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第三十六話 結界

第三十六話    結界



 「おはよう」 オリガミが出勤してきた。


 「おはよう。 今日、オリガミの予定は?」 テマリが聞くと

 「マスター次第かな……何もなければ種を売らないと……」



 どうしてもものはらいが目立ってしまうオリガミだが、本来は種を売っているのが仕事である。



 「なんか久しぶりだな~」 オリガミが種売りの机を出し、久しぶりの露店に心を躍らせている。



「やっぱり落ち着く~♪」 鳥居の外で、のんびり客の来ない時間を堪能するオリガミである。



「ねぇ、よくこんな地味な事をやっているわね~」

“どうせ暇 ”だろうと テマリが様子を見に来た。



「そんなこと言わないで~ この時間が貴重なんだから」

オリガミは基本的に大人しい性格であり、人と接することが苦手である。



この種売りの時間がオリガミの癒しであった。



 「そういえばさ……テマリは私の姉なんでしょ? どうしてお母さんとテマリは他人行儀なわけ?」 オリガミの言葉に、テマリがギクッとする。



「そ、それは……」 テマリは言葉を詰まらせた。




「説明しよう!」


ここで大きな声で話しに入ってきた男がいた。

トウジである。



「お父さん!?」 オリガミとテマリが揃えて声を出す。



「ここからは俺が説明するよ」 トウジが言うと


「お父さんの悪事を、さらけ出す日が来たのね……」 テマリは息を落とす。



 「これは、お父さんが若い時だった…… お父さんには彼女が居て、結婚の約束までしたんだ……」


トウジが遠い目をして話し出す。




それから一時間…… トウジの話しは続いていた。


(まだっすか~) オリガミとテマリは聞き飽きている。



「じゃ、ここから本題で……」


(この一時間、序章―っ?)



そこから本題に入り、二時間が超えた頃


オリガミはウトウト、テマリは飛んでいる鳩を眺めていた。



「……と、言う訳だ」 トウジは締めくくったが、



「……」 何も頭に残っていないオリガミとテマリは、ただ苦笑いをするしかなかった。



 「そういえばさ、私の……」 テマリが言い出すと、オリガミを見る。



 「……?」 オリガミはキョトンとしている。


 「ちょっとコッチへ」 テマリがトウジを社まで連れてくると


「私の母親って、誰?」 テマリに聞かれたトウジは、困った顔をしている。



「そもそも、古事記に出てくる存在の神が、なんで お父さんと一緒になれるの? お父さんって、普通の人間でしょ?」



「そだね……」 トウジは軽く返事をするだけだ。


 「だから、早く。 私のお母さんは誰?」 テマリは、しつこく食い下がると



 「だから……言いにくいな……」 トウジは渋っていると


 「まさか……斉田の?」


 「……」 トウジは無言で去っていった。



「なんなのよ、アイツ……」 テマリはハッキリした事は聞けなかったが、大体の予想はついていた。



(じゃ、あの秋草が私の姉ってこと?)


 テマリは、ますますオリガミには話せない事態に気づいた。




 ある夜、テマリが夜中の目を覚ます。


 (なんでこんな時間に……)


 寝付けなくなったテマリは、静かに社務所を出て境内を歩いていた時


 「……?」 ふと、人のような気配を感じる。


「誰?」 テマリが人影を感じた方へ向かうと



「あはっ♪ バレち」 そう言ったのは斉田であった。


「秋草……何しに来たのよ。 それも夜中にコソコソと……」 テマリは呆れた顔をしている。



 「いや~ ちょっと散歩をしに~」


 「うそつけ! お前の家、この辺じゃないだろ?」 テマリが睨むと


 「しょうがない……あなた、私の妹なんでしょ?」 斉田が言い出す。



 「お前……なんでそれを……?」



 「知っているわよ。 母が亡くなる前に話していたんだから」

 斉田は、前から知っていたことをテマリに話せていなかったようだ。



 「それで、私に何の用? それだけを伝えに来たの?」


 「そうよ。 それと、斉田の娘として私の力になりなさい」

 斉田は言い残すと、帰っていった。



 しばらくテマリは呆然としていた。


 (私、斉田の娘? なんで九条を名乗っているの?) テマリは深くを知ろうとするが、頭がゴチャゴチャになってきていた。



 テマリは翌日、真相を知る為に八王子に来ていた。



 「ごめんください……」


 「なんだ、テマリじゃないか? どうしたんだい?」 ヒサメは咥えタバコをしながら出てくる。



 「あの……」 テマリが言いかけると、

 「お前の母親の事かい?」

 「はい……」


 そして沈黙が流れる。


 「わかった。 教えてやろう」 ヒサメは、社の奥にテマリを案内すると


 「これが九条の神器さ……知っているだろ?」 テマリは黙って頷く。



「尊神社には鏡、オリガミには腕輪。 そして此処に弓がある」

ヒサメは、弓をテマリに渡す。



テマリが弓を受け取ると、 “キイィィン ” と、音がした。


そして、弓を投げ捨てるかのように、テマリは弓から手を離すと



「この弓、お前を拒絶するようであろう? 磁石であれば、同じ極を近づけると離れるだろ? それと同じだよ」



「……」 テマリは黙ってしまった。


「オリガミは腕輪を付けている。 鏡も触れる。 お前が尊神社にいるから鏡は上に昇っていったんだよ…… つまり、お前は九条の当主にはなれないのさ」

 

