第五十八話 もう一人の姫
第五十八話 もう一人の姫
深夜、オリガミは夢にうなされていた。
「う~ん……」 何度も寝返りをうつと、 「どうしたの?オリガミ」 護を起こしてしまう。
オリガミは布団から出て、頭を悩ませている。
朝になり、護が起きると
「オリガミ……?」 椅子に座ったまま眠っていた。
(服、着なさいよ) 護は複雑の表情で洗面台に向かい、顔を洗う。
護は静かに出社しようとしたが、
「本当にゴメン……」 オリガミが目覚め、護に謝っていた。 それは朝食を作れなかったからである。
「大丈夫だよ。 うなされていたみたいだけど、何の夢だったの?」
護が聞くと、オリガミは困った様子で
「なんか、神社に竹が出てくるのよ……」 オリガミが話すと、護は苦笑いを浮かべる。
(まぁ、オリガミは不思議な人だからな……) 神社に竹があっても、うなされる事ではないと思いながら護は出社していく。
そして、神社に向かうオリガミは竹が頭に引っかかり悩んでいた。
「おはよう~」 オリガミが神社に到着すると、テマリやアメノウズメが挨拶をするが、
「どうしたの? テマリ……」 オリガミが顔を覗き込む。
「あぁ、オリガミ…… なんか、変な夢を見てさ……」 テマリが呟くと、
「私も! 神社に竹が生えているのよ!」 オリガミが興奮して話す。
どう見ても、尊神社には竹はない。
(とうとう姫も呆けたか……) アメノウズメとオッキーは思っているが、
「私も同じ夢を見たの……」 テマリも言い出す。
「えぇーっ?」 これには全員が驚いてしまう。
「ついに、テマリまで……」 アメノウズメとオッキーが、テマリから距離を取ると
「私までアホになったって言うの?」 テマリは怒り出す。
「アホ? どこに居るの?」 オリガミはキョロキョロすると、
「お前しか おらんだろ……」 そこに宮下が出てくる。
「私か……」 オリガミは、ショボンとしながら社務所に入っていった。
「でも、姫と同じ夢なんてね……」 アメノウズメが言うと、
「二人は双子なんじゃ。 同じ構造だろうし、あっても不思議じゃないわい」
宮下の言葉に、納得できないテマリは
「じいじ、なんて酷い事を言うの……」 そう言って、涙目になってしまう。
(どうしても姫と同じは嫌なのね……)
そして全員で神社の庭を掃除していると、
「あった……」 テマリが驚きながら言いにくる。
「何があったの?」 社の裏手に回ると
「あった……」 そこには一本の竹が生えていた。
「今まで、なかったわよね?」 アメノウズメがキョトンとすると
「まさか? かぐや姫とか?」
「じいじ、あの神話の?」 テマリは話すが、オリガミだけは違っていた。
それは、頭に名曲『神田川』が流れていたからだ。
「オリガミ、それは違うわよ」 テマリが頭を叩く。
テマリとオリガミは、不思議と伝わってしまうらしい。
「それなら切ってみようよ」 オリガミは社務所からノコギリを持ってくると、
(なんか、かぐや姫を真っ二つにしそう……) 全員から不安がよぎる。
“ギコギコ……” オリガミは迷いなく、竹を切り始める。
「大丈夫?」 全員が唾を飲み込むと、
「いた~♪」 オリガミが叫ぶ。
「本当じゃった……」 宮下が目を丸くする。 そこには本当に竹の中に赤ちゃんが入っていた。
「でも、赤い手ぬぐいがないよ」 オリガミが言うと、
「もう良いって……」 呆れてしまうテマリである。
「あれ? 手紙も入っている……」 オリガミは、赤ちゃんより先に手紙を取り出すと
(赤ちゃん、取ってやれよ……) 全員が同情の目をする。
その手紙を読むと、三ヶ月育てたら月に返して欲しいと書いてあった。
