第四話 トリセツ
第四話 トリセツ
「いってらっしゃーい♪」 オリガミは護を見送り、家事を始めた。
「ふん♪ ふん♪ ふん♪」 鼻歌を歌い家事を進める。
そんなオリガミでも出来ないことが2つあった。
一つは料理である。 オリガミは植物から出てきていて食事は水が基本であり、『食べる』という行為は出来ないのだ。
すなわち味覚というものが存在しないので料理というものが無縁である。
そして もうひとつが……
「あれ? 植木鉢がそのまま……」
護は植物に水やりをしてから陽に当たる窓際に置いて出社するのだが、今日は水やりだけをして窓際に置くのを忘れていた。
“じ~っ ” とオリガミは植木鉢を見つめる。
「もう……護ってば、出し忘れてるじゃん」
オリガミは植木鉢を窓際に移そうとしていた。
『スカッ……』
「―あれ?」
手が植木鉢を掴めずに通り過ぎていく。
「あれ? どうしたんだろ?」 オリガミは自身の手を見る。
その後、何度も試すが植木鉢には触れなかった。
(まさか……) オリガミの額から汗が出てくる。
(植木鉢を触れないと言うことは、私は私自身を守れない?)
オリガミは自分の知らないことを気づいたようだ。
「これはリストを書いておかないと忘れちゃうわね……」
オリガミは護の引き出しから紙とペンを取り出した。
「買い物は出来た……料理はバツ……」
などとブツブツと言いながらリストは出来ていった。
「世の中、野球で二刀流なんて言葉が出てきているけど……人間と植物の二刀流は不便だ……」
時刻は正午近くになっていた。
「はぁはぁ……なんか怠いな……」 オリガミの体調が悪くなってきていた。
午後……窓から陽が入り、オリガミの体調が良くなってきていた。
しばらく植物を見ていたオリガミは、自身と植物の関係性に理解し始める。
夕方になり、護が帰宅すると
「ただいま~」 護は新婚さながらの勢いで玄関を開けた。
護は部屋に入ると、ぐったりしているオリガミが目に入る。
「オリガミさん、大丈夫?」 護はオリガミを抱えて話しかける。
「ううぅん…… 護、おかえり……」 オリガミは力の無い言葉であった。
「どうしたの?」
「そこのノートに私のトリセツを書いてみたの……」
オリガミはテーブルの上に置いてあるノートを指さした。
「どれどれ?」
しばらくノートを読んだ護は、植物とオリガミの関係性について理解を始めた。
「つまり、朝に植物を窓際に出さなかったからオリガミさんが栄養を摂取できなかったってことだね?」 護はオリガミを抱きしめた。
「ごめんね。 私も知らなかったから……」 オリガミは護に謝る。
「そんなこと無いよ。 俺が大事にしていれば……本当にごめん」
「今後なんだけど……」
護とオリガミは夏場の植物について話しあった。
日差しの強い夏場であれば水が乾いてオリガミが枯れてしまうこと、しかし日光は必要などと細かいことまで話し合っていく。
「とりあえず、植物に対してはこんなものか……」
護は話しをまとめ、ノートの続きを読んだ。
「現在、分かったのはオリガミさんが植物に触れられないこと。 そして料理が絶望的ってことなのね……」 護がノートに書いてあることを確認すると
「――いやいや、なんか絶望的って言葉が嫌。 料理が出来ない人みたいじゃん! 私の場合は違うでしょ!」 オリガミは頬を膨らませる。
「うん? ノートの続きなんだけど……『浮気禁止』って……」
護は苦笑いしていた。
オリガミは顔を背け、「仕方ないじゃん!」と顔を赤らめた。
翌朝、護は日差しの事も考慮( )《こうりょ》して植木鉢を置く。
「ここでいいんじゃないかな?」 護はオリガミの顔を見ると静かにオリガミも頷いた。
護が会社に向かうとオリガミは掃除や洗濯を始めた。
そして家事を済ませると、引き出しから折り紙を取り出し、折り鶴を作っていた。
そして夕方。
「ただいま~」 玄関から護の声がすると、
オリガミも玄関までダッシュで向かった。
「おかえり~♪」 オリガミは飛びつくように護を出迎える。
「機嫌、良さそうだね♪」
護がオリガミの体調の管理をするには、分かりやすい反応だった。
部屋に入ると、沢山の折り鶴が飾ってあった。
「たくさん作ったね~。 何かの願掛け?」
護は千羽鶴だと思っていた。
「―い、いや……暇だったもので……」
オリガミは恥ずかしそうに言う。
「それとね?」 オリガミは護の肩を見ていた。
「ねぇ、護は憑りつかれやすいタイプ?」
「うそ? なんかいるの? 今日、なんか身体が重くて……」
護は疲れた表情をしていた。
オリガミは目を閉じてブツブツと言葉をだし、そして護の肩に向かって掌を向けた。
「はあぁぁぁぁ!」
「滅セージ……」 これがオリガミの “決め台詞 ”のようだ。
「あれ? 肩が軽くなった……」 護が肩を軽く動かすと、
「これも私の仕事でもあるの♪」 オリガミはニコニコしていたが、 “これも…… ”の最初には、家事が最初の仕事だと言いたかった。
「へぇ~オリガミさん、触らないでマッサージも出来るんだ~」
「違うわよ! 除霊みたいなものよ!」
「……なるほど?」
護はピンときていないが、それとなく会話を合わせていた。
「まあね。 ここでの暮らしは快適にしてあげるからね♪」
オリガミはニコニコしていた。
仲良く暮らし始めて一週間が経った。
「そういえば、行きたい所があるんだけど一緒に行かない?」
護は金曜の朝、オリガミに話す。
「行きたい所?」 オリガミは首をかしげた。
「そう。 だから夕方に会社の方へ来れる?」
護がオリガミに会社の住所と地図を渡す。
夕方になりオリガミは護の会社まで向かい、新宿駅から歩いて街並みを見ながら歩いた。
(見覚えある場所だけど、何でだろう……?)
