第六話 オリガミの力(ちから)
第六話 オリガミの力
宮下とオリガミは依頼主の所へ来ていた。
依頼主の家は豪邸であり、どこかの会社を経営しているとのことだった。
オリガミは応接室に通され、部屋をキョロキョロしていると
「これ、落ち着きなさい!」 宮下が注意する。
「お待たせしました。 会社からの電話が入ってしまって……」
しばらく待っていると、依頼主が応接室に入ってきた。
依頼主が頭を下げてソファーに腰を掛けると
「宮下さん。 今回はよろしくお願いします。 それと、こちらのお嬢さんは……?」
依頼主は宮下だけだと思っていたらしく、少し驚いた表情をみせていた。
「ぎょ依頼、ありがとうごじゃいます。 九条 オリガミと言いましゅ……」
何度も説明しているが、オリガミは相当な人見知りである。
依頼主も宮下も目が点になっている。
「こ、こほん……私は矢沢と申します。 この度は本当にありがとうございます。」
「それでお願いですが……私の娘の事でして……」
矢沢が娘の写真をオリガミの前に差し出す。
その写真には女子高生くらいであろうか、笑顔で可愛らしい女の子であった。
「この子がどうしました?」
宮下が女の子について詳しく聞こうとしていた時、
『コン コン』
「失礼します……」 応接室のドアをノックして、一人の女の子が三つ分のコーヒーを運んできた。
その視線が女の子に集まる。
女の子が静かにコーヒーをテーブルに置くと、背を向けて応接室から出ようとしていた。
「あ、あの……しゅみません……私、お水を頂けないでしょうか?」
オリガミは女の子に飲み物を替えて欲しいと言った。
「はい。 すぐお持ちしますね♪」 女の子は、早歩きで応接室を後にした。
オリガミは依頼主の矢沢に目を向けると、矢沢は深いため息をついた。
「彼女の事ですね?」
オリガミが矢沢にコーヒーを運んできた女の子が、“依頼の人 ”なことを確認する。
矢沢はソファーに深く座り直し肩を落とした。
「名前は菜奈と言います。 ここ最近、高校を不登校になり……家に居るのですが、突然に人が変わったように大声を出したりして……」
矢沢が軽く奈菜の事を話し始める。
そこに奈菜が入ってきた。 そして、オリガミが頼んだ水を持って来た。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
オリガミは少し雰囲気に慣れたようで、普通に喋れるようになった。
奈菜が応接室を出ていくと、
「そこで、人が変わった原因を探って欲しいのじゃな?」
宮下が矢沢に依頼内容を確認し、矢沢は頷いた。
「わかりました。 あの……もう一度、奈菜さんに会えますか?」
「わかりました。 こちらへ……」
矢沢は、オリガミたちを奈菜の部屋まで案内をする。
そして二階に行き、奈菜の部屋の少し手前に差し掛かった所で
(――んっ? この糸のような物は……)
「止まって下さい!」
オリガミが矢沢の足を止める。
オリガミは人差し指を口に当てた。 静かにしろとの合図である。
そして、オリガミが小声で話し出す。
「ここから結界が張られています。 おそらくですが、奈菜さんが大声を上げる時って、これじゃないですか?」
オリガミは手で宮下に『行け!』の合図をした。
宮下が頷き、奈菜の部屋に近寄ると
「誰だーっ? ぎゃーっ」 と、奈菜の大声が聞こえた。
「これは結界と言って、予防線のようなものです。 不意に近づこうとするとセンサーが働くのです」
オリガミが矢沢に大声の意味の説明をする。
矢沢は納得できてないが、言われている意味を理解しようとしていた。
「では、ここからですね……」 オリガミの言葉に宮下は頷いた。
『コンコン』
