第四十九話 ふたりでひとつ
第四十九話 ふたりでひとつ
「キャー」 遠くからオリガミの悲鳴が聞こえる。
「オリガミ―」 全員がオリガミの方へ駆け出す。
そこには大勢の餓鬼が現れ、オリガミを囲んでいた。
オリガミは手から大量の種を出して、餓鬼に投げている。
(節分?) 高天原の空気が微妙に変わっていく。
栗林は形を変え、巨大な狐になって餓鬼たちに襲いかかる。
「出でよ、龍神!」 テマリは大きな口を開け、巨大な龍を召喚する。
「行け龍神、餓鬼を殲滅だ」 「グルル……」 龍は餓鬼に向かっていく。
「ふんっ……私だって、まだまだ出来るよ!」 ヒサメは天に向かい両手を広げる。 「破―っ!」 空から氷柱が落ちてくる。
ものの数分で、餓鬼たちが全滅した。
そしてオリガミは、まだ種を投げていた。
(今度は塩のつもりか?)
とにかくオリガミの行動は誰も理解できなかった。
すると
「こらこら……勝手に来ちゃダメじゃん」
「お父さん??」 オリガミとテマリが驚く。
「何、荒らしてんの? ん?」 トウジがオリガミを睨む。
“パチンッ パチンッ―” オリガミはトウジに種を投げつけていた。
「痛い、痛いよ!」 トウジは後ずさりをする。
「もういいでしょ―」 ヒサメがオリガミを制止する。
「うん……」
「ところで、何の用だい?」 ヒサメが煙草に火を付ける。
「うん……なんでテマリが高天原で宣言しようとしてるのかな~って」
トウジはテマリを見る。
「そんなの……お父さんには関係ないでしょ? それに、なんでお父さんがここに……?」 テマリが言うと、ツクヨミがドキッとする。
「ツクヨミ……お前がそそのかしたの?」 トウジはツクヨミを見ると、
「いや……貴方様が向こうの世界にいたので……」
「そう……お前、ダメな」 トウジはサングラスを外し、目から赤い光がツクヨミに当たると
「ツクヨミ―」 一瞬で消えてしまった。
トウジはニヤッとする。
「お父さん……」 オリガミが声を漏らす。
「これがヤツの正体さ」 ヒサメが言うと、
「お父さんの正体?」
「これが神族の父、イザナギだよ」 ヒサメはトウジの正体を明かしてしまった。
「えぇーッ?」 全員が目を丸くする。
(そんな驚かなくても……)
トウジは少し照れたような顔をする。
「だって、日本神話の神が、こんなジャマイカンなヤツでいい訳?」
テマリはトウジを指さす。
「そうよ。 私のズボンを下ろしたりする変態よ!」 これには栗林も同調する。
(アンタ……現世で何をしてんのよ……) アマテラスは苦笑いになっていた。
「それで、お母さんが“後妻”って訳?」 テマリが言うと、
(お母さん、五歳だったんだ……見た目はオバさんなのに?) ここでもオリガミは健在だった。
すると、トウジが遠くを指さす。
「んっ?」 全員は遠くをみると、ボロボロになった斉田がやってくる。
「秋草……」 斉田はヨロヨロとやってくると、
「お前たち……許さん」 斉田はトウジを睨む。
「どういうこと?」 オリガミは首を傾げる。
「オリガミ……お前がいなければ―」 斉田がオリガミに襲いかかる。
“パチンッ パチンッ ”
オリガミは種を投げて斉田に当てる。
そこには原始人オリガミの精一杯の抵抗があった。
(神族なんだから、もっとあるだろうよ……)
トウジを筆頭に、全員が苦笑いをする。
「はいはい! 弾の無駄遣い……いや、種の無駄遣いは止めよう」
トウジはオリガミの攻撃を制止する。
斉田の顔が赤くなる。 結構な数の種を当てられた跡であった。
「秋草、話してくれる?」 オリガミが優しく語りかけると、
「そのイザナギは……イザナミと別れた後に私の母に手を掛け、しばらくするとヒサメを後妻にしやがったんだ……現世で言う慰謝料代わりに神々の分裂をさせていったんだよ……そこの九尾も、それで斉田の方に来たのよ」
斉田の話を聞き、全員の周りに凍り付くような空気が走る。
そこに、
「おい、ジャマイカン……」 オリガミが握りこぶしを作り震えている。
ギクッとしたトウジは、逃げる準備を始める。
「させるかー」 ヒサメが天を仰ぎ、無数の氷柱が降り注ぐ。
まるでリングを作るかのように、トウジの逃げ道を塞ぐ。
「お前、私だけでなく娘たちにも痴態を晒したんだ。 覚悟はできているな」
ヒサメが睨むと、
「おいおい……そんな二千年前の話をされても時効だろ?」
(確かに時効よね……それにしても、お母さんがそんなに怒る理由って?)
