13 知ってる理由
「斎藤のやつ、タケルが楓と付き合ったのを知って、今度は別のターゲットを探してたって話だっただろ? 山本さんがスーさん好きなのを知って、そこの隙を狙った可能性もある」
タケルが顔を歪めて言った。
「ああ、そう考えると辻褄が合うな。山本さんがスーさん好きだと知って、共通の話題があることをアピールしようとした、とかな」
しゅんの言葉に、俺は唇を噛みしめた。斎藤は、わざと俺に聞かせるように、山本さんがスーさん好きなことを口にしたのかもしれない。俺を牽制し、焦らせるために。
「くそっ、あいつ」
俺の怒りは、さらに増した。山本さんの好きな物を利用しようとする斎藤がますますはっきりと見えてきた。
斎藤の挑発を気にしていても仕方ない。俺は、山本さんを信じる。そして、自分の口から直接、疑問をぶつけることにした。このモヤモヤを抱えたまま、次の一歩を踏み出すことなんてできない。
次の日、学校で山本さんと顔を合わせる機会を伺った。休み時間、山本さんは友達と談笑していたが、一人になったタイミングを見計らって、俺は山本さんの元へ向かった。心臓がバクバク鳴っている。
「山本さん、ちょっといいか?」
俺が声をかけると、山本さんは少し驚いた顔をして、俺の方を向いた。その表情には、いつもと変わらない笑顔があった。
「どうしたの? 佐藤くん」
山本さんは優しく聞いてくれる。俺は、深呼吸をして、昨日からの疑問をぶつけることにした。
「あのさ、昨日、斎藤と話してたよな? その時、なんかスーさんの話とかしてたのか?」
俺は正直に尋ねた。山本さんは、俺の言葉に一瞬目を丸くしたが、すぐに理解したように小さく息を吐いた。
俺の問いかけに、山本さんは少し驚いた顔をした後、正直に答えてくれた。
「うん、昨日呼ばれて、どうしたの?って聞いたら、休みの日に佐藤とスーさん展行った?って聞かれて。そうだよ。なんで知ってるの?って聞いたら、たまたま街で見かけたらしいよ」
山本さんは、真っ直ぐ俺の目を見て、そう説明してくれた。その言葉に、俺は少し安堵した。山本さんは、何も隠そうとしていない。そして、斎藤が山本さんから俺とのデートの話を聞き出したわけじゃないんだ。
「そっか、たまたま見かけたのか。びっくりしたよ。」
俺は、ホッと息を吐いた。俺の心の中にあったモヤモヤが、少し晴れていくのを感じる。斎藤の奴、本当にたまたま見かけただけなのか?
それとも、俺をからかっているのか? いずれにしても、山本さんが俺に隠し事をしていたわけじゃない、ということが分かっただけでも良かった。




