モノクロの世界で君を愛す
この物語は僕こと『黒羽 智哉』がモノクロの世界で生きる彼女『夕猫 悠歌』にモノクロだからこそ伝わる方法で愛を伝えるお話…
僕にとってこの選択が正解だったのかはわからない、でも彼女が笑ってくれるのならそれだけでいい…この物語を読んであなたにとっての正解を見つけてみてください。
いつからだろう、自分の気持ちを言葉にできなくなったのは…
僕のどんな気持ちも言葉にすることは難しい
だからこそ、気持ちは色に替えて絵にのせて伝えるようになった
彼女に伝わることのない色で…
朝日が射し込む美術館の窓際で、僕は今日も1人黙々と絵と向き合っている
多くの人との関わりを求めてくる学校という場で、この時間だけが僕、1人でいられる時間だ
そんな時間も流れていき聞き覚えのある足音がこちらに近ずいてくる
悠歌「智くん、おはよう!!」
と僕に話しかけてきたのは向日葵のような笑顔のよく似合う『夕猫 悠歌』だった
智哉「おはよう、今日は朝から元気だな
いい事でもあったか?」
僕はいつもよりも元気な彼女にそう尋ねた
悠歌「そうなの!!登校中に白黒の猫ちゃんに会ってね!その猫ちゃん私の足に擦り寄ってきて可愛い声で鳴いてくれたの!!」
興奮しながら見せてきた写真には、白黒ではなく茶トラの猫がゴロンと寝転がっているものだった
興奮してて落ち着きのない彼女に対して、僕は少し複雑な気持ちで
智哉「悠歌は猫好きだよな…」
と言うと彼女はにこやかに笑った
そう、彼女には色が見えない
彼女の世界はモノクロでしか色を判別できない
これは、モノクロの世界で生きる彼女と色で伝える僕の滲んだ物語
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
僕が彼女『悠歌』と出会ったのは小学校に転校した日だった
僕は両親の仕事の関係で幼少時に過ごしていた街から離れ、この街にやってきた
昔から人付き合いは得意な方だった
だから、すぐに友達はできたし居場所もできた
ただ彼女だけが、僕を見る目が周りと違ったのを覚えている
悠歌「智哉くんって世界の色の中で白黒が好きでしょ。」
智哉「どういうこと?」
僕は今でも彼女の言ってきたことがわからない
でも、彼女のこの言葉にはなにか大切な意味があるんだと思う
それを知るまでは僕の彼女に対しての絵は完成しないだろう
なぜだか分からないが、そんな気がして仕方がないのだ
悠歌「今日はどんな絵を描いてたの!」
智哉「うーん、これはなんなんだろう…」
悠歌「なにそれ!!」
そう笑いながら僕の絵を覗き込んできた彼女は首を傾げながら絵を眺めていた
悠歌「私に色が見えたら、この絵もなにかわかったのかな?」
智哉「たぶん、色が見えてもこの絵はなにかわからないと思う…描いた僕もわかってないからね。」
悠歌「でも、色がわかれば少しは感想を言えるのにな…」
そう呟いた彼女は少し寂しそうな何か言いたげな表情をしていた
悠歌「それにしても今日は暑いねーもうちょっとで夏だよ!」
彼女はポケットからハンカチをだし、顔を扇ぎながらそう言った
智哉「悠歌は夏好きだよな、俺は暑いし汗かくしで好きじゃないんだがな。」
外の太陽を眺めながら彼女に言うと
悠歌「だって夏はいろんなことが出来るじゃない!花火に!お祭りに!キャンプに!プールに!今年も夏休みはめいっぱい遊ぶんだから!」
彼女にとって暑さが気にならないくらいに楽しみなことが多いようだった
智哉「楽しみなことがいっぱいだな。」
と言いながら、額から滴る汗を手で拭っていると
悠歌「智くん!今年こそは一緒に花火見に行こうね!去年は風邪ひいちゃって行けなかったから」
とテンション高めに言いながら、さっきまで自分の顔を扇いでいたハンカチを手渡してきた
〜♪
朝礼の5分前のチャイムが校内に響き渡った
悠歌「わぁ、もうこんな時間!智くんまた放課後ね!」
そう言って彼女はその場から走って立ち去ってしまった
僕の手には黒猫の刺繍の跡が残るハンカチがあった
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
僕の描く絵には形がない
なにを書いているのかは僕にも分からないのだから
ただ僕は色んな色を塗り合わせて僕の気持ちを形にしている
それが誰かに伝わることはない、伝わらなくてもいいとも思ってる
僕の伝えたい相手に伝わればそれで…
放課後になり教室の窓からふと空を眺めると夕立ち雲が広がっていた
智哉「天気予報では今日は1日晴れだったのに一雨降りそうだな。」
帰りまでに雨が止んでいればいいなと思いながらそんなことを呟いていた
荷物をまとめ美術室に向かって歩いていた
美術室に行くとまだ彼女はいなかった
智哉(今日はまだ来てないんだな、また頼まれ事でもされたんだろう…)
そんなことを考えながら、朝と同じ席に座り絵を描こうとした
しかし、なにか胸騒ぎがした気がして落ち着かなかった
あれから1時間が経ったが、彼女が現れることはなかった
