11. 「漆黒の契約者、降臨」 後編
――数分後。
氷嚢。ため息。
「……もういや」
鼻にガーゼを詰め、天井を見つめる。何度目だろう。となりで吉田が、やたらとキラキラしていた。
「今、ひと皮むけた気がする。いや、二皮だね」
「皮の話やめろ。生々しいんだよ」
ドアがそっと開いて、宮沢が顔を出す。
「……あの、さっきの音……何が……?」
三つ編みメガネ巨乳の宮沢が、制服の胸元を押さえながら小動物のようにおずおずと現れる。
なんかこう……理性試されてる感ある。
「い、いや、ちょっとした……男子同士の、儀式みたいな……」
「は?」
「言わないで!! 何も追及しないから!!」
次の瞬間、空気が変わった。
着替えが終えて入ってきたのは陽乃。そして、その後ろには腕を組んだ南の姿。
沈黙。
「……さっきは、本当に……ごめん」
俺が口を開くより先に、陽乃が静かに言った。
「こっちのせいでもあるけど」
その目が、鋭くなる。
「触ったこと忘れたとか言わせないからね。私たちの“尊厳ポイント”、きっちり回収するから」
「え、ええと……それは、どういう意味で……?」
「そのうち分かる」
陽乃が冷たい笑みを浮かべる。
南が無言で近寄ってくる。何も言わず、じっと見つめる。何も言わないのが怖い。
*
――それから一週間。
俺は、ずっと周囲の視線にさらされていた。
「ノーパン」とか「ジェルナイト」とか、「チン・ザ・フル」とか――。
どういうセンスだよ!? 全国に誇るのかそのネーミングセンス!?
俺がフルチンでぶっ倒れていた動画は、学年チャット、果ては職員室にまで届き、謎のスタンプが大量に送られる日々。
朝のホームルームで担任が小声で「……見たぞ」って言ってくるの、ホントやめろ。心が削れる。
吉田は「戦友」としての株が謎に爆上がりしており、勝手にオリジナルTシャツを作っていた。
背中には「ローション・レボリューション」の文字。俺はいまこの男と友情を結んでいいのか悩んでいる。
桜井の代わりに宮沢はたまに様子を見に来てくれる。屈むたびにメガネの奥から見える谷間がえぐい。
俺の理性はそのたびに全裸で相撲を取って敗北していた。
体育館の掲示板には「見逃すな!伝説の変態が再来する!」という手描きポスター。
やめろ。頼むからそういう伝説にはならせないでくれ。
そんな中で、エキシビションとはいえ、公式試合が近づいていくのだった。