第三十八話 運命の扉
第三十八話 運命の扉
オリガミと将門が激突する。
将門が暴風を吹かせ、オリガミに襲い掛かると
オリガミが片手で払う。
オリガミが掌から波動を出すと、将門は避ける。
このパターンを繰り返していた。
「何が起こっているのじゃ?」 すっかり目立たなくなった宮下が言う。
「じいじ、居たんだ……危ないから社務所に戻りなよ」
「えっ?」
「お前、ジジイなんだから戻りな」 ヒサメも言うと
「えっ?」
宮下は、「えっ?」 しか言えなくなっていた。
「貴様だって、ババァじゃろ!」 宮下が言うと、
「お前、黄泉を見学させてやろうか? あぁん?」 ヒサメは、見た事の無いくらいの怖い顔を宮下に向けていた。
「お母さん、ちょっと……」 テマリがヒサメをなだめる。
そんな仲間割れを余所に、オリガミと将門は戦っていた。
(この違和感は何?)
オリガミは戦っている最中だが、ある違和感を持っていた。
「はぁぁー」 オリガミのキックが将門の腹を捕らえ、大きく後ろに跳んだ。
「どうだ!?」 オリガミが渾身のポーズをとると、将門が反撃をする。
しばらくの戦いの後、
「はぁ はぁ……」 オリガミは息があがっていた。
将門が息を吸いこみ、吐き出すと突風がオリガミを襲う。
「オリガミ―」 テマリとヒサメが叫ぶ。
砂煙の中、オリガミは防御していく。
「ここからは本気でいくよ」 オリガミの眼が赤くなると
(この眼……) テマリはゾクッとする。
オリガミは折り鶴を投げ、式神を呼び寄せた。
“ ポンッ ポンッ ” と、音がして
「オリガミ~♪」 と、式神が現れた。
「式神たち、マサ……なんとかを倒すわよ」 オリガミが言うと
「名前くらい覚えろよ……」 テマリが苦笑いをする。
すると、式神の一人である白虎が
「将門? お前、将門なのか?」
「……」 将門は返事をしなかった。
「まぁ、いいか…… じゃ、いくよ~」 式神たちが将門を囲むように四方にまわり、掌から波動を出す。
「ぐっ……」 思わず将門が声を出すと、
「やっぱり、お前は将門じゃないね」 白虎が言う。
将門が白虎に気を取られている瞬間、オリガミが宙を舞うように高いジャンプをして将門の頭上からキックをお見舞いした。
大きく跳ね上がった将門に、またキックを浴びせた。
「今よ!」 オリガミが叫ぶと、式神たちは将門の上で回りはじめる。
段々と精気をなくした将門に、テマリのアイアンクローが入る。
「ぐぐっ……」 苦しそうにする将門の顔にヒビが入ると
オリガミが将門の顔面に波動を撃った。
すると、顔面のヒビが割れた。
“パリンッ ”
硝子のような将門の面が割れ、中から男性が現れた。
「さすが、九条の娘たち…… 参りました……」 男性が言うと
「だ、誰?」 オリガミとテマリはキョトンとする。
「お前……」 ここで、ヒサメが声を出す。
「お久しぶりです。 ヒサメ様……」 男性は頭を下げた。
「お母さん……彼は?」 オリガミが聞くと
「私は、久松と申します。 覚えにくかったら、和くん……とでも呼んでください」
(フランクすぎる……) オリガミとテマリは、久松のノリに出遅れていた。
「さて、姫様…… 将門の真似をしていた私に勝つとは なかなかのものでした。 しかし、本物の将門はもっと強いですよ」
久松はニコッとして、オリガミを見ている。
「それで、久光さんが何の用……?」 オリガミが言うと
「私、湿布は販売しておりませんが……」 久松が返す。
(コイツの天然、どうにかならんのか……) ヒサメとテマリは困っていたが、
「湿布あるのか? 最近、腰が痛くて……」 宮下が割り込んできた。
「じいじ、申し訳ないけど 黙れる?」 テマリは宮下に『黙れ』の合図をした。
「神器は揃いました。 姫様……貴女様が新しい扉を開くかどうかになりますよ」
久松がオリガミの決心を確かめると、
「いや、開けない」 たった一言で片づけた。
「ちょっと、オリガミ! この戦いは何だったのよ? お母さんまで来てるのに……」 テマリはオリガミの胸ぐらを掴み、怒鳴っている。
「そうよ! なんなの? この娘は……」 ヒサメまで怒鳴ってくる始末になっていく。
(これが新しい姫とは……) 久松は苦笑いをしている。
「前にも言ったでしょ? 私は護との生活に満足しているの。 この神社で、マスターやテマリと一緒に居て楽しいのよ」 オリガミの言葉に、全員が黙った。
「新しい扉……私には、どうでもいいの。 この社務所の引き戸が好きなの」
(まさか…… 久松を大工だと思っているのか? 新しい扉を、建て直そうと思っているのか?) ヒサメの額から汗が流れる。
(とんだ勘違い女だわ…… なんで社務所の扉を交換するのに戦わなくちゃいけないのよ……) テマリも同様に汗をかいていた。
しばらく沈黙が流れる。
「すみません……話しを戻しても良いでしょうか……?」
久松が尋ねると
「とにかく、社務所の建て替えは反対です。 費用も馬鹿にならないし……」
オリガミは、本気で言っていた。
(まだ理解してないの?)
