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11. 「漆黒の契約者、降臨」 後編

――数分後。


 氷嚢。ため息。


「……もういや」


 鼻にガーゼを詰め、天井を見つめる。何度目だろう。となりで吉田が、やたらとキラキラしていた。


「今、ひと皮むけた気がする。いや、二皮だね」

「皮の話やめろ。生々しいんだよ」


 ドアがそっと開いて、宮沢が顔を出す。


「……あの、さっきの音……何が……?」


 三つ編みメガネ巨乳の宮沢が、制服の胸元を押さえながら小動物のようにおずおずと現れる。


 なんかこう……理性試されてる感ある。


「い、いや、ちょっとした……男子同士の、儀式みたいな……」

「は?」

「言わないで!! 何も追及しないから!!」


 次の瞬間、空気が変わった。

 着替えが終えて入ってきたのは陽乃。そして、その後ろには腕を組んだ南の姿。

沈黙。


「……さっきは、本当に……ごめん」


 俺が口を開くより先に、陽乃が静かに言った。


「こっちのせいでもあるけど」


 その目が、鋭くなる。


「触ったこと忘れたとか言わせないからね。私たちの“尊厳ポイント”、きっちり回収するから」

「え、ええと……それは、どういう意味で……?」

「そのうち分かる」


 陽乃が冷たい笑みを浮かべる。

南が無言で近寄ってくる。何も言わず、じっと見つめる。何も言わないのが怖い。



 ――それから一週間。


 俺は、ずっと周囲の視線にさらされていた。


 「ノーパン」とか「ジェルナイト」とか、「チン・ザ・フル」とか――。

 どういうセンスだよ!? 全国に誇るのかそのネーミングセンス!?


 俺がフルチンでぶっ倒れていた動画は、学年チャット、果ては職員室にまで届き、謎のスタンプが大量に送られる日々。

 朝のホームルームで担任が小声で「……見たぞ」って言ってくるの、ホントやめろ。心が削れる。

吉田は「戦友バディ」としての株が謎に爆上がりしており、勝手にオリジナルTシャツを作っていた。

背中には「ローション・レボリューション」の文字。俺はいまこの男と友情を結んでいいのか悩んでいる。


 桜井の代わりに宮沢はたまに様子を見に来てくれる。屈むたびにメガネの奥から見える谷間がえぐい。

俺の理性はそのたびに全裸で相撲を取って敗北していた。

体育館の掲示板には「見逃すな!伝説の変態が再来する!」という手描きポスター。

やめろ。頼むからそういう伝説にはならせないでくれ。


そんな中で、エキシビションとはいえ、公式試合が近づいていくのだった。

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