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第五十五話 親として

第五十五話   親として



日曜日、護の仕事が休みでオリガミと一緒に買い物に出ている。


「い~な~ 私も護と買い物に行きたい」 そうボヤいているのがアメノウズメである。


「アメちゃん、いい加減に諦めたら?」 テマリが言うと、

「だって、なんか諦められないんだもん……」


「そのうち神族から追放されちゃうわよ?」 

「それはそれで困るけどさ~」

アメノウズメは、追放されたら古事記からも抹消されてしまうのでは……と思い出した。


「タヂカラヲとかはダメなの? 一緒にアマテラスを岩戸から出した訳だし……」 テマリは古事記をしっかり読んでいたようだ。


オリガミは新宿に来ていた。

「久しぶりの新宿……人がいっぱいだ~」 キョロキョロとして落ち着かなそうにしていると、


「前、この辺りで種を売っていたんだよね……」

護は、オリガミが露店を出していた場所を指さす。



「それ、記憶にないのよね……」

オリガミの場合、再生で記憶をなくしたのか天然で忘れてしまったのか……護には理解できていなかった。


そこに占いの店がある。 トウジが出している露店だ。

「よっ! 足立君、元気かい?」 気さくにトウジが話しかけてくると


「こんにちは。 お父さん……」 すっかり家族のような話し方をする護。


「なんか、くすぐったいな~」 トウジも悪くなさそうだ。



しかし、オリガミは機嫌が悪かった。

「どうした? オリガミ……」 トウジが異変に気づく。


「お父さん、大八洲での事は忘れませんから……」

オリガミはツンとした態度で顔を背ける。



「父ちゃん、悲しい……」


オリガミが怒っているのには訳がある。 神たちの前で宣言をする事で大八洲に向かったのだが、オリガミは興味がないのに行かされたからだ。


戦い、枯れて記憶まで無くした事を根に持っていたのだ。


「そんなに怒るなよ……コレあげるから」 トウジは人形を取り出す。


「何コレ?」 「コレか? トウジちゃん人形」 トウジがニヤッとすると、

オリガミは取り上げ、空に向かって全力投球をする。


「あっ」


投げた人形は、空高くまで飛んでいった。

(凄い豪速球だ……) 護は空を見上げている。


「ふん―」 オリガミはスタスタと歩いていく。

「ちょっと― お父さん、また今度」 護がトウジに挨拶をしてオリガミを追いかける。



「やれやれ……」 トウジは呆れたような顔をする。



新宿を歩く二人。 しばらくするとオリガミが立ち止まる。


「ここ……何か記憶がある」 


(覚えていたのかな? 俺の会社……) 護が微笑む。


「前に、上から鳩のフンをかけられたのかも……」

オリガミが言うと、護が悲しそうな目をしていた。



そんな時、護の携帯電話に着信が入る。

「もしもし……」 護がオリガミに合図をして電話に出ると


「ムッ―」 オリガミが頬を膨らます。

(まさか浮気?) 疑いを持ち、電話に耳を近づけると


「今、アパートの下にいるの?」 護が驚いている。


(ついに来やがった) オリガミの機嫌が一気に悪くなると、護が悩んでいる。


「どうしたの? 護……?」 顔をヒクヒクさせたオリガミが護を睨む。


「どうしたって…… う~ん……」 護は悩んでいる。

「早く行けば?」


「仕方ない、行くか」 護が決心すると、オリガミの目から涙が溢れだす。

「オリガミ?」 護がキョトンとする。


「だって護の電話、女の人だった……」 オリガミが泣きながら説明すると、

「えっ?」 護が驚いていると、遠くからトウジが見ていた。


“じいぃぃぃ……”


「―っ!」 護がオリガミの腕を掴み、慌ててアパートに戻ると


「……えっ?」 オリガミがキョトンとする。

アパートの下で待っていたのは、護の母親だった。



その数秒後、「は は はじめましゅて…… きゅ きゅじょう(九条) オリガミと言いましゅ……」 噛み噛みのオリガミは全力で挨拶をする。


「きゅじょうさん……?」 護の母親が不思議そうな顔をすると、

「人見知りが激しくてね……九条オリガミって言いたかったんだけど……」 護は苦笑いをして説明する。


「あぁ、九条さんね。 護がお世話になっています」 護の母が頭を下げると、

「お世話してます……」 オリガミが何度も頭を下げる。


(この娘、大丈夫かしら……?)

