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第10話


 先日、はじめて訪れたニンゲン達の街。

 ルドガン辺境伯領という精霊さんが認定したスライム狩りの名所を飛び出し、私は王都パステアという大都会にたどり着いていた。


 ここは先日まで滞在していた辺境伯領のように、一歩街の外に出ればそのへんに野生のスライムが大量発生しているような田舎とは違い、きちんと整備された街道と毎日のように人の出入りで混雑する街門が特徴的だ。


 もう現役を引退したスライム狩りの名人たる私に言わせてもらえば、スライムを見かけないどころか魔物一匹見かけないこのあたりの治安は、さすがに文句のつけようがないほどの大都会だった。

 たぶん騎士とかいう国の兵隊さん達が日頃頑張っている成果だろうね。

 あとは国の中心都市だけあってニンゲンの往来が多いから、それに比例して冒険者と呼ばれる民間団体の人数が田舎よりも多いとか、たぶんそんな理由で魔物がいないんだ。


 もはやお昼寝用の指定席と化した馬車の屋根で行き交う人達の話を聞いていると、そういう情報も世間話として聞けて大変有意義だったよ。


 つまり民間のニンゲンが明るい顔をして楽し気に日々を語れるほど、ここはニンゲン達にとっての楽園であり、彼らにとってはとても住み心地が良い場所になっているに違いない。


 その事実に人類のことを今後も見守る予定の精霊さんは、なんだかとても嬉しい気持ちになった。


 さて、ここまで旅を共にしたけど、道案内に利用していたリーダーさん達の馬車ともここで一先ずのお別れだね。

 思い返せばシューティングゲームをしたりお昼寝をしたり、とてものんびりとした気持ちの良い二週間の馬車旅行だった。


 道中立ち寄った村々や街を詳しく見学する時間はなかったけど、旅では死の大地と比べれば規模は小さいけど湖なんかも見つけたんだ。

 王都見学を終えたら、そこでお魚さんとか水生の生き物を持ち帰る予定だよ。


 湖のお魚さんたちの食物連鎖に何が必要かとかは分からないから、その辺は湖の周辺に生えている植物とか一部の湖水を引っこ抜いてくるつもり。


 たしか最低限、「植物ぷらんくとぅん」と「動物ぷらんくとぅん」が必要なんでしょう?

 精霊さんの前世知識がここぞとばかりに語り掛けてくるから、きっとそうなんだ。


 でも、前世知識がドヤ顔で語る、ニンゲン程度の目には見えないほど小さな生き物「ぷらんくとぅん」って、結局のところなんなんだろうね?

 まったく、そういうところをボカさずに教えて欲しいのに、融通の利かないアドバイスだ。


「でも、いざとなったら魔法で環境を整えればいいよね?」


 やっぱり最後に頼りになるのは、精霊さんの自由自在な魔法の力だ。

 ぷらんくとぅんの話は要するに、水資源にお魚さんにとっての栄養が満たされていればいいってことなんだよ。


 そうに違いない。


 そんな楽しい帰郷後の妄想に花を咲かせつつも、王都名物だという劇場で開かれるサーカス団の演出や、王城の次には大きいんじゃないかと思われる大聖堂という宗教施設。

 あとは辺境伯領よりもいくぶん大きくなった、立派な冒険者ギルドに立ち寄ったりしながら、ついに旅の目的であった王城見学へとたどり着いた。


 本当はもうちょっとじっくり見てみたかったんだけど、王都のあちこちを幽体の状態でふよふよ散策しているとね、とある民家の屋根裏で見つけちゃったんだよ。


 まさに自分こそ王都で暗躍する怪しい人物でござい、と言わんばかりの忍者さんをね!


 上質な黒装束を身にまとう彼は、部下であろう同じ格好の黒装束から報告を受け取っていた。

 で、当然のことながら好奇心旺盛でニンゲンに興味津々な精霊さんは、誰に憚ることもなく堂々と背後をついていったんだ。

 そしたら……。


「えぇ……? 嘘でしょ! こんなに心優しい精霊さんの私が、王様に指名手配されるの?」


 なんと黒装束の忍者さんはそのまま隠れながら王城へと侵入し、玉座に腰掛ける王様と二人だけの密談を開始して、精霊さんの熱中したデスゲームにケチをつけはじめたんだ。

 たしかに、言い訳も聞かずに盗賊のニンゲンを皆殺しにしたのは申し訳ないことをしたと思ったけど、彼ら盗賊は放っておけばリーダーさんを襲おうと計画を企てていた悪いニンゲンだ。


 私の前世知識によると、異世界の盗賊に人権はないし、放置しておくと善良な人類に被害が出るから駆逐するべし、と定められているんだよね。

 それが殺し方が不審だったというだけで、こんなに心優しい正義の精霊さんが悪かったことにされるの?


