第五十六話 神様ノススメ
第五十六話 神様ノススメ
冬の朝、テマリとアメノウズメは神社の境内の掃除をしている。
「寒―いっ!」 テマリが身もだえさせながら声にすると
「寒い?」 アメノウズメがキョトンとしている。
「アメちゃん、寒くないの?」
「うん、平気だよ♪」
アメノウズメは先日まで大八洲にいた。 大八洲とは天界とも近く、気温が低い場所なのだ。
「私、結構長く現世にいるからかな……」
「すっかり適応したのね」 アメノウズメがニコニコしている。
「テマリ、アメ子……社務所に来なさい」 奥から宮下が呼んでいる声が聞こえると
「わかった~ じいじ」 テマリが返事をし、二人が社務所の中に入る。
「どうしたの? おじいちゃん」 アメノウズメがキッチンに向かい、お茶の用意をすると、
「コレじゃ……」 宮下が一枚の投書をテーブルの上に置く。
「ん?」 二人は紙を手に取り、読んでいく。
そこには尊神社が呪われているとの、怪文書の内容だった。
「呪い?」 二人がキョトンとする。
「まったく……こんなイタズラを……」 宮下がため息をつく。
「呪いね……私たちがいて、呪いなんてあるはずがないのに……」 アメノウズメをはじめ、尊神社には大勢の神々がやってくる。
これは身内しか知らないが、事実である。
「こんな事、初めてで心配にもなるわい……」 宮下が頭を抱えている。
「だったら、怪文書の犯人を捜そうよ」 テマリが意気込んで話すと、
「そうね。 私たちを呪いの一種にされたんじゃ腹が立つわ!」
アメノウズメも意気込む。
(どうでもいいが、危害を与えないでくれよ……本物の神様なんじゃから……)
宮下に冷や汗が出てくる。
テマリが怪文書を握って目を閉じて数秒。
「出てきた……」と呟く。 アメノウズメは黙って見ていると
「おっはよ~♪」 オリガミが出勤してきた。
「んっ? あれ? どうしたの?」 オリガミがキョロキョロすると、
「今、犯人の顔が出てきたとこなのに……」
テマリが大きく息を吐く。 どうやらオリガミの声に驚き、犯人の顔が消えてしまったらしい。
「ところで、それは何?」 オリガミが紙を指さすと、
「なんか神社に投函されていた怪文書みたい。 じいじが見せてきたの」
テマリが説明すると、オリガミが真面目な顔になる。
「それで? 誰なの?」 オリガミが顔を近づけると、
「近い 近い! それに、浮かんだ頃にアンタが声を掛けるから消えちゃったのよ……」
「早く復旧させなさい」 オリガミが言い出すと
「パソコンの解析じゃないんだから……」 テマリは苦笑いをする。
それからテマリが試みるも、犯人の顔は浮かんでこなかった。
「どうしよう……これじゃ神社の口コミが悪く書かれちゃう……」
テマリはすっかり現代の娘となっていた。
それから数日後、またも神社のポストに怪文書が投函されていた。
「まただ……」 テマリとアメノウズメが肩を落とす。
ついに夜、
「このままじゃダメよ。 夜中に投函されているみたいだから現行犯で押さえるわよ」
社の中でテマリとアメノウズメ、オッキーが話し合っている。
交代で神社のポストを見回る三人。
すると一人の男性が深夜にやってくる。
「きた……ポストに紙を入れたら押さえ込むのよ」
テマリが小声で言うと、アメノウズメとオッキーが頷く。
男性は、周辺をキョロキョロと見渡しながらポストに近づく。
テマリが合図をすると、三人は男性を囲むような位置に散っていく。
男性がポストに紙を入れた瞬間
「そこまでよ!」 テマリが男性の前に立ち塞がる。 アメノウズメとオッキーも男性の背後に回り、逃げ道を塞いでいく。
男性が三人に気を取られていると、
「あなたが怪文書を入れていたのね…… どういうつもり?」 テマリが男性を睨む。
男性は身構え、戦闘ポーズをとっていくと
「ほう……やろうって言うの? 破――っ!」
テマリが掌から波動を出す。
すると男性はジャンプをして高く飛び上がり、木の枝に飛び乗る。
「――っ?」
「テマリ? あれは……」 アメノウズメが小声て言うと、
「知っているの?」
「多分だけど……」 アメノウズメは男性を睨みながら言う。
「誰であろうと、じいじの神社を守るのが私の役目」
テマリは大きく息を吸い込み、吐き出す。