智哉(今日は用事でもできたのか?でも連絡も入ってなかったよな…)
とスマホを開くが彼女からの連絡は来ておらず、1件の電話だけがかかってきていた
智哉(なんだこれ、公衆電話からじゃないか?なんで、公衆電話なんかから俺のスマホに電話が…)
僕の心のざわめきが大きくなるように雨が降り始めた
智哉「僕の考えすぎだといいんだけどな…」
そう思いながら彼女に電話をかけた
『おかけになった電話番号は電波の届かない所にいるか、電源が切れています。』
僕は電話を切った途端、走り出していた
智哉「すみません!悠歌…夕猫悠歌って帰りましたか?」
息を切らしながら話しかけたのは彼女のクラスの担任の先生だった
先生「君は…」
智哉「2年4組の『黒羽 智哉』です!夕猫さんと放課後に美術室で会う約束してたんですけど、もう帰りましたかね?」
先生の話を遮るようにして勢いよく伝えると先生は少し考えた後に教えてくれた
先生「夕陽さんなら早退したよ、おばあさんが亡くなられたみたいでね…」
一瞬で頭の中が真っ白になった
智哉(彼女のおばあさん…両親と仲の悪い彼女にとって唯一頼れる存在だった人…そんな人を亡くした。)
頭の中でぐるぐるとそんなことばかりが渦巻いていく
そして、僕は先生にこう聞いていた
智哉「悠歌の向かった病院を教えてください!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
彼女にとって大きな存在であったおばあさんが亡くなった
それは僕にとっても大きな衝撃だった
そして、何よりも早く彼女のことを見つけなければならないとも思った
彼女が今、病院に大人しく居るとは到底思えなかったから
智哉(早く見つけないと…)
外の雨も強くなっているように感じた
病院に着く頃には当たりは薄暗くなってきていた
僕は先生に教えてもらった病室に行くことなく、周辺の散策を始めた
先程の公衆電話からの連絡を思い出し、病院の周辺にある公衆電話を片っ端から当たった
智哉(悠歌が行きそうなところ…)
そんなことを考えていると、ひとつの場所を思い出した
この病院の近くには小学生の頃に彼女から教えてもらった小さな公園があるのだ
智哉(あそこにあった噴水…)
僕は少し考えた後にその公園に走って向かった
智哉「はぁはぁ、この奥に…」
この公園の中心には大きな噴水がある
そこは彼女にとっての憩いの場となっていたのだろう、なにかあるとよくそこで噴水を眺めている様子を見ていた
今日もやはり同じように噴水の前で立ち尽くしている彼女を見つけた
智哉「悠歌!!」
僕が彼女に声をかけた
すると、その声に振り向いた彼女は今までには見たことのない顔をしていた
いつもキラキラと輝いてる目には輝きはなくただただ黒い瞳だけが浮かんでいた
発色の良い顔色も青暗く白みがかっており、唇も紫色に変色している
僕は彼女の元に歩み寄ることしかできなかった
悠歌「私のせいだ…私が気づいてあげられなかったから…私に色が見えてれば…私のせいでおばあちゃんはおばあちゃんは…」
彼女のあと一歩の所まで辿り着くとその場に泣き崩れはじめた
みると、噴水と彼女の涙で小さな水溜まりができていた
こんな彼女を見て僕にできたのは震える彼女の手を握ることだけだけだった
そんな彼女にかける言葉が見つからなかった
彼女を病院に送り、僕も家への帰路を辿っていた
そんな最中「にゃ〜」と猫の鳴き声が聞こえてきた
鳴き声のする方を見てみるとそこには何もいないように見えた
すると影と同化していた真っ黒な黒猫が瞳を開けこちらに徐々に擦り寄ってきた
黒猫を撫でながら、本当に僕にできることは何もないのだろうか
星ひとつない真っ暗な空の下でそんなことを考えていた
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その日から彼女が夏休みまで学校に来ることはなくなってしまった
いつもの朝のような元気な声が聞こえない美術室でひとり、彼女に返すことのできなかったハンカチを眺めていた
智哉(僕が彼女にできること…)
僕は彼女への今の想いを描き始めた
これが彼女のためになるかはわからない…でも、僕にできるたったひとつのことだと思っていた
そうして何度も何度も描き直し、なんとか形にできた時には夏休みも中盤にかかっていた
やっと形になった絵を見た僕は
智哉(これがなんなのかわからない…でも、想いが伝わればいいな…)
そんなことを思いながら、僕は絵を持って目的の場所に向かった
向かったのは彼女とおばあさんが住んでいた家だった
彼女は産まれた頃から色が見えない
そんな彼女を気味悪がっていた両親から彼女を引き取り育ててくれたのが祖母であるおばあさんだったのだ
そんな大切な人を亡くした時の辛さは常人では計りしれないものだろう
でも、僕は彼女には今までのように笑っていてほしい
そんな気持ちで彼女の家のチャイムを鳴らした
一度目には反応がなかった
