4 展示会デートランチ編
「いっぱい回ったね! そろそろお昼食べよっか! どっかファーストフード店行く?」
山本さんが、にこやかに俺に声をかけてくれた。確かに、気が付けばもうお昼の時間だ。スーさん展に夢中になってたら、あっという間だったな。
「ああ、ちょうどお腹空いてきたとこだ! ファーストフード店もいいな! 何か食べたいものある?」
俺も正直お腹ペコペコだったからすぐに賛成した。山本さんと食べるお昼ご飯、何でも美味しく感じるだろうな。
「うーん、ハンバーガー食べたいかも!」
山本さんが少し考えて、そう言ってくれた。
「おっ ハンバーガーいいな! 俺もハンバーガー気分だ! じゃあ、あそこの駅前に大きいとこあったよな? そこ行ってみるか!」
俺はすぐに賛成した。山本さんと一緒に食べるハンバーガー、きっと最高に美味いだろうな。スーさん展の興奮が冷めないうちに、そのまま楽しいランチタイムに突入だ!
スーさん展の興奮そのままに、俺たちは駅前のハンバーガーショップにやってきた。店内は賑わっていて、活気がある。
俺はチーズバーガーのセット、山本さんはアボカドバーガーを選んだ。トレーを受け取って席に着くと、食欲をそそる匂いが漂ってくる。
「「いただきます!」」
二人で声を合わせて、ガブリとハンバーガーにかぶりついた。肉汁とソースのハーモニーが口いっぱいに広がる。スーさん展で歩き回ったから、余計に美味く感じるぜ!
「んー! 美味しい!」
山本さんも満足そうに頷いている。その笑顔を見て、俺も幸せな気分になった。
夢中になってハンバーガーを食べていると、ふと、山本さんがクスッと笑いながら俺の口元を指差した。
「佐藤くん、口にソース付いてるよ?」
「え!? マジか!」
俺は慌てて指で口元を拭った。しかし、どうも上手く取れないらしい。焦れば焦るほど、逆についていないところを拭いてしまう。
「あはは、そこじゃない、ここここ!」
山本さんが笑いながら、さらに詳しく教えてくれる。俺はもう一度拭いてみたが、やっぱり取れない。
すると、本山さんがふっと身を乗り出して、テーブルに置いてあったティッシュを一枚取った。
「もう、仕方ないなー、ちょっとごめんね」
そう言いながら、山本さんの手が、そっと俺の頬に触れた。
柔らかなティッシュが、優しく俺の口元のソースを拭ってくれる。山本さんの顔が、すぐ目の前にある。石鹸のような、清潔感のある優しい香りがフワッと漂ってきて、心臓がドクン、と大きく鳴った。
俺は、あまりの出来事に固まってしまい、何も言えない。ただ、目の前の山本さんの真剣な表情と、触れている指先の温かさを感じていた。
山本さんは、俺の口元を拭き終わると、何事もなかったかのようにすっと身を引いた。
「よし、取れた!」
そう言って、にこっと笑う山本さん。俺は、顔が熱くなるのを感じながら、やっとのことで返事をした。
「あ、ありがとう」
こんな風に、山本さんと急接近するなんて、想像もしてなかった。心臓のドキドキが止まらない。
俺は口をもぐもぐさせながら、小さく礼を言った。顔が熱いのが自分でもわかる。山本さんは「どういたしまして!」って言って、自分のハンバーガーを食べ始めた。
口の中のハンバーガーの味は、さっきまでと変わらないはずなのに、なぜか、もっと美味しく感じた。いや、それよりも、山本さんの手が触れた感触が、ずっと残ってる。
俺は、残りのハンバーガーを黙々と食べた。山本さんも、特に何も言わずに食べている。この沈黙が、なんだか心地よく感じられた。
(まさか、こんなことになるとはな)
こんなに近くで、こんな風に山本さんといるなんて、数週間前の俺には想像もできなかった。スーさんのキーホルダーに感謝しないとな。
食べ終わった後、山本さんが「ごちそうさまでした!」って言って、満足そうに笑った。その笑顔を見て、俺の心はまたポカポカと温かくなった。