 ニンゲンの価値観って難しいね。

 まったくもう、とても一筋縄ではいかない厄介さだよ。


 でもこんなことでめげる精霊さんじゃないよ。

 私には無実潔白を証明する手段があるんだ。

 そういうわけで私は、何やら忍者さんの目の前で手を振りまくって遊んでいる王様から離れ、冤罪回避のために一計を講じることにした。


 そうして探し出したのがこの、新しく知り合いになった不審人物ってワケ。


「だ、誰が不審人物だ! おい! 話を聞いているか!? ボクは由緒正しき……」

「はいはい。王様と契約するする詐欺の話でしょ? 罪を認めない不審人物はみんなそういうんだ」


 標的になるのは人外の誰かだということだから、とりあえず王城へ来るずっと前から私の生命エネルギー探知に引っかかっていた、闇が人の形を成したような怪しいバケモノを捕らえてきた。

 今は逃げられないように光の檻に入れてあるんだけど、どうやら魔法の光が苦手みたいで逃げ出せないみたい。


 ふふふ……。

 古今東西、闇の弱点が光だということを、私は知っているんだ。

 こんなのは常識問題だよ。

 あまり知的で有名な精霊さんを舐めないで欲しい。


 それにしても、こんな地下深くの隠し部屋に隠れ潜むなんて、この不審人物は本当に慎重なやつで、相当に準備を重ねた計画的な犯行だったことが分かる。

 王様や忍者さんにも気づかせないこの徹底ぶり、被害がでる前に捕獲できて本当によかった。


 たとえ入念な準備により、その姿を人の目から隠れおおせることができても、私の生まれ持ったエネルギー探知能力の前では形無しだったようだね。


「さあ。観念しなさい」

「困った。こいつ、ボクの話を聞かないぞ……。というか全く信じる気がないな……」

「聞いているよ? でも君は百点だから。もう観念したほうがいいね」

「百点の概念壊れる」


 薄暗い地下室で光の檻に囚われたからか、もしくは私の根気強い説得に観念したからか、不審人物である百点さんは項垂うなだれるように大人しくなった。

 さて、ここから百点さんを魔王の関係者としてでっちあげて、精霊さんの魔法でそれっぽく演出することは簡単だ。


 でも、まだ今すぐに行動を起こすのはいささかに時期尚早。

 そもそも王様によって人外が犯人であると決めつけたとたん、当の犯人がすごすごと現れたら、それこそ出来過ぎた展開に真偽を疑われてしまうだろう。


 だからまずは、なぜこんな地下室に潜んでいたのかとか、そういう罪を犯すことになった経緯を聞いてみることにした。

 特にこの地下室には変な祭壇のようなものがあったり、儀式をするための怪しげな紋様みたいな力ある陣が描かれている。


 いったいこんな怪しい部屋で何をする気だったんだろう。


「正直に言ったほうが身のためだよ?」

「正直もなにも、契約の儀式をするための魔法陣に決まってるだろ? 人間ごときがボクくらいの闇精霊と契約するには、個人の力だけでは到底不可能なんだよ」


 私だって鬼ではない。

 もしそこに情状酌量の余地があるようなら、少しくらいは温情をかけてあげる予定だ。

 それなのに……。


「私は残念だよ、本当にね」

「う、うそだろ!? こいつ全然信じてないぞ……!」


 嘘を吐くならもっと真実味のあることを言えばいいのに。

 どうして追い詰められた者は、いつも同じ失敗を繰り返してしまうのだろう。

 でも、仏様の顔だって三度まであるんだ。

 精霊さんだって情け深さでは負けていられないよ。


「さあ、どんとこい!」

「誰か助けてくれーーー!!」

「さあ! さあ!」


 私の情け深さに元気を取り戻した百点さんだが、相手はこれだけ慎重な人外である。

 これを機に嘘を重ねるかもしれないよね。

 

 しかしたとえどんな形であれ、嘘をついているかどうかは精霊さんの賢さをもってすれば一目瞭然。

 叡智を湛えたこの私の目を、そう簡単に誤魔化せるとは思わないことだね!


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盗賊に人権はないってどっかのどらまた魔術師を思い出したw
 精霊さん、生前もポンコツだった…?
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