 ヒサメの目は、少し寂しそうだった。



 「それで、私は斉田だから無理なんでしょうか?」 テマリは声を震わせ、ヒサメに言うと、



 「それは間違いだ。 実際、お前は九条の娘だ。 それも、お前の母親は私だからな」


 衝撃であった。


 「だったら何故、秋草は、私のことを……」 テマリは必死だ。


 全てを解決させたいと思っていたテマリは、聞きたいことを質問しようと覚悟をしていた。


「何故、お前を斉田の血筋に入れようとしたのかは分からない。 知っているのは、あのクズだからな」 ヒサメは、トウジの事となると不機嫌な顔をする。



「わかりました……お母さま」 テマリがニコッとする。


「それでいいのか?」 ヒサメが聞くと


「はい。 オリガミと姉妹であり、あなたが母親である以上、満足です」

テマリの顔に曇りはなかった。



「なら、話そう」 ヒサメは次の話しを出そうとしていた。


「えっ? もういいのに……」



「そうはいかん。 ここまで話したんだ、最後まで母の小言に付き合え」


そう言って、ヒサメは長々とテマリに話しをした。


テマリは知ってしまった後悔と、未来への希望に満ち溢れていた表情で帰っていく。



「ふぅ…… あのクズの思い通りにさせてたまるか……」  

テマリを見送ったヒサメは、空を見上げてタバコを吹かしていた。




「ただいま~」 テマリが尊神社に帰ってくると


「遅い~ どこに行ってたのよ~」 オリガミが頬を膨らませている。



「ごめん、ごめん~」 テマリは笑いながら謝ると、社の中に向かう。



すると、すすす~っと、鏡が宙に浮いた。


(拒絶すればいい……これで姫は一人、揉めなくて済む……) テマリは納得をしようとしていたが



以前に栗林が言っていた言葉を思い出す。


「あんな姫に付いていなくても……それどころか、貴女が姫になることも出来るのよ」


この言葉である。


テマリは首を振って、邪念を払拭していた。



「神器…… ―ハッ」 テマリが思い出したように社務所へ走っていく。


「テマリ?」 オリガミも後を追うようにして社務所に駆けだした。



「地図……地図、あった」 テマリは地図を広げ


八王子と新宿の神社を線で引く。

これは中央線である。 そして護のアパートを線で結ぶと



「やっぱり……これは結界?」 テマリは衝撃の事実に気づいた。



「テマリ~ 何かあったの?」 オリガミがテマリの顔を覗き込む。



(これを撃てということ? なんの意味が……)


それは地図上のことだが、氷雨神社から尊神社、そしてオリガミが住むアパートを線で結び、その先に存在するのが千代田区にある将門の首塚である。



(これは偶然? もしかしたら意図があって お母さんは弓を渡さなかったのかしら……) テマリは地図を見ながら考えこんでいた。




「テマリってば~」 オリガミが何度か声を掛けると、ようやくテマリが気づく。


「な、何?」 テマリはアタフタしている。



「地図なんて、どうしたの? 旅行?」 オリガミが聞くと


「都内だろ都内。 旅行じゃないだろ普通……」

オリガミの天然ぶりに、若干イラっとするテマリであった。



そこに宮下が外出から戻ってくる。


「ただいま。 何か変わったことは……」


宮下が戻ってきた時、豪快にオリガミとテマリが言い争いをしていた。



「なんじゃ……?」


ぎゃー ぎゃー と言い合う二人に、宮下の額がヒクヒクすると


「うるさーい!」 宮下が怒鳴った。



ピタッと二人の口が止まり、宮下を見る。


「あ、じいじ、おかえり~」 テマリが反応すると

「何で喧嘩しておるのじゃ?」 宮下が聞く。




テマリは地図を宮下に見せて説明をする。


「つまり、神器で結界を張っていて将門の呪怨を押さえているのか……」



「そうだと思うの…… だから、行ってみない?」

テマリの案に、宮下は渋い表情になる。



「行くって、将門の首塚にか?」


「うん♪」 テマリは満面の笑みで答えた。




宮下が渋々と行く準備をすると、


「いってらっしゃい。 気を付けて」 オリガミが見送りをしている。



「……」 宮下とテマリは、言葉が出なかった。



そして、 「お前が行かないって、どういう事じゃー」

宮下はオリガミの耳元で怒鳴った。



『キーン キーン』 オリガミの耳が高らかに鳴っていた。



「私も行くの? 怖い場所なんでしょ? 嫌よ」

必死に抵抗するも、オリガミは連行された。




そして千代田区、将門の首塚に到着した三人は墓石と対峙する。



「随分と都会なのね~ 山の上とか、怖い所を想像していたわ」

オリガミが都会の景色を見ていると、



“ゴーン ゴーン ” と、耳の奥から音が響いてくる。


「なんの鐘?」 テマリが辺りを見回すが、世間は何も変わった様子がない。



そして、またもや耳の奥から声が聞こえてくる。



「来たか……神武じんむの血を引く者よ」 そう話しかけてきた。



しかし、宮下は聞こえないようだ。



「もしかして……将門……?」 テマリの眉間にシワが寄った。








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