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第五話  天職 (てんしょく)

第五話    天職てんしょく



「う~ん……」 夜、護は寝苦しそうにしていた。


「またお前か……」 オリガミは、同じベッドで寝ている護に憑りついている妖怪に話している。



「懲りないな……  おりゃぁぁぁぁ!」


『シュウゥゥゥ』 と音と共に青い炎に包まれ妖怪は消えていった。


「滅セージ……」


「まったく何度も… 寝よ……」 オリガミはベッドの中に戻っていった。



とにかく護は憑りつかれやすい体質のようだ。

(これじゃ毎日が しんどいだろうに……) オリガミは息を一つ漏らした。



「おはよう♪」 爽やかな朝を迎えた護の顔があった。



「おはよう、護。 よく眠れた?」 オリガミは笑顔で護の肩あたりを見て話した。



「それがさ、不思議と熟睡できたんだよ~。 いつもは起きても身体がだるかったんだけど、今朝は絶好調なんだ♪」


護は肩を回して好調をアピールしていた。



それを見てオリガミも笑顔になっていた。




朝食を済ませ、護は会社に向かった。


オリガミは洗濯や掃除を済ませ、護の家計を支えようと考えていた。


(私でも出来る仕事あるかな~? 種売りも仕事だけど、 “稼げる ”という訳でもないし……)


 

オリガミが出来る仕事となると難しい……

味も分からないし、人見知りだから飲食店も無理である。



オリガミは近所のコンビニに向かい、無料の求人誌きゅうじんしを貰いに向かっていく。



そこに普通の人には見えないが、オリガミには見える憑き物がたくさん居るようだ。


(あの人も背中に……あの人はペットだったのかな? ワンちゃんまで……)



「しかし、この世の中に悪霊あくりょう妖怪ようかい退治たいじなんて求人があるか? むしろ、そんな仕事なんて存在する訳が……」 オリガミはふと顔を上げる。



そこには表情が暗く、思い悩んでいる若い女性がいた。



(どうしたのだろう? 制服を着ているから女子高生かな?)

オリガミは若い女性が気になった。



すると若い女性は何かに引っ張られるように歩きだしていき、またオリガミも女性に引っ張られるように後をついていった。



 “ ――ハッ! あれは? ”


そして交差点に差し掛かりオリガミは走り出した。


若い女性は交差点が赤信号にも関わらず、交差点に進入したのだ。



「――危ない!」 オリガミは声をあげた。

そこにトラックが来てクラクションを鳴らした。



(―間に合え~) オリガミの必死の心の声に身体が反応した。



『ニュル ニュル……』 オリガミが腕から植物のつるを出して、交差点に居た若い女性に絡ませ、交差点から引っ張り出したのである。



若い女性はうつろな目をしていて、その背中には大きな憑き物がいた。


その憑き物は、影のように黒い人の顔の形をしている。



(やはり……)

オリガミは人気のない場所まで女性を連れていく。



「今、楽にしてあげるからね!」

オリガミは女性に話しかけ、背中の憑き物を追い払うことにする。


 女性は覇気はきがなく、かろうじて立っている状態であった。



オリガミは女性の背中に手を当て、ブツブツと言い出し始め


 「はあぁぁぁぁ!」 声をあげた瞬間に、憑き物は消えていった。


 「滅セージ……」



女性は意識をなくし、ひざが折れて崩れるように倒れた。


オリガミは女性を抱え、ゆっくり座らせる。



その後、十分ほど女性は気を失っていたが、ようやく意識を取り戻した。


「あれ? ここは……?」 女性は ゆっくり身体を起こすと



「―だ、大丈夫でしゅか?」 オリガミは女性に声を掛けた。



「貴女は誰ですか? 私は何を……」 女性は無意識むいしきだったのだろう。


「と、とりあえず大丈夫……しょうなので良かったですしゅ……」


女性が目を覚ました途端に、オリガミは人見知りになってしまった。


助けている時は必死になっていたが、普通に目を覚まされるとオリガミには厳しいようだ。



「すみません……何も覚えていないのですが、貴女が私を助けてくれたのですね……」

女性はオリガミの手を握った。



「ひゃい。 しゅみまぜん……」 オリガミは人見知りの為、 “はい。 すみません” を上手に言えなかった。



オリガミは顔を真っ赤にして 「しょれじゃ……」

と言葉を残して去っていった。



「あの……ちょっと……」


女性は、オリガミの方へ手を伸ばしたが間に合わなかった。



オリガミは女性が見えなくなるまで走った。

「ぜぇ ぜぇ……ここまで来れば……」

 