オリガミはヒサメを見る。
「私が何で怒っているか解らないか?」
ヒサメはトウジの肩に手を掛ける。
「??」 トウジはポカンとしていると
「お前、私が現世に来ているのに何故にオリガミを後継させなかった? そして、斉田を弄び戦争をさせようとした?」
「いや、戦争をさせない為にテマリを養子に出そうとしたんだよ」
トウジの説明が始まる。
それはテマリを斉田に入れれば秋草の力が弱まり、オリガミの勢力と合わさるように仕向けた作戦だった。
遊び心で手を付けた結果、長い戦争を引き起こす結果になっていたのだ。
「つまり、お父さんの浮気の尻拭きをさせられたのですね?」
オリガミが言うと、トウジは言葉に困っている。
そこにマモルが現れる。
「イザナギ……謝ろう。 そして、斉田は別のことに頑張ってもらおう」
「そうか……」 トウジは全員に謝った。
「そうはさせません」 どうしても納得できない斉田が口を出す。
「秋草……」
「この大八洲……斉田が統治するまでは諦めません」
斉田の合図とともに物の怪を召喚させる。
「これからですわよ。 九条……」
こうして高天原の乱が始まった。
「テマリ―」 オリガミが目配せをすると、テマリが頷く。
二人は手を合わせ、力を溜めていく。
「そこどいてーッ!」 オリガミが叫ぶと一斉に避難する。
「うぅぅ…… 破―ッ」 二人から放たれた波動は、大きな力となって秋草を飲み込んだ。 そして一瞬で秋草は消えていった。
「ふぅ…… 滅セージ……」 オリガミとテマリは息を吐き、整える。
これで大八洲の統一となる。
「さて、お父さん……私が宣誓してよろしいですよね?」
「仕方ないな……」 トウジはニヤッとする。
そして高天原の舞台にはオリガミとテマリが立った。
「ちょっと待て、どうして二人が?」 これにはヒサメも納得がいかなかった。
それを無視し、オリガミが宣誓をする。
大八洲はオリガミが姫となった。 その脇にはテマリが立ち、見届け人となる。
「さぁ、終わりました。 帰りましょう」 オリガミがニコッとすると、大国主命がやってくる。
「これを……」 オリガミが手にすると、
「うん♪ オッキーに渡しておくね♪」 そう言って握りしめて現世に帰っていくのであった。
尊神社に戻ってくると、宮下は泣き腫らした顔をしていた。
「じいじ~」 テマリは宮下に抱きつき、泣いていた。
「あっ オッキー。 本体からお土産だって」 オリガミが手渡すと、
(種籾……) オッキーは渋い顔をする。
オリガミ自身、よくわからない大八洲での戦いに疲れ果てていたが
「護―ッ」 社務所に駆け込んだ。
「オリガミ……」 護は布団で横になっていたが、体調は少し良くなっていた。
「熱は下がりましたよ♪」 アメノウズメはお粥を作って持ってきた。
「アメちゃん、ありがとう……」 オリガミが頭を下げると、
「いえいえ。 それより、姫の座おめでとう」 アメノウズメは笑顔で祝福していた。
ただ、姫の座についたはいいが何をしたら良いのか解っていなかったが、テマリとも仲良くできたことに安心している。
「はい、あーん♡」 アメノウズメは護にお粥を食べさせていると、
「はい、ドーン」 オリガミがアメノウズメに指さすと、
「ギャー」 と騒ぐアメノウズメ。
オリガミが姫を継承したことにより、新しい力を宿す。
アメノウズメに電流が流れだしたのだ。
「それより、なんで護がアメちゃんと食事しているのよ? 見えるの?」
オリガミの疑問がアメノウズメに向く。
そして新たな混乱が始まるのだった。
「なんてこと……」 オリガミの額から汗が流れる。
オリガミが大八洲の向かっている最中、アメノウズメは護に神眼を与えてしまったようだ。 護は神様が見えるようになっていたのである。
「アンタ、何してくれてんの……」 これにはテマリも怒っている。
「いや、その……食事とかあげるのに不便だったから……」
確かにアメノウズメは食事などで困っていたのだ。 食器だけが宙に浮いている状態ではと、アメノウズメなりの配慮だったのだ。
怒りで震えているオリガミから折り鶴が落ちる。
「オリガミ~♪」 落ちた折り鶴が一枚だったので、出てきたのは朱雀だけだった。
「あれ? 私だけ?」 朱雀がキョロキョロする。
そこに不機嫌そうなオリガミを見つけると、朱雀はアメノウズメに話しかける。
「アメ子~ なんでオリガミは機嫌悪いの?」
「それは、その……私が護に神眼を与えてしまって……」
アメノウズメが様子を伺いながら話すと、
「えっ? 護って、前から見えているのよ」 朱雀が言う。
「えっ?」 全員が朱雀を見る。
「この前、護を診ろとヒサメに言われた時に目が合うのよ……きっと、その前に与えていたんじゃない?」
しばらくの沈黙が流れる。
「あっ! あの種……」 オリガミが叫ぶ。
結局、オリガミが解熱と思って出した種は神眼であることが判明する。
「だから熱も下がらず、式神も見えていた訳ね……」
その後、オリガミは長い時間 アメノウズメに謝っていた。