「失礼します……」 オリガミは奈菜の部屋のドアをノックし、ドアを開けた。
部屋の中は綺麗に整頓されているが異様な空気が漂っていた。
『クンクン……』
女性の部屋の甘い香りの中に香のような匂いがする。
奈菜は、嫌そうな顔でオリガミを見ている。
「あの、奈菜さん……身体に異変が起きたのは、いつ頃ですか?」
オリガミは嫌そうな目をしている奈菜に優しく聞いた。
「別に異変なんかないわ! 帰ってよ!」 奈菜の言葉が徐々《じょじょ》にキツくなっていく。
矢沢も、娘の見た事のない顔つきに驚いていた。
「さぁ 原因を探そう!」 宮下が部屋の隅まで見て回る。
憑き物の出入り口があるか、それとも怨念などが宿った物があるかどうかだ。
『コンコン……コンコン……』
宮下が奈菜の部屋の壁を軽く叩く。
出入り口の反応があるかどうかだ。
奈菜は厳しい顔をして、下を向いたまま手を震わせていた。
宮下は奈菜の部屋の至る所を叩いて回った。
そこで奈菜がクローゼットの扉を叩かれた途端、顔を上げる。
「―そこです!」 オリガミは声をあげた。
宮下が お経のような言葉を発しながらクローゼットの扉に手を掛ける。
「―やめろー」
奈菜が大声を出し、宮下に襲い掛かろうとする。
「―矢沢さん、部屋から出てっ!」 オリガミが矢沢に叫んだ。
「―わかった!」
矢沢は奈菜の部屋から急いで出て行った。
矢沢が部屋から出ていった瞬間、オリガミの腕が植物の弦に変わり、奈菜の身体に巻き付ける。
宮下は奈菜が身動きがとれない事を確認すると、クローゼットの扉を開ける。
クローゼットの中には衣服の他に、不気味な顔をした人形があった。
そして人形からは香のような匂いを発していた。
宮下が人形に手を掛けようとすると、香の匂いが一層強くなっていく。
まるで、誰も近づけないように抵抗しているようだ。
宮下は、匂いの強さに後ろに下がってしまった。
「こりゃ、近寄れんわいっ!」
そう言って打開策を考えていく。
「―マスター 下がって!」 オリガミが宮下に指示を出す。
「―儂は喫茶店もスナックも経営しておらん!」
宮下もつられて応戦してしまう。
「奈菜さんを部屋の外に出してください!」
オリガミは弦を引っ込め、奈菜を宮下に渡す。
宮下は奈菜の肩を抱きかかえ、部屋の外に出して奈菜を抑えつけた。
オリガミが両手に折り鶴を四つ取り出し、中に種を入れる。
部屋の外に出ていた奈菜はガタガタと震え始め、うずくまってしまった。
宮下は奈菜が動けないことを確認すると、部屋の中に入っていく。
「おぬし……?」 宮下は、オリガミの姿に驚いていた。
オリガミは種の入った折り鶴に言葉を掛け、
『フッ』 と息を吐きかける。
息を掛けられた 四つの折り鶴は、眩しいほどの光を放ち、姿を変えていった。
『ポン ポン……』 と音が鳴り、小さな4人の子供が現れた。
それも二十センチほどの可愛い顔をした、子供たちであった。
「オリガミ~♪」 四人の子供たちは、同時に叫び
「僕は青龍。 私は朱雀。 僕は玄武。 僕は白虎……」
それぞれを名乗っていった。
「まさか式神……?」 宮下は、開いた口が塞がらなかった。
「オリガミ……コイツを封じればいいの?」 青龍が確認すると、
「えぇ お願い!」
「わかった!」 式神たちは高い声で応えた。
すると式神たちは香の強い人形の元に向かい、睨んだ。
式神の一人、朱雀が人形の横に立ち
「こら! 悪さしちゃ メッ! だよ」
と言って人形の頭をコツンと叩いた。
朱雀は、式神の中で唯一の女の子である。
叩かれた人形は興奮し、さらに強い香を出していく。
そして部屋中に香の強い匂いが充満していった。
宮下が涙目になり鼻を押さえる。
