第三十七話 将門の乱
第三十七話 将門の乱
「来たか……神武の血を引く者よ」 そう話しかけてきた。
しかし、宮下は聞こえていない。
「何か勘違いをしているわね。 神武の血を引く者じゃないわよ。 私たちの血を神武が引いてるのよ」 テマリがドヤ顔をしている。
(何―っ? こいつらの末裔が神武天皇? ってことは、二千歳くらいだと?) 宮下は激しく動揺していた。
「ここに来たのは、私の深い眠りと憎悪を覚ませること……覚悟は出来ておるんだろうな?」 耳の奥から聞こえてきる声に、
「そのつもりだけどね……時間的に、オリガミのパートタイムが終わるから今日は帰るわ」 そう言って、将門の首塚に背を向けると
「―痛っ」 テマリの服が引き裂かれたように破けていた。
「面白いじゃない。 尊神社まで来な! 遊んであげるわよ」
そう言って、テマリたちは引き上げた。
その夜、早速の訪問者が現れた。
社務所の窓が激しく揺れ、宮下が動揺すると
「来たか……」 テマリはニヤッとした。
テマリと宮下が社務所の外に出ると、将門が立っていた。
すると、耳の奥から声が聞こえる。
「お前の言う通りに来たぞ。 さぁ、何をしてくれる?」
将門の声に、テマリは
「この結界の中で、貴方に何が出来るのかしらね?」 テマリが挑発をすると、
「これでどうかな?」 将門が手を挙げると、地面から無数の物の怪を出してきた。
物の怪が一斉にテマリに襲い掛かる。
「―くっ」 テマリが構える前に襲い掛かってきたので、妖術を出すまえに防戦一方となった。
「テマリ―」 物の怪が見えない宮下は、テマリの動きで事態を察していた。
「ワシに何か出来ることは……」 宮下は考えていた。
そして、出した結果……
「オリガミにLINEじゃ……」 これであった。
宮下は、オリガミにメッセージを送りテマリを見守る。
「うおりゃー」 テマリの雄たけびが聞こえると、物の怪が引いていく。
「はぁ はぁ……」 テマリが物の怪を睨むと
「まだヤル気? ここからが本番よ」
テマリが息を吐き、龍神を召喚させ
「龍神、コイツらを殲滅せよ」 そう指示をすると、龍神がグルグル回りながら身体を大きくさせる。
大きくなった龍神が、口を開け
「オオーッ」 と、吠えると物の怪が吹き飛び、塵となる。
まさに『龍の咆哮』である。
「いいだろう……次は私だ」 将門が一歩前に足を出す。
(なんだか分からんが、テマリが心配じゃ。 ここはワシが守らなければ……)
そう思い、テマリを見て方向を確認する。
「ここじゃな」 テマリの視線の場所に、宮下は殴り掛かった。
「引けー」 宮下の殴り掛かる姿を確認した将門は、宮下に叫ぶと同時に突風が襲い掛かる。
「うわっ、なんじゃ?」 宮下が後方に吹っ飛んだ。
「―じいじ?」 テマリが宮下に駆け寄ると
「うぅぅ……」 宮下は頭を打っていて、頭を手で押さえていた。
「じいじ、大丈夫? じいじ―」 テマリは宮下を抱きかかえ、必死に声掛けをする。
「ワシは大丈夫じゃ……何が起こっているか教えてくれぬか?」
宮下が聞くと、テマリが
「将門が来た。 結界は破られてないけど、破られたら街が大変な事になるわ……」 テマリが言うと、そっと宮下から手を離した。
「そろそろ本気で行くよ」
テマリが肩口に居る龍神と共に将門を睨む。
「こんばんは~」 女性の声がして、テマリが振り向くと奈菜がやってきた。
「―奈菜ちゃん、今はダメ」 テマリが言った瞬間であった。
将門は、奈菜にめがけて掌から波動を出す。
「うっ―」 テマリの動きが止まると、
奈菜がテマリに微笑む。
「奈菜ちゃん……」 テマリは固まったまま奈菜を見つめていると、
突然、奈菜がテマリに襲い掛かった。
「止めて、奈菜ちゃん」 テマリは言いながら奈菜の攻撃をかわし続ける。
「お前……コロス……」 奈菜の目は正気ではなく、獣が捕食するような目でテマリを見ている。
「将門―ッ、お前は一般の人を巻き添えにするのか?」 テマリが将門に言うと
「この世のものは、民であろうと何であろうと我が使いにするのだ」
「それは……」 テマリは言葉を出せず、ひたすら奈菜の攻撃を避けていた。
「これじゃ、ラチがあかない……」 テマリが龍神に指示をする。
「龍神、奈菜ちゃんに憑りついているものを破壊しろ」
この指示により、龍神が奈菜の身体に巻き付き 締め上げる。
「ぐぐっ……」 奈菜は苦しそうにし始めると
龍神は、さらに強く締め付けた。
苦しそうにする奈菜を見て、テマリの心が痛んでくる。
「もういい……」 テマリは小さく呟く。
龍神が少し力を緩めると、奈菜は身体を捻じらせ脱出をした。
(これでは2対1……マズいわ) テマリの顔に焦りが見え始めると、
「随分と娘にやってくれてるわね~」
(この声は……)
この夜中に現われたのはヒサメである。
「お前、懲りないね~ また退治されたいのかしら? ん~?」
ヒサメが将門を睨んだ後、ニヤッとする。
これには、将門が少し嫌そうな顔をした。
「平安時代の恨み……」 将門が言うと、
「千年前な……いくら歳を取っても、千年も前を「少し前」みたく言わないよ」
ヒサメは、年寄りが かなり昔の話しを『少し前』と言う事を言いたかったようだ。
将門が掌からヒサメを目がけて波動を出すと
「ふんっ!」 片手で払いのけた。
(お母さん……凄い) テマリは驚いていた。
前回の戦いではヒールが邪魔して戦力外だったからだ。
「お前が欲しかったのは神器だろ? これか?」
ヒサメが最後の神器の弓を将門に見せる。
そして将門は、弓を奪おうとヒサメに襲い掛かった。
“ヒラッ…… ヒラッ…… ” と、舞うようにヒサメは、将門の攻撃をかわす。
「ふんっ!」 そしてヒサメが弓で将門の背中を叩くと
「ガッ―」 痛そうにしていた。
(将門の背中が焦げてる…… あの一瞬で? あの弓って?)
