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第四十四話 神眼

第四十四話   神眼しんがん



「おはよう♪」 オリガミが尊神社に出勤する。

「おはようございます。 オリガミさん♪」 元気な声を出す菜奈が境内の掃除をしていた。



「菜奈ちゃん♪」



そこにアメノウズメがやってくる。


「アメちゃん……」 オリガミが言うと、

「んっ?」 菜奈は空を見上げる。


「菜奈ちゃん、どうしたの?」 

「いや、雨って言ったから……」 菜奈が不思議そうな顔をする。 空は晴れているからだ。


「あ~ 晴れてたね…… 何を言ってるんだろう、私……」 オリガミは誤魔化した。



「……」 アメノウズメは黙って見ていた。



午後、アメノウズメは社の中でオッキーと会議をしている。

「このままも良くないよね~」 

アメノウズメが言うと、オッキーも悩んでいる。



「どうしたの?」 ここでツクヨミが起きてくる。


「あんた、いつまで寝てるのよ~」 アメノウズメがムスッとしている。

「だって、夜の神だから朝は苦手なんだもん……」 

ツクヨミはアクビをする。



「それで、これから考えるわよ」 アメノウズメが言うと

「アメちゃん、何を考えるの?」



「私たちって、人間から見えない存在じゃない。 オリガミやテマリと会話しても、周りから見えないから変に思われないか心配で……」

アメノウズメは周囲の事を気にしていた。



「まぁ、オリガミは最初から変だからいいとして……テマリは不憫ふびんだよな……」


早くも『不思議な姫』、オリガミが定着してしまう。



「ちょっとテマリに相談してくる―」 アメノウズメは社務所に向かった。



「ちょっといい……?」 アメノウズメは社務所に入る。


そこにはオリガミとテマリ、菜奈がいた。 宮下は外出だったようだ。



「どうしたの? アメちゃん」 テマリが返事をすると、

「えっ?」 菜奈が驚いた表情をみせる。


「あっ、いや……」 テマリが慌てていると、アメノウズメは ため息をつく。



「テマリ……もう我慢しなくていいよ。 この話をしようと思って来たんだ」

「それって……」 


「えいっ!」 アメノウズメは菜奈の額に人差し指を当てる。



「えっ? 人が見える……」 菜奈は驚いている。

「な、何を……」 テマリは驚き、アメノウズメを睨む。


「これは神眼しんがん……菜奈ちゃん、はじめまして。 アメノウズメといいます」


「アメノウズメ……さん……」 菜奈はポカンとしている。



「アンタ……これが、どういう事か分かっているの?」 テマリはアメノウズメを睨む。


「だって、変でしょ? 見えない人からすると、大きな独り言だし……誰もいない所でドロップキックしてるのよ?」 アメノウズメは諭すように説得をすると、


「そりゃ、変な子よね~」 オリガミが口を挟む。



(オリガミだけには言われたくなかったわ……) テマリは肩を落とす。



「あの……コレって……」 菜奈がアメノウズメを見る。


「これは神眼って言って、私たち神と呼ばれる者が見れるのよ」


「あなたが神様……?」

「一応、そう呼ばれるのかしら……」 アメノウズメは恥ずかしそうにする。



「でも、オリガミさんやテマリさんは最初から見えているのは どうして?」

アメノウズメは黙ってしまう。 この対処法を考えていなかったからだ。


「……」 テマリも言葉が出なかった。

(どう説明しようかしら……)



そこでオリガミが口を出す。


「菜奈ちゃん、私たちは親族だからよ。 神族の親族……うふふ♡」

渾身のダジャレは、神と呼ばれる者まで凍り付かす。



「オリガミ……」 テマリがボソッと呟くと、



「オリガミさん、面白い♪」 菜奈にはウケていた。


(えぇ……?)



「な 菜奈ちゃん……これは私たちだけの秘密にしてくれないかな?」

テマリが忠告すると、


「そりゃ そうですよ……そんなの、誰かに話したら頭がおかしい……って思われちゃいますよ~」 菜奈が言うと、


「頭がおかしい……あははは……」 テマリは苦笑いするしかなかった。



「これでよし♪」 アメノウズメは安心している。



「じゃ、あそこのカッコイイお兄さんも神様?」 菜奈が指さす場所にはツクヨミが見ていた。



「カッコイイなんて、よく出来たお嬢さんだね♪」 ツクヨミが髪をかき上げ、ポーズを取ると、


(けっ! キザったらしい……) テマリは目が点になっていた。



「何か言いました?」 ツクヨミがテマリを睨むと、

「気のせいじゃありませんか……」 テマリは顔を背け、両手を広げる。



「それより、この娘は鍛えればいけそうなんだが……」 ツクヨミは、菜奈をジロジロと見渡す。



「鍛えるって何を?」 テマリがキョトンとする。


そこに栗林がやってくる。


「ごめんよ~ って、何?」 栗林は異様な空気を察する。


“じいいぃぃ…… ” 菜奈は栗林を見ている。


「あの……娘さん? なんで私を見ているのかな? って、なんで見えてるのよ~」 栗林は驚いている。


「こんにちは。 あれ? 尻尾がいっぱい……」 菜奈は栗林を見ている。


「この娘、神族の子?」 栗林がアメノウズメに聞くと、

「普通の人間の子よ。 ただ、神眼をあげたのよ」 微笑んで説明をする。



「そ、そっか……って、えーっ?? マズイんじゃないの?」

 驚いている栗林に、オリガミが説明をする。



 「菜奈ちゃんと、マスターには知ってもらったほうがいい……あと、護も。 私は不思議と見えるからだけど、神様は近くにいた方が安心するじゃない♪」



そこで、神族は絶句する。

(なんで不思議と見える……って言葉が出るのよ。 アンタ、そこの姫なのよ)

