表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/48

第19話


 パティちゃんが瀕死の重傷から回復して、そろそろ一か月が経とうという頃。

 お魚ランドに建設中の竜宮城も形が見えてきて、そろそろ何を作っているのか遠目からもわかる、そんな秋も終わる肌寒い時期。


 ようやく旅立ちの準備を終えたリーダーさん達が、何やら胡散臭い糸目の聖職者と目的地への話し合いをしていた。

 なんでも次の目的地はまた死の大地にあるアイスキャッスルなんだって。


 そこで氷の精霊さんたる私に用事があるとかなんとか。

 詳しいことは興味がないので聞いていないけど、ニンゲンさんがお魚ランドに興味を持ってくれるのは大歓迎だよ。


 パティちゃんもコソコソと伝えた私のお願い通り、リーダーさん達にはお魚ランドへみんなで来るよう、精霊さんのお告げとして連絡していたしね。


 その時のリーダーさん達はお魚ランドがどこか、とか、それが何なのか、とか。

 何が何やら分かっていなかったみたいだけど、最終的に死の大地にある物として認識したらしく、目的地が一緒であったことから不思議な納得顔をしていた。


 まあ、お魚ランドの詳細はニンゲンさん達が来てからのお楽しみということで、基本的には内緒にしているからねえ。

 みんなが理解できないのも無理はないよ。


 なぜか胡散臭い聖職者である糸目さんは、お告げの内容を一発でそれっぽい考察に繋げて理解しかけていたけども。

 なんなんだろうね、この人。

 悪人でないのは分かるけども、ついこの前突然リーダーさん達に合流したんだよ。


 糸目さんのエネルギーは澄んでいたし、ちょっと性格がキツいのか味はピリ辛だけど歪んでもいないし腐っている感じでもない。

 んん---。

 なんていうのかな?


 前世で言う、ちょっと強めな「たんさん」飲料みたいな?

 そういう感じだ。


 ちなみにリーダーの話によると、糸目さんは回復魔法の使い手の中では珍しく戦闘力に秀でていて、斥候のジークさんほどではないにしろ、安心して周囲の警戒を任せられるくらいには気配にも敏いんだって。


 まさか斥候さんと比べられるほどに抜け目がないなんて、とてもすごいことだ。

 それってもう聖職者じゃなくない?


 きっと元は暗殺者か何かなんだよ。

 日頃は聖職者の仮面を被りつつ、いざ邪悪な者が現れるとすかさず実力行使に出る、異端審問官ってやつなんだね!

 精霊さんはそう確信しています。


 いいなー、異端者と決戦するとこ見てみたいなー。

 と、そんなことを想いつつ、先ほどから真剣な顔をして机の地図とにらめっこしているリーダーさん達の話を盗み聞いた。


「ニクス、そいつは無理な提案だぜ。お前が一時的に大司教としての役目を教皇に返上し、魔王災害という人類の災厄への対処名目で助っ人に来てくれたのは、正直助かる。だが……」

「いえ。彼女でなくてはならないのですよ、フラン。そして何より、置いていくことの方がリスクが高いはずです」

「確かにそうかもしれねぇけど。だが、いかに精霊の寵児とはいえ、さすがにパティを死の大地へ連れていくっていうのはなぁ……」


 ふむふむ。

 全然興味が無いながらも、ニンゲンさん達初のお魚ランド来訪ということで、いままで集中力の欠如と格闘しながら盗み聞きしていた話をまとめると、だね。


 どうやら言い出しっぺであるパティちゃんをお魚ランドへ連れていくかどうかで、ずいぶんと揉めているみたいなんだ。


 そりゃあね、王都に来てから一か月も準備してお魚ランドへの旅行計画を立てていたところに、道中の魔物に襲われても身を守れないようなパティちゃんを連れて行くとなったら、正義の心を持つリーダーさんは反発するよ。


 近頃はよく、魔族とかいう迷惑系MeTuberのスタッフが暗躍しつつあるし、物騒な世の中なのもある。

 実際、最近のヤミくんはもっとも武力が低く、ニンゲンさんの中ではもっとも仲がいいパティちゃんの護衛につきっきりだ。


 私が姫様やカメ吉くんの様子をちょくちょく見に行っている時なんかも、今日はパティちゃんを付け狙っていた魔族を闇の中に沈めたーとか、魔族に心酔する悪人をまとめて混乱させ衛兵さんに捕縛させたーとか、そういう物騒な世間話を聞く。


 この状況、闇精霊であるヤミくんの守りがなかったら、とっくにパティちゃんはオダブツになっていたね。

 それに何度返り討ちになっても一定のスパンでちょっかいをかけてくる魔族や、その信者や、もしくは洗脳された人達。


 彼ら彼女らが蛮勇なのか、もしくは狂信なのか計画あってのものなのかは分からないけど、考えが読めないというのも怖いところだよ。


 最初にドラちゃんの朝食になりモグモグされた魔族なんかは、さすがに逃げ帰った者が圧倒的な実力差を悟って二度と仕掛けてこなくなったらしいけど、あれはドラちゃんが例外なだけだ。


 ヤミくんは姿を消している以上、戦いが秘密裏に終わってて地味なんだよね。

 だから魔族もその危険性に気づけないっていうのもあるかもしれない。


 そして、だからこそ糸目さんはパティちゃんを一人にする危険性を訴え、そしてリーダーさんは死の大地で瀕死になった経験から、まだパティちゃんがついてくるのは無理だという判断を下しているんだ。