オリガミは場所の記憶はあるが、自分で種を売っていたことは覚えていないらしい。
夕方になり、退社した護は会社の付近でオリガミを探していた。
「あれ? オリガミさん、どこだろう……」
護はオリガミを探して駅の方へ向かった。
護がしばらく歩いていると、オリガミが男性と話している姿が目に入る。
その姿はオリガミが怯えているようにも見え、護は急いでオリガミの所へ向かった。
「オリガミさ……」 護はオリガミを呼ぼうとしたが、何やら言い争いのような声が聞こえる。
「だから貴方には関係ないでしょ!」 オリガミの声が急に大きくなった。
(なんだ? 何が起きているんだ?) 護は慌ててオリガミの所まで走った。
「オリガミさん、どうしましたか?」 護がオリガミを庇うように男性の間に入る。
「すみません。 俺のツレが何かしましたか? って、あれ?」
護は男性に話しかけたが、その男性を見て驚いた。
「あれ? 占いの人……」
護が以前に話していた、占いの店主であった。
「おぉ! 足立君。 どうした?」 占いの男性が笑顔で答えると
「前に話していた、探し人を連れてきまして……」
護は以前に占ってもらった探し人を紹介する為に、オリガミを紹介した。
「この女性だったのか! わざわざ、ありがとう……」
占いの男性は、護に笑顔で応える。
「オリガミさんは どうして大声をあげたの?」
護は、オリガミが大声で言い合ったような光景を思い出した。
「それは……」 オリガミは下を向いた。
「……」 護はオリガミの言葉を待った。
「―なんだっけ?」
オリガミの言葉に護はコケた。
「―ほんの一分前なっ!」 護はツッコんだ。
護は占いの男性にオリガミと会えた事を報告できたことに満足し、
オリガミとデートを楽しんだ。
「護、私も働こうかな?」 オリガミが護に話し出す。
「どうして?」
「ほら、いつもお世話になっているし、私も稼いで生活の足しにしようかと……」
オリガミは真面目な顔で言っていた。
「いや、オリガミさんの生活費って少しの水だけじゃん。 食事する訳じゃないし……」 護は苦笑いしていた。
「……」オリガミは下を向いていた
「よし、買い物に行こう!」 護がオリガミの手を引いて店に向かう。
「……ここで何を?」 オリガミは店内をキョロキョロしている。
「これと……」 護がオリガミに折り紙を手渡し、次の場所に向うと
オリガミは護の行く方へ付いていった。
「これでよし!」 護は買い物をして満足していた。
「これは……」 オリガミは、買い物をした荷物を見て目が潤む。
買い物袋の中には折り紙と小さなビニール袋、そして花の種が入っていた。
「やっぱり……俺たちを合わせてくれたのは種なんだよ! だからオリガミさんは種を売っていてほしいんだ……」
『カサカサ……』 護は種が入っている袋を振って、音を鳴らせた。
「二人で小分けしよう♪」
オリガミは護の腕を組んで帰宅した。
しかし……
「そうじゃない!」
オリガミから強い口調が聞こえる。
護は、オリガミから鶴の折り方を習っていた。
「もう……紙が勿体ない! こんなクシャクシャにして!」
オリガミは見事なまでの鬼教官になっていた。
護は不器用で、折り紙などの細かい作業が苦手であった。
「こんなんじゃ売り物にならないわよ!」
オリガミは新聞紙を丸めて護の頭を叩く。
「え~ん……」 護は泣きながら折り紙の練習をさせられていた。
「うふふ♡」 オリガミは笑顔で 「もう一回。 もっと練習ね」
〈補足〉 取説には書いていなかったが、基本はオクテ。
しかし護にはグイグイ派だったようである。