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第三十三話 拉致

第三十三話   拉致




愛国神社の件が終わり、オリガミたちは尊神社の清掃をしていた。



『クンクン』

「もうじき春が来るな~」 テマリは誰よりも早く、春の匂いを感じている。



「確かに二月になったものね~」 オリガミも冷たい手に息を吹きかけていた。



「ごめんください」 神社に来客である。



「はいは~い」 テマリが社務所へ向かう。



(偉いな~) オリガミは感心していた。


テマリが神社で宮下と暮らし、半年が過ぎた。

偶然にも神社で咲いた植物から生まれ、宮下に拾われてからテマリの人生は変わっていた。



「ありがとうございました~」 テマリは来客を見送っていた。



「どうした? 何の客?」 オリガミが聞くと、


「神社の修繕、柱が古いから危ないしね~」

テマリの言葉は、オリガミを黙らせる。



「どうしたのよ~?」 


「いや~ すっかり神社の娘だな~って」 オリガミはテマリの成長をうらやましく感じていた。



そして、社務所でテレビを見ながら過ごす時間は幸せだった。


「何もないって素晴らしい事よね~♪」



オリガミとテマリは、依頼のない日を満喫している。



 しばらく満喫の時間を過ごしていると、一本の電話が鳴った。

 「もしもし……」 テマリが電話に出て応対する。



「―えっ?」 驚くテマリに、オリガミが反応する。



「テマリ、どうしたの?」 


「じいじが病院に搬送されたって……」 テマリの顔が蒼白になっていた。



「どこの病院? 都立の病院だって。 これから迎えが来るみたい」

テマリは、そう言って着替えをし始める。



(病院? 迎え? 普通あるかしら?) オリガミはうたぐり深い性格である。 この状況でも冷静に考えていたが、テマリは衝動的な性格もありアタフタしていた。



そして十分後、鳥居の手前に一台の車が停まっていた。



「都立病院の方ですか? 私、九条テマリと言います」 焦った口調で、確認をしている。



「私も行こうか?」 オリガミも心配になって言い出したが、


「オリガミは神社の留守番をお願い」 そう言い残し、車はテマリを乗せて走り出した。



車が進み、少ししたところでテマリが言い出す。

「あの……じいじ……いや、宮下はどうなんでしょうか?」



そう言いだした時、

「声がガラガラですよ。 これを飲んで落ち着いてください」

そう車の運転手が言って、ペットボトルの水をテマリに渡した。



(そんな声がガラガラだったかしら? 恥ずかしい……) テマリは思って、水を口に含んだ。



そしてテマリは、喉を鳴らしながら自身の声を確認している。


「んー んー んーん??」 (なんか視界がボヤける……)



虚ろな目になって数分、テマリの意識が無なった。




「ん……? ここは?」


「お目覚めですか? 九条テマリさん……」 車を運転していた女性が話しかけてきた。


テマリは、場所も分からない部屋に居た。



「貴女は誰? どうして私の名前を?」 テマリは動揺している。


「私の名前は、栗林くりばやし 朋子ともこ。 貴女を調査していたの」

栗林は中年の女性で、サングラスをしていた。



「私を? どうして?」 


「九条オリガミに接近するには、まず貴女から攻略をしないといけないからね……」 栗林は落ち着いた口調で話していた。



「勝手な事をしないで! あれ?」

今になりテマリは気づいた。

(いつの間にか手足が縛られている。 目覚めた時は縛られていなかったのに……)