男性がテマリの行動に気づき、慌てて逃げようとするがテマリの方が早かった。
「出でよ龍神。 あの男を拘束しろ!」
テマリの息が龍となり、男性に向かっていく。
「ガオォォン―」 龍神が男性に巻き付くと、男性は苦しそうにする。
そのまま龍神が男性を拘束して下に降りてくると、
「これまでよ。 天狗……」 アメノウズメが言う。
「天狗……?」 テマリはキョトンとする。
「そう……神になり損ねたヤツよ」
すると、天狗は観念したように話し出す。
「俺だって神の仲間に入りたかったんだ……なのに……」
そう言って、天狗は肩を落とす。
「だからって、この神社に恨みなんてないでしょう?」
テマリが言うと、天狗は頭を上げ
「ここは多くの神様が来るところじゃないか…… 俺だって大八洲の中で生活をしてみたかったんだ……」
天狗は長年、大八洲に入り神様として生活をしたっかったらしい……
「そんな身勝手なことで……」 テマリがため息をつくと、手で合図をする。
すると竜神が拘束を解き、天狗を解放する。
「だけど、この神社は呪われていないわよ?」 テマリが言うと
「わかってる……こうでもしないと姫が出てきてくれないから……」
天狗は、姫に直訴をして神様に入れてもらおうとしていたらしい。
「姫の代理ならテマリがそうだけどね……」 アメノウズメが説明すると、
「是非、俺を仲間に……」 天狗が懇願している。
困ったテマリは
「一応、姫には話すけど……」
こうして怪文書の事件は解決するのだが……
「テマリ……また変なのが神社に住み着いておるんじゃが……」
朝、起きた宮下が天狗の存在に気づく。
「あぁぁ……神様の見習いらしいよ。 少し勉強させてあげて」
呑気に説明するテマリは水を飲んでいた。
「あまり、気にしないで。 はい、お茶ですよ。 お爺ちゃん」
アメノウズメがテーブルにお茶を入れる。
それから天狗は朝の掃除を始める。
オッキーの指導のもと、天狗は社の床に雑巾掛けをしている。
そしてオリガミが出勤すると、
「おっはよ~♪」
元気なオリガミに対し、表情が暗めなテマリが挨拶をする。
「オリガミ、おはよう…… 朝からアンタに会いたいって客が来てるわよ」
「客? 私になんて珍しい……」 オリガミは巫女の衣装にも着替えずに社に行くと
「姫様……」 天狗が頭を下げる。
「だ、誰でしゅか……?」 オリガミの人見知りが始まると
「なんでも天狗が神様の仲間に入りたくて来たみたいなのよ」
後を追ってきたテマリが説明する。
「姫様、どうか私を仲間に入れてください……」 天狗が両手を前で合わせてお願いをすると
「英語で十は?」 オリガミが訊く。
「テン……」 それを訊くとオリガミが親指を立てる。
「まさか……それを併せて テング……とか言わないわよね……」
テマリが恐る恐る訊くと
「……」 オリガミは黙って社務所に行ってしまった。
(大八洲の姫……やるな……)
天狗が尊敬の眼差しでオリガミの背中を見ると、
「やめなさい……」 テマリは天狗の頭を叩いていた。
それから天狗は神社の掃除などの貢献をして、神様入りを目指すのだが
「流石に一日じゃね~」 アメノウズメとオッキーが苦笑いをしている。
「ココでは祀れんしな……」 宮下がため息をつく。
「どうして?」 オリガミがキョトンとすると、
「ここは尊神社じゃ……尊(命)が付かない者を祀る訳にはいかなくてな……」
「そうよね……私やテマリも同じだものね……」
オリガミが少し寂しそうな顔をする。
それからオリガミとテマリは
「天狗、お前には神様としての勉強をしてもらいます」
そう言うと、天狗がキョトンとする。
「とにかく、神様として祀られるような立派な神になること。 アメちゃんだって数少ない神社で祀られているんだから……」
テマリの言葉に、アメノウズメが驚く。
「私の神社ってあるの?」
「あるぞ。主に芸能の神様として祀られておる」 宮下が説明すると
「私の名前、残ってたのね……」
「それにじゃ、猿田彦尊を伊勢に案内したのも古事記に残っておるぞ」 宮下が説明すると
「おっしゃー 天狗、頑張るわよ~」 アメ子は気合いを入れて天狗の特訓に励んでいくのであった。
(まぁ、みんなが元気になれて良かった♪)




