第四十一話 再会
第四十一話 再会
オリガミたちは現代に戻ってきた。
「おはよう、護♪」 オリガミが布団の中から声を掛ける。
「おはよう、オリガミ」 護も笑顔で挨拶をする。
「ご飯、作るね」 オリガミがベッドから出ると
「うわ~っ」 護が声を出す。
「??」 オリガミが不思議そうな顔をすると、
「まず、服を―」 護がベッド下にある服を渡す。
「そっか、忘れてた」 オリガミが小さく舌を出すと、護の顔が赤くなる。
オリガミも数日間、護と離れていて 久しぶりの表情に頬を赤らめる。
そして二人の顔が近づき、唇が触れようとした時
“ じいぃぃ…… ”
護の部屋のベランダから覗いている者がいた。 ヒサメとマモルである。
「うわっ―」 「キャー」 護とオリガミが悲鳴をあげる。
護の部屋はアパートの二階。 ヒサメは何故かベランダからやってくる。
「だからお母さん、なんで玄関から来ないのよ!」
オリガミはヒサメに怒っていた。 当然である。
「それに、お爺ちゃんまで何しに来たのよ」 オリガミが言うと、
「お前、父上様に何て口の利き方…… 九条の島を統治した人だぞ」
「すみません、父上様……やっぱりオリガミは黄泉に住ませた方がいいですよね……」 ヒサメがアタフタしている。
「父上様って、もしかしてオリガミのお爺ちゃん?」 護が驚いて言うと、
「こら小僧……貴様、なんて口を叩きやがる……」 ヒサメが護を睨む。
「いい加減にしてよ!」 オリガミが吠えると、全員が黙ってしまう。
「いきなり来て、お母さんは何がしたいのよ?」 オリガミが聞くと、
「そりゃ、現代の食事とかを父上様に知って貰おうかと思ってな……」
「それなら、お母さんが作ればいいじゃない」 オリガミが言うと、ヒサメは黙ってしまう。
しばらく無言の時間が流れる。
「行きましょう。 父上様……」 ヒサメとマモルは帰っていくが、
「ちょっと待て!」 オリガミの語気が強くなる。
「なによ?」 ヒサメが振り返る。
「玄関から出ろ!」 オリガミは睨みながら言う。
ヒサメとマモルはベランダから帰ろうとしていたのだ。
二人はベランダから靴を持ち、玄関に向かった。
(どうやって二階に上がったんだろ……?) 護は不思議に思っていた。
護の出社時間が近づき、オリガミはパタパタと家事を済ませる。
「護、いってらっしゃい♪」
玄関まで見送ったオリガミは掃除機をかけ、洗濯を済ませる。
普通の主婦である。 これがオリガミの望んだ形であり、黄泉の事など忘れてしまいたかったのだが……
「はっ― そういえば……」 オリガミが洗濯物を干すと、急いで尊神社まで向かっていった。
すると、九条の島と繋がる扉が境内横に置いたままだった。
走って扉まで走ったオリガミが到着すると、そこには宮下とテマリの姿があった。
「テマリ、マスター」 オリガミが声を掛ける。
「オリガミ……大変……」 テマリが指さすと、九条の島への扉が開いていた。
「これって……」 オリガミの額から汗が流れる。
「どうしよう……神様が自由に出入りしちゃう……」 テマリは焦っていた。
すると、オリガミは
「神様が自由に出入りできるならいいじゃない♪ みんなに福をくれるんじゃない?」 お気楽に答えると
「へっ?」 テマリが驚く。
(やはり、オリガミはアホなんだ……) 宮下がため息をつく。
「なんで? 変かしら?」 オリガミが首を傾げると
「やっぱり、お前はアホなんじゃな…… ここいらで神様がウロウロしてみろ。 他の神社に住み着いたりでもしたら大変の事じゃわい」
宮下の言葉にオリガミは……理解していなかった。
「ほら、愛国神社の件は覚えてる? 看板を違えるだけで稲荷が怒ってたやつ……」 テマリが言うと、オリガミが納得する。
「こうしちゃおれん。 急いで出ていった神様を捕獲しよう」
宮下が言うと、テマリが扉を閉める。
宮下は扉が見えていなかった。 この扉は一般の者には見えないのである。
「まず、どこから探そうか……」 テマリが言うと
「手分けした方がいい?」 オリガミが聞く。
「それでも見えない人は邪魔よね?」 テマリが宮下を見ると、
「な、なんじゃ?」
「マスター、ごめんね。 お留守番……」 オリガミは、小さく手を合わせて謝った。
“シュン…… ” 宮下はいじけてしまった。
(どうせなら神様を見たかった……)
オリガミが駆け足で鳥居の方向へ向かうと、
「オリガミ~ またアンタは……」 テマリが肩を落とす。
「なによ~?」
「どうして アンタは無鉄砲に走るのよ?」
このオリガミの習性は、九条の島の気質の名残かもしれない……と、テマリは思った。
「聞け、古代人オリガミよ!」
「また古代人って……」 オリガミが苦笑いをする。
「オリガミ……ここは九条の島じゃないのよ? 文明や情報ってのがあるの」
テマリが言うと、オリガミが頷く。
「まずは鼻の効くヤツを使おうよ」 テマリがニヤッとする。
「鼻の効くヤツ? はっ―」 オリガミが気づくと、また走ろうとする。
「ちょい待ち!」 テマリはオリガミの服の襟を掴む。
「ぐえっ―」 服がオリガミの喉を絞める。
「何すんのよ―」
「アンタ、何処に行こうとした?」 テマリが聞くと、
「そりゃ、鼻の効くヤツと言ったら犬でしょ? だからペットショップへ……」 オリガミが真顔で言う。
(これで姫なんて……) テマリはガックリしている。
