第五十九話 かぐや姫は罪なヤツ
第五十九話 かぐや姫は罪なヤツ
「おはよう……」 テマリが朝早くに目が覚める。 隣にはアメノウズメと竹輪が寝ていた。
「まだ暗いか…… もう少し横になっておくか」 テマリが布団に入り直そうとすると竹輪が目に入る。
「えーっ?」 テマリが大声を出すと、アメノウズメも起きてしまう。
「どうしたの? テマリ……」 アメノウズメが目を擦りながら起き上がり、テマリが見ている竹輪を目で追うと
「うそ……」
竹輪は成長し、立派な女性になっていた。
陽が昇ると、竹輪が目を覚ます。
「おはよう……」 竹輪が挨拶をすると、テマリとアメノウズメが黙ったまま竹輪を見つめる。
「どうしたの?」 キョトンとする竹輪に
「どうしたの?って、鏡を見てみなさいよ」 テマリが鏡を持ってくる。
そこに映っていたのは、成人したかのような竹輪だった。
「成長、早くない? ドーピングしてもならないわよ」 テマリが言葉を漏らすと、
「ドーピング?」 アメノウズメがキョトンとする。
説明していると時間が掛かってしまうので、テマリが軽く説明すると
「やっぱり竹輪は変な子だったんだ……」 二人は納得してしまう。
数日後
「アメちゃん、ご飯まだ?」
態度は竹輪そのものだが、容姿が違いすぎて疑ってしまい
「本当に竹輪?」 何度も聞いてしまう。
成長につれ竹輪の食事量が増えていき、体重がみるみると増えていく。
(ただの肥満じゃん……)
オリガミは休みを貰っていた。 護と旅行に出かけていると聞き
「いいな~ 護と旅行か~」 アメノウズメが悔しがっていると
「まだ護を狙っていたの? 諦めなさいって……」
テマリが忠告をしている。
その横で竹輪が聞いていた。
後日、オリガミが旅行から帰ってくると
「みんな~ ただいま~♪」
オリガミは、全員にお土産を買ってきたようだ。
「マスターのもあるよ~」
「すまんの…… どれ、何を買ってきたんじゃ?」 宮下がニコニコしてやってくると、
「これ、マスターには唐辛子」 「アメ子には飴」 「テマリにはタオルだよ」
(そのセンスは何処から持ってきたんだ……) 全員が絶句してしまう。
もちろん、宮下も困った顔をする。
「オッキーには、線香を買ってきたのよ♪」 オリガミがドヤ顔で話していると、
(姫の頭の中はどうなってるの? てか、何処に旅行へ行ったか分からない土産ばっかり……)
そこで宮下が勇気を出して聞いてみる。
「オリガミや…… 何処に旅行に行った? 何の観光地とも書いていないんだが……」
「んっ? 千葉県よ。 見て分からない?」 オリガミがキョトンとすると、
(どれが千葉なんだ? ただのタオルだし、飴はスーパーでも買えるものだし……)
三人は、真剣に千葉の文字が出てこないかを探していると
「私のは?」 竹輪が聞いてくる。
「えっ…… あの、誰でしゅか……」 オリガミの人見知りが発動してしまった。
オリガミが最後に会ったのは、竹輪の見た目が小学生くらいの時だった。 ほんの数日で大人の容姿になり、激太りをしてしまったのだ。
「ぷっ―」 テマリとアメノウズメが吹き出しそうになっていると
『ジロッ―』 竹輪が白い目で睨みつける。
「あはは、オリガミ…… 忘れたの? 竹輪よ」 テマリが教えると
「……」 オリガミは固まってしまう。 よほどの違いだったようだ。
「馬鹿にするな~」 竹輪は怒りだし、オリガミに向かっていく。
オリガミは袖から折り鶴を出し、上に放り投げる。
「オリガミ~♪」 久しぶりに式神の登場である。
「式神たち、あの肉の塊を押さえ込んで」
「わかった~♪」
すると、式神たちは紐を取りだして竹輪の周りを回り出す。
「よし、引けー」 白虎が声を出すと、式神は四方へ紐を引く。
竹輪は縛られ、動けなくなってしまった。
そこで三人が思ったことは……
