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第三十九話 九条の歴史

第三十九話   九条の歴史



「かしこまりました。 姫様……」 久松は背筋を伸ばし、オリガミを見つめた。


九条の島とは、イザナギとイザナミが作った島である。

これが日本の創生であり、後に島を収める者が現れたのが九条の祖となっている。



「なるほど……」 オリガミは納得した顔をしていたが、


(これだけの話しで納得なの??) テマリは、『不思議な女』 オリガミを見ていた。



「ちなみに、九条の島って大きさはどれくらい?」 オリガミが聞くと、


「まぁ……今の日本ですから……」 久松が答えると


「えっ? 日本中を探して出入り口を探すの?」 


「左様でございます」 久松は頭を下げる。




「帰る!」 オリガミは決心したようだ。


「なんでよ!? 聞いたのよ? 引き返すの?」 テマリが焦ったようにオリガミに言うと、



「無理よ。 そんな昔なんだから飛行機も電車も無いじゃない」


「でも……」 テマリは納得しておらず


「それに、テマリは日本の隅々まで歩ける? 水戸黄門だってやらないわよ」


オリガミが日本の伝統番組を引き合いにしている。



「とにかく帰る」 オリガミの意思は固そうだ。


「お前、いにしえの話しは興味ないのかい?」 ヒサメも混ざり、オリガミを説得するも


「ない! 今が楽しいし、スマホも使えないようじゃ……」


「ギャルかっ!」 つい大声でツッコんでしまう、ヒサメとテマリであった。



「久松さん……この馬鹿姫が行かないそうなので、引き返せますか?」

そうテマリが言うと



「馬鹿姫……?」 オリガミの額が動く。


「そうそう……この馬鹿娘が騒いでゴメンなさいね~」 ヒサメも便乗していく



「馬鹿娘……?」 オリガミは顔をヒクヒクさせていた。



その後も、オリガミの悪口を続けていた。


「アイツさ~ 私が倒した相手に横から入って「滅セージ」とか言うのよ~」


「そんな事したの? 「滅セージ」とか言ってないで、ソーセージでも食べてなさい!って思うわよね~」 段々とオリガミの悪口がエスカレートしていき、遂にオリガミがキレる!