「ペットショップで何するの? 飼うの? レンタルなんてないわよ」
テマリが言うと、オリガミが驚いている。
「アンタ大丈夫?」 テマリはイライラしているようだ。
「じゃ、テマリならどうするのよ?」
「古代人、オリガミよ。 目には目を、神には神を……よ」
テマリは神社の社の下に潜っていく。
オリガミテマリに付いていく。
「これよ♪」 オリガミが社の下に貼ってある護符を剥がす。
すると、光が差し込んで人が出てくる。
「オッキー♪」 オリガミが声をあげる。
光が薄くなると、 「あ、ども」 軽い挨拶で出てきたのがオッキーである。
「オッキー、お願い。 九条の島から神々が流れてきたみたいなの。 戻したいんだけど協力してくれる?」
テマリが言うと、オッキーは頷く。
こうして尊神社には神様が不在のまま捜索が始まった。
探しにでること三十分、オッキーが一人目の神を見つける。
「んっ? いたの?」 テマリがオッキーの指さす所を見る。
そこはコンビニである。
「神様もコンビニの有り難さが分かったのね~」 オリガミが言うと、
「やっぱりアンタの思考が分からん……」 テマリが白い目を向けるが、
オッキーは頷いていた。
「なんで? オッキーは行かないでしょ?」 テマリは呆れている。
オッキーとは『大国主命』である。 古事記にも登場する立派な神様だ。 そんな神様がコンビニの便利さを知るとは予想していなかった。
そのコンビニで陳列してあるものを眺めていたのは
『瓊瓊杵尊である』
農業の神様として有名で、天照大御神の孫として高千穂に降臨している。
鹿児島県の霧島神社などで祀られていて、天皇の祖としても有名な神様であった。
そんな瓊瓊杵尊がコンビニでサンドウィッチを眺めている。
そこにテマリが声を掛ける。
「ニニギ~♪」
ニニギが驚く。 まさか、見えている者がいるはずが無いと思っていたのだろう。
「ダメじゃん、現世に来たら…… 帰ろう」 テマリが言うと、ニニギは肩を落として尊神社に帰っていく。
テマリが神社に戻ってくると、
「テマリ、どうじゃった? 神様はいたか?」 宮下が興奮気味に聞くと、
「そっか……見えないんだもんね……オリガミの横にはオッキー。 私の隣にはニニギが居るのよ」
テマリが説明する。
「まさかとは思うのだが、護符を剥がしたのか?」 宮下がいうと、テマリが頷く。
「オッキーというのは分かったが、まさかニニギと言うのは『瓊瓊杵尊』か?」
「さすが じぃじ。 よく分かったね♪」
テマリがご機嫌に話すと、宮下の気が遠くなった。
それから宮下を社務所まで運び、布団で横にしていた。
そしてテマリはニニギを扉まで連れていき、九条の島へ返していく。
(こりゃ、何柱出たのやら……) テマリがため息をつく。
神様の数え方。 人は○人と言うが、神様の場合は違う。
例え人の形をしている神様であっても、○人ではなく ○柱と呼ぶのである。
二人なら、二柱と呼ぶのだ。
これが神様の数え方である。
時刻は夕方になり、オリガミのパートの時間が終わりに近づく。
「明日、また探そうか」 こんな言葉が出てくると、テマリが悩み出す。
「なんか、私ばかり考えてない? オリガミも考えてよ」
「私、神様とかよく知らないのよ……」 オリガミは返事をすると、
「―っ!」 テマリは言葉に詰まる。
それは、オリガミが記憶を無くしているのに気づいたからだ。
(そうか……オリガミは神様が見えても、顔を覚えてないのか……)
テマリは反省した。 役に立たないオリガミにイライラしても、記憶が無いオリガミを選んだのはテマリだったからだ。
そのため、あえて記憶の話からは遠ざけていたのだ。
「でも、ここまで来たら仕方ないか……」
オリガミを自宅に、オッキーを神社に戻してからテマリは考えていた。
(この後、どうすれば……)
その夜、オリガミは自宅で護が帰ってくるのを待っていた。
「遅いな……」 オリガミは護にラインをする。
返事は『残業中』と返ってきた。
退屈なオリガミは、ベランダで星空を眺めていた。
すると、一人の男性がベランダにやってきた。
「―っ」 オリガミが大事を出そうとすると、
「しっ―」 口を塞いだ。
「んーっ―」 オリガミが何度か声を出そうとすると、
「静かに、姫。 怪しい者じゃないから……」
そう言って、笑顔を出す。
静かに男性が手を離すと、
「いきなり二階のベランダから入ってきて、『怪しい者』じゃない? 怪しい以外に無いわよ!」 オリガミが男性を睨む。
そして、折り鶴を持って構えると、
「やっぱり、オリガミだね~」 男性は微笑んでいる。
「誰よ?」
「へっ? 忘れたの?」 男性はキョトンとする。
「忘れるも何も、最初から知らないわよ」
こんなやりとりを続けていると、
「ただいま~」 と声がする。 護が帰宅してきた。
「帰ってよ。 浮気していると思われるから―」 オリガミが男性を突き飛ばす。
慌ててオリガミは玄関に向かい、「おかえり~♪」と笑顔を出す。
それから男性は姿を見せなくなった。
翌日、出来事をテマリに話すと
「それ、怪しいわね……近頃、強盗とか女性を狙う変なヤツが多いから注意してね」 テマリが言う。
それを陰から男性が聞いていた。
そして、その横にはオッキーが立っていた。
「僕、怪しい人なんだって……」 男性が不気味に笑う。