会話をしているだけで拘束は出来ないが、現実に会話をしている時に身体が動かなくなっていることにテマリは動揺を隠せなかった。



「貴女……妖術を使うの?」


「朋子でいいわよ」


「じゃ、朋子。 貴女、妖術を使うの?」


「“さん ” くらい付けなさいよ。 最近、テレビでも若い娘がタメ口が流行ってるみたいだけど……」



「―ちっ。 めんどくさいヤツだな……」 テマリは視線を逸らした。



「じゃ、朋子さんは妖術を使うのですか?」 テマリは開き直った。


「なんで棒読みなのよ? 大根役者かっ!」 栗林の要望が多く、会話が先に進まなかった。



(コイツ……かなり、メンドクサイぞ……) テマリは別の意味での恐怖を感じていた。



「なら、これはどうです?」 テマリは口を開け、息を吐いた。


「行け、龍神よ! 私の拘束を解き、アイツに一発食らわせて!」


“グルル……ウオーン ” 龍神は栗林をめがけて突進していった。



「ふんっ―」 栗林は不適に笑う。



「破ッ―」 栗林が声と共に、右手を前に出した。


掌からの波動を受けた龍神は、細かい霧となりテマリの口の中に戻っていった。


「―うっ?」 テマリは目を丸くする。



「どうしたの? そんなに驚くこと?」 栗林はニヤッとした。



「その……じいじは無事なの?」


「じいじ? あぁ……宮下玄堂のことか?」


「そうよ。 無事なの?」


「おそらくな……」


「おそらくって、何よ?」 テマリは堪らず聞いた。



そこから話しが膠着して、テマリがしびれを切らす。


「ぐぬぬっ……」 テマリが拘束されているにも関わらず、強引に立ち上がり



「あんたなんか、これくらいのハンデがあって充分よ」

足は縛られ、手も後ろで縛られている状態でもテマリは引かなかった。



「ほう……侍女じじょのクセに頑張るじゃないか」 栗林が言った言葉に、テマリが反応した。



「今、なんて……?」 テマリが驚いた顔をしている。



「だから、侍女のクセに……って言ったのよ」


「知っているのか……」 テマリは肩を落とし、呟くように言うと



「知っているわよ。 ただ、貴女にはもっと輝けるようになってもらいたいのよ。 その能力、勿体無いわ」 栗林が言う。



「アンタに何が解るのよ……」 テマリが栗林を睨む。



「あんな姫に付いていなくても……それどころか、貴女が姫になることも出来るのよ」


栗林の言葉で、テマリの表情が変わる。



(私が姫に……? オリガミじゃなくて、私が?) 



「方法はあるわ。 九条の神器を貴女が持つのよ。 そして、九条の島で貴女が姫の宣誓をするの。 そうすれば、貴女が姫になるのよ」


栗林の言葉は、謎としていた九条の事を よく知っていた。



「ねぇ、貴女は何故に九条の事を知っているの? オリガミだって知らないのに……」 



「そんな事は、どうでもいい……ただ、お前が姫になるなら手を貸してやる」

栗林は、不敵な笑みを浮かべた。



「断ったらどうするの?」


「もちろん、消えてもらうわよ。 出がらしのティーバッグは要らないでしょ?」



「そうよね……私みたいなの要らないのよね……」 テマリは寂しそうな声を出す。



「だから、私と一緒に……」 栗林はテマリに手を差し出すが、拘束されているテマリに手をだすことが出来ない。



「よく、一緒にとか、消すとか簡単に言ってくれるな……オリガミは一度でも、そんな事は言わなかったぞ……」


テマリは下を向き、ブツブツと呟いていた。



「ふんっ、お前が返事を渋っているからだ」 栗林が言うと、テマリは顔を上げた。



「なんだ? お前の顔……」 


テマリが顔を上げ、その顔を見て栗林が驚いた。

その顔は、目が青く光り、額には紋章のような形のアザが浮かびあがっていた。



「まさか、お前……」


「はあぁぁぁぁ―」 テマリは声をあげ、力を溜めだした。



「ま、まて! やめろ」 栗林が止めるが、テマリの力は増幅していく。


“パキンッ ” テマリを拘束していた金具が外れて床に落ちていった。




『ニュルッ』 テマリの手から、弦が伸びだした。


「させるかーッ」 栗林は飛び出し、テマリの手から伸びた弦を切りにかかった。



“ブチッ ” と、言う音が響く。


栗林が手刀で弦を切った。



「ここまでだ。 九条テマリ……」  栗林がニヤリとした。


栗林の手刀は、テマリの弦だけではなく、右手首から下まで切り落としていた。



「あぁぁ……」 テマリは、自身の切り落とされた手を見て声をあげる。



「お前を姫にしてやる。 お前が九条オリガミを始末すれば、お前が姫だ」

栗林は、痛みに耐えているテマリの脳に訴えた。



「よく考えておくんだな」 そして栗林はテマリの返事を待っていた。



それから一時間……


テマリは片手が無くなって動揺していたが、段々と落ち着きを取り戻していた。


(脱出したいが、窓も無い部屋……ここはどこ? それに、私が姫になれるって、どういう事?) 


テマリは戦いに負けた事と、栗林が言った言葉に頭がぐちゃぐちゃになっていた。



「まだ決まらないかい?」 栗林は、我慢が出来なくなってきていた。



「無理よ……私は姫にはなれない……」 


「そう……次は左手かしらね……」 栗林がテマリに凄む。




「出来る訳ないじゃない!」 テマリは叫び、栗林めがけて足を出した。



「フンッ」 栗林はテマリの蹴りをかわし、テマリの腹に膝蹴りを入れる。



「うぅぅ……」 テマリは悶絶して、床に倒れた。



「もう終わろうか……」 



栗林は、手刀の構えをしてテマリに振り落とす。


「お前も古事記の1ページにしてやる」



そのとき、

“ドカンッ ” と、激しい音が室内に響いた。







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