから、こんなお飾りの皇帝を切るに切れなくなっちまう。

 とはいえ、その理由の半分くらいは俺が誘導したものなんだがね。


「んで? 若い新米勇者が魔王陛下とやらの供物にできなかったから? 今度はパステアの方の勇者を狙うって? ……は、はは、ははははは! 傑作だ! 本物のピエロがいるぞここに!」

「なにを言って────」

「まだ、分からないのか?」


 こいつは大きな勘違いをしている。

 そもそも聖剣の勇者より、パステアで生まれた精霊剣の勇者のほうが十倍はやべぇ相手なんだよ。

 正確には勇者そのものというより、そのバックについている化け物がやべぇんだ。


 ……たしか、今から半年ちょっと前だったか。

 死の大地に止むことのない大雨が延々と降り注ぎ、そこに氷精霊などという、本当に精霊かどうかも疑わしい強大な力を秘めた化け物が誕生した。


 まあ、氷精霊じゃなかったらなんなんだ、ってことになるから間違いなく精霊ではあるんだろうけどな。


 それにしたって調査すればするほどやべぇやつであることが理解できる。


 調査の当初は何が原因で、滅びの土地への大雨なんていう天変地異が起こったか分からなかったが、その後すぐに王国へ放っていた密偵から連絡がくる。


 なんでも死の大地から帰還したA級冒険者パーティーがいたとかで、当時は帝国の上層部が大騒ぎになったもんだ。


 だから俺は本格的に調査を進めるために、帝国へ賢者マクスウェルを一時的な契約で招き入れた。

 あらゆる自然現象、精霊や竜の伝承、魔法や魔術に精通した専門家のハイエルフとしての知見を借りたんだ。


 そしたら出るわ出るわ、化け物みたいに恐ろしい氷精霊のありえない情報がたんまりとな。


 死の大地に魔力ではない巨大な力が人型に渦巻いているだの、人型の姿は確認できないが帝城の数倍はある氷の城がたった二か月で誕生しただの、竜王がそれらを成した化け物に味方しただの、もう意味不明すぎてこれ以上は理解できないくらいには色々聞かされた。


「知ってるか? 一か月ほど前に死の大地から再び帰還した二人目の勇者は、高位の氷精霊とやらが直接助力してくれる盟約を結んだらしいぜ?」


 まあ、知ってるのは分かってて質問してるんだけどな。

 当然そのことに気づいたこいつも、苦虫をかみつぶしたような表情で頷く。


「それは知っているわ。元々あの氷精霊が陛下復活の予言をしたからこそ、こうして早急に計画を進めてるんだもの。本来だったら勇者が王都から死の大地へ向かう途中で、十分に捕獲できる計画だったのよ」

「くくく。……ああ、そうだったな」


 こいつは俺にまで勇者の情報を伏せ、独自の情報網で入手した根拠をもとに動き回っていたらしい。

 それもまた悉く失敗したようだが、まあ当然だ。

 さっきも言ったが、そもそも勇者っていうのは行き当たりばったりの計画で討てるほど安くはない。


 でもって、マクスウェルの報告を聞き終えた俺は悟ったね。

 まだまだひよっこの聖剣の勇者を魔族の思い通りにさせるのは論外だが、あの精霊剣の勇者に手を出すなんてのはそれ以上の愚策だってことをな。


 ま、だからあえて帝国をこいつら魔族の思い通りに動かしてやり、精霊剣の勇者と衝突させるように仕組んでるんだけど。


 だってそうだろ。

 こいつが狙っているのは勇者の絶望と命。

 ついでに精霊の寵児とやらもそこに含まれるだろうが、まあそれは置いておくとしてだ。


 そんな魔族達が喉から手が出るほどに欲しい魔王への供物と、帝国で暗躍している腐敗の原因が一斉対決するってなれば、手を貸さずにはいられないだろう。


 上手くいけば一応は上級の魔族であるこいつが指揮する手下を一網打尽にでき、帝国は綺麗にお掃除されるってわけだな。


 こいつが指揮してる手下なんて、人類に敵対するやつらの一部でしかないが、それでも好機であることに違いはない。

 何より、精霊剣の勇者には化け物がバックについてるってのが大きいな。


 それだけで負ける要素が無い。


「ああ、結果が楽しみだぜ」

「あら、余裕を見せつけていられるのも今のうちよ。こちらだって勇者に勝算もなく接触するわけではないわ」

「ほう?」

「あなたこそ知っているかしら? デルガノーンの城塞迷宮には、現在絶大な雷魔法を扱う化け物が出現しているのよ。おそらく突然変異個体のエルダーリッチといったところかしら?」


 んんー。

 そいつの噂は俺も聞いたな。


 あの賢者マクスウェルすら一夜で心を折られて、しばらくエルフの森に籠るとか言わしめた推定S級超えの激ヤバモンスターだ。

 となると、勇者だけじゃちょっとヤバいか……?


 というかマクスウェルのジジイ、よくそんな化け物から逃げられたな。

 さすが人類最高峰の賢者というだけはある。


「部下の報告が見間違いでないなら、見立てではその個体の魔力はあの厄介な竜王にも匹敵するわよ。まあ、せいぜい絶望に気をつけることね。ふふふ……」

「ちっ、くそが……」


 こりゃあ計画を少し見直す必要がある。

 マクスウェルのジジイを一方的に蹴散らすような化け物が敵についたんじゃ、同じく化け物である氷精霊が駆けつける前に勇者が持たねぇかもしれないからな。


 ああ、やだやだ、なんでこういう時に限って迷宮にイレギュラーモンスターが発生するかね。

 勘弁してくれよ……。


 そうして頭を悩ましつつ、俺を絶望させたい魔族女の戯言を受け流していると、一ヶ月ほど過ぎたある日。

 俺に一通の手紙……、のようなメモが届く。


 そこには────。


「……ていこくのおーさまへ、ダンジョンたのしかった、おさかなランドのさんこうにするからぜひアソビにきてね。ついしん、めいわくけいのスタッフはコロコロしてしまいました。……なんだこれは? またあの魔族女のイタズラか?」


 ────謎の人物からの、お魚ランドなる場所への招待状が届いていた。


 そしてその招待状を受け取ってからというもの、俺の座る玉座にあの魔族女が現れたことは一度も無い。


 まるで、意味が分からなかった。



次回、時系列が精霊さんの城塞迷宮編に戻ります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
おお、まさか皇帝陛下が思った以上の賢帝っぽくてびっくり。 あと女魔族さん可哀想…。まぁ、明らかに味方じゃない奴の予言なんてあやふやなもんで行動早めるあたりもともとかなり浅はかっぽいね。
女魔族さん、アッサリと画面外で退場させられてたw
女魔族一瞬で消されてる?!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