17 サプライズ
放課後、俺は斎藤がいつもいる体育館裏へと向かった。遠目に、斎藤が数人の男子生徒とたむろしているのが見えた。
「なぁ、斎藤」
俺は声を張り上げ、斎藤の元へと歩み寄った。斎藤は俺の声に気づき、仲間たちと共にこちらを振り返った。
「なんだよ、佐藤。また俺に何か用か?」
斎藤が腕を組み、挑発するように言った。その態度は、まるで俺を馬鹿にしているかのようだ。そして2人で体育館の廊下へ出た。
「今度の休み、りんをどこへ連れていくつもりだ?」
俺は単刀直入に問い詰めた。
斎藤は、俺の言葉に一瞬目を丸くした。
「はぁ? 何言ってんだ、お前。俺が本山さんとどこへ行こうが、俺たちの勝手だろ。それに、不純な動機って別に、他に用事あるだけだし」
斎藤はとぼけるようにそう言った。
「お前、楓さんにフラれたからって、次はりんを狙ってたりしてないだろうな」
斎藤は、少しだけ顔色を変えた。
「おいおい、佐藤、何勘違いしてんだよ? 確かに俺は楓さんに振られたが、だからって山本さんを好きになる理由にはならねぇよ。何熱くなってんだよ」
斎藤は、わざとらしく俺の不安を煽るような言葉を吐いた。
「じゃあ、俺忙しいから。お前が想像できないくらいにな」
そう言って、斎藤はひらひらと手を振ると、俺に背を向けてその場を立ち去った。俺の真剣な気持ちを、まるで相手にもしないかのような態度だ。斎藤の背中が見えなくなるまで、俺は悔しさに拳を握りしめていた。
土曜日、斎藤とりんが出かける。その事実が、俺を焦らせる。
俺は、どうすることもできないまま、ただ土曜日を迎えるしかなかった。
土曜日。俺は、朝から落ち着かない。斎藤とりんは今頃、どこにいるんだろう。何をしているんだろう。りんが笑顔で斎藤の隣にいる姿を想像するだけで、胸が締め付けられる。
俺は、一睡もできないまま、月曜日の朝を迎えることになった。りんがどんな顔で学校に来るのか、斎藤と何があったのか。不安で、胸が張り裂けそうだ。
一睡もできないまま迎えた月曜日の朝。俺は重い足取りで教室に入った。りんと斎藤のことが気になって、ほとんど眠れてない。りんはどんな顔で来るんだろう。斎藤は俺を挑発するような態度を見せるんだろうか。
そんな不安でいっぱいの中、聞き慣れた優しい声が聞こえた。
「りょうくん! ちょっと良いかな?」
顔を上げると、そこに立っていたのは本山りんだった。いつもの明るい笑顔で、俺に手を振っている。その手には、可愛らしいラッピングがされた小さな包みが握られていた。
俺は、一瞬何が起きたのか分からなかった。斎藤のことはどうなったんだ?
りんは俺の近くに寄ってくると、その包みを俺に差し出した。
「これ、はい、どうぞ!」
俺は戸惑いながらそれを受け取った。ラッピングされた袋は、どこか見覚えのあるスーさんの絵柄だ。
「今日、誕生日でしょ?」
りょうの言葉に、俺はハッとした。そうだった。今日、俺の誕生日だ。すっかり忘れていた。
「実はね、スーさんの物あげたくて、斎藤くんとクラスの女子と探すの手伝ってもらって、驚かせたくて黙ってたんだけど」
りんは、少し照れたように、そして申し訳なさそうにそう言った。
「斎藤くんと、クラスの女子で?
俺の頭の中で、昨日までの斎藤に対する怒りや、りんへの不信感が、一瞬で消え去った。斎藤は、りんの誕生日プレゼント探しを手伝ってくれていただけだったのか。にしてはあの言い方はどうかと思うが。
「誕生日おめでとう!」
りんの最高の笑顔が、俺の目にはまぶしかった。俺の顔は、みるみるうちに熱くなっていくのがわかる。
俺は、りんの言葉に、ただただ驚きと感謝でいっぱいになった。
「え、あっりん」
俺は受け取ったプレゼントを両手に持ち、信じられない気持ちでりょうを見つめた。顔が熱くなるのを感じる。
「ありがとう! まさか、俺の誕生日だってこと、覚えててくれたなんて!」
俺は、どもりながらも感謝の気持ちを伝えた。本当に、すっかり忘れていたんだ。スーさん展のデート、斎藤のこと、それで頭がいっぱいだったから。
「それに、斎藤のこと俺、勘違いしてたみたいだ。ごめん」
俺は素直に謝った。りんは、俺の言葉に、フフッと優しい笑顔を浮かべた。
「ううん、大丈夫だよ! 驚かせたかったから、黙っててごめんね!」
りんのその言葉に、俺の胸は温かいもので満たされた。なんて優しいんだ。
「ありがとう、りん。本当に嬉しい。大事にするよ」
俺は、ラッピングされたプレゼントをぎゅっと胸に抱きしめた。スーさんの絵柄が、こんなにも愛おしく感じられるなんて。
俺にとって、このプレゼントは、ただの誕生日プレゼントじゃない。りんの優しさと、俺の勘違いが解けた証だ。




