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第三十二話  乗っ取られた神社(下)

第三十二話   乗っ取られた神社(下)



オリガミは袖口から折り鶴を出し、式神を呼び寄せる。



“ポンッ ポンッ ” と、音がすると


「オリガミ~♪」 式神が現れた。



「ねぇ、この無視カラスを追い出したいの……でも邪魔するのよ」



「でもね、オリガミ……邪険には出来ないよ」 式神の一人、朱雀が言うと


「そうそう……この神社は彼のものだよ」 白虎が続いて言った。



「そうなの? ここは天照大御神じゃないの? 彼……いや、彼女なの?」



「ここ、天照大御神じゃないよ! 稲荷さんだよ」 白虎が説明する。


「じゃ、お面じゃなく本物なのね」 オリガミは安心していた。



「でもね~」 式神たちは首を捻ると


「どうしたの?」


「稲荷さんなんだけど、邪気が強いんだよね……」 玄武が言葉をにごすように言う。



「どういう事じゃ?」 ここで宮下が口を挟む。


「爺ちゃん……神主だろ? もし、神様を違えてごらんよ……良い気しないいだろ?」 玄武が腕を組みながら言うと、



「なるほど……」 宮下は頷く。



「じいじ、どういうこと?」 テマリは宮下に詳細を聞いてきた。



「テマリよ……仮に、オヌシが『学問の神様』だとしよう……」


「ふむ……」


「そこで、『恋愛成就』の願いをされたら、どうじゃ?」


「なめんなよ! ってなるわね」 テマリは、納得した。



「確かに、一昨日おととい来やがれ! ってなるのは解るけど、邪気を出すのはね~」 オリガミは平和主義のようだ。



「まぁ、ひとつ間違えれば神にもなるし悪魔にもなると言うことじゃ」

宮下は、神主としての役目を果たそうと準備を始める。



「……静まりたまえ……」 宮下が念を送ると



……さらに逆上していた。



「あれ?」 宮下はポカンとしている。



「どうなっているんだー」 ここで佐野が突然、絶叫してしまう。



「ひっ!」 「わー」 三人は驚いていた。



「お前、また……」 そして佐野は、四度目のアイアンクローをされた。


「ギブ……」 佐野は、またタップしていた。



三人は、対峙しながら鎮める為の相談を始める。

その横では佐野が顔をさすっていた。



「ねぇ、どうやったら機嫌が直る?」 オリガミは稲荷と直接の対話をチョイスした。



「看板……」 稲荷は、小さな声で話した。


 「なるほど……」 



 オリガミは振り向き 「佐野さん、天照大御神を外して、稲荷神社としての看板に替えてください」 と、指示をする



「えっ? 急にそんな……」 佐野はフットワークが重かった。


「また、同じことを繰り返しますよ」 


「はぁ……」 佐野は社から出て行った。



「じゃ、私たちも取り掛かりましょう♪」 


「??」 宮下と、テマリはポカンとしている。



オリガミは、スマホを取り出し電話を掛けた。


「もしもし……赤い鳥居をお願いします。 〇×二丁目の愛国神社です」

そして電話を切った。



(鳥居って、売ってるの?)

これには神主の長い宮下にも謎であった。




「オリガミ……鳥居ってなんじゃ?」 


「鳥居、知らない? 神社の入口にあるじゃない」


「それは知っているわい。 そんな簡単に注文できるのか?」

宮下はアタフタしていた。




そして二十分ほど経過した


「看板、出来ました……」 佐野は、板にマジックで書いた看板を持って来た。



「……」 当然ながら、稲荷には納得できていなかったようだ。


「やり直し」 テマリは佐野に容赦しなかった。


すると、注文の連絡をした業者が現れる。

「斉田でーす♪ って、あれ?」


注文先の電話は秋草であった。


「なんなのよ……あなたの神社じゃないのに注文なんて……」

秋草は少し不満な顔をしている。



「こちらが佐野さん、ここの神主なの」 オリガミが佐野を紹介する。



「それでね、この神社が天照大御神の看板を出していたんだけど、実際は稲荷様だったのよ……」



「それって、しっかり謝って看板を替えないとたたりがくるわよ……」

と、秋草が忠告するも



「遅かった……」 テマリが言った。



「中に入るわね」 秋草を先頭に、社の中に入った。


(こりゃ、怒ってるわね……)


