第三十一話 乗っ取られた神社(上)
第三十一話 乗っ取られた神社(上)
「でたーーっ」 三人は腰を抜かしたまま震えていた。
「おやおや……どうされました?」 話しかけてきたのは、この神社の神主である。
「おやおや……じゃ、ないわよ! 死ぬかと思ったわよ!」 テマリは興奮して神主に文句を言っていた。
「まず、話しを聞こう」 宮下は神主に話す。
「私は、佐野 菱明といいます。 ここ、愛国神社の神主でございます」
「そうか……ワシは尊神社の宮下 玄道じゃ」
「九条 テマリです」
「九条 オリガミュでしゅ……」
やはり、オリガミは初対面の人に弱かった……
「なんでよ? そっちの方が言いにくいでしょ?」 と、テマリも言いたくなる始末の人見知りである。
「コホン。 それで佐野さん、この神社の事で相談とは?」
「はい。 もう三年になるのか……この神社に災いばかりが起きまして、困っていました……」
(神社に災いって、祟りかな?) オリガミは早くも仮説をたてている。
「急に社が朽ちてきて、戸が開かなくなりました。 そして、中から変な音がしだしたのです……」
「ここの神は何を祀っておられるのじゃ?」
「天照大御神です」 宮下のヒアリングが終わったが、
(天照大御神……まんまじゃん) テマリは思っていた。
「さて、どうするかの……?」 宮下は、社を見回していた。
「これって、岩戸感覚じゃダメ?」 テマリが言い出す。
まんま……と、言ったのは、開かない扉の事だ。
「岩戸?」 宮下とオリガミは、同時に声を出す。
「そう。 天照大御神は、岩戸に隠れたんでしょ? そこで岩戸の外からドンチャン騒ぎをして~ 鏡を見せて~の」
「テマリ……言いたい事は解るが、日本の神話を随分と軽く説明するんじゃな……」
宮下は、テマリの言葉の軽さに呆れていた。
それに、宮下は不思議に思っていた。
(天照大御神は、伊勢神宮だけじゃなかったっけ?) そう思っていたが、
「じいじ……とりあえず、騒ごうよ」
そんなテマリの言葉を実行することになった。
そして、社の前で談笑したり大声で笑ったりを始めたが……
“し~ん…… ” 当然ながら、戸は開かなかった。
(なんで、こんな人たちに頼んだんだろう……) 少し、後悔が見え隠れする佐野である。
「むむむ……」 宮下は、次の作戦を考えていた時
“ガラッ……”
オリガミが簡単に戸を開けてしまった。
「マスター、開いたよ」
「えっ?」 全員が口を開けて驚いた。
「おい、佐野とやら! 貴様、おちょくってるのか? ワシらは忙しいのじゃぞ!」 宮下は佐野の胸ぐらを掴んでいた。
「いやっ! 本当なんです~」
「佐野さん……可哀想……」 同情するオリガミとテマリであった。
そして社の中に入ると、薄暗くヒンヤリした空気になっていた。
「確かに不気味ね……」 オリガミは、薄暗い中で必死に中を見渡していた時
「懐中電灯です」 佐野が、いきなり背後から話しかけてくると
「ぎゃー」 三人の声が響き渡った。
「さっきから何なの? オバケ屋敷なら結構なのよ!」 テマリは憤慨し、佐野にアイアンクロ―をしていた。
『メリメリ……』 「痛いぃぃ」
懐中電灯を受け取った三人は、社の中を照らす。
その横で佐野は、こめかみを擦っていた。
「こんな時は、コレ」 オリガミは種を床に撒いて、社の四隅を包囲していく。
オリガミたちは、一回外に出て種の変化を待つことにする。
「あの爺、今度おどかしたらタダじゃおかないから……」 テマリは、佐野に怒っていた。
「さっきはスミマセン……脅かすつもりじゃなく」 佐野はペコペコとテマリに謝ってきた。
「何せ、古い神社なもので管理も出来なくて……」
佐野は独り言のように説明をして、社の中を覗き込んでいた。
その時である。
佐野が社の中を見ていると、一瞬で中に吸い込まれる。
そして “バンッ ” と、勢いよく戸が閉まってしまった。
「―佐野さんっ?」 慌てる三人は、戸を開けてみたが動かなくなってしまった。
「じいじ、どうする? ブチ破る?」
「罰が当たるぞ……」 宮下がテマリを諌める。
「これなら どう?」
テマリは、息を吐きだし龍神を呼び寄せた。
「龍神よ、あの戸を開けてみせて」 テマリの言葉に、龍神は勢いよく戸に体当たりをする。
“ドンッ ドンッ ” と、何度も体当たりをするが、戸は開かない。
それどころか、社が揺れ始めたのだ。
「まずい……これじゃ、崩れるわいっ」 宮下がテマリを制止する。
「困ったのう……」 宮下とテマリは肩を落としていたが
“ガラッ……”