「なんか、竹取物語を強引に実行させようとしているわね……」
これには納得ができないテマリである。 「誰が指示しているのよ?」 アメノウズメも不思議そうな顔をする。
「確か、平安時代の物語だったかのう……」 宮下が思い出していると、
「少し前のことか……」 アメノウズメが言うと、宮下は困ってしまう。
(千年前を「少し前」と言うなよ……)
「しょうがない。 警察に連絡よ」 オリガミが言うと
「う~ん 正論なんだけど、物語からは脱線するわよね……」 テマリは困ってしまった。
そこに、栗林がやってくる。 「おはよう♪ 朝ご飯ある?」
「今、それどころじゃないのよ! って、ご飯なら店でモーニングしなさいよ」 これにはアメノウズメも怒っていると、
「どうしたのよ?」 栗林が覗き込む。
「うえっ― 誰が押し込んだのよ?」
「しとらんわい。 入っていたのよ」 こうして話ばかりして、一向に赤ちゃんを取り出す気配もなく三十分がすぎると、
「まぁ、盛上がったし こうして……」 オリガミは、切った竹を戻そうとする。
「アンタね~ 可哀想だと思わないの?」 これにはテマリも怒り出す。
「なんでよ? じゃ、テマリが育てなさいよね」 オリガミが反論すると、
「うぅぅ……」 テマリは黙ってしまい
(初めて姫に言い負かされた……) アメノウズメが苦笑いになっている。
「まぁ、いいじゃないか。 子供一人、育てようぜ」 栗林が竹を掴む。
「九尾、大丈夫?」 心配になった、アメノウズメが覗き込むと
「おぉ……」 そこには可愛い女の子が出てきた。
「可愛いじゃない♪」 全員が赤ちゃんを覗き込むと、目が開き
「なんで、すぐに取り出さなかったの?」 赤ちゃんが喋りだす。
「いや~ 今後の事とか、名前の相談していたのよ」 テマリが焦って言い訳を並べると、
「ふ~ん……」 赤ちゃんは、腑に落ちない返事をする。
(なんか、可愛くないな……) 神々から見た リアルかぐや姫の印象は悪かった。
それから尊神社で赤ちゃんを育てる訳となったのだが……
「名前ね~」 全員が悩み始める。
「せっかくだから『竹』を入れてみようよ!」 アメノウズメが言い出すと、
「竹子」「竹蔵」「竹実」など、色々な案が出てくる。
「「竹蔵」って、男じゃないのよ!」 怒り出すテマリだが、
「すまん……」 宮下が謝ってきた。
「オリガミは何か思い浮かんだ?」
「竹輪……」
「はい? ちくわ?」 全員が唖然とするが、
「いいじゃん♪ おでん、美味しいし……」
九尾が喜んでしまった事により、かぐや姫の名前は “竹輪 ”になってしまった。
「ま まぁ、姫が付けてくれた名前だしね」 アメノウズメが言うと、全員が黙ってしまう。
(私なら恥ずかしくて外を歩けないわよ……犬じゃあるまいし……)
こうして、リアルかぐや姫は『竹輪』として育っていくことになる。
しかし、赤ちゃんからの成長速度が速く、竹輪は子供に成長していく。
「竹輪、ミルクですよ~」 アメノウズメが抱きかかえると、
「アメちゃん、ミルク出るの?」 オリガミが驚くと、
「出ないわよ。 さっき、慌ててテマリが買ってきたのよ」
こうしてアメノウズメがミルクをあげると
「なんか、重い……」 一口のミルクで成長していく。
こうして三日が経った頃、竹輪は5歳児くらいの大きさになってしまった。
「竹輪、ミルク飲む?」 アメノウズメが聞いても首を振る。
「もう離乳食かしら?」 テマリが買ってきた『初めての子育て』という本を参考にしていると、
「もう過ぎているわね……」 竹輪の成長速度に驚いてしまう。
