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第九話  あやかしの宴

第九話    あやかしのうたげ



八月の盆の終わり、護は少し遅めの盆休みとなっていた。

「うぅぅん……」 オリガミが目を覚ますと



「―あれ? もう6時? 護、朝よ。 仕事に遅れちゃう!」


オリガミは慌てていた。



「―護、起きて!」 オリガミが護の身体をゆすって起こしていると



「おはよ……今日から休みだよ……むにゃ……」 

 

「―あっ、そうだった」 



「じゃ、せっかく休みだし私の仕事に一緒に行かない?」


「まぁ、いいけど……」


護とオリガミは、神社に向かった。



「……ここかぁ」 護は神社の前に立ち、鳥居や周辺などを見回していた。



オリガミは鳥居前のスペースを指さし、

「ここで種売りをしているの!」 と、ニコニコして案内をしている。



オリガミと護が鳥居をくぐり、神社の中へ入っていくと声が聞こえた。



「マモル~♪」 と叫び、テマリが走ってきて護の腕を組む。



「テマリさん、元気そうだね♪」


護は久しぶりにテマリに会えたことを喜んだ。



「じいぃぃぃ……」 と、言いながら護を睨むオリガミの目がキツかった。

 


「えっ? まさか嫉妬しっとの目?」 護はオリガミの目に行き場を失う。



『プイッ』 と顔を余所にむけたオリガミは、スタスタと社務所に歩いて行った。



社務所には宮下がいた。


「はじめまして。 足立 護と言います。 オリガミがお世話になっております……」 護が宮下に挨拶をして座布団に腰をおろすと



「君がオリガミの彼氏か、よく来てくれたね」 宮下は笑顔で迎えてくれた。



「じいじ、お茶だよ……」 テマリはお茶を淹れて、宮下の横にチョコンと座った。



「マスター、今日の依頼は? 奈菜ちゃんの件とか……」オリガミは巫女の衣装に着替え、宮下に用事の確認を行っている。


 

