10 斎藤の行動
二人の言葉に、少しだけ冷静さを取り戻す。確かに、このまま何もしないでいるのは嫌だ。
「でも、どうしたらいいんだ? また変に調べてみたら、山本さんに嫌われちまうかも」
俺は心配でたまらない。
「大丈夫だよ、りょう。ここは、俺たちに任せろ。りょうが直接聞くのは、まだ早いかもしれない。まずは、俺たちが斎藤の周りから、もう少し探ってみる。」
しゅんが、頼もしそうに胸を叩いた。タケルも力強く頷く。
「そうだな。もし斎藤が何か企んでるなら、放ってはおけないしな。」
タケルの言葉に、俺は少し安堵した。一人で抱え込まずに、二人に相談してよかった。
「頼む、お前ら」
俺は二人に頭を下げた。今できることは、二人の協力に頼ることだ。
俺が山本さんとの関係に頭を悩ませている間、しゅんとタケルは早速動き出してくれた。二人は共通の友人を介して、斎藤と山本さんの関係を探ってくれたんだ。ここまで来たら探偵でも向いてるんじゃないか?
そして、放課後、俺たちのいつもの集合場所である体育館裏で、二人は重い口を開いた。
「りょう、悪い知らせだ。」
しゅんが沈痛な面持ちでそう言った。タケルも顔を歪めている。
「どうしたんだよ?」
俺は嫌な予感がして、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「斎藤、あの楓さん、つまり楓がタケルと付き合い始めたのを知って、今度は山本さんを気にし始めたらしい」
しゅんの言葉に、俺は頭を殴られたような衝撃を受けた。斎藤が、楓さんにフラれたから、次は山本さんを狙い始めたってことか? そんな、まるでゲーム感覚みたいに。
「あいつ、ふざけんなよ」
タケルが怒りに顔を真っ赤にして、壁を強く殴りつけた。その拳から、俺の怒りも沸々と込み上げてくる。まさか、斎藤がそんな不純な動機で山本さんに近づいているなんて。
タケルは、怒りを抑えきれない様子で、「俺、楓のところ行ってくる!」と言うと、そのまま走り出した。俺としゅんは、タケルを追いかけることもできず、ただその背中を見送るしかなかった。
しばらくして、体育館の入り口から、タケルと楓が戻ってくるのが見えた。タケルは俯いて、いつもよりずっと落ち込んでいるように見える。
そして、楓はタケルの隣に寄り添い、その背中を優しく撫でたり、何か言葉をかけたりして、タケルを慰めているようだった。
遠目からでも、楓がタケルをどれだけ心配しているか、その優しさが伝わってくる。タケルも、楓の言葉に頷いたり、楓に寄り添ったりしている。二人の間に確かな絆があることが、見て取れた。
それを見て、俺は自分の胸の痛みを少しだけ棚上げにして、二人の幸せを願った。同時に、山本さんをあんな奴に渡してたまるか、という思いが強くなった。
俺が体育館裏で呆然としていると、楓がタケルの頭をくしゃくしゃにしながら笑っているのが見えた。
「タケルは元気だしな!」
楓はそう言って、タケルの頭を撫でていた。その声は優しくて、タケルの心を包み込むようだった。タケルも、楓に慰められて少し元気を取り戻したようで、顔を上げて楓に何か話しかけていた。
遠目からでも、二人の間に流れる温かい空気が伝わってくる。楓の笑顔と、それに少しずつ笑顔を取り戻していくタケルの姿を見て、俺は安堵した。タケルが立ち直ってくれて本当に良かった。
しかし、俺の心には、斎藤と山本さんのことが重くのしかかっている。斎藤があんな不純な動機で山本さんに近づいているなんて、絶対に許せない。