「しかし、人見知りがな……護には大丈夫なのに……」


ショボンと下を向いて歩いていた時、見知らぬ男性が腕をつかんできた。



「おぬし、ちょっと来てくれ!」


見知らぬ男性は、オリガミの腕を引っ張った。



「――ぎゃあぁぁぁ…… 人さらい~ やめて~」 


 気が動転したオリガミは大声を出す。



「――落ち着きなさい。 わしは人さらいなんかじゃ……」


男性がオリガミの両肩を掴むと、



『―ガブッ』  


オリガミの肩を掴んでいた男性の手にみついた。



「―痛い! ―離しなさい!」 男性が必死に手を振り払うと



やっと、オリガミの口から男性の手が離れた。



「―ぺッ ペッ……ぎゃー 人さらい~」 オリガミはつばを出しながら、また叫びだした。



「―いい加減にしてくれ! わしは人さらいじゃないわい!」

男性が必死にオリガミにうったえかける。



「じゃ、何よ……?」 オリガミが正気を取り戻すと



「わしは……」 

男性が名乗りだそうとした時、オリガミが言葉を先に出す。



「人さらいじゃない? あの国の拉致? それともホストのキャッチ?」

オリガミは言葉を並べた。



「わしは日本人だし、こんなとしのキャッチがいる訳なかろう!」

説得している男性は還暦かんれき近くか、それ以上だろう。



「じゃ、なに?」 オリガミはキョトンとしていた。



「さっきのを見ていたのじゃ! おぬし、憑き物を退治できるみたいだな?」


男性はオリガミが女性を助けた一部始終を見ていたそう。



「そこで、これを……」 男性がオリガミに名刺めいしを渡す。



オリガミがハンカチで口をきながら名刺を見ると



神社じんじゃ? 宮司ぐうじさん?」 「それで宮司さんが私に何の用でしょ?」

オリガミは不思議そうにしている。



「この近くにある神社なのですが、これからご案内してもよろしいかな?」


宮司の名前は 宮下みやした 玄堂げんどうと言い、近くにある神社の宮司をしているようだ。



「はぁ……」 オリガミは軽い気持ちで頷く。



そして宮下とオリガミが数分歩くと、



「ここじゃ……」


宮下が自身がつとめている神社を紹介すると、オリガミは愕然がくぜんとした。



「ボ……ボロい……」 つい、オリガミは口を滑らせると 



「すまんね……」 


宮下の冷たい視線がオリガミに向けられたが、オリガミがサッと顔を余所よそに向けて回避かいひする。



「それで私を連れてきて、何をしろと言うのですか?」

オリガミが心配そうに宮下の顔を見ると



「さっき見ていたのだが……おぬし、陰陽師おんみょうじか?」 宮下が唐突とうとつに聞いてきた。



「いいえ、違いますが……」 



「どこかに星形の何かがないか?」


宮下はオリガミの周りをクルクルと周り、陰陽師にある星形なる物を探している。



「どこにもないか……瞳にも無いかな?」


宮下がオリガミの瞳を至近距離で覗き込むと



「ないわよ! 目に星があったら、 “完璧で究極のアイドル ”になっちゃうわよ!」


オリガミは つい声を張り上げた。



宮下は意味が分かっていなかったが、星を探すのをあきらめた。



「ふうぅ……」 オリガミは息を吐く。



「実はわしも憑き物が見えるのじゃ! それで悪いヤツなら退治をしていたのだが、歳のせいか疲れもでてきてな……そこで、おぬしに頼めないかと思ってな……」



宮下はオリガミに退治の仕事を頼みたいとのことであった。 



「う~ん……」 オリガミの反応はイマイチであった。



「頼む! 人助けだと思って……」

食い下がる宮下にオリガミは困惑こんわくしていた。



オリガミは神社の中を歩き出し、宮下もオリガミに付きっていく。



「おじいさん、ここの神社に来てから何年経ったのです?」