「昔と変わらないね~ たいして強くもないのに、私に挑もうなんて……」
ヒサメは弓を持ったまま、将門を睨む。
将門は片膝を付いたままヒサメを見上げていた。
すると、将門が力を溜めて赤いオーラを出してくると、
「ほう…… 来な!」 ヒサメは、指を曲げてアピールをした。
将門が拳を振り上げた瞬間、奈菜がヒサメに抱き着き抑え込んだ。
「お母さん!」 テマリが声を上げ、
「テマリ キーック」 渾身のテマリキックは、将門の背中に命中させた。
将門は数メートル吹っ飛び、転がった。
「ほう……龍神より使えるじゃないか~」 ヒサメがキョトンとして言う。
そしてテマリが吹っ飛んだ将門にダメ押しのキックをすると、将門がかわす。
「ふぎゃん!」 テマリは豪快に転んだ。
「九条……神器をよこせ……」 将門がヒサメに向かって歩き出す。
「お前には扱えないよ。 もっとも、渡さないけどな……」
ヒサメが弓を振り回し、将門に襲い掛かる。
しかし、奈菜がヒサメの胴を締め付けて邪魔をしている。
「娘、邪魔だーっ!」 ヒサメが奈菜を蹴飛ばし、大きく吹っ飛んだ時、
「何をしているの? えっ? 奈菜ちゃん?」
ここで現れたのがオリガミである。
「奈菜ちゃん、しっかり」 オリガミは奈菜を抱きかかえると、奈菜の目の色が赤くなっているのに気づいた。
「奈菜ちゃん、まさか……?」 オリガミが言うと、奈菜がオリガミに襲い掛かってきた。
「止めて、奈菜ちゃん」 オリガミが攻撃をかわしながら説得をするが、奈菜は操られている。
「あんた、この前の……マサヒロ……」
「??? 誰?」 将門を含め、全員が固まった。
「あの……オリガミや……」 ヒサメも、この一撃は効いていた。
「オリガミ……将門だよ。 マサヒロは、TVに出てた人。 女性問題を起こして引退した人だよ……」
テマリがギリギリの説明をしている。
「そ、そだっけ……」 オリガミは頭を掻きながら答えた。
「とにかく、将門……奈菜ちゃんを解放しなさい」
オリガミが言うと、
将門が波動をオリガミに向けて出した。
「えいっ!」 オリガミが人差し指を上に曲げると、波動が逸れて空に向かっていく。
これには将門も面食らった顔をした。
「オリガミ……さっきのボケは帳消しだね」 テマリも驚いていた。
(あの娘、いつの間に……) ヒサメは、娘の成長を喜んだ。
「―っ、テマリ……鏡を持っておいで!」 ヒサメが言うと、テマリが走って社に向かう。
すると、 「って…… えぇぇ?」 テマリは鏡の前で膝間づいた。
テマリが鏡を取ろうとすると、鏡は上に移動したのだ。
(そうだ……私は拒絶されてたんだ……) 落胆するテマリに、ヒサメが催促する。
「何やってんだいっ? 早く!」
「早くって言っても、鏡が拒絶するんです~」 テマリは半泣きで叫んだ。
「私じゃないと…… そういう訳だからタンマね」 オリガミが将門に言うと、不思議な事に将門は待っていた。
(アイツ、律儀だな……) ヒサメは、将門を見直していた。
オリガミが鏡の前で大きく手を広げ、 「ここに……」 そう言うと、鏡がオリガミの手に降りてきたのだ。
「うそ……」 テマリは悔しさより、奇跡を見ているようであった。
「おまたせ~」 オリガミが鏡を抱えて戻ってきた。
(お前、将門相手に 友達を待たせてトイレから戻ってきた風に言うなよ……) ヒサメは苦笑いをしていた。
「さて、ここからよ。 覚悟しなさい」 オリガミは将門を睨むと
「神器が揃ったようだな……」 将門の目が赤く光った。
「いざっ」 オリガミと将門が激突する。




