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第四十八話 高天原

第四十八話   高天原たかまがはら



 「護、飲んで……」 オリガミは指先から出した種を飲ませる。


 「オリガミ、その種は?」 ヒサメが聞くと、

 「元気になるように……の薬です」 オリガミが小さな声で話すと、


 「○ポビタンみたいなやつか……」


 「なんでドラッグストアで売ってるのを指先から出さないといけないのよ……」 オリガミがヒサメを睨む。


 

 「ゴクッ……」 護は水と種を飲み込む。


 

 「ちなみに……なんだが、その種は間違いないんだろうな……?」 ヒサメは、恐る恐るオリガミに確認する。 オリガミの数々たる天然爆発により、ヒサメはオリガミを信じられずにいたのだ。



 「大丈夫よ……解熱剤だから♪」 オリガミはニコッとする。



 三十分後、護がうっすらと目を開ける。

 「護、どう?」 オリガミは顔を覗き込んでから、体温計で計ると


 「39.1……」 


 「本当に解熱剤だったのか?」 ヒサメが心配して聞くと

 「たぶん……」 段々と自信なさげに言うオリガミに、ヒサメは苦悶の表情になる。



 「ちょっと、式神を出しなさい」 ヒサメが手をだす。


オリガミが折り鶴を渡すと、ヒサメがパッと投げる。


『ポン ポン……』 と音が鳴り、式神が現れた。 

「オリガミ~♪」 元気に四人は登場してきた。



「って、あれ? 呼んだのはヒサメ?」 白虎が言うと、ヒサメが頷く。

オリガミが引き継ぐ前は、ヒサメが式神を操っていた。 昔からの仲なのである。



「このガキ……いや、オリガミの彼氏の熱が下がらない。 すまんが診てくれるか?」 ヒサメが頼むと


「わかった~♪」 式神たちは護を見る。




「あれ?」 朱雀が首を傾げる。


「んっ? 何かあったか?」 ヒサメが反応する。


「さっきから目が合うんだよ……」 これには玄武が説明をする。

「この男性ひと、僕らが見えてるみたい……」 


「えっ?」 これにはヒサメとオリガミが驚く。

マモルは護の部屋を見渡している。



“チラッ ” 朱雀はマモルを見つめる。 これにオリガミが気づいて

 「どうしたの? 朱雀」 話しかけると、


 「なんでマモルがいるの?」 朱雀が声を出すと、マモルが振り向く。



 「……」 マモルは何も話さない。

 式神たちは、マモルを囲んだ。


 「ちょっと父様に何を……」 ヒサメが慌てる。


 「ヒサメ、こっちの世界に来てからアイツに会わなかった?」 

式神の一人、白虎が言うと、

「アイツ? それって……?」 ヒサメが聞き返す。



「イザナギ……」 


ヒサメは目の前が真っ白になり、言葉を失った。



「マモル……ここはお前が住める所じゃないよ」 白虎はマモルに優しく語りかける。



「あれ? 式神たちって、お爺さまより年上なの?」 オリガミがキョトンとした顔で話しかけると、


「そうだよ。 僕たちは ずっと九条を守ってきたんだから」 青龍が答える。



どう見ても子供のままの式神にオリガミは『エイジングケア』の仕方を習おうと思っていた。 しかし、現場は緊迫しているので言えずにいた。


しかし、神として長く生きている式神は、オリガミの心を読んでいた。

「今度、教えるね♪」 唯一の女の子である朱雀がオリガミに微笑む。



「さて、マモル……大人しく帰りなよ。 お前がいたらダメなんだよ」

白虎がマモルに説教をする。



マモルは式神を見つめる。 


ヒサメは奥歯を噛みしめ、

「父様……島にお戻りください」 決断の言葉を出す。


「ヒサメ……どうして……?」 マモルは悲しげな顔をしてヒサメを見ると、



「あの……申し訳ありませんが……」 ヒサメが片膝を床に付ける。

これに全員がヒサメを見ると



「禁煙の限界でございます……」 ヒサメは頭をさげると

オリガミは後ろにひっくり返り、式神たちは縦横無尽に部屋の中を飛び回った。



「んなっ―」 オリガミが声を出すと、


「だって、黄泉で煙草を捨てられてから一緒にいて買いに行けないし、八王子の山奥の神社じゃ賽銭も少ないのよ? 煙草も買えたもんじゃないのよ……」


ヒサメの主張は、九条の家の問題というより煙草を吸いたさでマモルを帰そうとしていたのだ。



「隠れて吸えば良かったじゃない。 中学生みたいに……」

オリガミは言葉を漏らす。



「みんな望んでるよ。 マモル……」 朱雀はマモルの肩に手を置く。


 「なんか、お爺さまは式神には素直なのね……元はお爺さまが式神たちを所有していたんじゃないの?」 オリガミは疑問を投げかけると


 「所有したのはヒサメが最初。 マモルは、私たちが成敗したんだよ」 

 玄武の言葉に衝撃が走る。


 「まぁ、大八洲に戻したら解るよ。 オリガミ、連れて行って。 ついでにテマリを助けてあげな」 玄武はニコニコして言った。



 「助けるって、何か大変な事が?」


 「もうそろそろ高天原に着くんじゃないかな?」


 その言葉にヒサメが慌てて

 「すぐ行くよ!」 オリガミの手を引くと


 「護が……」 ヒサメはオリガミとマモルを連れ、尊神社に向かった。




※ ※  ※


 テマリは高天原にいた。

 「じゃ、行くね……」 テマリの表情が硬くなる。 その横には九尾の狐こと、栗林が付き添う。 スサノヲは、高天原が出禁の為に戻っていった。



 「じゃ、行こうか」 ツクヨミが言うと、テマリが頷く。



 そして一歩、中に足を踏み出すと空気が変わっていく。

 