オリガミがやしろの造りを見ながら聞くと



「儂は此処に来て、四十年ほどになるかの……」 宮下は指を折って数える。



「そうなんですね。 ここは大きい神社ですね、さぞかし昔は有名な神社だったのでは?」 


オリガミは神社の大きさに感心していた。



「昔は祭りなどもあったらしいが、今では……」

宮下は小刻みに首を振っていた。



「お爺さんが酒やギャンブルで金が無くなり、祭りを開催かいさいできなくなったとか……?」


そう言って宮下を横目で睨んだが、宮下は顔をそむける。



「……私は、この雰囲気は好きですけどね~。 ボロいけど……」


しっかりオチを付けたオリガミであった。



「ふ~ん……じゃ、ここの場所を借りていいですか? それなら陰陽師みたいの、しますけど……」 オリガミがニコッとして宮下に提案すると、


「構わんが、何をするのじゃ?」 宮下はキョトンとした。



「私、普段は種を売っているのです。 花の種ね♪」


オリガミが神社で種を売りたいことを話すと



「なるほどな……好きに使ってくれて構わんよ!」 

そうして宮下とオリガミは取引をした。



鳥居とりいの外側にテーブルを置いて、種を売る事に決まった。



翌日からオリガミは神社に通い、掃除をして神社を綺麗にし始めた。



「―ったく、あの爺さんは掃除もロクにしてないんだな……」

オリガミは、ため息をつく。



そして数日間の掃除を済ませ、神社は綺麗になってきた。



オリガミは、鳥居横の神社の名前が掘ってある石碑せきひに目を向け、


「ミコトジンジャ……尊神社と言うのか……それなら……」



 オリガミが社務所しゃむしょに行き、中にあるタンスの前に立つ。


そして引き出しを開けて、取り出したのが巫女みこの衣装であった。



「あったけど……クサッ! いつの時代のだよ……」



オリガミは巫女の衣装を紙袋に入れて、コインランドリーに向かった。



「汚いし、臭いからな……」 


鼻をつまみ、二本の指で巫女の衣装をつまみ、洗濯機の中に放り込んだ。



そして待つこと数十分、巫女の衣装は洗濯と乾燥が終わり神社に持ち帰る。



「どれどれ……」 オリガミは巫女の衣装に着替えた。



「おっ! ピッタリじゃん♪」 



そこに宮下が外出から戻って来た。




「ん? ここにあったやつか? 似合うの~」


宮下は、オリガミの巫女の衣装に目を丸くしている。



「ここにも巫女が居るといいでしょ? 尊神社に! 巫女と神社に……うふふ♪」 


オリガミの渾身こんしんのオヤジギャグは、歳のせいか宮下は出遅れた。



(しまった……)

オリガミはスベッたと、顔色が悪くなった。



そして神社らしいスタートを切ることになった。



「さて、店を出しましょう!」 オリガミは私服に着替え、鳥居の前で種を売ることになったのである。



オリガミの私服は、護が買ってくれたピンクのTシャツに、ジーパンである。



露店の看板には『種販売、憑き物相談』と書いてあった。


 「ダサい看板……こんなので客は来るのかしら……」


看板に不満はあるものの、仕事ができて一安心したのであった。



翌日、オリガミは種を売っていたが、

「暇だな……二日間の売上がゼロ。 まいったな~」


オリガミが冷や汗を出していたところに宮下が声を掛けてくる。



「どうじゃ?」 宮下はキョロキョロして客入りを探した。



「あっ、店長、こんにちは……」 オリガミはペコリと頭を下げた。



「誰が店長じゃ?」 宮下は少しムッとした。


「ところで仕事が入った。 行くぞ!」



オリガミは巫女の衣装に着替え、宮下と出掛けたのであった。







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