「いい加減にしてよ! 行けばいいんでしょ」 オリガミは半泣きの顔で言うと


「じゃ、行きましょ!」 ヒサメとテマリは真顔に変わり、スタスタと歩きはじめた。



(凄い連携プレーだ……) 久松は苦笑いをしていた。



「それで、何処に進めばいいの? ここは何処なの?」

オリガミが困った顔で聞く。



辺りを見回しても山や木があるだけ。 ここに手がかりを探すというのは至難の業であった。



「ここは昔の新宿区……尊神社の場所にございます」 久松が言うと、オリガミが唖然とする。


「全く違う景色ね……」 


「それはそうです……まだ人間という者は誕生しておりません。 ただ、人間としての形があるもの……それは神々と呼ばれる者がそうでしょう……」



これは島の創生である。 空と陸の境界が出来た頃の話し、人や動物などの生命がいずる前の形があった。



「ちなみに、この場所から九州や北海道に行くには歩かないといけない訳?」


オリガミは心配だった。 足が動かなくなることを心配していたのだ。



「まぁ、文明とは人間が出来てのこと…… 姫様は疲れを心配されているのですね?」 久松が優しく話す。



「それ! あんまり歩くとかは嫌いじゃないけど限度があるわよね……」


「ちなみに、此処に居る者は神々の者です。 疲れなどありませんよ」


その言葉に、オリガミはピンと来ずにいた。




そして、足を前に出して歩き続けた。

「今、何処?」 オリガミが聞くと、


「現代の場所で言うと、大阪です」 久松が答える。



「早くない? 歩いて一時間も経っていないわよ?」 今度はテマリが声を出す。



「はい。 この島では距離や時間がズレます。 もう少ししたら兵庫の淡路島です。 イザナギが日本として最初に作った島です」 こうガイドをしている。



そして淡路島に到着すると、この島は餓鬼の巣窟になっていた。



『シャー』 突然、餓鬼が襲い掛かってきた。


先頭を歩いているオリガミは片手で払いのける。


「この大群、一気に行くわよ」 テマリが声を出し、大きく息を吐きだす。

すると龍神が現れた。


「龍神、餓鬼を殲滅せんめつして」 


『グルル…… ガオーン』 龍の咆哮により餓鬼の大群が消滅する。



「これならどう?」 ヒサメが天に向かい、両手を広げる。

すると、天より氷雨が氷の刃となり餓鬼に降り注ぐ。



餓鬼を殲滅し、視界が広がった。



「この辺に扉がありそうね」 ヒサメが言うと


「これかな?」 テマリが割れた岩を覗き込む。


すると、岩の割れ目から餓鬼か入ろうとしていた。

「―わっ!」 テマリが驚く。


「どうしたの?」 オリガミが聞くと、

「この割れ目よ! これが扉よ」 テマリが叫ぶ。



「この岩を閉じればいいのね」 オリガミが言うと

「どうやって?」 テマリが聞く。



「押すのよ」 オリガミは岩を押した。


(とことん古代人……) テマリが苦笑いをする。


しかし、女の子の力では岩は動かなかった。



「はっはっ……それでは無理でしょう」 久松は笑っている。


「じゃ、どうするのよ?」 オリガミがムッとする。


「姫様の持っている鏡で照らすのですよ」 久松が答えると、オリガミは岩の割れ目に鏡で映す。


「おぉ……」 割れ目の隙間が小さくなり、餓鬼が通れなくなっていった。



「お見事でございます」 久松が頭を下げる。


(先に言えってのよ……) オリガミは不機嫌な顔になった。



このまま直進して西に進むと、

「ここでございます」 久松が足を止めると


「ここ? 山のふもとなんだけど……」


「はい。 ここが黄泉よみの国でございます」


久松が説明すると、ヒサメの顔が険しくなる。


久松がチラッとヒサメの表情を伺い、口を開く。

「今日は、ここまでで帰りましょう」 



「構わん……いつかは来ないと……とは思っていた」 ヒサメは覚悟が出来ていたようだ。



黄泉への道はひとつ、洞窟どうくつのような道を進むだけである。

洞窟の手前は薄暗く、身震いするような寒さだった。



「寒いわね……上着を持ってくればよかった」 そう呟くのはオリガミである。


「ここは何枚、服を着ても同じ寒さです。 ご安心を……」 久松が言うと



「寒いのに「ご安心を……」って、何を言ってるんだ?」 オリガミの理解力とは、この程度だった。



そして道を進むと一人の老人の姿があった。

なんじ、この先に進まれるのか?」 老人が声を出すと



「当然だ。 その道を開けるとよい」 ヒサメが返す。



そして、ヒサメが老人の顔を見る。

「―っ!」 慌ててヒサメが片膝を地に付ける。



「久しぶりじゃな、ヒサメ……」 老人が話すと


「はっ! お元気そうで何よりです。 ちち様……」 ヒサメが頭を下げた。



「うおぉぉぉ?」 ヒサメの姿を見て、思わず声を出してしまうオリガミに



「誰じゃ、そのアホみたいな娘は……?」 老人がオリガミを見てヒサメに聞くと、


「その……恥かしながら、娘でして……」 ヒサメが片膝を立て、両手を前で合わせる。


(ムッ……) 



すると、テマリも片膝を付けて頭を下げる。



(ポカン……) オリガミは直立不動であった。


そして、オリガミの次の言葉でヒサメとテマリが凍り付くことになる。



「お爺さん、誰?」 



(うぅぅ……死にたい……いや、オリガミを殺したい) ヒサメはオリガミを睨んだ。


(コイツは、この世で一番のアホだ……どうか天罰はオリガミ一人に落ちますように……) テマリは祈った。



そして久松は、姿勢を斜めに崩していた。


(ちょっと、チビってしまった……)



このオリガミの大胆不敵な発言に老人は、


「私は九条 マモル。 君の祖父になるのだろうか……」


老人はニコッとする。



「父さま……失礼な娘が申し訳ありません。 今すぐほおむりますので……」

慌てるヒサメに、マモルは笑顔を出す。


「構わん……知らんのだから仕方あるまい……」


ヒサメは頭を下げた。


「ねぇ、お爺ちゃんは此処で何をしているの?」 オリガミが平然と聞くと



ヒサメとテマリが泡を吹いて横に倒れる。


ついには久松も腰を抜かしてしまった。



マモルは 「ここで黄泉の番人をしているんだ。 ここから出ようとする者もいるんでな……」 と、答えると



「そうなのね? 注意してくるよ」 オリガミは黄泉の入口から中へ向かって歩き出した。


「……」 マモルは唖然としてオリガミを見送ってしまっていた。



「すみません。 オリガミは黄泉に住まわせますから……」 ヒサメは必死に謝っていた。



九条の歴史は長い……代で言えば三代になるが、オリガミまででも二千年は経っている。 この黄泉の番人こそが九条の家の祖である。



誰もがオリガミの虚を突く行動に、あっけに取られていて各々が勝手な事を考えていた。



そしてオリガミは黄泉の中へ入っていく。


阻止をしようと、ヒサメとテマリは全力でオリガミを追いかけた。



しかし、オリガミが黄泉へ入ると壁が崩れて入口が塞がってしまう。



「まさか?」 ヒサメが驚く。


「―?」 マモルは気配を感じとった。



黄泉に入ったオリガミは、腐乱状態の人たちと睨みあう。


そして、オリガミは

「ここ、冷凍庫ないの? だから腐っちゃうんだよ~」 と、言った。



ここに居るオリガミ以外の者は、「???」 に、なる。

当然だろう。


そこに一体の腐乱の者がオリガミに近づき、手を伸ばすと


「いやっ! 触らないで!」 オリガミは大きな声を出す。


「??」 声が聞こえたヒサメとテマリが反応する。

「オリガミーっ」 叫ぶも、中からの反応はない。




その昔、イザナギはイザナミに会いに黄泉の国を訪れていた。

そして、イザナミを見るなと言われていたのも関わらずイザナミを見てしまった。 追いかけられたイザナギは、必死に逃げると一人の男性に出会う。



「どうされました?」 男性がイザナギに聞くと

「イザナミに追われている……」 と、説明をする。


男性がイザナギを守ってやることによって、この国の安泰を守る者としての神、九条が確立されていくことになった。


この国を守ることから、『マモル』という名前が付いた。


そして、この国を九条が統治していくことになった。

九条に歴史があったのである。



それを知らないオリガミは、黄泉の者に文句を言っていた。



「そんな汚い手で触ったら服が汚れるでしょうが!」

オリガミには黄泉の国も、現実の世界も変わらないのであった。





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