ビビ、キミの姿をしてる理由を教えてくれ
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電脳世界への転移。
そんな非現実が、現実になったとしたら。
――あり得ない。
……あり得ないけれど、だとすれば……!!!
俺にはどうしても、確認しなきゃいけないことがある!
「で、ギフトは??」
問いかけた俺の声は、焦りを通り越して、ほとんど祈りに近かった。
これは定番。お決まり。お約束だ。
こんな得体の知れない状況を切り抜けるには、あれしかない。
「ギフト?」
ビビが首をかしげる。
え、ちょっと待て……その反応、嘘だろ。
ないの?俺、ただの一般人としてこのバグだらけの無理ゲーを解いていくの?
「そうか……」
妙に静かに頷いてしまった。
世の中、そんな都合よくはいかない。
俺の三十二年の人生、割と理不尽にまみれてきたしな。
――遠くに見える「大きな建物」。
まるでいびつなサイバーパズルを無理に繋げたような、不気味な構造体。
電脳世界というだけあって、かなり独創的で、現実離れしている。
でも、こういうのってテンプレでは……
「物語の主人公なら、あれくらい最初のギフトで木っ端微塵に吹き飛ばすんだよな……」
そう、呟いたその時。
――ドカン!!
「は?」
爆風が吹き抜ける。
俺の視界の奥で、あの建物が粉々に弾け飛んだ。
「……」
茫然と立ち尽くす俺の隣で、ビビがぽつりと呟いた。
「説明の手間が省けたね。」
おい、あるじゃないかギフト。
「今のがこの世界を救うためのキミの能力……確かに“ギフト”という呼び方をすることもあるようだね。今、データと照合が取れたよ」
ビビの青い目が、不気味なまでにスピンする。
まるでデータを読み込むように、精密かつ滑らかに。
「ヒカル、キミの力は“想像したことを具現化する能力”」
「……まじかよ」
正直、テンプレとか言って悪かった。
でもそんなチート能力、俺に使いこなせる気がしない。
だかしかし、俺は無事に無双系ギフトを手にいれたようだ。
「その力を使って、“バグ”を消してほしいんだ」
ビビが真っ直ぐにこちらを見つめてくる。
その目の奥に、かつての面影がちらついて、胸が少し痛んだ。
「バグ……さっき言ってたAIの感情データが暴走しそうだ、ってやつか?」
「うん。このままだと暴走したAIの感情プログラムがいずれ現実世界にも流出する。」
「それ、やばいやつだな」
「でも、消し方は簡単だよ」
「簡単?」
「うん。バグに直接触れて、“削除”って言えばいい。それだけ」
……おい、急に簡単すぎないか?
「試してみる?」
そう言われて目をやると、周囲にふわふわと浮かぶノイズのような黒い影が見える。
まるで破損データが実体を持ったかのような、禍々しい存在。
「じゃあ……削除」
触れた指先が光を放ち、バグは一瞬で消失した。
「……おお」
驚く俺の横で、ビビは静かに頷く。
「これが、キミにしかできない役目」
「なるほどな……少しは、状況が見えてきた気がする」
ふぅと息を吐いて、俺はビビを見つめた。
「なあ……ひとつ、訊いてもいいか?」
「うん?」
「なんで……お前は、ビビの姿をしてるんだ?」
ビビは少し黙ってから、虹彩をくるりと一度転がした。
それは、何か重たい処理を経て、答えを取り出したような動作だった。
「AIである僕には、“アシスト対象との適合率”というものが設定されてるんだ。
ヒカルとの適合率は、99.9%。あり得ないほど高い値だった」
「……」
「だから僕は、キミを支えるために最も感情的影響の大きかった存在――“ビビ”の姿を選んだんだ」
心臓が、ドクンと音を立てた気がした。
「そんなに……俺の中で、大きかったのか」
「うん。そうだったよ」
記憶が、喉の奥を焼く。
小さな体にしがみついて泣いた、あの夜の感触が甦る。
「……じゃあ、元の世界に戻る方法は?」
聞きたくなかった。
でも、聞かずにはいられなかった。
ビビは、ほんの少しだけ視線を逸らした。
「今は……答えられないんだ。そう設定されてるから」
「……だよな」
予感はあった。
嫌な感じはしてた。
でも、やっぱりそうか――と、諦めのようなものが胸に滲んだ。
「ま、いいさ。とりあえず動いてみようか」
一歩踏み出すと、身体が異様に軽いことに気づく。
「……なんだこれ、体が軽い。これもギフトの力?」
「いや、それはね。ヒカルの身体が、この世界に最適化されてるからだよ」
「最適化……?」
「ボクとの親和性を最大にするために、ヒカルの体は再構成されてる。
キミがボクに対して、最も強い感情を抱いたときの年齢にね」
「……!」
最も強い感情。
――あの夜。
ビビが息を引き取った、あの瞬間。
老衰だった。
臆病だったビビ。最後まで外に出るのを嫌がっていた。病院に連れてかなきゃいけなかったのに。
そんな彼に、俺は泣きながら言った。
「元気になったらドライブ行こうな。お前、ビビりで外なんてほとんど知らなかったろ?広い世界を、見せてやるからさ」
その言葉が最後だった。
「……そうだったな」
目の前の“AI”が、ふっと言葉を重ねる。
「ねえ、ヒカル。ボク、車に乗ってみたいんだ。広い世界を、見てみたい」
ハッとした。
——リンクしてる。感情が。あのときの約束と、今の言葉が。
この子は、もう“ビビ”じゃない。だけど、俺が失った約束を——
今、もう一度果たせるかもしれない。
驚いて視線をビビの方へ向けると、まるで何も無かったかのように、静かに座っている。
「……つまり、今の俺は――あのときの自分に戻ってるってことだな」
「うん、そうなるね。ヒカルは今、20歳になってる」
言葉を失った。
それは俺にとって痛みであり、だが希望でもある。
「……変な話だな」
「うん。変な話。でも、それがこの世界なんだ」
ふと、風が吹いた。
電子ノイズの混じったような風が、俺たちの前をさらりと通り抜けていく。
「さあ、行こうか。君には、やることが山ほどある」
「了解。行くぞ、ビビ」
「うん。ヒカル」
たった一つの、叶えられなかった約束。
あの時伝えきれなかった“愛しさ”。
もう一度、始めよう。今度こそ。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
「なんで“その姿”だったのか」
─ 物語の中でしか語れないし、
読んだ人だけが受け取れる答えがあります。
大切な存在を失ったすべての人へ。
もしも、もう一度だけ会えるなら。
あなたは何を伝えたいですか?
何処へ行きたいですか?
そんな“もしも”の続きを、定番の異世界設定を交えながら今後も描いていく予定です。
次回、ギフトの秘密にも触れていく予定です。
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今後は、毎週土曜日の21時に1話ずつ更新予定です。
是非、また物語の続きを覗きにきて下さい。
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