「特にないから、神楽かぐら殿でんの掃除をしようと思っていた」 宮下は、ご機嫌な様子で言い出す。


「神楽殿?」 


「こっちじゃ」 宮下は立ち上がると、社務所の外に出る。



そして境内から少し離れた所に小さな小屋があり、神楽殿を指さした。



「あ~ 物置かぁ」 オリガミが口にした途端、宮下はムッとする。



「物置じゃないわい。 これは神楽殿と言って神様が舞って楽しむ所じゃ! 神聖な場所じゃ!」


宮下が説明すると、若い三人にはイマイチな反応だった。



「じゃ、やりますか……」


テマリは気持ちを切り替えて、神楽殿の戸を開けた。



『ボフッ』


戸を開けた瞬間、湿気交じりのホコリがテマリを襲う。



「じいじ…… 何年掃除してないのよ?」


テマリが ガッカリな口調で宮下に聞くと、



「そりゃ……五年は軽く……」


宮下も良い年齢であり、掃除など体力的に出来る事が限られていたようだ。



「じゃ、やるわよ!」 オリガミは腹を決め、中に入って戸を全て開けに行った。



全ての戸を開けると中に光が入り、ホコリが外に出て行くのが分かる。



護もホウキを持って中に入る。



そして四人で神楽殿の掃除を一気に終わらせた。



「助かったよ。 護君も手伝いをしてくれて、本当にありがとう」

宮下は笑顔だった。



「せっかくだから、ここで飲もう♪」


テマリが言葉を掛けて、オリガミと一緒に社務所に向かう。



「かんぱーい♪」


神楽殿でのどうるおした時、物陰から誰かが覗いているのにオリガミが気づいた。



そして、テマリもオリガミが見ている方向に目を向ける。



〈チョイチョイ〉 と、オリガミが手招きをすると


「えっ?」 護はオリガミの行動を不思議そうに見ていた。

「何かいるの?」 護がオリガミに聞くと


「まぁ……」 オリガミはない返事をする。



オリガミが手招きをしていたのは、神楽殿に住んでいる物の怪であった。


しかし、悪気わるぎを感じず、長いこと留守番のような事をしている者だった。



テマリは物の怪が近づくと、床をチョンチョンと叩き『ここに座れ』と言っている。



護は呆気あっけにとられていた。 


「君は、オリガミやテマリの能力を知らなかったようじゃな?」

宮下は護に言葉を掛け、笑っていた。



「はい……何がいるのですか?」 護が宮下に訊くと、



「ここに住んでいる物の怪じゃよ。 儂は気配だけじゃ、実際には見えん」

宮下はそう言ってお茶を口に含む。



護はテマリをチラッと見た。 


テマリは、護には見えていない場所に笑顔を向けていた。

オリガミも同様であった。



「よし、用意してやるか!」 宮下は立ち上がり、社務所に向かった。



それから数分後、宮下は神楽の衣装や小道具を持って来た。



「オリガミ、テマリ! 舞ってみろ!」 宮下は唐突に言い出したのだ。



「えぇ??」 オリガミとテマリは驚き、同じ言葉を出した。




そして着替え、小道具を持って神楽の舞台に並んだ。

宮下と護は横に移動し、二人を見つめた。



宮下は演奏が出来ないので、神楽のCDを掛ける。

音楽が流れるとオリガミとテマリはリズムを合わせ、神楽を舞いだした。



護は呆然と二人の舞を見ていた。 そして舞の美しさに見惚れている。


 (初めての舞で、ここまで二人の息がピッタリとは……)

 宮下は驚いていた。



シャン シャンと鳴る鈴の音が心地よく、異世界へのいざないのようであり、また宮下も目を閉じて舞のリズムを楽しんでいた。



その時、二人に見惚れていた護の目に異変が起きる。



見ていた二人の姿が()れたり、(かす)んだようにも見えてきていた。



護は何度も目をこすり、二人を見たが何回も同じ現象が起きていた。



(なんだこれ……世界がゆがんでみえる……)


護は不思議な気分になっていく。



その護の異変に気付いたのはオリガミであった。


オリガミはCDから流れる曲とは違い、早いテンポで鈴を鳴らし始めた。



オリガミが『シャン シャン』 と早いリズムで鳴らし始め、楽曲との違いを感じたテマリが舞を止める。



「オリガミ?」 テマリは、オリガミの顔を見た。



(あぁ あれか……) テマリは護を見て納得する。


宮下も、オリガミとテマリの反応を見て護の異変に気付く。



この時、神楽の舞に誘われて来た何体もの物の怪が護の身体に乗っかっていたのである。


護の眼は虚ろであった。



(本当に憑かれやすい人……くすっ♪) オリガミは微笑んだ。



オリガミは袖から折り鶴を出すと



(まさか……彼氏に見せるのか?) 宮下の額に汗が流れる。



そしてオリガミの前に『ポン ポン』 と音がして式神たちが現れた。


「オリガミ~♪」 式神たちが声をだす。



「式神たち、護の身体にいている者を引きはがして!」


オリガミは式神たちに指示をして、護を指さした。



護は(かす)んでいる目でオリガミを見る。

(何が起きているんだ?) 


 式神たちは護の背中で、物の怪を引きはがしにかかった。


 「よいしょ……よいしょ……」



そして護の身体は軽くなり、目もしっかり見えてきた。



「護、大丈夫?」 オリガミは護の顔を覗き込むと 



「大丈夫だけど、何があったの?」 護は周囲をキョロキョロする。


「本当に、護は憑かれやすいんだから……」 オリガミはため息をついた。



(確かに疲れやすいよな……食事、見直さないとな……)

護は違う意味でとらえていると、



「おぬし、憑りつかれやすいと言っているんじゃよ!」 宮下が補足ほそくをする。


「オリガミもテマリも見えるんじゃよ。 そして追っ払ったのじゃよ」



「この先を聞いて、もう後戻りはできんが聴くか?」

宮下は、護に覚悟を試したのだ。



護は一度、下を向いたものの覚悟を決め、

「はい。 聴きます」 と返事をする。



そして、護は大体の経緯いきさつを聞いた。 


それで全てが解った訳ではないが、オリガミは特殊な能力が備わった女の子と言うのが解った。



(確かに植物から生まれたんだし、普通じゃないもんな……)