オリガミは、早くも強烈なインパクトを与えてしまった。



それから護の部屋へ行き、オリガミがお茶を用意する。



「お茶です。 よかったら……」 オリガミが湯飲みを置くと、護の母が頭を下げる。


まだオリガミは落ち着かずにいた。 それでも護の横に座り、会話に入っていく。


「それで、二人で暮らしているなんて知らなかったわ……」 母が切り出すと、

「あはは……なかなか電話もできなくてゴメン」



「それで、オリガミさんは何処の出身なの?」 護の母親がチラッとオリガミを見ると、


「出身は……おそらくですが、古代の苗でして……」 オリガミが言いかけると、

「わーーーっ!」 護が大声を出す。



「何? どうしたのよ?」 護の母親が驚くと、

「この近くなんだよ」 護が必死にカバーをする。


(そうか……確かに出身が苗だと驚くわね) オリガミが水を飲み、深く反省していると


“じいぃぃぃぃ……” ベランダからヒサメがやってきた。


「ぶーーーっ」 オリガミが飲んでいた水を吹き出す。



「うわっ―」 護が驚く。

「す、すみません―」 オリガミが謝っていると、事態の異変に気づいたヒサメが玄関に回りチャイムを押す。



「ちょっと出てきます」 オリガミが玄関を開けると、 

「ちゃんと玄関から来たよ」 ヒサメがドヤ顔をしている。


「それ、当たり前だから……」 オリガミが息を落とす。

「誰か来てるの?」 「護のお母様よ」


「ちょっと挨拶していくか……」 ヒサメが部屋の中に入っていく。


「ちょ ちょっと……」 慌ててオリガミが追いかけると、

「はじめまして……」 ヒサメがニコニコして挨拶をしている。



それから四人で談笑をし、時間を過ごしていく。


 「今日は楽しかったわ。 またよろしくお願いいたします」 護の母親は帰っていった。


「いや~驚いた。 まさか来るとは思わなくて……」 護がホッとしている。



「緊張し過ぎて頭がおかしくなるかと思ったわ……」


「心配するな。 お前は最初からおかしいから……」

ヒサメがコーヒーを飲みながら言うと、


「もうコッチの世界に居なくていいから……」 オリガミは呟いてしまう。



それからオリガミは機嫌が良かった。 翌日、神社に出勤したオリガミが話すと


「えーーっ?? 親公認になったの?」 テマリとアメノウズメが驚いている。

「うん」 オリガミはニコニコして話していると、


「しかし、お母さんが乱入して変な空気にしなかった?」 テマリが気にしていたのはコレである。


「そうよね……ヒサメ様って、怖いイメージあるし……もちろん、お父様も……」

 やはり、アメノウズメにはオリガミたちの両親は怖かったようだ。


 トウジの正体はイザナギである。 創世の神なのだ。

 そして九条の血を引く姫君のヒサメ。 その子供たちがオリガミとテマリである。


 大八洲の姫とは、八百万の神々を統治していく立場にある。

神々とは、目を離すと覇権争いから殺戮を繰り返してきた。 イザナギにしても、イザナミを炎で焼き尽くした子を殺してしまった過去がある。



それらをコントロールして神々の争いが無いように統治しているのが九条の姫であった。


ヒサメは強いリーダーシップを発揮し、力で大八洲を押さえこんでいた。

今回、姫の代替わりが行われオリガミが姫になったのだ。


これは誰もが思うのだが


(本当にコイツで大丈夫なのだろうか……)

そう思ってしまう。


「なんでテマリを姫にしなかったんだろう……?」 アメノウズメは首を傾げていると、横にいるオッキーが何度も頷く。



「教えよう!」 後ろから突然、トウジが声を出すと


「うわっ―」「キャー」 尊神社の神々が悲鳴をあげる。



「お父さん……」 テマリが声をあげると、オッキーとアメノウズメが片膝をつく。


「お前を姫にしなかったのは、九条のジジィのせいだよ」 

「お爺さん? マモルって人でしょ?」


「アイツが指示をしたんだよ。 お父さんは九条に統治を任せていたからね」

トウジが説明すると、テマリは腑に落ちない顔をする。



「なんだ? その顔は……」

「ううん……それで私を斉田に入れようとしたのかな……って」


「あれは分からん。 おそらく神の分断を恐れて手を打ったんだろうね」

トウジは説明が終わると帰っていった。



「きっと、誰もが親心だったんじゃない?」

「そうかな……」 アメノウズメの言葉はテマリが納得できるものではなかった。



「私が親なら、どうなんだろう……?」 テマリが下を向く。


「旦那、見つけなよ」アメノウズメがニコッとする。

「アメちゃん……」


こうしてテマリとアメノウズメは、スマホを取りだし

「このマッチングアプリ……若い子専用だって……」


 「流石に二千歳オーバーは居ないよね~」


 大笑いしていた。


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