しかしもう一度鳴らしてみると、青ざめたような表情の彼女が顔を出した
智哉「えっと、今、大丈夫?」
彼女は声を出すことはなかったが頷いて家の中へ招き入れてくれた
家の中に入ると線香の匂いが漂っていた
静かな時間が流れている中、彼女はやっと口を開けた
悠歌「今日はどうしたの?」
覇気のない彼女のその声に対し、僕はひとつの絵を見せた
智哉「今、僕は君に対してなにを言ったらいいのかわからない…だから、僕の想いを絵に描いてみたんだ!これが何なのかは僕にもわかんないけど…」
そう言葉を続けていると突然彼女は
悠歌「花火…この絵は花火に見える!」
と言い出した
僕には初め彼女がなにを言っているのかはわからなかった
智哉「花火か…悠歌には、悠歌の目だから花火に見えるんだろうね!僕たちの目には見えてない、でも悠歌にだけ見えるものがある…それはすごいことなんじゃないかな。」
僕は気づいたらこんなことを言っていた
久しぶりだった、こんなにも自分の気持ちを言葉にできるのは
ふと彼女を見ると、彼女は涙を浮かべながらこう言った
悠歌「私にしか見えないもの…私だけが見えるもの…」
彼女はいつものような笑顔をうかべた
智哉「悠歌!今度は本物の花火を見に行こう!絵じゃなくて本物を!」
彼女の苦しみを取り除けたのかはわからない
でも、あの涙と笑顔には苦しみ以外の何かがあると僕は思う
数日後…
僕たちは近所の花火大会にやってきた
そこで、僕は花火を見ながら悠歌にこう伝えた
智哉「僕は白と黒で彩られた世界が好きだ。」
すると、悠歌は嬉しそうに笑って見せた
不幸なことこそあれどそれは幸運を招くこともあるのだ
ふたりのそばを通りかかった黒猫は森の中へ消えていったのであった
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その日から彼女が夏休みまで学校に来ることはなくなってしまった
いつもの朝のような元気な声が聞こえない美術室でひとり、彼女に返すことのできなかったハンカチを眺めていた
智哉(僕が彼女にできること…)
僕は彼女への今の想いを描き始めた
これが彼女のためになるかはわからない…でも、僕にできるたったひとつのことだと思っていた
そうして何度も何度も描き直し、なんとか形にできた時には夏休みも中盤にかかっていた
やっと形になった絵を見た僕は
智哉(これがなんなのかわからない…でも、想いが伝わればいいな…)
そんなことを思いながら、僕は絵を持って目的の場所に向かった
向かったのは彼女とおばあさんが住んでいた家だった
彼女は産まれた頃から色が見えない
そんな彼女を気味悪がっていた両親から彼女を引き取り育ててくれたのが祖母であるおばあさんだったのだ
そんな大切な人を亡くした時の辛さは常人では計りしれないものだろう
でも、僕は彼女には今までのように笑っていてほしい
そんな気持ちで彼女の家のチャイムを鳴らした
一度目には反応がなかった
しかしもう一度鳴らしてみると、青ざめたような表情の彼女が顔を出した
智哉「えっと、今、大丈夫?」
彼女は声を出すことはなかったが頷いて家の中へ招き入れてくれた
家の中に入ると線香の匂いが漂っていた
静かな時間が流れている中、彼女はやっと口を開けた
悠歌「今日はどうしたの?」
覇気のない彼女のその声に対し、僕はひとつの絵を見せた
智哉「今、僕は君に対してなにを言ったらいいのかわからない…だから、僕の想いを絵に描いてみたんだ!これが何なのかは僕にもわかんないけど…」
そう言葉を続けていると突然彼女は
悠歌「花火…この絵は花火に見える!」
と言い出した
僕には初め彼女がなにを言っているのかはわからなかった
智哉「花火か…悠歌には、悠歌の目だから花火に見えるんだろうね!僕たちの目には見えてない、でも悠歌にだけ見えるものがある…それはすごいことなんじゃないかな。」
僕は気づいたらこんなことを言っていた
久しぶりだった、こんなにも自分の気持ちを言葉にできるのは
ふと彼女を見ると、彼女は涙を浮かべながらこう言った
悠歌「私にしか見えないもの…私だけが見えるもの…」
彼女はいつものような笑顔をうかべた
智哉「悠歌!今度は本物の花火を見に行こう!絵じゃなくて本物を!」
彼女の苦しみを取り除けたのかはわからない
でも、あの涙と笑顔には苦しみ以外の何かがあると僕は思う
数日後…
僕たちは近所の花火大会にやってきた
そこで、僕は花火を見ながら悠歌にこう伝えた
智哉「僕は白と黒で彩られた世界が好きだ。」
すると、悠歌は嬉しそうに笑って見せた
不幸なことこそあれどそれは幸運を招くこともあるのだ
ふたりのそばを通りかかった黒猫は森の中へ消えていったのであった
作品を見て頂きありがとうございました。
初作品ということでまだまだ未熟者の作品でしたが、読んでくださった人の心に少しでも響いていれば良いなと思います。
いつかあなたにもこんな時が来た時、支えてくれる人がそばにいてくれることを願っています( *ᵕ人ᵕ*)