「あのね、オリガミ……」 ヒサメは堪らず、説明をすると
「そんな話しがあるの?」 オリガミがキョトンとする。
「久松、用意して!」 ヒサメが言うと、久松は頭を下げて準備を始める。
ぼーっと見ているオリガミに、テマリが話しかける。
「オリガミ……これは違う世界に足を踏み入れることになるわ。 ここからが、私たちのルーツになる世界なの」 テマリが説明すると
「???」 不思議そうな顔をするオリガミであった。
そして数分後、
「用意が出来ました。 姫様、あの扉を開けてください」
神社の中庭に、扉が出てきた。
久松が言うと、オリガミは足を前に進める。
そしてドアノブに手を掛けた瞬間、
「チャイムを押さなきゃ」
そう言うと、全員がコケた。
「早く開けろ! この馬鹿娘が!」
気の短いヒサメがイライラし始める。
「うるさいな~」 そう言って、オリガミがドアを開けると
まるで別世界のよう……ではなかった。
「??」 オリガミがキョトンとする。
「あの……何か変わったのかしら?」
「これが『九条の島』でございます」
「九条の島……古事記などでは大八洲と呼ばれていました。 そして大八洲を守る者がいて九になり……九条の島と呼ぶようになりました」
久松はニコッとする。
「特に変わった様子もなく、ただ扉だけ置いたような感じなんですけど……」
「では、扉の向こうへ……」 久松が案内すると、全員で扉の中に入っていった。
すると、環境が一変した世界が広がる。
「あれ? 神社が無くなっているわ。 どういう事?」
オリガミが目を丸くする。
「この扉は、現世と九条の島を結ぶ扉なのです。 九条の島は、太古の昔の日本になります」 久松が説明をする。
「しかし、誰も居ないのね~」
「はい。 ここに居るのは八百万の神々と、妖術使いだけです」
これにはオリガミもピンと来なかった。
「と、言うことはマスターも入れないの?」 オリガミが聞くと、
「一般の人間は入れません。 ここに住む神々が襲い掛かってしまいますので……」 久松は、九条の案内人というよりガイドさんのような口調になっていた。
「う~ん…… 私も、この世界の記憶が無いわね……」 テマリも不思議な世界を見つめていた。
「とにかく行ってみましょ」 オリガミが足を前に出すと、すでに沢山の神々が待ち受けていた。
「これは……?」 オリガミが動揺していると、
「これからは、この神々が歓迎してくれるのか、それとも拒絶か……お前次第だ」 ヒサメが諭すように話す。
周囲の風景は山と木しか見えず、アマゾンの密林に迷いこんだようである。
そしてオリガミは神々と対峙し、前に歩き出すと
「シャー」っと、威嚇のような声がする。
オリガミは声の主を睨んだ。 そして顔を戻し、また前に進む。
「これ、本当に神々なの? 醜いんだけど……」 テマリが久松に聞くと、
「姿を変えているのです。 これは餓鬼と言って、醜い姿に変えて様子を伺っているのですよ」
「随分と、歓迎されてない感じだわね……」 テマリが息を落とすと
「シャー」 と、声がした途端に餓鬼がテマリを襲う。
「キャッ―」 テマリが身体を反らし、攻撃をかわす。
そして反動で餓鬼を蹴った。
餓鬼は転がり、テマリを睨む。
「ほう……」 テマリがニヤッと笑うと、波動を餓鬼に向けて発射した。
“シユウゥ…… ” 餓鬼は煙となって消え、周りの餓鬼たちが固まった。
「どうやら、本物の餓鬼みたいね……」 ヒサメが前に出てくる。
「どういうこと?」 オリガミが振り向き、ヒサメに聞くと
「私を見ても敬う心が無いわ。 あり得ない……」
「よくぞ、見分けられました。 さすがヒサメ様です」 久松は頭を下げた。
「ここ数年……と、言っても二百年くらいでしょうか……この九条の島に大量の餓鬼が入ってきました。 どこに出入り口があるか分からないので、探して頂きたくて将門を使い誘った次第です」
久松は端的に話し、詫びを兼ねてお願いをしていた。
オリガミは両手に種を出し、地面大きな輪になるように置いて
「その話し、詳しく聞きましょう……」 そう言って、久松を見た。
「かしこまりました。 姫様……」