(中華屋がチャーシューを作る時って、こんなだったような……)
大八洲出身の三人は、見事にイメージも一緒だったようだ。
「あれ? お前、見たことあるぞ」 玄武が竹輪を見つめている。
「玄武、知っているの?」 オリガミが聞くと
「この人、『かぐや』じゃない?」 青龍が言い出す。
「やっぱり『かぐや姫』?」 アメノウズメが目を見開く。
「これじゃ、竹に入っていたなんて信じられないけどね……」
朱雀は哀れんだような目で。かぐや姫を見つめると
「これで月に帰れる?」
「…… おそらく籠も重量オーバーよね…… 運ぶお付きの人には拷問よ……」
「竹輪! あんた、痩せなさいよ」 オリガミが怒鳴ると
「竹輪? 誰が?」 式神たちはキョロキョロする。
「オリガミが名付けたのよ……」
「あ~……」 式神たちが苦笑いになる。
「こうしちゃいられない。 あと一ヶ月で月に帰るまで…… ダイエットしましょう!」 アメノウズメが目を輝かせると、竹輪が首を振る。
「表、出ろい!」 式神たちが紐を引っ張り、社務所の外に連れ出した。
「竹輪、走るのよ」 テマリがランニングを強要すると、式神たちが紐の形を変えて
「行くよ」 青龍が紐をお腹に縛り、無理矢理走らせる。
「ぜぃ ぜぃ……」 すっかり肥満になった竹輪は、ほんの数歩で息が上がっていた。
「この後は踊りよ!」 アメノウズメが舞を見せ、同じように踊らせると、
(ただ肉が波打っているしか見えない……) オリガミとテマリは苦笑いになってしまう。
竹輪のダイエットを始めて5時間。 一向に痩せる気配がない竹輪を見て、三人は悩みだす。
(どうしたら痩せるのかしら……) 全員が悩んでいる隙に、竹輪が水を飲もうとする。
「ダメッ!」 朱雀が水を取り上げると、
「チッ―」 竹輪が舌打ちをする。
(これは昭和のスポーツを感じるな……) 近年は、温暖化やスポーツの学者などから『水分は必要』と言われているが昭和の時代は『水は禁止』という部が多かった。
そこに護がやってくる。
「オリガミ~」 手を振る護をチラッと見ると
「さて、頑張りますか……」 竹輪が走り出す。
(おっ? 急にどうした?) 全員が驚いた表情をすると、
(はは~ん♪) 朱雀だけが気づいたようだ。
すると、朱雀は竹輪の元に飛んで行く。 そして耳打ちを始めた。
「ねぇ かぐや…… 護はやめときな。 オリガミに怒られるよ」
「なんで? 貴女、オリガミの式神だからって邪魔しないでよ」 竹輪が言い返すと、
「もう月に帰るんでしょ? いいじゃない」 朱雀と竹輪で女子トークになっていた。
「ダメ、ここに残る。 そして、あの人に振り向いてもらうんだから……」
完全に居直ってしまった竹輪。 これには朱雀も困ってしまう。
(折角、やる気になったから邪魔しても悪いか……) 朱雀は思考を切り替え、竹輪のやる気を尊重した。
そして夕方、オリガミは護と遊んでいる頃に朱雀が話しかけている。
「ね~ 竹輪~ 護のどこを好きになったの?」
「なんかビビッと来たのよ。 この人! って……」
それを聞いた朱雀は(やれやれ…… まぁオリガミには刺激になるかな)
そう思ってニコニコしてしまう朱雀であった。
それから竹輪はダイエットに励んでいく。 すると、成長が早かったように体重の減少も早かった。
「凄いよ竹輪! 一日で十キロも減っているわよ」
体重計に乗っている竹輪は鼻息が荒かった。
(ふっふっふっ…… 私をナメるなんて千年早いわよ)
竹輪が悪い顔になっているが、大八洲出身のオリガミたちは推定二千年生きている。 少し相手が悪かったようだ。
夜、竹輪は月を見ながら祈りを捧げる。
(あの人が振り向いてくれますように……)
すると、祈りが届いたのか
(なんか寝苦しい…… ハッ― なんで、あの太った女の子が頭に浮んだんだ?)
護は悪い夢だと思い、気持ちを切り替えて また眠りについたのだった。