「なんでも、かぐや姫は三ヶ月で月に行ってしまうそうじゃ……」
宮下が絵本を買ってきて説明すると、
「あらあら、もうお爺ちゃんになったのね♪」
アメノウズメは、宮下を見てクスクスと笑う。
その後も竹輪が大きくなり、神社でボール投げをして遊んでいた。
(子供が出来たら、こんなに楽しいのね……)
オリガミ、テマリ、アメノウズメの三柱は、母性が芽生えてしまったようだ。
(これも、悪くないのぅ……) 見つめる宮下も立派に好々爺になってしまう。
一ヶ月が経った頃、
「アメちゃん、遊びに行きたいよ…… 神社なんて、つまんない」
竹輪は反抗期を迎えてしまう。
「おはよう♪」 オリガミが出勤すると、
“じーっ ” 竹輪がオリガミを見る。
「どうしたの? 竹輪……」 オリガミがキョトンとすると、
「なんだ、アホの方か……」 竹輪が暴言を吐き出す。
『ドカンッ―』 社務所に大きな音がする。
「どうしたの??」 慌てて社務所テマリとアメノウズメがやってくる。
「コイツ、生意気な口を叩いたからドロップキックを入れてやったのよ!」
オリガミがドヤ顔をしながら説明すると
「うえーん―」 竹輪が泣き出した。
「竹輪??」 慌てて駆け寄る、アメノウズメ。 テマリはオリガミに怒鳴る。
「オリガミ、子供に何てことするのよ」
「コイツが生意気な事を言うものだから、お仕置きしたのよ」
オリガミは悪びれることもなく、竹輪を睨むが
竹輪は、アメノウズメ抱きつき泣いている。 そして、チラッとオリガミを見ると 「べーっ」 舌を出して挑発を始めた。
(この、クソガキ……) オリガミの奥歯から “ギリッ……”と音がする。
それから竹輪の成長が続き、二週間で小学生のようになってしまう。
竹から出てきた時は赤ちゃんだったのだが、小学生くらいの大きさになってしまうと
「もう、可愛いじゃないわね……」 アメノウズメも苦笑いになってしまう。
「おはよう♪」 オリガミが出勤してくると、
“プイッ―” 竹輪は顔を背け、挨拶さえしない子になってしまう。
そしてオリガミが睨むと、アメノウズメに隠れて怯えた姿を見せると
(コイツも、かまととブス……)
テマリにも性格がバレてしまうようになっていく。
テマリがオリガミに合図をすると、オリガミが頷く。
そこからオリガミたちが反撃に出る。
境内でテマリとオリガミが種を出し、食べている仕草を竹輪に見せると
「何を食べているの? 私にも頂戴」 竹輪が手を出す。
「食べたいの? これは大人のお菓子だから子供には無理よ」
オリガミが笑顔を見せると
「美味しそうに食べてるじゃない。 頂戴!」 竹輪が催促する。
「しょうがないな……」 オリガミが種を渡すと、竹輪が口の中に入れる。
ニヤリ…… オリガミとテマリは悪い顔になる。
「う、うぎゃー」 竹輪が悲鳴をあげる。 ただの唐辛子だった。
「ははは~ 生意気を言っても所詮は子供……ほら、飲みなさい」
テマリはコップを用意していて、竹輪に渡すと
「ゴクゴク……」 勢いよく水を飲み干した。
「うえーんっ」 竹輪が泣き始めると、勢いよくアメノウズメが外に出てくる。
「何をしているの―?」
「お姉ちゃん……」 竹輪が涙を流し、アメノウズメに抱きつくと
“ポカンッ―” アメノウズメは竹輪の頭を叩く。
「えッ?」
「お前、やって良いこと、悪いことの区別が付いていないわね。 オリガミは姫なのよ! お前も『かぐや姫』とか言われているかもしれないが、最古の物語にしかなっていないの! 身の程を知りなさい」
竹輪は、怒鳴られると社務所に歩いていく。
「この先が思いやられるわ……」 大きく息を吐く三柱であった。