護の良い所は、単純で物分かりが良いところだ。



「それでオリガミは、俺を守ってくれたんだね……」

護はオリガミに感謝していた。



「しかし、式神と言うのを使うんだね……」


護は理解してはいないが、凄いというのは分かったつもりでいた。


「ま、まあ……」 オリガミは照れていた。



「それでテマリさんは、巨大な龍を出すんでしょ?」

護が言うと、どうも軽く感じる響きであった。


「まぁね……」テマリも照れくさそうに頬を指で掻いていた。



「ボール、7つ集めてないのに龍を出せるなんて凄いよね」 護は付け足した。



(この言葉の軽さは、この意味だったのか……)


オリガミとテマリが感じる違和感は、“あのアニメのせいか……”と思った。



「も、もう一回舞おう!」 テマリは宮下にCDをかける合図をすると



音楽が流れるとオリガミとテマリは静かに舞を始める。



宮下と護は惚れ惚れするような二人の舞に目を奪われていった。



……そして舞が終わると二人から拍手を受ける。


オリガミとテマリから見えるのは宮下と護、そして無数の物の怪が拍手をしている姿であった。


(もしかして、呼び寄せてしまったのかしら……)

オリガミは苦笑いをしていた。



「見事じゃ、秋が楽しみじゃ♪」 宮下はご機嫌だった。



「じいじ、秋に何かやるの?」 テマリは宮下に聞いた。



「今年は小さいながらも、祭りを出したい。 せっかくお前たちが居るんじゃ、ここにまつられている神様にも楽しませないとな♪」


宮下はご機嫌になっていた。



「賛成です。 俺も手伝わせてください」 護のテンションも上っていく。


「そうか、頼むぞ!」 宮下は護に感謝していた。



そして夕方になり神楽殿を片付け、戸を閉めた。



「今日は楽しめた。これはバイトの給料とは別にチップじゃ♪」


宮下はオリガミとテマリにお小遣いを渡す。



「うひゃ♡ ありがとうございます」



「よし、飲みにいこーぜ♪」 テマリが提案し、自動販売機の前まで歩いてきた。


(……飲みっていっても水なんだよな~) 護は苦笑いをする。



当然ながら水で乾杯をした。

楽しそうな二人を見て、護も笑顔になっていた。



すると、楽しく自販機の前で時間を過ごす三人の前に、一人の少女が現れた。


奈菜である。 奈菜はゆっくりオリガミに向けて歩いてきた。



「奈菜ちゃん♪」 オリガミは奈菜に気づき、声を掛けたが奈菜は返事をしなかった。


「誰?」 テマリはオリガミに聞いたが無言だった。



「ごめん……」 テマリはオリガミに先に謝って、手をオリガミに向けた。


テマリの手から植物の弦を出して、オリガミの頭に触れた。



「なるほど……」 テマリは納得して奈菜を見つめた。



「何? 何をしたの?」 護は頭がパニックになっていった。



手から弦が出て頭に触れると、“出来事や記憶したものを読めること ” を護は知らなかった。



「オリガミさん……」 奈菜は呟き、オリガミに向けてダッシュをした。


「―ヤバい」 テマリは反応したが奈菜の方が早かった。



「良かった~♪ オリガミさんが友達になってくれるってパパから聞いて、会いたくて来ちゃいました♡」


そう言って奈菜は、オリガミに腕を絡ませてきた。



「へっ?」 オリガミは奈菜の行動に驚いていた。



「オリガミさん、大好きです♡」 奈菜はオリガミが大好きになったようだ。



奈菜はオリガミと腕を組んでいる時間が嬉しかったようで、ずっと笑顔だった。



「護、ごめんよ……」 そう言ってテマリは指を護の額にあてる。



「まあまあ、護……浮気じゃないからくな!」


テマリは意地悪な笑顔を護に見せた。



そしてオリガミは奈菜を見送り、自宅に戻した。



「しかし、脳の共有も出来るんだね……」 護は二人の能力に驚いていた。



「そうよ。 護がオリガミを裏切って、誰かと浮気してもバレるからね♪」


テマリはウインクしながら護に釘を刺す。



横で頷くオリガミに、護は苦笑いするだけであった。

「あは、あははははは……」






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