そして、秋草が何かの道具を出して稲荷と会話を始めた。


「秋草……それ、何?」 オリガミがヒョコッと顔を出す。



すると、稲荷が怒りの表情を出す。


社が揺れ、置いてあった懐中電灯が点滅しだした。


「うわっ! 目がチカチカするー」 全員が目を閉じる。



そして懐中電灯の点滅が終わり、目を開けると稲荷のお面にヒビが入っていた。



「汝、許せん……」 これは耳からではなく、脳に直接 語りかけていた。



「神ではなく、邪神になるのなら容赦しませんよ!」

ここでオリガミが稲荷に向かって言う。



「式神たち、あの邪神を抑え込んで!」 オリガミが式神に言うと


「わかった~♪」 四神は一気に稲荷に向かっていった。



「出でよ、龍神! はぁぁぁ……」 テマリもうなり声をあげ、龍神を召喚する。



「龍神、あの稲荷を破壊しろ!」 


「グルルル……」 そして、龍神も稲荷めがけて突進していった。



(何が起きているんだ……?) 佐野には見えていなかった。



すると、社の中に風が吹き込んできた。


「うわーっ」 「グルル」 風は竜巻となり、式神と龍神は渦に巻き込まれて動けなくなってしまった。



ここで秋草がニヤリとする。



「テマリ、ここでアイアンクローよ!」 オリガミの声で、テマリが飛び込み

『ギリギリ……』 と、アイアンクローをした。



痛がる稲荷に容赦なく、テマリのアイアンクローで締め上げると


“パリンッ ” と、稲荷のお面が割れた。



「お前……」 テマリは稲荷の素顔を見て驚く。


狐のお面が割れ、稲荷の素顔は、かなりの美少年であった。


「み、見るな~」 稲荷は必死に顔を隠す。




そこで全員は 「イケメ~ン♡」 と、うなった。


「へっ?」 稲荷の動きが止まる。


すると、式神たちと龍神は竜巻から解放された。

「あら……イケメンね~」 朱雀も誉めている。



何やら空気が変わってきた社に、緊張感が薄れてきていた。


「ね~、私、テマリ。 仲良くしようね♡」 アイアンクローをして、お面を壊したテマリは、稲荷にすり寄っていた。



(コイツ、節操せっそうないな……) 秋草は呆れていた。



「あの、僕……」 稲荷が言いかけた所で


「僕だって~ 可愛い~♡」 テマリとオリガミは、はしゃいでいた。



「コイツら、そういうタイプじゃったのか……」 宮下も呆れ始めた。



「神なら、ウチらの仲間だよね♪ 仲良くしようね♪」 テマリは、可愛い系男子に弱かったようだ。



「でも……僕は斉田系の神で……」 稲荷は、うつむいて話すと


「サイダー系? ファ〇タとか、〇ーラ系ってこと?」 オリガミの天然が炸裂する。



「炭酸系じゃないわよ! 九条は古事記や、日本書紀の神々が居るの。 稲荷とか、庚申こうしんとかが斉田なのよ」 テマリが説明すると、オリガミの頭から湯気が出てきた。



(これで姫って……) テマリは困惑している。


「要は、新日本プロレスか、全日本プロレスってとこかの……」


宮下の説明は、解りやすいのか、解りにくいのか分からないが団体があるようだ。



「じいじ、ナイス♪ それで、ミルマスカラスが出たのね♪」

テマリが宮下を称賛しょうさんしていたが、そもそも神々の話しをプロレスに例える神職も珍しい。




「盛り上がったところで、第二ラウンドよ。 行け、稲荷!」

秋草は、護符に息を吹きかけ稲荷に貼り付ける。



すると、素顔の稲荷の目が赤くなる。



『ヒュン』 と、音がした瞬間にテマリの服が切れた。


「やるじゃん、イケメン……」 テマリはニヤリとしながら戦闘態勢に入る。



「今度は、こっちから…… おりゃー、テマリ キ~ック!」


テマリの十八番オハコのドロップキックは、稲荷が避けた。


「コフォー」 稲荷も雄叫びをあげて、テマリに襲い掛かる。

「ぐっ……」 テマリは頭を殴られていた。



「うひょー、これで斉田が八百万やおよろずの頂点になるぞ~」

秋草はガッツポーズをしていた。



「マスター、八百屋やおやの頂点って何? 市場? JA? 農水省?」 オリガミの視点の違いに、宮下は崩れていく。



「出でよ、龍神!」 テマリは、息を大きく吐き出した。

「あのイケメ……いや、稲荷を潰せ!」 


すると、龍神は稲荷に突進して突き飛ばした。



「ふんすっ!」 テマリはドヤ顔をしている。


その後、互角の戦いに双方に疲れが見え始めた頃、


「私が行きます!」 オリガミが前に出てきた。



そして左手を高く挙げ、ブレスレットの光は赤くなった時


「いけ~~」 オリガミの咆哮と共に、左手を振り下ろすと赤い波動が稲荷を捕らえた。




稲荷は大きく後ろに飛ばされ、壁に当たって気を失う。


そして、稲荷から護符が外れ落ちた。




「ひぃぃ……」 秋草は、震えていた。


「秋草、そんな事をしても無意味。 とにかく、ここの修繕しゅうぜんと鳥居を頼むわね」

オリガミは、秋草に言葉を残して稲荷の介抱に行った。



「ごめんね……痛かったよね……」 オリガミは、稲荷の頭を撫でていた。



「マスター、お水」 


宮下が水を持ってくると、オリガミの身体から出た種を一粒 稲荷の口に入れ、水と一緒に流し込んだ。




「うぅぅ……」 稲荷は目を覚ます。


「もう大丈夫」 オリガミは、立ち上がり稲荷に声を掛けると


「貴方は、そのままでいいのよ……邪気ははらいました。 これが貴方への滅セージです」


やはりオリガミの決め台詞であった。



その後、愛国神社にはイケメンの神様が居ると噂になり、参拝者が増えたと言う。



「これで良かったのぅ」 宮下は、お茶をすすって喜んでいた。







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