「そもそもパティを連れていくにしたって、目的はどうするんだ? 俺たちは遊びにいくんじゃないんだぜ」

「そこがまず間違っているのですよ、フラン。あなたも精霊の寵児から話は聞いているでしょう? 彼女によると精霊は楽し気に語っていたそうです。お魚ランドなる場所に、全員で来てくださいと」


 そうそう。

 そうなんだよ。

 この糸目さんは結構洞察が鋭くてね、私がパティちゃんを通して伝えたお魚ランドの話を、わりと正確に理解しているみたいなんだ。


 なにをどう思ってそう判断したのかは分からないけど、そこに危険がないことは最低限分かっているみたい。

 糸目さん曰く、助力を得るのならばまず精霊の歓待を受けずにどうするのか、とかなんとか。


 すごいね、そこまで分かるんだ~と、糸目さんと同じく知的な精霊さんの私は感心してしまった。


「ぐっ……。しかし、お魚ランドが何かもまだ分からねぇんだぞ、危険じゃないのか?」

「愚問ですね。では、こう考えましょう。もし逆に、フランが王に謁見する立場だった場合、あなたは王の心づくしのもてなしを台無しにして、用件だけ伝えて交渉をまとめるつもりでしょうか? それでいいのでしょうか? 本当に?」


 おお、お見事!


 確かにその通りだね。

 なんの用事があるのか知らないけど、精霊さんの歓待を無視してお願いだけ言いに来るなんて、いくら心の優しい精霊さんでもちょっとどうかと思うよ!


 リーダーさんはパティちゃんを守ろうとしているだけで、そこに悪意が無いのは分かっているんだけど、どうせならみんなでお魚ランドを楽しんで欲しい。

 ヤミくんが守護をガチガチに固めていることを知らないニンゲンさんからしたら、魔物との闘いを前提にした旅というのは、それなりにリスクを孕む物かもしれないんだけどね~。


 でも、それこそ魔物と戦うリスクとメリットの駆け引き、生き残るためのノウハウは対人向けの糸目さんより、冒険者のリーダーさんの方が経験豊富なはずなんだ。

 だからここは、ぜひとも前向きな決断をしてほしいところ。


「昔から、ニクスにそう言われると弱いんだよなぁ……。あー! わかった! 口ではお前に勝てるわけがねぇんだ。だが、その代わりパティは俺達で死んでも守る。……それは覚悟してるよな?」

「ええ、もちろんですよフラン」

「そんなの当たり前だぜリーダー。この胡散くせぇ神官モドキが命張らなくっても、この俺が神経尖らせて逃げ道くらいは用意してやらぁ」


 話がまとまり、最終的に糸目さんの話に乗ったリーダーの決断に、斥候のジークさんがそうこなくてはと胸を叩いた。

 その様子に周りで話し合いに参加していた弓使いのエリーさん、盾使いのローダンさんなんかも賛同する。


「はん! パティが死にかけてた時は泣きっ面だったジークが言うじゃない。私、あんたがちょっと涙目になってるの見てたわよ?」

「ばっ! それを言うんじゃねぇよエリー! パティがこっち見て驚いてるだろうが!」

「いや、もうお前が泣きかけていたのは全員が知っている公然の事実だぞ。当然、パティもな」

「う、うそだろパティ……!?」

「あの……。本当です。すみませんジークさん」


 最後に語られた、衝撃の事実!

 なんとジークさんは泣きかけていたのを、他のみんなやパティちゃんに知られていないと思っていたらしいね!


 でもそれは甘いってもんだよ。

 だってずっと前に精霊さんのお告げとして、当時のことをパティちゃんにコソコソお話していたから。


 だからいまさら隠し立てなんてナンセンス。

 パティちゃんを通じて、この事実は他のみんなにも当然拡散されている。

 せっかく精霊さんが花丸をあげたのに、ジークさんがしょげていたのが悪いんだよ。


 もうちょっとみんなの前で当たり散らかしてしまったことを、反省することだね!


「ま、話はまとまったな。それじゃあ明日の早朝にこの王都を出るぞ。道中は辺境伯の時と同じように騎士が露払いしてくれるが、死の大地付近では俺達だけの行動となる。まあ、魔物の縄張りだらけの場所で大人数は自殺行為だから仕方がないだろう」


 そう締めくくったリーダーさんが話を切り上げると、「おおー!」とみんなと同じく精霊さんも一緒に気合を入れた。

 さて、それなら今日からはお魚ランドに視察とお手伝いにいかなくちゃ。


 せっかくリーダーさん達がみんなで遊びにきてくれるんだ。

 その時までに最低限見れるような形にしておかないと!


「……いま、何か聞こえなかったか?」

「ああ、確かに今、おおーって聞こえたぜ」

「私もよ」

「あの。たぶん、いま氷の精霊さんがそこでみんなの話を聞いていました……」

「そうか……。高位の精霊は分体を使って世界に遍在しているという伝承があるが……。それかもな……」


 後ろでごちゃごちゃ言っているけど、やる気になった精霊さんの興味はもうお魚ランドと竜宮城にある。


 リーダーさん達の旅はヤミくんに任せて、さっそく出発だ!

 もう、こうしちゃいられないよ!

 みんな、次に会う時は新生アイスキャッスルだよぉ~!




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