 「なんか、黄泉より寒い感じだわ……」 テマリと栗林は肌をこする。

 「そりゃ、天空と同じだからな……でも、風邪とかはひかないから大丈夫だよ」

なんとも能天気に言うツクヨミである。



ゆっくり前に進んでいくと、

「シャー」 っと、威嚇する声が大きくなる。



「あまり歓迎されてないみたいだ……」 栗林はキョロキョロと餓鬼を見回す。 これは、いつ襲ってくるか分からないからだ。



すると、聞き覚えのある声がする。

「あれ? テマリ……?」


(んっ? なんか懐かしい声……) テマリが見上げると

「やっぱりテマリだーっ!」 そう声を出していたのが、日本の最高神

『天照大御神』である。



「久しぶりです」 テマリは頭を下げる。

「元気だった?」 アマテラスが言うと、テマリが頷く。


「それで、何でお前がいる?」 アマテラスは、ツクヨミを睨んだ。



「いや……テマリを高天原で宣言させようと」 ツクヨミが説明をすると、

アマテラスは怒った。



「お前が決めることではない― それに神器も持たずに、何が宣言だ!」

アマテラスは本気で怒っている。


「あの……なんかマズい?」 テマリはキョトンとしている。

「父が何か言っていたの? テマリ……貴女は此処じゃないんじゃないの?」



父とはイザナギの事である。 古事記では、アマテラスやツクヨミ、スサノオはイザナギの目や鼻から誕生したと書いてある。



「私、イザナギに会ったけど子供の頃だし……」 テマリの言葉に、ツクヨミの顔色が変わる。


「テマリ……お前も知らなかったのか?」 ツクヨミが聞くと、

「はい? 何が?」


「お前、イザナギに会っているよ。 つい最近も……」




※  ※  ※


 尊神社についたオリガミたちは、大八洲に向かう準備をする。


 「オリガミ……」 宮下が声を掛ける。

 「マスター どうしたの?」 オリガミが顔を近づける。



 「儂、お前の力になれないか?」 宮下は声を震わせると、


「解熱剤ください……」  オリガミは宮下に言う。


(もっと、他にあるじゃろ) 宮下はブツブツ言いながら薬を持って来た。



オリガミは護に薬を飲ませ、社務所で布団に入れる。

「マスター、護をお願いね。 必ず戻ってくるから」 オリガミは笑顔で言って、大八洲に向かっていった。



「まず、お爺さんを戻さなきゃ……」


オリガミが足を進めると、黄泉の前に着いた。 ヒサメが何かを思い出したように黄泉の洞窟の方に走っていく。



「お爺さん、ここに居てね」 オリガミが笑顔で言うと。マモルは頷いた。


そこに息を荒くしたヒサメが戻ってくる。


「お母さん、何をしていたの?」 オリガミが聞くと、

「少ししたら話す」 そう言って、足早に黄泉から出て行った。



「これだよ」 ヒサメが出したのはタバコであった。 マモルが以前に投げ捨てた場所から拾ってきたのである。


(最悪……) オリガミは白い目をヒサメに向ける。



結局、マモルは最初に会った黄泉の入り口に座らせて先を急いだ。

高齢のマモルを山の麓に置いていくのは『姥捨て山』のような気がしないもないが、事態が急を要するために置いていったのだ。



「オリガミ……少し、待って」 ヒサメが呼び止める。

「どうしたのよ?」 オリガミが聞いた瞬間に白い煙が上る。


煙草である。 ヒサメは目を細めて久しぶりの煙草を堪能していた。



(こんなのが母親なんて……)