オリガミは表情を変えず、人形を睨んでいる。
「じゃ、アレでいくよ!」 式神の一人、白虎が声を出すと、四人の式神は手をつなぎ、円になった形で人形を囲んだ。
そして、式神たちは人形を囲んだままクルクルと回りだした。
段々と式神たちの回転は速くなり、誰が誰だか見分けがつかなくなるほどの高速回転をしていった。
そして式神たちと人形がひとつの光となり、部屋全体が眩しく光る。
宮下は目を細めたが何も見えていない。
しばらくして式神たちの回転が止まり、光が薄れていく。
「よし……」 式神の青龍が声を出すと
すると人形はゆっくりと崩れ、灰になっていった。
オリガミは灰になった人形を見ると
「滅セージだ……」 やはり、この言葉を出す。
オリガミは部屋を出て、廊下で気を失っていた奈菜に声をかける。
「奈菜さん、もう大丈夫よ……」
オリガミは優しく奈菜を抱えた。
すると奈菜は目を覚まし 「ここは?」 と声を出した。
「この扉の向こうが奈菜さんの部屋よ! つらかったね……」
オリガミは奈菜の髪を撫でた。
奈菜が起き上がり、我にかえる。
そして部屋に入り、クローゼットを見ると
「……」 奈菜は言葉にならなかった。
「オリガミ~ 僕たちは帰るね♪」 式神たちはオリガミに声をかけた。
「ありがとう♪」 オリガミは式神たちにお礼を言って折り鶴に返した。
宮下は奈菜をベッドに寝かせ、部屋を後にする。 そして、矢沢の所に向かうと
「とりあえず成功じゃ、娘はしばらく休ませるようにな……」
宮下が矢沢に報告と注意事項を話した。
「ありがとうございます。 これ、お礼の……足りなければ言ってください」
矢沢は頭を下げ、除霊代を渡してきた。
「それと……お嬢さん、本当にありがとうございました」
矢沢がオリガミにも頭を下げてきた。
「ひゃい! ありがとうございましゅ……」
オリガミは戦っている時は凄かったが、終わってみると人見知りの女の子に戻っていた。
「……」 宮下と矢沢はオリガミの様変わりに言葉をなくしている。
そして矢沢の家を後にし、宮下と一緒に神社へ戻ると
「しかし、式神を使える者がいるなんてな……いつからじゃ?」
宮下は初めて見る、式神に興奮していた。
「実は……私、初めて使ったんです。 式神とか知らないし……無意識でした……」
オリガミの告白に宮下は驚いていた。
「なのに式神を呼び寄せる事が出来るなんてな……」
宮下は、オリガミの能力の高さに感服していた。
「とりあえず今日のバイト代じゃ!」
宮下はオリガミにバイト代を渡した。
「ありがとうございます。 ってこんなに? 種を売っても一日 千円いくかなのに……」
オリガミの特殊能力を、種売りの価格と天秤にかけていたことに宮下は苦笑いするしかなかった。
「じゃ、今日は帰りますね。 護も会社から帰ってきますので……」
オリガミは神社を後にし、帰宅する。
オリガミは護が帰ってくるのを部屋で待っていた。
そして 「ただいま~」 と護の声がした。
「おかえり~♪」 オリガミはパタパタと玄関まで迎えにいった。
「新しい場所で種を売っているんだよね? どうだった?」
護は、種売りだけの仕事しか知らなかった。
「う、うん……まずまずかな……」 オリガミは少し困った様子で答える。
(憑き物の退治なんて、まだ言えないかな……)
オリガミは悩んだ末に、もう少し護には黙っておくようにした。
やがて入浴タイム。
「あぁ 気持ちいい♡」
オリガミは満足そうに水風呂に入り、そこから湯を沸かして護が入ることになっていた。
「おやすみなさい♪」
別々の布団で寝たはずの二人だが……
夜中、 『モゾモゾ……』 とオリガミは服を脱ぎ捨て、護の布団に入っていくのであった。