「開いたよ……」 またしても、オリガミが簡単に開けてしまった。
(どういうこと……?) テマリが不思議に思っていた時、
「―まさかっ?」 テマリがオリガミを見ると、付けているブレスレットが小さな光を発していたのだ。
(まさか天龍の腕輪が反応するなんて……) テマリは腕輪の効果を知りたくなっていく。
そして三人が社に入ると、床に佐野が倒れていた。
「―佐野さん?」 テマリが佐野を抱えると、
「はい?」 目を開け、返事をした。
「うわっ!」 テマリは佐野が意識を失っていたとばかり思っていたが、返事をしたので、また驚いてしまった。
「また……このジジイ……」 そして、アイアンクローを佐野にお見舞いしていた。
「ぎゃー」 佐野も、思わず悲鳴を上げた。
「次やったら頭蓋骨を砕くからね」
「それで、何かを見たのか?」 宮下が冷静に佐野に聞くと
「あそこです……」 佐野が指さした壁には顔が浮かんでいた。
「……」
そして床の種を見ると、小さな芽が出ていた。
「なるほど……」 オリガミは謎解きみたいに、考えている。
「しかし、ワシらが力を入れても開かない戸が、オリガミだと簡単に開いてしまうのも何かあるのかのぅ」
「それか!」 テマリは叫んだ。
「オリガミ、ブレスレットが強く光る方へ進んでみて」 テマリが言うと、オリガミは頷きブレスレットを見ると
“ピカッ ” ブレスレットは方角によって光る位置が変わった。
肘を伸ばしている時、曲げている時ではブレスレットの位置が変わる。 それで指し示す位置の光も変わっていたのである。
(コッチか……) オリガミは光る方向に従い、歩いていた。
“ドンッ ” と、音がした。 オリガミは壁にぶつかった。
「なによ……行き止まりじゃない」
オリガミが壁を見上げると大きな絵が描いてあった。
よく見ると、その壁には人がお面を被ったような絵である。
「これ、何?」 オリガミが懐中電灯で壁を照らした。
「―なんと」 宮下は思わず声をあげた。
「じいじ、知っているの?」 テマリは宮下を見る。
「これは……何じゃったかな……ミルマスカラスじゃなく……」
「日本の神社で、メキシコの英雄は関係ないでしょ! しっかりしてよ、じいじ……」 テマリは呆れていた。
「お稲荷さん?」 オリガミが呟く。
「そうじゃ、狐じゃ」
(狐といいながら、何故に ミルマスカラス……) テマリの視線が宮下を刺す。
「佐野さん、油揚げください」 オリガミが言うと、
「わかりました」 と言って、佐野は社から出て行った。
「しかし、なんでだろ? 天照大御神を祀っているのに お稲荷さんなんて……」 オリガミは疲れて床に腰をおろす。
「ちょっと……」 テマリが壁に指をさした。
すると、壁の絵が立体的に浮き出てきた。
「なんじゃ……?」 宮下の腰がガクッと落ちる。
段々と立体的な絵が、実物へと変わっていった。
「へっ?」 オリガミは驚き、立てなかった。
絵から出てきた者は、三人に向かって何か言いたそうにしていた。
「何か言いたそう……と、言うか言ってる。 聞こえないけど」
オリガミが一番近くに居た為、仕草で話しているのは分かるが聞こえなかったのである。
そこで、 「きーこーえーまーせんー」 テマリは、小学生の女の子が言いそうな言葉で大声を促す。
「……」 しかし、絵から出てきた者は無言であった。
「うぐぐ……この、マスカラスめ……」 テマリが拳を震わせて言うと
(マスカラスって言っちゃったよ……) 宮下は苦笑いをしていた。
そこから数分間の沈黙の後、均衡が破れた。
「お待たせしました」
足音もせず、佐野が油揚げを持ってきた。
「―うわっ」 三人は腰を抜かした。
「貴様、何度も 何度も……」 そして、テマリは佐野に三度目のアイアンクローを決める。
「痛い、痛い……」 佐野はテマリの手にタップをしていた。
ここまで来ると老人虐待のようである。
「ほら、無視カラス」 そう言って、テマリは絵から出てきた者に油揚げを差し出す。
ところが、油揚げに反応しなかった。
(やっぱり何か言ってる……)
「テマリ、手毬を出して」 オリガミが言うと、テマリは手毬を近づけた。
すると、 「汝、ここに来るな……」 ようやく聞こえた。
「えと……何時なら良いのかしら? 今は午後の二時過ぎですが……?」
オリガミの返事に全員がコケた。
(天然すぎる……) 佐野も苦笑いをしていた。
「ここから出ていけ……」 絵から出た者の言葉に
「なら、コレでも出ていけと言うのかしら……」 オリガミは何かを見せようとしていた。




