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ビビ、使命を語る


「……お前、本当に……ビビなのか?」


 ヒカルの声は震えていた。目の前にいる猫は、どう見ても“あの子”だった。


 不自然にくるくると回る、青く輝く虹彩。

 でもそれ以外は、寸分違わぬ姿。

 白地にグレーの虎柄…覚えていないはずがない。


 「ボクは“ビビ”だよ。だけど……キミの知っているビビとは、少し違う」


 その声は、どこか機械のようで、けれど妙に温かみを帯びていた。

 いや、それはヒカルの記憶がそう聞かせているのかもしれない。


 「……ここはどこだ? 俺はなぜ、こんな場所にいる?」


 ヒカルの声に、AI猫——ビビは、尾を揺らしながら答えた。


 「ここは“電脳世界”だよ。AIに感情を与える研究が進められた結果、生まれた世界」


 電脳世界——その言葉の響きに、ヒカルの眉がわずかに動く。


 「感情を与える研究……?」


 「うん。人間のように笑い、泣き、怒るAIを作ろうとした研究者たちがいてね。その実験の中で、データを集積する仮想空間として、この世界が構築されたんだ」


 ビビの言葉は、どこか読み上げ音声のようでもあった。正確で、ブレがなく、だけど心に残る。


 「でも、その感情データにバグが発生した。暴走寸前のAIたちが、ここにあふれ出したんだよ」


 「……暴走?」


 「このまま放っておけば、電脳世界は崩壊するし、現実のAI技術にも深刻な影響が出る。最悪の場合、制御不能のAIが現実の社会にまで影響を及ぼす」


 ヒカルはしばし言葉を失った。現実のAI技術とリンクしている——つまり、ここでの出来事が、あちらにも“波及”するということか。


 「じゃあ……俺は、なんでここに?」


 「ヒカル、キミは“この世界への適合率”が極めて高かった。99.9%…異常とも言える数値だよ。でもだからこそ、この電脳世界に最も適応できる人間として、選ばれたんだ」


 「選ばれた……?」


 その言葉は、ヒカルの心を微かに震わせた。


 自分が選ばれる——そんな実感は、いつからなかっただろう。

 社会の一歯車として、淡々と働き、やり過ごすだけの毎日。誰かに必要とされる感覚なんて、とうの昔に失っていた。


 「でも……なぜ俺なんだ。別に、AIの専門家ってわけでもない。ただの開発者だぞ」


 「キミは、かつて強い想いを持っていた。ものづくりに対する情熱と、未来を変えたいという理想。今は忘れているかもしれないけど、ボクには全部見えているんだよ。キミの中には、まだその“核”が残ってる」


 ビビの目が、またくるくると回転しながらヒカルをじっと見つめる。

 まるでその瞳が、ヒカルの過去、現在、心の奥底まで覗き込むかのように。


 「君にしかできないことがある。ここで、感情の暴走——バグを止める。それが、キミの役目だよ」


 ヒカルはゆっくりと息を吐いた。

 感情のバグ、電脳世界、選ばれし存在。


 正直なところ、現実感などほとんどない。だが——


 「……なるほどな。電脳世界。バグ。使命。だいたい分かった」


 ここまでの説明を、ヒカルは“異世界転生テンプレ”と重ねながら整理していた。突拍子もない話でも、どこか受け入れられてしまうのは、きっと異世界モノの読みすぎのせいだろう。


 「で、ビビ」


 「ん?」


 「ギフトは?」


 「ギフト?」


 ビビが首をかしげる。その目はくるくると回転を続けていたが、どこか困惑したような間があった。


「……」


 ヒカルは言葉を失った。

お読みいただきありがとうございました!


少しずつ、ヒカルとビビの関係が再接続され始めています。


次回は、この物語の鍵となる《ギフト》の正体に、迫ります。


まだ明かせないことも多いですが、他にも

「主人公の異変」

「なぜAIはビビの姿を模したのか」

なども少しずつ明かされていく予定です。


第3話、このあと21時10分更新予定です!

よければぜひ読みに来てくださいね!

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