栗林は額から汗が出てくる。



そこで、オリガミがニコニコしながら

「知らぬが仏って言うけどさ~」 と、言った瞬間に



「仏じゃない! 神だわー!」 慌てて突っ込む神族である。



菜奈は神眼を受ける条件として、尊神社で働くことになった。



夕方、それをテマリが宮下に報告をする。

「なんじゃと? 矢沢さんところの娘さんが?」 宮下の顔が厳しくなる。


「うん。 契約だから……」 テマリが説明をしている横で、菜奈は正座をしていた。


「契約? なんじゃ、それは?」

「その……」 テマリは言葉に詰まる。


そこに、アメノウズメがテマリの背中を叩く。

「うん……」 テマリが頷くと


「そこに誰かいるのか?」 宮下が不思議そうな顔をする。



「アメノウズメ……さん……」 菜奈が言うと、

「アメノウズメ……もしや矢沢さん……?」 


「はい、見えるんです」 菜奈は、申し訳なさそうに言う。


宮下は呆然とする。


「今まではハッキリとは見えなかったのですが、将門って人に何かされてから、うっすらと感じるようではあったんです……そこで、アメノウズメさんにハッキリと見えるようにしてもらったのです……」


菜奈の説明に、宮下は衝撃を受けていた。


これにはテマリも驚いていた。 (まさか将門から……いや、正確には久松さんだけど……何しちゃってくれてんのよ、久松さん……)



「ふぅ……」 宮下は ため息をつく。


「じいじ……やっぱりダメ……?」 テマリは肩を落とす。



「そうじゃない……」 宮下が言うと、一斉に視線が集まる。


 “ゴクッ…… ” 菜奈が唾を飲み込む。



「儂だって、神様が見たいんじゃー」 大声で叫ぶ宮下に、全員が後ろに引っくり返ってしまった。


「み、見たかったのね……」 汗を拭うテマリに、

「そりゃそうじゃ。 何十年も神職をしているからの」



「なんだ~ 最初から言ってよ~」

オリガミとテマリは宮下の背中や頭を叩いた。


「いたた……やめんかー」



「じゃ、あげるよ……」 オリガミが小さな種をだす。

「これをどうするのじゃ?」 宮下が聞くと、オリガミが種を宮下の目に入れようとする。


「オリガミや……本当に入れるのか? 痛くないのか?」 宮下が小刻みに震えると、


「オリガミ……それ、飲ますのよ」 テマリが指摘する。


「あれ?」


「お前、儂は神様を見るどころか失明するところじゃったわい」

宮下はオリガミの頭を叩いた。



そして宮下が種を飲むと、段々とアメノウズメが見えてくる。

「まさか―」


「その、まさかでーす♪」 アメノウズメはピースをしている。



「こんなことが……」 宮下が涙ぐむと


「良かったね♪ もう安心して死ねるね♪」 オリガミの不適切発言により、社務所の空気が固まる。



アメノウズメはツクヨミを見るが、顔を背けられる。


そこでツクヨミが宮下に挨拶をする。

「はじめまして、神職さん」 キザなポーズをするツクヨミに、

「月読尊……儂は生きているんじゃろうか……」 宮下は感動を通り越して、恐ろしさまで感じるようになっていく。



ここから尊神社の雰囲気が変わった。

菜奈も入り、活気が出てきた。


そこに、菜奈の父親である矢沢がやってくると

「宮下さん、本当にありがとうございます。菜奈も明るくなって助かります……」 矢沢は宮下の手を握り、感謝していた。



「そうじゃ、せっかくだから神楽殿を使おう」 宮下が言うと

全員で神楽殿のステージを用意する。



「じゃ、オリガミとテマリで踊ってみせて」 アメノウズメがニコニコする。


「ほう……舞の神様に見せるなんて凄いことじゃな」 宮下はワクワクしている。


「あの……舞の神様って……?」 菜奈が宮下に聞くと、

「そこのアメノウズメは舞の神様なんじゃよ。 天照大御神が岩戸に隠れた時、そこのアメノウズメが舞って岩戸から出てくるように誘ったのじゃ。 そして日本に陽の光が射すようになったのじゃ……」



「古事記を読んでみるとええ」 宮下はニコッと笑顔を見せる。



そして舞を見せるオリガミとテマリ。 息がぴったりのステージに、菜奈は感動していた。


すると、「次はアメちゃんにお願いしようかな」 テマリが鈴を渡す。



「久しぶりだからな~ 出来るかな?」 アメノウズメが言うと、


「どれくらい、久しぶりなんじゃ?」 宮下が興味で聞くと、

「千年前くらいかな?」 ケロッと答えると、宮下と菜奈は絶句する。



そして、ステージ。

アメノウズメの舞は、神々しかった。


「これが、天照大御神が誘われた舞……」 宮下の目から涙が落ちる。


(おじいさん……) 菜奈は宮下にハンカチを渡した。



(ちぇっ― 流石に負けたな……)

テマリも本家には負けを認めざるをえなかった。



「おそまつさまでした……」 アメノウズメが頭を下げると、盛大な拍手で沸いた。



その頃、神社に残されていたオッキーは ふてくされていた。



夜になり、

「おつかれ~♪」 オリガミと菜奈は帰宅の時間となった。


オリガミが歩いていると、ツクヨミが話しかける。

「これから護にも見せるの?」


「……」 オリガミは下を向いたままである。


「ごめん……余計だったね」 ツクヨミが謝ると、オリガミは首を振る。



結局、オリガミは護に神眼を授けることはしなかった。





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