たかが一服、されど一服……少し母子の溝が出来てしまう。 ヒサメは気にせずに煙草を吸っていた。



残念な事に、天界には決められた喫煙スペースはない。 そもそも煙草がなかった。


「終わったよ」 ヒサメは満足そうだった。


「お母さん、いつ煙草を覚えたの?」 オリガミが聞くと、

「現代に来てからだよ。 意外にも身体に合っていたみたいでね♪」


「どうやって現代に来たのよ?」

「……」 ヒサメは返事に困っていた。


「さて、着いたな」 ヒサメとオリガミは高天原に来た。


そこには長い階段がある。 二人は進んで行くと

「いたっ! おーい」 オリガミは大きな声を出し、テマリを呼んだ。


「―っ?」 テマリは緊張していた為、声を出せずにいた。



「姫……」 つい先に栗林が声を出す。


「あら、九太も居たの?」

「九尾だ! なんで来たんだよ?」 栗林は軽くイラッとしている。



「んっ? そりゃテマリを探しに……」 オリガミはキョトンとする。


(なんで私なんかを探しにきたのよ……勝手にオリガミを置いてきた私なんかを……) テマリは目に涙を溢れさせる。



「それより、なんで九尾やツクヨミが一緒なの?」


「そりゃ、テマリを姫にしようかと……」 つい、栗林は口を滑らせてしまう。

「ばかっ―」 ツクヨミが慌てると



「なるほどね~」 アマテラスはニヤッとする。


「お前たち、そんな事を考えていたのかい?」 ヒサメは声を震わせ、テマリたちを睨む。


これにはテマリたちも黙ってしまった。


「親の決定に逆らうなんてね……」 ヒサメが一歩、足を前に出すと


「いいじゃない……」 オリガミが言う。


「オリガミ……」 テマリが呟くと、

「私はテマリに用があって、ここまで来たの」


オリガミは足下に鏡と弓を置く。 そして腕輪に手を掛けると

“スルッ ” 腕輪が抜けた。



「これをテマリに渡す。 ただ、条件があるわ」 

「条件?」 テマリがオリガミを見る。



「護が熱を出してるの……お粥の作り方を教えて……」

オリガミの言葉で、全員が絶句した。


(コイツ、まさかこの為に高天原まで来たっていうの? 姫の座とか大事なことがあるのに、お粥……?) ヒサメの額から汗が出てくる。



(アホなのは理解できているけど、どこまで底なしなのよ……もしかすると、罠? 何か隠れた暗号? 警戒しなきゃ―) テマリは用心しながら周囲に気を配る。



(お粥って、なんだろう……?) アマテラスは戸惑っていた。



オリガミが前に出て、テマリに近づく。 テマリは警戒をすると、

「見て、護の体温……」 オリガミは体温計を持ってきていた。


「確かに高いわね……」 テマリは体温計を見て言う。

「でしょ! だから……」 オリガミの語気が強まると、


「だ・か・ら? そんなもん、パ○ロンでも飲ませなさいよ! なんでここまで来るのよ!」 テマリは吠えた。



「わかったわよ……帰る」 オリガミは引き返していく。


「お前、本当にいいのかい?」 ヒサメがオリガミを呼び止める。

「私、テマリに嫌われたみたいだし……」 


「それに、テマリは姉でしょ。 姫なんてものは姉がやればいいのよ」

オリガミは歩き出した。



「テマリ……話さなきゃダメかね……」 ヒサメは覚悟が出来たようだ。


 全員の目がヒサメに集まった。



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